第9話 絶望するにはまだ早い!
ついにこの時がやってきた。
ルチーナの情報によれば、ヤツが学園長に無理を言って増設させた研究室にコニーはいるという。
あと……どうもクレイグという教師はかなりの女たらしのようで、過去にも何度か問題を起こしていたらしい。
親は魔法兵団長の右腕として高い地位に就くベッカード家。
まあ、過去の不祥事はもみ消したんだろうな。
決定的な証拠でもあれば処罰の対象にもなるのだろうが、そこまで用意周到にはできなかったか。
そんな危ない教師と平民だが将来有望な魔法使いでしかも可愛くてスタイル抜群の女生徒が密室でふたりきり。
……いろいろと問題ありの組み合わせだな。
まあ、いい。
生徒に手を出す教員はこの世界であっても罪に問われ、どんなに軽くても国外追放になるだろうという。
通っているのが貴族の御子息や御令嬢ばかりだから、悪影響を考慮するとそれくらい厳しい処分となってしまうんだよね。
ただ、ヤツがやろうとしていることはそんな生易しいものではない。
俺は念のため、ルチーナとコニーの合作である新しい武器を携える。
正直、まだ実験段階の域を出ていない。
ぶっつけ本番になるが、仕方がないだろう。
何せ相手は魔法のスペシャリストだ。
これくらいの武器がなくては太刀打ちできない可能性もあるからな。
ヤツが動きだすとされる舞踏会の前日――この日、ルチーナは新しい研究室へ入っていくコニーとクレイグを目撃していた。
いよいよ動きだしたと察した俺たちは揃ってヤツの研究室へと乗り込もうとした――が、それを阻む存在が。
「む? こいつは……」
「結界魔法のようですね」
研究室にたどり着いたはいいが、中へは入れそうにない。
結界魔法――特定の場所に侵入されないように守る特殊防御魔法のひとつ。
学園内でも扱える者は少ないと聞くが、あの変態教師はその少ない実力者の中に入っているようだ。
実にもったいない。
大人しく教職の道を歩んでいれば生涯安泰だったというのに。
ただ、結界魔法を打ち消せるのは魔法のみ。
魔法を使えない俺とルチーナではこの先に進むことはできない――と、あいつは思っているのだろうな。
「他の教員を呼びに行く時間はないな。――仕方がない」
俺はルチーナとコニーの協力によって完成したあの武器を取りだす。
それは前世でいう拳銃の形をしており、俺はこいつを【魔銃】と名づけた。
そして込める弾丸だが、これは魔鉱石という鉱物を使用して作られている。
魔鉱石にはそれぞれ魔法と同じ属性がついているのだが、その効果は微々たるもの。
生活の補助としては役に立つが、とても戦闘に使用できる代物じゃない。
だが、魔銃はその効果を増幅させて放つことが可能となるのだ。
コニーの協力によって魔鉱石を加工した弾丸――魔弾は完成したものの、数はまだ五つしかない。
「ここは威力の高い【
魔弾を装填し、ためらいなく撃つ。
バチバチと魔力同士がぶつかり合う激しい音と振動。
かなり練りあげられた結界のようで易々と打ち破れるものではないが――それでも俺たちの作った魔弾の敵ではない。
強固な結界魔法を貫くと、扉は粉々に弾け飛んだ。
「よし。突入するぞ」
「はい」
「ルチーナ、念のため例の水晶玉で記録しておけ。決定的証拠を拝めるかもしれないからな」
「分かりました」
ふっ、いかに相手の弱みを握って反抗心を奪うのか――それが悪役商人というものだ。
ここでヤツが生徒に手を出している変態教師である証拠を掴めれば、それをネタにベッカード家に脅しをかけられる。
そうなれば、こちらの意のままに動かせる顧客がひとつ増えるという算段だ。
おぉ、なんと素晴らしい計画!
我ながら自分の商才が怖くなってくるよ。
「バ、バカな……なぜおまえがここにいる!? あの結界魔法はそう簡単には破れない! ましてや魔法が使えないおまえたちには突破など不可能なはず!」
「課外授業にしてはやりすぎですね、クレイグ先生――いや、変態クソ教師とお呼びした方がいいか?」
「きょ、教師に向かってなんだ、その口の利き方は!」
「今俺の目の前で行われている行為を教育の一環とおっしゃるつもりですか? でしたら記録した先ほどの映像と音声を学園長含め他の先生方にもご覧いただき、忌憚のないご意見を求めるとしましょうか」
これが何を意味しているのかは、クレイグが一番よく知っているだろう。
過去に犯した不祥事は決定的な証拠がないからもみ消せた。
しかし、今回は違う。
例の水晶玉によって映像記録としてバッチリ残っているのだ。
こいつを学園側に提出すれば、罪人として裁かれるかどうかは分からないが、少なくともここにはいられないだろう。
――そして、この手のタイプが追い込まれた際に取る行動というのも相場は決まっている。
「おまえみたいなガキに……僕のキャリアを潰されてたまるかぁ! この商人風情がぁ!」
そう。
逆ギレである。
裏闘技場の支配人だったガーベルと同じムーブをかましてやがる。
嫌だねぇ。
あれだけ卑劣なことを散々やっておいてバラされそうになったらキレ散らかすって。
悪党としては二流。
人としては三流以下だ。
「ここで消えてもらうぞ! 魔炎の力にて燃やし尽くせ――【
魔力によって生みだされた六つの炎は円形となって俺に襲いかかる。
……ちょうどいい。
結界魔法の破壊だけではまだ信用しきれなかったところだ。
そっちが炎を使うというなら、こっちはそれを打ち消す力で挑もうじゃないか。
「【
向かってくる六つの炎に対し、こちらは一発の魔弾で対応する。
魔銃から放たれた直後、水属性の魔鉱石を加工して作られた魔弾から大量の水があふれ出てきて、クレイグの炎魔法をあっという間に包み込んだ。
圧倒的な水量で包まれた炎は鎮火。
つまり、ヤツの魔法を無効化してやったのだ。
「バカなっ!?」
始めて見る魔銃の効果に、クレイグは信じられないといった表情を浮かべて立ち尽くしている。
ヤツからすれば、俺は魔法の使えない無能。
だが、その無能に自分の魔法をかき消されたのだ。
穏やかでいられるはずがない。
……少々冒険だったが、うまく発動してくれて何よりだ。
これで魔法が使えない俺でも、魔法使いと互角以上の戦いができる。
あとは魔弾を量産するだけだ。
「そういえば、まだ先ほどの質問に答えていませんでしたね」
「な、何っ?」
「どうして魔法を使えない俺たちが結界魔法を打ち破れたのか……その答えが、この魔銃なのですよ」
「ま、魔銃だと……?」
呆然としている隙に、俺はヤツとの距離を詰める。
「あっ――」
気づいた時にはもう遅い。
さっきは魔法だったが、今度は渾身の右ストレートを顔面に叩き込んだ。
魔法ばかりに気を取られて物理攻撃への対応が疎かになったな。
まあ、もともとこっちは苦手そうなタイプだし、素で反応できなかったのかもしれない。
「へぶっ!?」
よく分からない声をあげつつ回転しながら吹っ飛んでいくクレイグ。
壁に激突して気絶をしたらしく、動かなくなった。
すぐにルチーナが駆け寄り、持っていたロープで縛りあげる。
「残念ながら――いえ、ご安心ください。ちゃんと生きています」
最初ちょっと本音が漏れたな。
まあ、俺も同意するけど。
「レーク様が拳を痛めるほどの男ではありませんでしたのに」
「そうしなければ俺の気が収まらなかっただけだよ」
あの男はコニーを泣かせた。
それだけで重罪だ。
何せ、彼女は俺の大切な社畜候補。
ここで気持ちを折られて学園を去られるようなマネだけは避けたい。
彼女にはこれからさらに魔法を極めてもらい、我が商会の発展に大きく貢献してもらわなくちゃいけないからな。
※明日からは朝7:00より投稿予定!
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