第3話 正宗、嫁に魂あげて血をもらう
一連の経緯を聞いた彼女は遠い目をする。
「そう言うことか。わかったのじゃ。お主、なかなか見どころがあるの」
悪魔と言え、女性に褒められるということが殆どなかった俺は少し恥ずかしさを感じている。
その時、部屋の片づけをしながら流していたテレビのアニメに彼女が気付く。
「おい、あれは何じゃ?」
「何って、アニメに決まっているじゃん」
どうやら彼女の世界にはアニメと言うのものがないらしい。
まずは、彼女をもてなそうと思い、冷蔵庫から冷えたコーラを出して勧める。
「コーラとは何ぞ?」
「まあ、人間の好きな飲み物の一つだよ。まずは飲んでみそさざえ」
ダジャレを叩きながら、ペットボトルのふたを開けて、ポテチと一緒に差し出す。
目の前で大悪魔ルシファーの娘なる超絶美少女悪魔っ娘が居間でポテチをつまみ、コーラを飲みながらアニメを見ているというぶっ飛んだ光景が繰り広げられている。
しかも俺の意思とは無関係にあっという間に結婚してしまったというおまけまでついて。
彼女いない歴=年齢でオタク趣味、あと5年頑張れば30歳童貞で賢者になれるはずだったのに、彼女作らずにいきなり結婚してしまった。
いや、これはもはや事故といってもいいだろう。
人間の女性には全く縁がなく、動物園に行ったときに、檻にいたメス熊に懐かれだして、顔をなめられたこともあり「人間以外の女性にしかモテないのか?」と悩んだこともあったが。
「あの……」
彼女に話しかけようとするが
「何じゃ? 今良いところなのじゃ。後にせい」
とあしらわれてしまった。まあ、アニメを見ているときに邪魔されるのは嫌なのでポテチを持ち出し、皿にあけて二人でポテチをつまみながらアニメを見ることにした。
「おい、このポテチというもの、旨いではないか。コーラも美味であるな。このような物は初めてなのじゃ」
彼女の笑顔がとても可愛い。
「喜んでもらってよかった。フランシウムさん。コーラのお替り要る?」
彼女がコーラを美味しそうに飲むのがとても新鮮だった。
「正宗や、妾はフランでよいぞ」
「フラン……さん」
「呼び捨てでよい。夫婦になるのであるのじゃから」
いきなりのファーストネーム呼び捨て許可に頭がパニックになる。
「フラン……くぁwせdrftgyふじこぉぉおをおぉおぉおおおおおお!」
「ど、どうしたのじゃ? 正宗!」
両手のこぶしを握り締め、力いっぱい叫んだ俺を見てフランが焦る。
「姉貴以外の女の人の名前を呼び捨てで呼ぶなんて、人生で初めてなんだよぉおおお! しかもこんな超絶美少女悪魔っ娘をぉおお! 生きていてよかったぁああ!」
両目から水が滝のように湧き出す。
そう、人生で初めて女性に対して苗字と「さん」付けではなく、名前で呼んだのだ。
人間って人生が逆転する状態になると正常な思考を失うのだろう。
ましてや彼女いない歴(以下略)のオタクに二次元でしか会えないような超絶美少女悪魔っ娘が嫁になったものだから、神様が降臨した錯覚にとらわれてしまったようだ。
「非モテの神様! ありがとうございました! ありがとうございましたぁああ!」
頭の中に降臨し始めた非モテの神様に本能的に礼拝し始める。
あらぬ方向に向かって某三大宗教の一つのような平身低頭の礼拝をする俺を目の当たりにしたフランが心配そうに話しかけてくる。
「おい、正宗。お主大丈夫か? 頭の打ちどころ悪かったのか? 顔も悪い上に頭もおかしくなったら救いようがないぞ」
「いや、非モテの神様に感謝をささげていた」
冷静を装って答えるが、
「はい?」
彼女の頭の上に「?」マークが浮かぶのがよくわかる。
「いや、何でもない……気にしないでくれ。それと、非モテのブサ面は自覚しているが、面と向かってストレートに言わないでくれ。さすがの俺でもハートが傷つく」
「正宗、お主生きていてよかったと言うておるが、妾が何故来たか判っておるであろうな」
「俺の嫁になるためだろ」
フランにウインクをかましパチンと指を鳴らす。
うん。ここはボケで返すのが礼儀でしょう。
「そうそう、甘い新婚生活を……ってちがうわい! それは結果論じゃ! まったくもう、父上との契約の対価でお主の命をもらいに来たのじゃろうが」
この娘、ノリがいい。
「あ……そうだった」
「そうだったではない! まったくあきれた奴じゃの。お主は」
「でも、ふりゃ……フラン」
彼女の名前を呼ぼうとして思いきり噛んでしまう。
「妾の名前で噛むでない」
「だから今まで女の子の名前なんか呼んだことがないんだから。じゃなくて、俺の命を持っていくのは構わないけど、どうやってこれからここで生活するの? 俺の死体と一緒にか? 今日日、異臭騒ぎで三日後には警察がこの部屋になだれ込んできて大変なことになるぜ。ましてやゾンビになろうものなら間違いなく陸軍が治安出動して大騒ぎになるぞ」
「まあ心配するでない」
そう言うや否や、フランは俺の胸に両手を伸ばし、あろうことか胸の中に手を入れた。
「えええええ? うそぉおをっ。あれ? 痛くない」
胸の中から赤く光る球体がフランの両手で取り出された。
「ほい。これがお主の命、魂じゃ。これはこれで頂くぞ」
そうか、これが魂か。これでこの世ともおさらばか。
「ああ、姉貴よ。末永く俺の分まで幸せに生きてくれ」
合掌しながら目を閉じようとするがフランが意外なことを言い始める。
「
手にした魂を見ながらフランが感心している。
「そ……そっか……。でもその言い方だと、魂にもいろいろあるみたいだね」
「そうじゃ。大体我々に願いをかけるものの魂は、曇っていたり、色がどす黒かったりするものじゃ。まあそれはそれで美味であるのじゃが」
「じゃあ俺の魂は不味いのか?」
「なぜそうなる?」
「いや、カモの肉は新鮮なものよりも、腐る一歩手前の肉が一番美味しいそうだから、魂も同じなのかと思って」
「それは熟成というものじゃろて。
「プレミア価格がつくのかよ」
「つかぬわ。もうよい、父上に送るからちょっと待っておれ」
彼女はそういうと空間に手を伸ばし始めた。
〜〜〜あとがき〜〜〜
この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。
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