第5話 二人でお風呂を
風呂場で自分の体を見つめながら考える。
俺、死んだんだよな。
生きているって実感があるけど、フランに魂持っていかれたし。
ん? フランの血が入ったってことは、眷属化したのか?
それとも悪魔になりつつあるのか?
いや、まさかね。大体、人間風情が悪魔や神になる何ぞ、おこがましいったらありゃしねえわ。
「人間風情が」なんて言っている時点で、もう人間やめ始めているのだろうな。
すると、後ろの扉が開き、タオルで前を隠したフランが風呂場に入ってきた。
「ええぇえぇええ? おい! フラン! ちょ……おま! あの!」
「旦那の背中を流すのは嫁の務めであろうが」
「いや、しかし、モノには順序というものが」
「だから、これが順序じゃ。観念せい。じゃがまだ見るでないぞ、あちらを向いておれ」
チキンな俺は、ここで下手に拒否ると後がややこしくなりそうなので目をつぶった。
(背中を流してもらうなんて……しかもこんなかわいい娘に……ああ、生きていてよか……いや、死んでいて……ええいややこしい)
心臓の鼓動が期待で早鐘のように鳴りだす。
そして、背中にタオルが……ん? これって?
背中にはタオルではなくシルクのようなきめ細かく柔らかい双丘と小豆のような感触がぬめり付き、フランの手が俺の股間へと延びる。
「おひゃぁああ! フランそれはまずい! 逮捕案件!」
ザブーン!
余りの意外な展開に、座ったままジャンプし湯船の中に飛び込んでしまう。
「何じゃ! 妾の体が気に食わぬというのか? 16歳のピチピチとした肌じゃぞ」
フランは自分の肌に指をさして力説する。
「そうじゃなくて! 童貞の俺にいきなりそれはきつすぎ……いぃいいい。ぶっ!」
フランの一糸纏わない姿を目のあたりにして、またもや鼻血を豪快に吹き出してしまった。
「正宗よ、お主は血気盛んじゃの。妾の近しいものにヴァンパイアがおるので紹介しようぞ。彼女に血を吸ってもらえば少しは落ち着くだろうに」
「いや、そういう問題じゃなくて。とにかく、タオルを巻いてくれ! 出血多量で死ぬ!」
鼻の下から口の周りを鼻血で真っ赤にしながらフランに懇願する。
「じゃから、お主は死なぬと言うたであろうが!」
フランは(こいつ全然わかってねーと)額に手を当てて答える。
「と……とりあえず、俺は出るから、ゆっくり風呂に入ってくれ。フランも今日はこっちへ来て疲れただろうから」
入浴剤を湯船に放り込み、タオルを腰に巻いて風呂場を出ようとした。
「正宗は妾の体が嫌いなのか?」
問いかけるフランに、風呂のドアを開けながら立ち止まる。
「違うよ。フランむちゃくちゃ可愛いし、綺麗だし、ドストライクゾーンだもん。今、地球上の全ての男が羨むようなことになっているよ。でも心がまだ追い付いていないんだ」
俺の返事にフランが狼狽し始める。
「な……可愛いとか綺麗とか、本当にもうお主はちぐはぐじゃの」
「ごめん」
「謝るな。お主が優しい奴じゃと分かったわい」
「ドアを開けたままだと風呂場が冷えるから出るね」
風呂場から出て、バスタオルで体を拭き、鼻血のついたタオルを洗濯機に放り込みパジャマを着て部屋に戻り……
「あああああ! なんてシーンだ! エロゲーそのもののシチュエーションじゃないか! 勿体ない勿体ない! 馬鹿馬鹿馬鹿ぁああ! しょっちゅうエロゲーやっていて憧れたシーンなのにぃいいい! あんな超絶美少女とお風呂に……」
自分のチキンさに腹が立ち、柱に向かって頭をガンガン打ちつけていた。
さっきまで、フランのことをババアだの妖怪だの挙句の果てにはロリババアなんて言っていたが、やはり女性経験値が「ゼロ」というのはこういう時ハンデになるのを身をもって知ることになった。
風呂場からはフランの鼻歌が聞こえる。
「ああ、女の子ってやっぱりお風呂好きなんだなぁ。夢なら覚めないでくれ……」
布団を準備し始めるが、自分の布団しかないことに気が付く。
「まあいいか。シーツ類全部交換してフランに寝てもらおう。俺は炬燵布団にくるまればなんとかなるわ」
洗濯機へ交換したシーツを入れようと風呂場の前へ向かおうとするが、
「待てよ。これはエロゲーのフラグだ。わざわざフラグ立てて回収するマッチポンプはまずい」
そう思い直し、シーツを畳み部屋の隅に片づけた。
よし。フラグ成立回避成功っと。
しかし、ほっとしたのも束の間、バスタオルを体に巻いた湯上り姿でフランが部屋へ現れた。
「おい正宗や、下着を持っておらぬか?」
「えっと……わひゃあ! ブッーー!」
また豪快に鼻血を噴きだしてしまった。
フラグ回避の意味ねーぇええ!
「な……ないよ。男物の下着で今晩は我慢してくれ。パジャマはこれを着てくれ」
左手で鼻を抑え、鼻血がかからないようそっと右手で下着とパジャマをフランへ渡した。
「おう。すまぬな。これが男物の下着か。胸につける奴はないのか?」
「ブラジャー着ける男は一部のやつしかいない。言っておくが俺は違うからな」
「しかしお主はよくそこまで鼻血を出せるの。やはり、ヴァンパイアを紹介したほうが良いの」
「このシチュエーション、童貞の俺にはきつすぎる。天国のような地獄だ」
「意味が分からぬが……とりあえず借りるぞ」
「髪の毛乾かすなら、そこにドライヤーがあるから」
「どうやって使うのじゃ?」
「えーと、コードをコンセントに……」
面倒くさくなり、パジャマを着たフランにドライヤーの使い方を説明し、旅館でもらってきたヘアブラシをフランに渡す。。
「あのドライヤーというのはなかなか良いの」
「いつもはどうやって髪を乾かしているのよ」
「もちろん風魔法じゃ」
「をい、魔法使えるなら……まあいいか」
「いつもより髪の毛がつやつやしている気がするが」
「マイナスイオンドライヤーだからね。シャンプーやリンスもよかったのかもね。フランの国ではシャンプーなんかはあるの?」
「いや、スパスライムを体につければ、隅々まで洗ってくれ……」
わかった。人間界の常識がもう通じない。というよりも、ゲームの世界が現実になっている。
「フラン、湯上りに一杯飲むか?」
「おう、酒か?」
フランは目を輝かせる。
「この国では16歳はお酒を飲むことを禁じられているので、牛乳だ」
冷蔵庫からビールと牛乳を出し、牛乳パックにストローを差してフランに渡し、缶ビールを開ける。
「正宗や、それは何ぞ?」
「ビールだよ。お酒の一種だよ」
「ずるい正宗だけ! 一口でいいから妾にも味見させるのじゃ」
「だめ、俺が逮捕される。というか、未成年はお酒を飲むと、成長が止まるんだぞ」
「この国の未成年とやらは、一体何歳までじゃ?」
「20歳だ」
「妾はそんな歳をとうの昔に過ぎておるわい!」
悪魔が煩悩に負けた瞬間であった。
〜〜〜あとがき〜〜〜
この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。
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