春和の候

「きっと空に向かうと思うの。水と一緒。循環するの。だって限りがあるから」

 

 私は渚から少し離れたところで鞄の中から詰め込まれた花達を取り出した。アザレア、カタクリ、サクラソウ、タンポポ、マーガレット、リナリア、ワスレナグサ。なんとなく集めていたもの。貴方のいないところでも溢れて仕様がなかったもの。わざわざ貴方に渡す必要もないかと思って渡していなかったもの。何時の物かも忘れてしまったのに咲き続ける花たちは綺麗だった。

 私は一つ一つ確かめるように砂浜に花を並べた。そして短い茎についているものはそこから花を摘み取って、大きな花はがくから花弁を一つずつ千切り取っていく。そうして粉々になった花達を一つ一つ口に含む。エナメル質で花弁を磨り潰して、唾液と混ぜ合わせ、やわらかくする。そして、ゆっくりと嚥下した。

 さようなら、さようなら。

 そうやって魔法の呪文みたいに唱えながら。

 すべての花を食べ終わったら、短い茎や小さな葉をもって波打ち際まで砂浜を走った。サンダルを脱いで、裸足で。

 そして、海に持っていた茎や葉を浮かべる。波にさらわれていくのをぼぅっと見ていると、波が跳ねて私の頬を伝った。

 けれど、一向に循環している気はしないの。だって大事な花は盗まれてしまったから。

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