第8話 初デートの相手は悪魔っ娘

 アパートから駅までは歩いて10分、駅から秋葉原まではTXで30分だ。


「正宗や、風魔法で飛べばすぐに着くのではないか?」


歩きながらフランが魔法を使うことを話し始める。


「そうだね。って、んなもの見られたら大変なことになる。お願いだから絶対に魔法は使わないでね。ディメンジョントランクもダメだからね。大騒ぎになるから。動画にでも取られた日にはえらいことになるよ」


 フランの耳元で他の人に気付かれないよう小声で話す。


「わかったのじゃ。ここでは正宗の言うことに従うのじゃ」

「あと、俺から絶対に離れないように。はぐれたら大変だから」

「わかった。おぬしの手を握って行くぞえ」


 そういうと右手から柔らかいフランの手の感触が伝わって来る。


「は……初めて、女の子と道で手をつないで歩いて……」


 思わず両目が滝涙状態になるが、それを見た周りの視線が痛く突き刺さる。


「正宗、お主は本当に痛々しいくらい女性体験がないのじゃの」

 

フランの突っ込みも心に痛く突き刺さる。


「頼む、傷口に塩をねじ込むようなこと言わないでくれ」


 駅までの道中、フランは物珍しそうに周りを見渡す。


「正宗や、あの黒い輪がついた四角い塊は何じゃ? 中に人間が乗っておるぞ? 竜車ではないのじゃの?」

「あれは自動車という機械で」

「あれは? 空を飛んでいるではないか? 風魔法があるではないか?」

「あれは飛行機という……」


 ふと気が付くと、周囲の視線が集まっていることに気が付く。


「フラン、もう少し静かに話してくれ。周りの人が変な目で見ている」

「どうしてじゃ?」

「自動車とか飛行機って子供でも知っているし、魔法なんて言っていると頭がおかしいと思われてしまう」

「うーむ、ではこうするのじゃ」


 突然頭の中にフランの声が響き始める。


『正宗、聞こえるか?』

「え?」

『声を出すな。直接お主の意識に話しかけている。念話じゃ。正宗も念じてみよ。もうできるはずじゃぞ。』


「わかった」


 目を閉じて念じてみる。


『フラン、聞こえる?』

『おお、聞こえるぞ。まずは第一関門合格じゃの』

『やった!』


 ガッツポーズを決めた瞬間、ガン! という鈍い音と共に、目の前に星が光った。

 何のことはない、念話をするために目を閉じて歩いた結果、電柱にぶつかったのだ。


「あうううう」

「何も目を閉じる必要はなかろうに」

「いや初めてのことだから、自然に目を閉じてしまった」

 

 周りの人が俺達をじろじろと見たり、クスクスと笑ったりしている。


『正宗、目を閉じずに念じてみよ。できるはずじゃ。イメージを大切に持つのじゃ』


 フランは念話で話しかけてくる。


『わかった。やってみる』

『ほら、できたではないか。変な先入観を持つからそうなるのじゃ』

『そうだね。これ便利かもしれない』

『そうじゃろ』

『でも俺の考えていること全部見通しになるの?』

『そこまでは行かぬが、独り言を頭の中で出していると、聞こえることがあるぞ』

『じゃあ、昨日の晩、俺が考えていたことは?』

『妾に対して話しかけるか、相当念じる力が強ければ聞こえるがのぉ。まあ想像に任せる』


(あ……ありがとうございます、フラン様)


 その後、駅まで念話で話をしながら歩き電車に乗る。

 フランから見れば、ここは完全に異世界。

 物珍しいものが沢山あるので、まるで言葉を覚え始めた子供のようにフランはあれは何? これは何? と聞いてくる。


『魔法文明とはまた違うが、これはこれでなかなか面白いの』

『でしょ、フランの国はどんな感じなの? ソウルトランスポーターを見て思ったけど、相当文明が進んでいるみたいだね』

『うーむ、どう言ったら良いのかのう。一概に比べることは出来ぬが、全般的には進んでいるかもしれんの』

『そっか。まあ人間界からフランの国には生きている人間は行けないからねぇ。いわゆる死後の世界ってやつだからね。アニメや本では書かれてはいるけど、全部想像だからね』

『正宗や、お主はもはや妾たちの眷属じゃぞ』

『あ、そうだった。確かに人間共には念話なんかできないよね』


 フランはクスリと笑う。

 TXが地下に入ると、急に窓の外が真っ暗になりフランが驚く。

 地下に入っただけだよと教えると、ハデスにでも会いに行くのか?と。


『ハデスってどちら様?』

『冥府の王じゃ』

『いや、そこまでいかないから。一回また地上に出て、そのあとまた地下に行くから』

『うーむ、ハデスのやつもびっくりじゃろうの。自分の庭にこのような機械仕掛けの大蛇が通っておればの』

『そのうち、ハデスさんが乗ってくるかもね』

 

 クスリと笑いながら肩をすくめると、フランもくすっと笑う。

 こういう時に都会は便利だ。

 念話で話しながらクスリと笑う二人を、まともに見ればおかしいと思うだろうに。

 群衆の中の人間は他人に関心がなく、俺とフランが目に映っていても認識はしていない。

 これだけの美少女がいてもだ。


 秋葉原駅に到着し、地下ホームから地上に出てデパートに向かう。


「正宗、どこへ行くのじゃ?」

「フランに似合う洋服を見に行くんだよ。あそこのビルにいろいろあるからね。そのあとご飯も食べようね」

「そうか、楽しみじゃの」

「正宗、これがいわゆるデートというやつじゃの?」

「そうだね。え?」


ここで、とある事に気がつく。


『おおぉおおおおおお! 俺の初デートだぁああ!』


 危うく声に出かけた歓喜を喉の奥に押し込んだ。

 が、その歓喜は念話でフランに伝わったようだ。


『何じゃ。いきなり念話で叫びおってからに。びっくりするではないか』

『だって、人生初めてのデートなんだよ! しかもこんなかわいい子と! フラン! 周り見てみろよ。フランのこと、周りの男も女も見ているの気が付かない?』


 周りでは

(おいおい、あの子、イケてね?)

(ちょー、可愛いくない?)

(つーか、コスプレ?)

(いや、タレントかもよ? アキバのアイドル?)

(拙者のアイドルデータベースにはあの娘はいないでござるぞ。新人かもしれぬでござる)

(マジ芸能人かも。うっそー)


 男女構わずひそひそと話しており、中には写メをとるものまで出てきていた。

 無関心な群衆だと思っていたが、どうやら美少女や萌えのアンテナを持っているのだろうか。


『ほら、フラン聞こえるだろ?』

『うむ。妾はそんなに可愛いのかのう?』

『人間共がああいっているんだから、客観的に見ても可愛いんだ』

『何か照れるのぉ』

『フラン、ちょっと速足でいこう』

 

 フランの手を握って速足で目的地へと向かい始める。


「ふう、やっと着いたか」

「正宗、妾は喉が渇いたのじゃ」

「俺もだ」


 ビルの中の喫茶店で冷たい飲み物を注文し席に着く。


「結構美味しいのう、このフラペチーノとやらは」

「よかった。甘いものはあまり知らないから、口に合うかなと思っていたんだ」

「正宗のそれは?」

「アイスコーヒーいう飲み物で、今朝飲んだコーヒーあるでしょ。あれを氷で冷やしているだけ」

「このフラペチーノ、妾の国でも売り出せば結構いけるかもしれん」


 たわいもないことを話しながら、初デートというのを心の底から楽しむ。

 喫茶店を出てまずは衣料品の量販店へ向かう。


「おお、いろいろな服があるのう」

「フランはどんなのがいいの? 」

「そうじゃのう」


 フランは女の子らしくあれこれ見ながら洋服を手に取り鏡の前で合わせていた。


(ああ、子供の時、おふくろのデパートショッピングは時間がとっても長く感じたのに、この感覚はなんだろう。お袋と一緒にショッピングする一時間とフランと一緒にショッピングする一時間は同じ時間でも短く感じる。そうだ! これが相対性理論だ!)


 などと馬鹿なことを考えていると


「正宗、ちょっとこれを持っていてほしいのじゃ」


 フランがパーカーを脱いで渡してくる。

 その瞬間、周りの目がフランに集まる。

 人間離れ(いや悪魔っ娘だから)した美少女がブラジャーの上に上着を羽織っているのだから、周りの男の目のきつい視線と女性のジェラシーの視線が俺とフランに突き刺さっている。

 しかし、その視線をフランは全く感じていないようだ。

 店員がフランに寄って来る。


「お客様、いかがでしょうか。お気に入りのお品は見つかりましたでしょうか」

「いや、いろいろ見ておるがの」

「これはいかがでしょうか。今年の新作コレクションです」


 店員は数着の上下を選んでくれる。


「よろしければご試着されてみては如何でしょうか」


 フランは試着ルームへと案内されていく。

 店員がインカムの無線を入れるや否や、数名の店員が集まりファッションショーが始まった。

 もちろん、人だかりもできてきた。


(やべぇええ! 全部買ったら一体いくらになるんだ?)

 

 冷や汗をかきながら、男は度胸! 初デートで金の心配なんぞするな!と言い聞かせる。

 店員も周りの人も、フランの着替えのたびに「おおお!」と歓声を上げている。


「お客様、彼氏さんですよね。彼女さんとても綺麗でいらっしゃいますね。モデルさんかタレントさんですか?」

「え? いやいや、その、悪……もとい何でもありませんよ。ただの一般人ですよ」

 

 悪魔っ娘と言いそうになり、慌てて誤魔化す。


「左様でございますか。即席のファッションショーになるほどのお方は初めてなので」


 そりゃそうだ。悪魔っ娘なんていっても「は?」と言われるのが落ちだしな。


「正宗や。どれがよい?」


 フランのそばに行くと迷ったような表情をしている。


「うーん。どれも似合っているけど、フランはどれが好き?」

「どれも捨てがたいものばかりじゃの」


あれこれ迷うのも楽しみのうちだ。


「この中から、五つ選んでみそ。また買いに来たらいいんだから」

「そうじゃの。そうしよう」

「あと下着類も買わないと」


 フランは上着とスカートやパンツを5セット選び買い物かごに入れ、下着コーナーで下着を選ぶ。


「ありがとうございました!」

 

 店員がこぞってお礼をしてきた。


「結構買ったのう」

「フラン、荷物持つからね」

「これは妾の荷物じゃぞ」

「こういう時は、男が荷物を持つものと昔から相場が決まっているんだよ」

 

 そう言いながら、フランの服の入った紙袋を手に取る。


『ディメンジョントランクを使わぬのか?』

 

 フランが念話で問いかけてきた。


『ここで使ったら大騒ぎになる』

『あ……そうじゃの』


 フランを連れて、トイレの近くにあった衝立ついたての裏に移動する。

 辺りを見回し、監視カメラの無いことや人がいないことを確認する。


「正宗や、ディメンジョントランクをイメージするのじゃ」


 フランに勧められ目の前の空間を開けるイメージをすると、本当に目の前の空間が歪みはじめディメンジョントランクが現れる。


「良いイメージ力じゃ。今のうちに入れてしまうのじゃ」


 紙袋を中に入れると、ディメンジョントランクを閉じるイメージをする。

 すると、目の前のディメンジョントランクの空間が音もなくすっと閉じていく。


「よくやったの。まあまあじゃの」

「フランのおかげだよ。ありがとう」


 フランに笑顔を向けるとフランもはにかみながら笑顔で答える。

 衝立からそっと外側をのぞき込み、誰もいないことを確認してフランの手を引いてその場を後にした。


「じゃあ 次は秋葉原を散策してみよう」

「おお、面白そうじゃの。コスプレイヤーというのを見てみたいのじゃ」


 ワクワクするフランを大通りへと連れていく。


〜〜〜あとがき〜〜〜

この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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