【特別短編2】ゴーストナイト・バスターズ

第1話 大掃除します

 ある日の放課後。

 オカ剣のメンバーは、いつも通り旧武道棟へと集まっていた。


「――剣たちが文句を言ってます、部室が汚いから掃除しろと」


 私、宮本絶花みやもとぜっかには刀剣と会話ができる特技がある。

 少し前だとゼノヴィア先輩の、エクス・デュランダルと意思疎通をしてみせた。

 皆はその特技を改めて見たいと、部室に保管された刀剣を渡してきたのだけど……。


「わ、私が言ってるんじゃないですよ……こ、この剣たちが言ってるんですからね!?」


 しかし刀剣と会話してみると、旧武道棟を片付けろと、次々クレームをつけてくる。


「ほんとー!? あたし毎日掃除してるよー!?」


 アヴィ部長が首を傾げている。リルベットとシュベルトさんもそれに続く。


「目に見えて汚い箇所はないような。刀剣たちは真にそのようなことを?」

「そっすよー。この前ツイスターの後にだってがっつり掃除しましたしー」


 皆さんのご意見はもっともだ。すると刀剣たちの反論が私に伝わってくる。


「えっと……確かに見える場所は清潔だ。ただし物置や地下倉庫はどうなんだ……と」


 言われたことそのまま口に出すと、部長があからさまにギクッとした。


「ぶ、部長……?」

「きょ、今日は良い天気だなぁ! なんだかランニングしたくなってくるなぁ!」


 そっぽを向いた彼女は、だらだらと冷汗を流しはじめ、外に走っていこうとする。


「「――ちょっと待った」」


 左右にいたリルベットとシュベルトさんが部長の肩を摑んだ。

 それから彼女は観念したように語り出す。


「……えーっとね。皆も旧武道棟の造りについて、もうなんとなく分かってるよね?」


 初めて旧武道棟に来た時には、ここを小さい体育館とたとえた。まさに今いる木床の本堂は、バスケットコート一面は余裕で収まるぐらいで――剣道場としても十分の広さだ。

 あとは物置が二部屋、まだ入ったことはないけれど地下倉庫が一室用意されている。


「物置の一つはロッカールームとして使ってるよね。だけど元々そこはよく分からない荷物でパンパンだったんだ」

「よ、よく分からない、もの……それって、どうなったんですか?」

「地下倉庫に突っ込んだよ」

「「「部長!」」」

「ごめん! でもあたし、床や窓の掃除はできても物捨てるの苦手なんだよぉ!」


 だっていつか使えるかもしれないじゃん、と画に描いたような答えが返ってくる。

 それに対して女騎士とギャルは、やれやれという反応を示しつつも――


「改めて振り返ってみれば、確かに更衣室でない方の物置も美しいとは言えませんね」

「シトリー家から頂いたマジカル食品で溢れてるっすもん。段ボール箱が山ほどあって業者かよって感じはあります。てかよく考えるとこれって在庫処理の可能性が……」


 なぜこんなにもソーナ先輩はマジカルな食料を送ってくれるのか。シュベルトさんがブツブツとなにやら呟いてるが――食べ物はいくらあっても困りません! ちょっとパッケージとキャッチコピーが奇天烈なだけで味は最高だし! まさか売れ残ったりしません!


「地下倉庫に上手く突っ込んだつもりだったけど……」


 部長はいつか部員が増えることを考え、事前に沢山の物を見えない場所へ押し込んだ。

 しかしその一部始終を刀剣たちは目撃していたわけである。


「――分かった! ごめんね刀剣たち! 後回しにしたあたしが悪かったよ!」


 それに続いて私たち他部員も、部長に任せっきりにしていたことを反省する。

 この場所を使っていた全員に責任がある、だとすれば……。


「大掃除しよう――っ!」


 部屋の乱れは心の乱れ、私たちは急遽、旧武道棟の掃除をすることになった。

 こうなれば徹底的にやろうと、まずは比較的片付いているとされるロッカールームへ。


「うんうん! ここは綺麗だね……って、いきなりブラ落ちてるし! 誰!?」


 中学生らしからぬ色気たっぷりの刺繍、なにより目を見張るのはその巨大なサイズだ。

 部長とシュベルトさんがこちらを見て――私じゃないです! 私は万年サラシです!


「これは失礼。わたしの清く正しい騎士道から外れた下着があったようです」

「言い訳が厳しくないっすか? なんで騎士道とブラが関係あるんすか?」

「リルちゃん! せめて絶花ちゃんのロッカーの前に落とすはやめよう!」


 そうなのである。ここ最近は私のロッカー前に、まるで罠のように置いてあるのだ。


「重ねて失礼しました。それでは今度は絶花のロッカー内に仕舞うようにします」


 私にブラジャーを渡してどうしたいの!? セクハラ!? 全然清く正しくない!

 う、リルベットの素晴らしいおっぱいを想像して、頭が痛くなってきたよ……。


「こっちには空いたマジカル☆スウェットが。ゴミっぽいですし捨てるっすけ――」

「ちょっと待ったああああああああ! それは捨てじゃダメだよおおおおおおおおお!」


 手を伸ばしかけたシュベルトさんを、部長が全力で阻止しようとする。


「今ポイント溜めてる! ラベルのマジカルマークを読み取んで応募! 豪華商品が当たる!」

「声デカ!? そんな本気なら仕方ないっすけど……後で自分で処分してくださいっす」


 よくそんなことやりますね、とシュベルトさんは肩を竦めている。

 私もポイント溜めてますよ? 二等の冥界特産百点盛りが欲しいんです。


「シュベルトライテ。処分をしなくてはいけないのは貴公も同じでは?」

「どういう意味っすか?」

「ロッカーから書類がはみ出していますよ」


 リルベットが容赦無用と、デコられまくった彼女のロッカーを開ける。

 ズサササササササササササ! と雪崩のように大量のプリント用紙が出てきた。


「な、なにするんすかー! せっかく生徒会の仕事をここに隠し……保管してたのに!」


 ロッカーに押し込んだところで、仕事がなくなるわけではないと思いますけど……。


「スピードが求められる仕事はちゃんとやってるっす! どーでもいい仕事はどーでもいい時にやればいいんすよ! あーあ…………もうこんなにあるんすか、しんどいっす……」


 騎士によって現実逃避が強制終了させられ、書類の山を前に彼女はゲンナリしていた。


「そういえば絶花ちゃんは特に問題なしだね」


 うんうんと他二人も頷いている。皆さん、そんな意外だって顔しないでください。


「わ、私は、そもそも持ち込むような荷物があまりないので……」


 強いてここに置いてあるものと言えばと、ロッカーを開けてみせる。


「「「――!?」」」


 三人が目を見張る。そんなにおかしいところあるかな。


「怖っ! 同じシャツの山っす! もう服屋ですよこれ! 一体何着あるんすか!?」

「数までは……なにせ天聖が服をよく破るので、替えのシャツは沢山用意してます」


 新品も置いてあるが、お財布事情もあるので、直せるシャツは自分で直している。


「あとはサラシの替えが置いてあるぐらいで……皆さんに比べて普通すぎると思います」

「「「全然普通じゃない!」」」


 改めて見ると、皆は持ち物一つから性格が表れていると思う。

 私の場合は……全部おっぱいに起因する物ぐらいしかない。


「とりあえず、ロッカールームから片付けますか……?」


 唯一指摘がなかった私がそう言うと、三者三様の反応を見せながらも納得した。

 旧武道棟の大掃除、前途多難になりそうだ――!


(続く)


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