第3話 テレクラ

 それから、数人の女性と仲良くなっては、別れてきた。実際に逢った人もいれば、一度も遭ったことがなく、ネットの世界だけの人もいた。

 今から思えば、

「ネットの世界だけで付き合ったと思っている人の方が、別れた時のショックが大きく、本当に付き合っていたという感覚になるのだ」

 というものであった。

 確かに、

「人を引き寄せる力は強いのかも知れない」

 この思いは、高校生の頃からあったのだ。

 付き合うまではいかないが、

「お前は話しかけやすいんだろうな」

 友達がいうことで、まず、女性に話しかける役目は、いつも、日下部だった。

 日下部が、話しかけると、仲良くなるまでは、別のやつ、そして、いつもおいしいところを持っていくやつ。ということで、

「俺は貧乏くじだな」

 と思っているのだが、途中で、

「それも悪くないか?」

 と思うようになった。

 実際に、仲良くなった女の子のグループの中で、いつも長続きをするのは、日下部だった。

 他の人は、実際に深い仲になるようなのだが、日下部は、

「友達関係まで」

 ということが多かった。

 本当は、

「もっと深い仲に」

 と思うのだが、相手が、

「日下部さんとは、お友達のままがいい」

 と言われる。

 正直、これは、

「あなたのことをお友達以上には思えない」

 という、

「交際を断る時の常套文句であるが、これはあくまでも、ずっと友達でいた相手に告白する場合である」

 最近友達になった相手に、

「友達の関係で」

 ということを言うのであれば、それは、

「本当に好きかどうか、まだ分からない」

 ということであり、だから、日下部は、

「友達のままで」

 と言われても、

「うん、分かった」

 といって、縁を切ろうとはしなかった。

 他の人は、

「最初から、彼女にするという目的をもっているから、仲たがいをすれば、そこで修復ができないと思うのか。それとも、修復させるよりも、放っておいて、他に行く」

 と考えるからなのか、結構あっさりと、仲が切れるということが多いようである。

 それを考えると、

「最初から友達のようなゆっくりとした関係の方が長く続くのではないか?」

 と考えるようになった。

 友達の中には、最初から、

「好きだ」

「愛している」

 などという、

「甘い言葉を並び立て、相手をその気にさせて、様子を見る」

 というやつもいるようだ。

 というのも、

「相手の出方を見る」

 ということから始めないと、気が気ではないと思うのだろう。

 要するに。

「こちらのペースに巻き込まないと、気が済まない」

 ということである。

 相手のペースに引き込まれたりすると、ロクなことはない。

 日下部が、離婚してから、二人目に付き合った人がそんな感じだった。

 その人は、軽い精神疾患を持っていた。

 鬱病のようなのだが、何でもかんでも、悪い方にばかり考えてしまう人で、一緒にいて話をしていると、

「こっちまでおかしくなってくる」

 という風に思っていた。

 しかし、実際に、話をしてみると、ロクでもない人だったりする。

 特に、

「言っていることが、毎回違っている」

 ということが一番気になった。

 前の日には、ボロクソにある人のことを話していたと思えば、次の日には、庇うような言い方をして、

「一体、どういうつもりなんだ?」

 ということで、こちらは頭が混乱するではないか?

 特に、日下部という人間は、

「人の言葉に左右されやすい」

 というところがあり、

「その人に、洗脳された」

 と感じることが、その頃から結構あったのは、その人の影響が、結構後まで残ってしまったからなのかも知れない。

 その人と話をしていると、

「どこまでは本当なのか分からない?」

 という思いが結構あった。

 だから、

「俺は覚悟を決めて、彼女と向き合う」

 と思うようにした。

 元々、

「彼女がほしい」

 というほどの時期ではなかったこともあり、

「そこまで気にしないようにすればいいだけなので、気が楽なはずだ」

 と思っていた。

 しかし、最初に相手から。、

「好きだ」

「愛している」

 などというキラーワードを並びたてられると、さすがに、その気はなくても、悪い気はしないということで、どうしようもない。

 そんなことを考えていると、

「好きでもないのに、好きになってしまうということはあるんだな」

 と感じてしまうのだった。

 そして、彼女が特に、精神疾患があるということで、同情してしまうと、相手はどうもその気持ちの隙に入り込んでくるようだった。

 こちらは、

「覚悟」

 を決めて相手をしているつもりでいるが、

「相手はその覚悟を、洗脳に変える」

 ということであった。

 相手に対して、どうしても、同情的になることで、

「相手の身にならなければいけない」

 と思う。

 そのため、相手が、毎日のように、いろいろなトラブルに巻き込まれて、

「今日は、ネットで誹謗中傷を受けた」

 あるいは、

「ストーカーのようなやつに狙われている」

 あるいは、

「友達から責められて、パニック障害を起こした」

 などというのが、毎日である。

 こっちは、状況が分からないことで、いろいろな感情を抱いてしまい、

「どうしていいのか分からない」

 ということになるのだった。

「私、あなたしか頼る相手がいないの」

 などと言われると、放っておくわけにはいかなくなる。

 しかも、

「俺に任せておけ」

 と最初に言った手前、覚悟もしたこともあり、

「乗り掛かった舟」

 ということで、その場をやり過ごすことはできないのだった。

 それを思うと、

「相手のいうことを真剣に信じてしまう」

 しかも、それにお金が絡んでくると、

「完全な金ずる」

 ということになる。

 確かに、お金は、貯金から食いつぶせばいいのだろうが、とは言っても、

「いつ何があるか分からない」

 と思って、ずっと貯めてきた金だった。

 いくら、覚悟を決めたとはいえ、女に、しかも、実際にまだあったこともない、ネットだけの知り合いに、いろいろ援助するというのは、そもそもが狂っているといってもいいのではないか?

 考えてみれば、最初に相手は、住所を教えてきた。

 そして、好きなものを、普通に言ってくれば、

「今度送ってあげる」

 という言葉くらいは普通に出るだろう。

 最初の頃は、嗚咽するかのように喜んでいたのに、途中から、どんどん、

「ねだる」

 になってくるではないか。

 それを聴いていると、

「俺って、やっぱり、金ずる?」

 としか思えないのだ。

 覚悟という言葉で片付けていいものだろうか?

 そのうちに、送ってもらった時だけお礼をいうだけになってしまった。

 そもそも、今から思えば、よく話していた時というのは、

「いろいろあって、相談する相手が欲しかった時ではないか」

 そして、それが少し落ち着いてくると、

「医者から、ネット依存はいけない」

 と言われたとか、

 友達から、

「毎日のように挨拶をするのは、気持ち悪い:

 言われたとかいうのだった。

 それは、完全にこちらを洗脳しようとしているのではないか?

 とも考えられるのだった。

 ということを考えていると、

「金ずるとしては、相手のことを考えているとはいえ、自己満足のようなものもあるので、自分も悪い」

 と考える。

 しかし、次第に自分から去っていこうとするのを見ると、どうもいろいろ怪しく感じられる。

「もし、何かあった時の相談相手だとすれば、今までのこともあって、今は落ち着いているかも知れないが、いつまたいろいろあるかも知れない」

 と思えば、簡単に、相談相手を切ることはできないだろう。

 と考えれば、今度は違う面が見えてくる。

「相談相手であれば、他を見つければいい」

 という考えであろう。

「日下部が簡単に引っかかったのだから、他の男なんて、ちょろい」

 とでも思っているとすれば、それは大きな間違いだ。

 日下部だって、そこまでバカではない。

 いや、

「洗脳される」

 という意味では、本当のバカなのだろうが、ある意味、分かっていて引っかかっているという意味でのバカではないのかも知れない。

「ただ、そういうバカは、そうは他にはいないだろう」

 と、日下部は感じるのだった。

 実際に、女が何を言っても、すべてを疑ってみる人の方が多いだろうから、そう簡単に引っかかる人もいない。

 特に相手は、精神疾患だというと、警戒する人も多いと聞いた。きっと、そういう事例が今までにも散見されたのかも知れない。

 もちろん、本当の精神疾患で苦しんでいる人もいるだろうから、一概には言えないが、そういう立場を利用して、

「男を騙す」

 という行為は、許されることではない。

 特に、日下部のように、

「一度ひどい目に遭っている」

 という人にとっては、

「許してはいけない人だ」

 といってもいいだろう。

「日下部が、過去にそういう目に遭ったことがある」

 ということを知っている人は結構いる。最後の方は依存症のようになってしまった日下部は、

「医者に罹ったり」

 あるいは、

「カウンセラーから、洗脳を解いてもらう」

 ということになったのだから、たいがいなことであったというのは、分かり切っていることであった。

「本当に厄介だ」

 と、日下部も今になっても感じていたのだ。

 ネットだと、女性なのか、男性なのか分からないということはあるが、それが音声になると、

「声で分かる」

 ということになり、いわゆる、

「ネカマ」

 というものを見分けることに難しいことはないだろう。

 だが、

「相手は女性だから」

 ということで、絶対に信じられるということはないわけである。

 もっといえば、

「後ろに男がついている」

 ということもあるだろう。

 そういう意味では、

「テレクラ」

 というものもそうではないだろうか?

 テレクラというと、男がある固執で待機していて、そこに掛かってきた電話に出て、女性からの電話に出るというものだ。

 男は、その個室を、

「時間で買う」

 ということになるので、一種の、

「ネットカフェ」

 のように、一部屋を借りるという感じである。

 そこで、掛かってきた電話の相手と話をすることになるのだが、ほとんどの場合は、

「出会い目的」

 である。

 声は確実に相手は女性なので、男も安心するのだろうが、その次に男が考えるのが、

「電話の本人がくるのか?」

 ということであろう。

 結構な確率で、待ち合わせの場所を決めておいても、相手が現れないということは結構あるだろう。

 実際に来ないということもあるだろうし、中には、

「その場所を女の子が影から見ていて、危なそうに見える相手であれば、そのまま帰って、別の相手を探す」

 ということになるのだろう。

 基本的に、出会い系目的なので、

「遊ぶ金」

 であったり、もっとリアルに、

「その日の食費」

 を稼ぐという人もいただろう。

 バブルが弾けてすぐくらいの時代に流行ったので、

「その日の食費や宿泊代がない」

 という人もいたに違いない。

「何しろ、いつ誰が、リストラされるか分からない」

 という時代だったからである。

 そんな時代だったので、女の子が、一人で、出会い系の、

「営業」

 というのも、普通にありだったのだ。

 また、昔からあるもので、

「バックに男がついている」

 ということでの、いわゆる、

「美人局」

 ということだってないとは限らない。

 相手が金持ちであれば、成功率は高いが、逆に、危険性が増すということを、

「やっている連中」

 には分からない。

「物事には、表があれば、裏もある」

 ということなので、どうなるのかということを考えてほしいというものであった。

 どういうことかというと、

「金を持っているだけに、守らないといけないものがある」

 ということになるので、やつらの付け目なのだろうが、逆に、

「守るものがあって、金があるだけに、何をするか分からない」

 ともいえるのだろう。

 つまりは、犯行を行う方とすれば、

「お金があって、守るべきものがある人間だから、まずお金よりも、名誉を守るだろう?」

 と考えることだろう。

 それは作戦としては、犯人側とすれば、

「いい作戦」

 ということなのかも知れない。

 しかし、一回だけでやめておけば、まだよかったかも知れない。ただ、味を占めて、再度揺するに入ると、

「今度は完全に彼らの考えを踏みにじる」

 ということになる。

 しかも、

「このままいけば、永遠にたかられ続ける」

 ということになるだろう。

 そうなると、名誉の問題どころではなくなってくる。

「犯人グループを葬らなければいけない」

 と思うだろう。

 犯人グループであったり、策を練る方は、意外と、

「自分たちが策を練っているのだから、相手が何かを考えてくるとは思わなかったりする」

 これが、戦争であれば、そんなことはないのだが、

「一介の犯罪集団」

 しかも、ほぼ、素人ということであれば、金を持っている連中についている、

「用心棒」

 にとっては、その正体を暴くくらいは、

「お茶の子さいさい」

 といってもいいだろう。

 だから、犯罪グループというのは、

「証拠を握っているのだから、相手には手を出せない」

 と思い込んでいるだろう。

 しかし、被害者側も黙ってはいない。

 金で雇って、刺客を送り込み、やつらの素人同然の

「アジト」

 くらいは簡単にバレてしまい、数人の共犯連中は、袋叩きに遭い、証拠の何も力づくで、奪い取られるだろう。

 こうなってしまえば、形勢逆転であり、何をされても、文句の言えない状態になるといってもいいだろう。

 その後やつらがどうなるか?

「どこかの港に、簀巻きになって放り込まれるか?」

 あるいは、

「コンクリート詰めになるか?」

 さらには、

「人知れず、殺されて山に埋められるか?」

 もし、そんなことがなくとも、

「東南アジアあたりに、売り飛ばされる」

 ということもあるだろう。

 特に、女の運命はそっちかも知れない。

 確かに、さすがにここまでは、

「可愛そう」

 といってもいいかも知れないが、自分で蒔いた種ではないか。

 簡単に、

「美人局」

 などということを、素人がやるなど、もっての他で、攻撃した方からすれば、

「上前をはねられた」

 といってもいいだろう。

 しかし、今の時代、

「美人局なんか誰がやるものか」

 と、誰が考えても、素人の犯行であることは一目瞭然、プロがそんなことをやるわけはないのだ。

 日下部は、テレクラというものを利用したことも確かにあり、電話での、

「交渉」

 で、待ち合わせ場所を決めて、

「会おう」

 ということになったが、実際に逢ったことはなかった。

 そのほとんどは、

「相手が現れない」

 ということであった。

 何しろ、電話で待ち合わせを決めて、ある程度の服装などの特徴を相手が聞いてきているだけで、相手は、ほとんど自分の特徴をいう人はいなかった。

 だから、女の方から男を見つけることはできるが、逆の方からというのは、

「ほぼ、無理だ」

 ということである。

 だから待ち合わせ場所において、

「相手が現れない」

 などというのは、結構あることのようだ。

 ただ、それも判断が難しい。

 というのは、女の方とすれば、いくらタダとはいえ、勇気を出して電話をしてくるのは、ただの冷やかしではない。

 基本的にテレクラへの電話というのは、街でやっているティッシュ配りの人からもらったティッシュの中に入っている電話番号がフリーダイヤルになっているので、女性側はタダなのだ。

 しかし、さすがに、

「どんなやつがいるか分からない」

 というところで掛けてきて、待ち合わせまでするのだから、目的は、完全に決まっている。

 もちろん、中には、暇つぶしのようなやつもいて、そんな連中は、

「話ができればいい」

 という程度の人もいる。

 そして時間帯によって、どんな人が掛けてくるのか?

 というのも、統計が取れていたりするだろう。

 午前中は、どうしても、主婦の人が多い。そして、午後は主婦に加えて、女子大生などが多いだろう。夕方以降はOLなどが多いといってもいい。

 もちろん、金に困っているのだから、無職の人もまんべんなく含まれているはずであり、そのほとんどは、

「身体の関係」

 によって、

「収入を得る」

 ということをしている人だろう。

「需要があるから供給がある」

 そして、その需要と供給という場所を結んでいるのが、

「テレクラ」

 という場所なんだということである。

 場所を提供することで、テレクラは、収入を得ている。当時は、ネットによる、

「出会い系のメール」

 というのも、流行っていたので、電話が掛かってこない時は、そのメールを携帯電話で、連絡を取り合っている人もいただろう。

 もちろん、テレクラが出てきて、最初の全盛期というのは、そんなインターネットというのも普及する前だったので、そんなものもなかった。

 電話も、もっとたくさん掛かってきていたのかも知れない。

 テレクラのシステムとしては、いろいろあった。

 電話がすべての部屋にあり、通話中の人以外の電話が一斉に鳴って、

「先着で取る」

 という方式をとっているところが多かったのかも知れない。

 ドラマなどでは、急いで取るという場面が描かれていたので、そういうのが、一番多かったのではないだろうか?

 逆に、部屋番号順に掛かるというのもある。こうしておけば、急いで取る必要もなく、少し話をして、合わなければ、電話を切ることになり、次の人に掛かる。これは、掛けてきた人も、何人とも話せるという利点があるのだろうが、主流でなかったのは、相手に話させるということからではないだろうか?

 テレクラというのは、そういう感じが主流だったが、今ではほとんど見なくなった。そもそも、

「テレクラというのは、風俗関係なのか?」

 あるいは、

「風俗であるとすれば、どれに分類されるのか?」

 ということが、難しかったりする。

 特に、風営法で定められている範囲は、結構広い、

「特殊性風俗」

 と呼ばれるものは当然のこととして、それ以外にも、酒類を提供する飲食店。

 これも幅が広い。

 居酒屋、炉端焼き関係から、特殊性風俗に近いのではないかと思うような、最近ではあまり見なくなったが、

「ピンサロ」

 であったり、定番といえるような、

「キャバクラ」

 のようなところも、立派な性風俗である。

 さらに、ギャンブル関係の、公営ギャンブルなども、その一つであったり、ゲームセンターや、カラオケなどという、

「遊戯場」

 と呼ばれるところも、風俗業である。

 さらに難しいところとして、勘違いされやすいのは、

「パチンコ。パチスロ業界」

 である。


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