春風の候

最低な恋、だった。

 そう言い切ることに若干の躊躇いを覚えるけれど、誰がどう見たってそう言うんだろうとも思う。

 始まった時はそうなるなんて思ってなかったのにね。貴方も、私も。けれど、こうなることはあらかじめ決められていたんじゃないかって思うの。寿命四か月の恋。始めたほうが良かったかどうかは賛否両論でしょうね、なんて。

 そんな恋がほんの数日前に息を引き取った。

 曖昧に、けれど確実に終わってしまったそれを私は一体何処にやればいいんだろう。なんて疑問を吊り下げたまま私は生きている。ふとした瞬間に鼻を掠める貴方の香りに気を取られながら。

 そんな様子の私を心配してくれる友人を私はほんの少しだけ持っていたから、今日私は小洒落た喫茶店に連れてこられている。

 目の前では、思考を明後日に飛ばしている私に飽きたのか小説でよく見る女子高生の会話が繰り広げられていた。

「でさぁ、――がね――。しかもね、――――! なんでこんなやつ彼氏にしちゃったんだろって思ったよね」

「うわぁ、それさいっあく」

 私は所謂傷心中というやつだから、友人を彼氏がいる贅沢者だと思ったけれど、よくよく考えてみれば私はそんな彼氏がいない贅沢者なのかもしれない。そんな風に視点を変えれば案外ポジティブなことも見えてくるようで、

「それだけでね、意外と幸せなのかもなぁって」

 私の前を往来していた会話に異物を混ぜ込んだ。文脈も考えられていない言葉に友人たちは首を傾げながら、え? とか、は? という鳴き声を発する。私が何も言わないでいると、胡乱やら心配やらの視線を向けられ始めたので、私は自己完結をやめてコミュニケーションを始めた。

「こうやって、別れたとか言って、それにきゃあきゃあ言ってるこの状況が幸せなのかなって。こうやって話せるこの状況が」

 途端にその場が静まり返った。少し肌寒さを感じて腕をさする。喧騒が温かさを持っている気がした。

「なにか言ってよ」

「いやぁ、慣れん。し、なんかその後は言いにくくね」

「そうそう、重みが違うのよ、重みが」

 そう言われると、何も言えないからいっそ「ぐう」と言ってしまいたくなる。なくなったはずの壁を感じて視線を少し下げた。すると頭上から、ぱちんと何かが弾けるように一音目にアクセントが付いた言葉が掛けられた。

「まあ、そりゃあんたにとってはそうかもね」

 顔を上げれば友人二人がどこか呆れたように微笑んでいる。

「うん、そうやって思えるならいいんじゃない」

「……うん」

 息を僅かに吸った音は喧騒が掻き消してくれた。

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