第14話 今靴を履くからそこで待っていて(後)


「お好み焼きはないでしょ、お好み焼きは」という月島の先制攻撃で、第一ラウンドは幕を開けた。


「悠介は『助かった』って言ったもん」と柏木が主張すれば、「風邪の時くらい消化に良いものが恋しいよね」と月島が俺の胸中を見抜いたように言ったから、さぁ大変だ。


「もういい、帰る」とふて腐れる柏木をなだめ、「あっそ、帰れば」と冷たく言い放つ月島をたしなめた。疲れた。おそらくこの時点で俺の体温は39℃を超えただろう。

 

 柏木に対する当てつけのように「食べやすくて体力のつくもの作るから」と宣言した月島と、俺が「食べてみたいな、豚モダンスペシャル」と言ったものだから、帰宅を取りやめやる気が復活した柏木の第二ラウンドが始まった。主戦場はキッチンだ。


 まな板やコンロ、洗い場をどちらがどのように使うか、主導権を巡って、激しいつばぜり合いが繰り広げられた。


 言うなれば常に柏木は溶岩のように熱く、月島は氷塊のように冷めている。高瀬と柏木は正反対の二人だな、と事あるごとに思っていたが、柏木と月島もまた別の面において、性質がまるで逆である。


 いずれにしても、今この家の台所で競って料理をしている二人の背中には、決して小さくない荷物が存在しており、それによって彼女たちは苦しみ、その解決を――何かの巡り合わせの妙で――俺に求めている。俺は今一度、そのことをきちんと認識するべきなんだろう。高熱はあっても、まだそのくらいの判断はつく。それだけは、さいわいだ。

 

 そういう背景もあって、頼むからやめてくれという消化器の訴えを無視して、俺は「全部食べる」と宣言してしまった。


 結果、ダイニングテーブルには大量の料理が皿に載って、競うように湯気を立てている。テーブルを挟んだ向こう側には柏木と月島が並んで座り、対岸の俺を緊張の面持ちで見つめている。


 おそらくこの二人は、俺が病人であることをとうに忘れている。第三ラウンド、ということなのだろう。どちらの料理が美味しいか、「悠介」もしくは「神沢」、あんたが判定しなさい。きっと、そういうことなのだろう。


 ♯ ♯ ♯


 三人での夕食が始まった。お世辞抜きで彼女たちの料理はどれもうまかった。


「豚モダンスペシャル」は、その見た目こそ尻込みさせたけれども、食べてみると、生地のふわっとした食感とキャベツのしゃきしゃき感、秘伝だというソースがうまい具合に口の中で融合し、後を引く出来に仕上がっていた。豚肉と焼きそばも、思いの外くどくはない。紅生姜と桜海老が、良いアクセントだ。


 自身もそれを味見した柏木は「ホットプレートならもっとお店の味に近づけたのに!」と言って、月島を横目で見て舌打ちした。


「今まで食べたお好み焼きの中で、一番美味しいよ」と俺はフォローを入れた。

 

 一方月島が用意してくれたのは、柔らかめに炊いたご飯、大根と長ねぎの味噌汁、タラの野菜あんかけ、かぼちゃの煮物、梅風味の卵焼き、豆腐とちりめんじゃこのサラダという、栄養学的にも、個人的にも、文句のつけようがないメニューだった。


 正直言えば彼女のその都会的な風貌からすると、大根の皮が剥けるかどうかすら心配だったが、とんでもない。その味はたしかだった。なにより弱っている俺の体中の細胞が、スタンディングオベーションで彼女の料理を歓迎していた。


「どれも美味しい」と俺は二人の視線におののきつつ言った。「本当だって。この勝負、引き分け。それも、5対5じゃなく、10対10の。さ、二人も食べてよ」

 

 柏木と月島は、どちらも俺と共に夕食をとるつもりだったらしい。だから俺と同じくらいには空腹なはずだった。月島はかいがいしく、自分の分はもちろん、柏木の分の食事も用意していた。


 無論、例の「豚モダンスペシャル」も二人に食べるのを手伝ってもらわないと、俺はダウンしてしまう。

 

 二人が緊張を解いてようやく箸を手に取ったので、俺はほっとして味噌汁をすすった。ダシがきいていて、ちょうど良い塩梅あんばいだ。

「月島がこんなに料理ができるなんて、意外だった」と言わずにはいられない。


「実家のばあさんが昔気質な人でね。小さい時から炊事洗濯掃除の作法を叩き込まれてるの。男が働いて、女がそれを支える。月島家の伝統」


 男がせんべいを焼いて、そこに三日月を刻印するのだな、と頭で補足する。


 上は水色のギンガムチェックのシャツ、下は白のストレッチパンツというのが月島の服装だった。胸元には、五芒星ごぼうせいをあしらった銀色のペンダントがきらりと光る。

 

 柏木ほど直接視覚と本能に訴えてくるわけではないけれど、月島の簡素で涼しげな格好は、これはこれでとても可愛らしい。少しのあいだ食べるのを忘れ、見惚れた。すねに衝撃が走る。「痛っ」と、声が漏れる。

 

 柏木が鼻を膨らませて、俺を睨み付けていた。こいつにつま先で蹴られたのか、とようやく気がつく。


 機嫌を取る意味も込めて、お好み焼きを大口を開けて食べ「うまいうまい」と俺は目を細める。


 ♯ ♯ ♯


 食事は終わり、テーブルの上はきれいに片付いている。


 満腹中枢も明日の夕方くらいまでは「空腹」の指令を出すことはなさそうだ。


 月島がキッチンでデザートの準備をしているので、俺はテーブルの下でひそかにスマホを見て、高瀬から連絡がないかチェックした。あいにくまだ歌詞は出来上がっていないらしく、なんの音沙汰もなかった。


 ふと、テーブルの向こうから柏木の視線を感じた。

 

 じりじりじり、と、俺の中で鳴る音がある。そうだ、あれだ。対柏木専門の警報器だ。春の神恵山かもえやまでのゴミ拾い以来の登場である。やはり、喋る、優れものだ。

「あのー、そろそろ出ますよ。柏木の口からね、ぎょっとする台詞が。警告しましたからね。それではうまく対処してください。どうぞ」


「優里だね」と柏木は腕を組んで言った。「優里からのなにかの連絡を待ってる。違う?」


 それを聞いて俺はぎょっとした。「なんでわかるんだよ!?」

 

「だって今の悠介、教室で優里を見てる時と同じ顔してたもん」


 そこで月島がフルーツの載った皿を持ってキッチンから戻ってきた。

「なになに? 神沢が希代の脚フェチだって?」


「どこをどう聞き間違えたらそうなるんだよ」と俺は言った。「というか月島。なんでおまえ、そのことを知ってるんだよ?」


「だってキミ、女の子と会ったら真っ先に脚に目が行くじゃない」


 二人の洞察力に恐れおののいていると、月島がブドウを摘まんで言った。

「戯れ言はさておき、高瀬さんから連絡を待ってるんだって? それはなにゆえ?」


 どっちみち近いうちにわかることなので、この際、彼女たちにも事実を打ち明けることにした。

「高瀬と協力して曲を作ることになった。フェスで演奏する曲だ。彼女がまず詞を書いて、俺がそこに曲をつける。それでこうして詞が出来上がるのを待っている」

 

「へぇ、すごい。愛の歌だ」と月島はつぶやいた。今のままじゃ完成するのは哀の歌だよ、と俺は心で嘆いた。


「あんちゃん。優里とは、ぜんぜんダメ?」

 柏木が世間話をふるように言った。感覚としては、釣り場の先客に釣果ちょうかを尋ねるのに似ている。


「ダメだ。どうにもならない」俺は両手を広げて肩の位置まで上げる。「なぁ柏木。高瀬、なにか言ってなかった?」

「悠介のこと?」


「そう」

「とくになにも」と柏木は答えた。そして唇をゆがめた。「ま、正直言うと、今はあまり、優里と二人きりにはなりたくないよね」

 

「どうしてだ?」

「今の優里、なんか、ちょっとヘン」


「ピリピリしてるよな? なんだかさ、心に『立ち入り禁止』の看板を掲げているみたいだ」

「そうそう、そんな感じ」

 

 なんだ、あのつれない素振りは俺に対してだけじゃなかったのかと少し安堵した後で、疑問が浮かんだ。


 ――なぜ高瀬は柏木にもそんな態度を取る?

 

 柏木は眉をいろんな形に曲げた。

「あのさ、林間学校から帰って来たあたりから、なんか悠介と優里、妙に親密だったよね? そして今はバンドの練習中に目も合わせないほど険悪でしょ。そりゃあ優里の前で、月島さんとあたしがやり合ったのもあるんだろうけど」


「うちのクラスでも話題になった」とA組所属の月島は言った。「林間学校で男子憧れの的の高瀬さんと朝まで一緒に洞窟で過ごした、えない男子生徒がいるって」

 

 敢えて何も突っ込みはしない。結構結構。なんとでも評してくれ。


「話しなさい、悠介」柏木が身を乗り出してくる。「やっぱり洞窟の中で、あたしたちが知らない何かがあったんだよ。そしてまたあたしたちが知らない何かがあって、優里は今ナーバスになってる。そうでしょ?」

 

 月島もそれに続いた。「話してみれば? どうせ不器用な神沢のことだから、八方ふさがりなんでしょ? 私たちが話を聴いてあげるから。状況が打破できるかもよ。恋愛相談だと思って」

 

 この苦悩の大きな元凶(と思われる)である二人にその苦悩について相談する、というのもどこか間の抜けた話だ。


 しかし月島が言うように、俺にはもう手立てがないのが実情だった。立ち入り禁止の看板を突破して、高瀬の心にもう一度触れなければいけない。そのためならという思いが、すべてを打ち明ける勇気を生み出していた。


 赤面することになるのは、不可避だろうけど。

 

 月島には、三年後に待ち構える高瀬の結婚話から述べる必要があった。それを話してしまって良いものか、柏木に目配せで相談するとゴーサインが出たので、そこから説明をはじめる。


 ♯ ♯ ♯


「『私を大学に行かせるっていうあの約束、なかったことにしていいからね』これが一週間前に出て、今に至る。春から少しずつ少しずつ積み上げてきたものが、一気に崩壊した気分だ」

 

 語っていて、さいの河原にて積み石を鬼に崩されて泣く子の姿に自分を重ねていた。

 

 俺の話が終わると柏木と月島はどちらも皿に盛られたいちごに手を伸ばし、口に運んだ。

 

 そう言えば高瀬は苺が好きだと言っていたな、と思い出して切なくなる。女の人は本当に苺が好きだ。家を出て行った母親もそうだった。よりいっそう切なくなる。


「素敵ねぇ」柏木が瞳をきらめかせて、

「俺は君を大学に行かせる」月島が低い声で茶化す。


「ヒカリゴケの幻想的な光に包まれる中」柏木が両手を握り合わせて、

「本気になって、俺と一緒に大学を目指そう」やはり月島がぼそぼそとつぶやく。

 

 柏木が懲りずに「映画のワンシーンみたいに」と続けたので、

「もういいよ」と俺が食い止めた。放っておくと、いつまでもやりかねない。


「でも、どうすんの?」と柏木は真面目な声で言った。「結婚をやめさせるなんて約束しちゃって。タカセヤとトカイって、この街じゃ結構強い会社よ?」

 

 そんな、百も承知の懸念を持ち出されても、今の俺では「なんとかする」と虚勢を張ることしかできない。

「もう、なんとかする。曲も完成させるし、高瀬の政略結婚も壊してみせる。全部、なんとかする!」


「ずいぶんと前向きなようで」月島は、子どもの無鉄砲さをからかうようだ。

 

 少し間があって、何かを考えていた様子の柏木が口を開いた。

「あのさ、悠介。洞窟の中でその話をする時に、優里の手とか握ったりしたんじゃない?」

 

 それは言うのが恥ずかしくて、黙っていた情報だった。ここまでオープンにしておいて今更隠すこともない、と思い直す。「握った」

 

 それを聞いて、ようやく自白を取り付けた刑事のように「ふぅ」と月島が息を吐き出せば、柏木もどこか「アホくさ」とでも言いたげな顔で首を回した。

 

「なんだよ」


「キミってさ」と月島は言った。「バカなの?」

「は?」


「簡単な話じゃん」と柏木は言った。「なんとなく『そうかな』とは思っていたけど、どうして最近優里が悠介とあたしにつれないのか。その答えはカンタンよ」

 

 柏木と月島はそこで顔を見合わせた。二人の言いたいことは共通しているようだ。無言の譲り合いを経て、柏木が口を開いた。

 

「まさか」と俺は反射的に声を出していた。「まさか高瀬が俺のことを……」


 月島は呆れたように肩をすくめた。

「考えてもみなよ、神沢。不本意な政略結婚。時間の経過と共に増す後悔。日々近づいてくる“3年後”。あきらめきれない大学進学の夢。そこに現れたのが、同じ夢を持つキミだ。高瀬さんの中でくすぶっていたいろんな思いをすべて、一身に受け止めたわけだ。優しく手を取って。高瀬さんにとって神沢は、さながら白馬の王子様ってところなんじゃない?」


 柏木はうなずいて同意を示した。「これで全部納得だよ。そりゃあ優里はあたしによそよそしくなるわけだ。だって恋のライバルなんだから」


「勉強はできるのにねぇ」と月島は俺の頭を見て言う。「こういうことになると、この男は途端に脳みそが働かなくなる」

 

 これには、ぐうの音も出ない。


 気づけばいつしか、この二人の間にあった遺恨やわだかまりはある程度解消しているように思う。今はむしろ妙な連帯感で結びついている。女はわからん、と心でつぶやく。

 

 柏木は言った。「優里は初めてなんじゃない? 人のことを好きになったのが。だから自分の気持ちの扱い方がわからないのよ。それで、つい、言っちゃった」


「あの約束、なかったことにしていいからね」

 一言一句覚えている俺がそらんずる。目の前の二人は深くうなずく。


「私のあの台詞も、地味に効いたんだろうねぇ」月島はくつくつ笑う。

 

「神沢はこの街にいる限り、誰とどんな大学に行こうと、本当の幸せを手に入れることはできない」

 やはり覚えている俺が言って、月島はあごを引いた。


「優里、今頃、後悔してるんじゃないかな」柏木がつぶやく。


 俺は苺を一つ食べた。なんだか妙に甘酸っぱかった。

 

 恋愛相談、というから打ち明けたので、肝心の相談をすることにした。

「だとすれば、俺はどうすればいい? 俺は高瀬が好きだ。高瀬も俺を好きだと仮定する。でも二人の心の距離は、出会ってから一番遠くなってしまった。二人にこれを聞くのは、本当に悪いとは思うけど」

 

 月島が先陣を切った。「いっそ、告っちゃえば」

 奥行きのあるその瞳に、よこしまな色が浮かんでいる。これは、罠だ。「却下」と俺は言う。

 

 柏木も「押し倒しちゃえばいいんだよ」などとふざけて真剣に答えてくれないので、やはり自分でどうにかするしかないなと諦めかけていると、真面目な顔つきに戻った月島が口を開いた。


「神沢。こういうのって、時間にゆだねるしかないよ」

「時間、か」


「あー、そんな感じだねぇ」と柏木は言った。「ま、なるようにしかならないんだから、あんまり難しく考えないで、今はとにかく風邪を治すことに専念しなさい。夏風邪は長引くと厄介だから」

 

 ――なるようにしかならない。

 

 やや大袈裟な言い方をすれば、自分の運命と対峙たいじしている現在の俺は、さて、その言葉を肯定的にとらえるべきか、否定的にとらえるべきか。


 ♯ ♯ ♯


 俺は風邪薬を飲んで、ベッドで体を休めている。脇から体温計を取り出す。熱は食事をする前より、わずかに上がっていた。

 

 柏木と月島は、仕事を終えて迎えに来た柏木の叔母さんの車で帰っていった。帰り際、月島が「お泊まりセット、無駄になっちゃった」と言ったことで第四ラウンドの火ぶたが切られ、俺はと言えば、鼻血が噴き出るのではないかと思うほど、ぎょっとさせられた。おそらく熱が上がったのは、そのせいだ。


「高瀬が、俺のことを好きになっている」

 口に出すと、実はこの部屋に聴衆がいて、「馬鹿じゃないかおまえ」と罵られるんじゃないかという被害妄想に襲われる。


 何度イメージしてみても、それは俺の中で、いつまでもかたちを留めてくれない。骨のないたこみたいに。

 

 高瀬の気持ちが俺に向いているというのなら、もはや体調など省みず跳ね上がって喜ぶところであるけれど、そういう気にならないのは、やはり彼女の晴れ渡った顔をもう一ヶ月近く拝んでいないからだろう。


「時間にゆだねる、と言っても」

 つぶやいて、俺は月光の明かりを頼りに、壁のカレンダーを見る。


 思えば7月はじめの月島襲来がすべての発端だった。


 期末テストがあり、バンドの練習が始まり、柏木が「世界一幸せな家族計画」を公表した。夏休みに入り、「共同で曲を作る」という大義名分を伴ってようやく高瀬と会話ができるようになったのが、今日のことだ。気付けば7月も最後の週である。

 

 3年後。


 事あるごとに俺は3年後と言っているが、実際のところ、そんなに時間の猶予があるわけではない。


 恐いのだ。一日一日その時がひたひたと近付いてくる、その事実が。


 2年と8ヶ月後、このままいけば、高瀬はトカイの次期社長と結婚することになる。

 

 それはすなわち、俺と彼女が大学のキャンパスを一緒に歩く未来は、どこか別の次元へ吹き飛んでしまったということだ。


 果たして、時間に委ねている場合なんだろうか。それとも俺がせっかちなだけなのだろうか。

 

 たしかな焦りが、ぞくぞくっと全身を余計に熱くさせる。

 

 無意識のうちに、右手の拳で、枕を殴りつけていた。殴れるものならば何でも良かったみたいだ。手元にあったのがレンガではなくて助かった。

 

 だめだ、もう今夜は寝てしまおう。そう思って枕に頭をうずめたその時、スマホが鳴った。


 俺は身を起こし、スマホを見た。高瀬からメッセージが届いていた。


 件名には「詞ができました」とだけあった。


 画面をスクロールさせる。


 高瀬がこの世に生み出した歌詞を、目で追いかける。

 

 


 君の温もり 風が運んで

 私の中に 居場所をつくる

 緑の季節に 交わした言葉

 時間を止めて もう消えないで


 いつかどこかで失くしてきた自分

 君の中でだけ 生き続ければいい

 

 あの日手を伸ばした光 もう掴めないのかな

 心のまま歩けたなら どんなに素敵だろう

 扉を開いて 君は私に 手招きするの

 今靴を履くから そこで待っていて


「待っている」と俺は思わずささやく。歌詞は2番に入る。


 夢の中でも 星に願った

 君の光が 消えないことを

 雪が溶けて 春が来るように

 涙の後は 笑顔でありたい


 たとえかげろうのような命だとしても

 彩りのある世界を 見せてくれたから


 あの日手を伸ばした光 もう届かないのかな

 真白なまま歩けたなら どんなに幸せだろう

 暗い森で 私は迷って 君を探すの

 靴を履いただけじゃ どこにも進めない

 

 時間はとても意地悪で いつも私を苦しめるけど

 今なら顔を上げられる そんな気がしてるんだ

 夢見人だって 誰かが笑っても

 私を支えているのは 

 

 そこで歌詞は終わっていた。

 

 画面を下にスクロールすると、「最後の一文がどうしても決まらなかったので、もう少し考えさせてください」とあった。


 扇風機をつけて、熱暴走しそうな頭をクールダウンさせる。


 ほどなくして、一つの考えが浮かび上がってくる。


 もし、もし、この詞にモチーフとなった主人公がいるとするならば、そしてそれが若い女の子だとするならば、その少女は、高瀬をおいて外に誰が思い浮かぶというのだ?

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