第4話 正宗、初めて魔法を見る

 フランは呆れた表情をしながら、目の前の空間から箱を出した。

 げ、これって異空間収納ってやつか? というか魔法かよ? 

 箱の上に魔法陣が投射され、フランは慣れた手つきで操作していく。

 携帯電話に魔法陣を投射するホログラムって、魔界はハイテク化しているのか? 


「フラン、それって?」

「魂を父上に転送するソウルトランスポーターというのじゃ。もう少し待て」


(ん? この感覚は何じゃ? いや、気のせいか? まさか……そんなはずはあるまいて)

 フランは手にした正宗の魂に違和感を覚えつつも、ソウルトランスポーターへ魂をセットし転送を終える。


「さて、終わったのじゃ」


 フランはソウルトランスポーターを収納し空間を閉じる。


「フラン、それ便利そうだね。どうやるの?」

「これはディメンジョントランクというものでの、魔力で空間を歪ませてその中にものを入れるのじゃ」

「え? 魔法使えるの? というか魔法が存在するの?」


 やはりあれは魔法だったのか。


「当然じゃろ。妾を誰だと思うておるのじゃ?」


 フランは自信ありげに胸を張る。


「美少女魔法使いフランちゃん!」

「マハリクマハリタヨヨイノヨイ……こらぁ! ちがわい!」


 スパーン!  

 フランがディメンジョントランクから取り出したハリセンが俺の頭で炸裂する。

 魔界にもハリセンがあるのかよ。


「知らぬのか? お主ら人間も太古においては魔法を使っていたのじゃぞ」

「は? マジ?」


 頭にできたタンコブの周りに「?」マークが回っている気がする。


「嘘をついてどうする。嘘をつくと、閻魔の奴に舌を抜かれると小さいころから父上母上ともに言っておったわ」


 悪魔にも躾というのはあるんだな。

 しっかりとしたご両親なのだろうし、さぞお母様は美人(悪魔……美魔女?)なんだろうな。

 フランが言うには、人間が幾度となく絶滅しかけているのを何度も見てきていると。

 恐竜の絶滅の原因は隕石の衝突ではなく、恐竜は人間と同じ時代に生存し、その時に起きた戦争が原因だということだ。

 

 彼女が言うには、恐竜も当時の人間も今の人間並みの文明を作っていたが、人間の居住している所を片っ端から殲滅し始めたので、人間も恐竜の居住している所に報復攻撃をしたらしい。

 どんな戦争だったのかを聞いてみると、一発で都市を消滅させる爆弾を使っていたらしい。

 え?それって古代核戦争じゃねえのか?


 「結果、地球が半分壊れかけたのじゃ。あの時は神々も我々悪魔も大慌てじゃったわ」

 余りのトンデモ話に思考が追従できなくなり始める。


「一気に魂がなだれ込んできてみよ、さばききれぬわ」

「山手線と京浜東北線の東京新橋間の乗車率の比じゃないわな」


 毎朝通勤ラッシュに揉まれている俺は、人がなだれ込んでくる通勤電車をイメージしてしまう。


「それは何じゃ? よくわからんが。それでの、世界の修復も神々と一緒にやったわい。なだれ込んできた膨大な数の魂の整理と世界の修復を同時進行でやったものだから、毎日が盆と正月が一緒に来たような大騒ぎじゃった。当然ノイローゼになったり、過労死寸前まで追い込まれたりした者もおったわ」


 あの……神や悪魔って死ぬのかよ。

 それっていわゆるブラック企業そのものじゃねえのか。

 それに、神と悪魔が一緒に修復って、やはり表があれば裏があるということか。


「それで数万年後、生き残った人類が、魔法をあみ出して繁栄しておったわい。水の魔法で雨を降らせたり、土魔法で工事をして町を作ったり、風魔法で空を飛んで往来をしたりしての。今のお主等の文明以上のものを作って、それなりにうまくやっておったぞ。しかしな、ほっとしたのも束の間。また戦争じゃ」

「一体どんな戦争だったん?」


 本当に人類という生き物は大昔も今も変わらないと思いつつ、当時の戦争がどのようなものなのかを知りたくなる。


「最初は魔法使いや騎士が辺境の地で小競り合いをやっておったがの、国家間の争いに発展してしもたのじゃ。魔導戦争と呼んでおったの」

「そういうのってアニメではよくやっているけど、そんなものが現実にあったなんて誰も信じやしないぜ」


 消された歴史というかこれは消えた歴史になるな。


 するとフランが呆れたように話し出す。

「人間はないものねだりであるからな。『魔法が使いたい』とか『魔法があればいいなぁ』等と言いつつも、魔法使いが本当に目の前に現れて魔法を使ったらやれインチキだの何だの言うのが関の山じゃろ。神を信じても神が目の前に現れたらどうする? 妾が悪魔であると名のりを上げても大概の者は信じないであろう。魔法も同じじゃて。だがの、正宗や、一つだけ言えることがあるぞ。そもそも魔法そのものがなかったら、お主等の伝承に『魔法』という『言葉』や『文字』すら出てこないであろうぞ。あったからこそ伝承に残っておるのではないか? もちろんそのアニメとやらにも魔法が描かれることはなかったのではないかえ?」


 確かにその通りだ。

 見たことも聞いたこともないものに言葉を与えるなんてことはどうやっても出来ない。


「存在しないものは想像すらできぬのじゃ」

「まあ目の前でみたからなぁ。でもさ、国家間の魔法戦争ってうまく想像できないなぁ」


 大陸間弾道弾みたいな魔法が吹っ飛んでいくのを想像してみるが、いまいちピンとこない。


「最初は局所的な戦いで、格闘や魔法の撃ち合いくらいだったがな。じゃがの、各国の王や指導者は禁断の魔法を使いよったわ」

「禁断の魔法って何?」


 まさかコロニー落としなんて言うなよ。あ、その今も当時もスペースコロニーなんかないよな。


「物を全て熱に変換する魔法、天体を動かす魔法、異次元転送の魔法じゃ」

「物を全て熱に? それって質量変換じゃねえの?」


 質量変換と聞いてあの有名なE=mc²の公式が頭をよぎる。

 それって核兵器じゃねえのか?


「そうじゃった、質量変換魔法とかいうておったの。なぜ質量が熱に変わるかは判らぬが」


 俺は手に取ったポテチをフランに見せながら、この質量が全てエネルギーに変換された時のことを掻い摘んで説明する。


「何と、そうゆう原理じゃったのか。そのようなものをポンポンとつかっておったわけじゃの」


 フランは感心しているが、一発で理解できるということに知能の高さがうかがえる。


「それで、天体を動かす魔法って?」

「小惑星を動かすのじゃ。異次元転送魔法で小惑星を地上に瞬時に落としたり、落とした先でその小惑星に質量変換魔法を発動させたりしておったわい」


 えげつないな。隕石と核兵器が同時に落ちてきたってことじゃねえか。コロニー落としが可愛く見える。


「我々も神々も、人間共の愚かな所業に呆れ果てておったわ」

「俺も呆れるわ」


 これも古代核戦争だな。恐竜と合わせて2回、本当にあったんだ。


「まあ、話は飛んでしまったが、とにかくお主等人間は魔法を使っておった。今は失われた技術になってしまったようじゃがな」

「要らない、要らない! そんな技術」


 つくづく人間って好き勝手な生き物だと実感し頭を横に振る。


「そう言うな。正宗には妾の血が入っておるのじゃから、魔法も使えるようになるぞ。恐らくはな」

「恐らくって?」


 まさか、魔法を使えるようになるのか?


「人間共が魔法を使っておったころは人それぞれ魔法適性があったのじゃ。魔法は火水風土光闇の6属性があっての、妾はすべて使えるが殆どの人間は1つか2つ、あっても3つじゃったの。4つ以上や全部使えるものはごくたまにしかおらぬかったわ。妾の血が正宗にどこまで効くかは妾も判らぬのじゃ。だから恐らくなのじゃ」

「すると俺は、魔女いや、魔男(まおとこ)……ん?」


 魔法使いの女性は魔女だが、魔法使いの男性は何というのだろうかと言葉を模索してみるが、見つからない。


「魔導士と言え。何じゃ『まおとこ』とは。浮気現場じゃあるまいし」


 フランが呆れた表情になる。


「何でそんなこと知っているんだよ」

「べ、別に良かろうて。深く詮索するな」


 フランは頬を赤くしてプイッと横を向く。 

 どこの世界でもやはり年頃の女の子の中には耳年増の子がいるんだよな。


「あのさ……フラン、今の話だけど、恐竜がいた頃の時代も見ていたんだよね」

「うむ。この目で見ておったわい」


 フランは自分の目をさしながら得意げに答える。


「ってことは、何年生きているの? 一体何歳なの?」


 途端にフランの指からポテチがカラン! と音を立てて皿の上に落ちる。

 フランの顔が明らかに狼狽し始めた。


「わ……妾は悪魔じゃぞ。天界の神々と同じく悠久の時を生きているのじゃぞ。大体においてな、女性に歳を聞くものでない!」


 フランは明らかに狼狽した様子だ。

 それを見て思わず禁句を口走ってしまう。


「げ、ひょっとしてババアか! いやもう妖怪クラス?」

「悪魔に向かってババアじゃの妖怪じゃの何じゃ! 妾の世界の時間の速さは、この世界と時間の速さが違うのじゃ! 見よ妾の肌の艶とハリを! 16歳の娘と変わらぬじゃろうが。これのどこがババアじゃ!」

 

 フランは必死の形相で自分の肌に指をさす。


「じゃあ、ロリババア?」


 ふと口からついて出た言葉で地雷を踏んだことを身をもって体験する。


「にゃあぁあああ!」


 バキッ! ドゴッ! メキョ!  

 涙目になったフランからのストレートパンチが数発見事に顔面を直撃し、鼻血がきれいな円を描いているのを自分の目で見ながら意識を手放した。

「口は災いの元」とはよく言ったものだが、意図せず身をもって体験した瞬間だった。

 若さと美を保つことはいつの世でも女性の永遠の課題なのに、ババアや妖怪というなんぞ、自殺行為そのものだったわ。


「ったく、痴れ者が……」

「そんなこと言ったって、俺、女性経験ゼロなんだから」


 女性経験ゼロということを自分で言うのは、すごく恥ずかしい。


「ならばゼロから始まる新婚生活じゃな」

「その国民的人気アニメも見たのか?」


 アニメのDVDパッケージを指さしながらフランに聞く。


「まったく判らん。ふう、もう妾は疲れた。正宗や、風呂はあるのか?」

「あるよ。いまお湯を張るから。ってかそっちの世界にも風呂はあるんかい!」


 お風呂に入りたいというフランの言葉に、悪魔もお風呂に入るのかと聞くが、人間とあまり生活は変わらないらしい。

 風呂の給湯スイッチを入れ、フランにタオルと歯ブラシを渡す。


「あと数分でお湯がたまるからね」

「すまぬな。馳走になるぞ。で、このわしゃわしゃしたものがついておる棒は何ぞ?」


 フランは歯ブラシを物珍しそうに見ている。


「歯ブラシだよ。初めて見るみたいだね」

「何に使うのじゃ?」

「歯を磨くために使う道具だよ。ちなみに、フランの国ではどうやっているの?」

「口の中に、スライムを放り込んで……」


 フランは口を開けてスライムを放り込む仕草をする。


「わかった。ごめん」


 フランが最後まで言うのを止めさせる。

 しかし……


「スライムの中でもクリーナースライムというのがおっての、これが口の中を綺麗にしてくれるのじゃ」

「全部言わなくていいから……」

「ほれ。これじゃ」


 フランはディメンジョントランクに手を入れ、目の前にプルプルと動く透明なゼリー状の物体を差し出した。


「えぇええ? スライムって本当にいるの?」

「当り前じゃ。と言うか、何故お主はスライムを知っておる?」

「いや、ゲームでは鉄板のモンスターキャラだから」

「ゲーム?」

「うん、まあ、遊びの道具だよ」


 どうやらフランの国にはゲームはないようだ。


(ピーピー お風呂が沸きました)


 給湯装置のコントローラーが沸き上げを知らせてきた。


「フラン お風呂入っておいでよ」


 お風呂をすすめるが「旦那が一番風呂が当然じゃ」と言うので、言われるがまま一番風呂をいただくことにした。

 

 〜〜〜あとがき〜〜〜

 この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

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