第10話 社畜2号、爆誕!

 とりあえず、コニーにあの変態教師の毒牙が届いていなくてよかった。


「これでもう安心だ」

 

 そう声をかけるが、彼女は困惑しているようでうまく話せないでいた。

 

まあ、無理もないか。

ヤツに脅されていたとはいえ、舞踏会への誘いを断ってしかもあの態度。

 心根の優しい彼女の胸中は罪悪感でいっぱいだろう。


 これを利用しない手はない。


「あ、あの、私、脅されていたとはいえレーク様にひどいことを……謝らなくちゃって……」

「気にしなくていいさ。君に何もなかったのならそれで問題ない」


 ハンカチを取り出し、そっと涙を拭いてやる。

 この優しさで彼女も勘違いしてしまっただろう。


 しかし、もう遅い。

 

 変態教師に脅された次は悪役商人に騙されるとは……つくづく運の無いヤツだな。

 

「で、でも、私は……私は……あなたの優しさを裏切って……もう見捨てられても仕方がないのに……罰を受けなくちゃいけないのに……それなのにまた助けてくれて……」


 どうやらコニーは俺に対する態度を相当後悔しているようだった。

 俺としてはあの変態教師に脅されていたと告白してくれたのでそれ以上追及するつもりはなかったのだが……これは好都合だ。


「そこまで君が自分を許せないというなら、罰を求めるというなら――俺のもとでその力を存分に発揮してもらおうじゃないか」

「えっ?」


 放心状態となっているコニーに対し、俺は畳みかけるように語った。


「我が商会の魔法関連部門の責任者として専属契約を結んでもらおう! そしてともに覇道を歩んでもらう! 拒否権はない! 泣いている暇もないぞ! その命が尽きるまで付き合ってもらうのだからな!」


 高らかに「おまえは一生俺の社畜となって働くのだ!」と宣言する。

 今のコニーは罪悪感の塊だ。

 

 こんな鬼のような提案をされても飲み込むしかない。

 彼女の性格からして、ここでもう一度「NO」と言える度胸はないだろう。


 真面目さと優しさが仇になったな、コニーよ。

 

 残酷な現実を突きつけられた彼女は――


「レーク様ぁ!」


 号泣しながら俺に抱き着いてきた。


 しまった。


 玉砕覚悟で俺を亡き者にしようという魂胆か。

 俺としたことが――迂闊!


 ……が、結局それからコニーは何をするでもなく、俺の胸に顔をうずめて泣きじゃくるのだった。


 男の胸なんて平べったくて柔らかくもないし、何もいいことはないと思うのだがな。


 一方、一連のやりとりをすぐ横で眺めていたルチーナは満足そうに頷いていた。


「やはりレーク様は最高にお優しい方ですね」


 ついには訳の分からんことを言いだした。

 

 まったく、一体何を見てきたんだ?

 俺はコニーの罪悪感を利用して優秀な手駒を増やしただけに過ぎない。


 武器を作りすぎるあまり、一般的な感覚とズレがあるのだろうか。

 

 まあ、ルチーナが変なのは今に始まったことではないし、気にしても仕方がない。

 

……さて、コニーはまだ泣き止みそうにないので、このまま抱きしめつつ柔らかい極上の感触を楽しむとしよう。



  ◇◇◇



 その後の流れを掻い摘んで話そう。

 

 変態教師の愚行は白日の下に晒されることとなった。


それは狙い通りだったから別にいいのだが、問題はヤツの実家であるベッカード家の対応だった。


どうも向こうとしても息子の不祥事には散々頭を悩ませていたようで、今回の件は家を追放処分にする良いきっかけになったという。

てっきり今回もありとあらゆる手を尽くしてもみ消しに動くと思ったのだが、あてが外れてしまった。


しかし、未確認情報ではあるが、当主は俺に感謝しているらしいとの話もある。

それはそれで魔法兵団にコネができたとも言えるが、信憑性に関しては眉唾物なので全面的に信頼するわけにはいかない。


ともかく、ヤツは名家のベッカード家にとって最低最悪の汚点となったわけだ。

 

 そういうわけで、クレイグはベッカード家とのつながりがなくなり、ただの一般人へと成り下がってしまったため、せっかくの脅し材料は無駄になってしまった。


 せっかく大金をせしめてやろうと思ったのに……不覚だ。


 裏闘技場の時もそうだったが、どうにも完璧には終われていない。

 結局、俺はルチーナとコニーを救っただけに終わっている。


 まあ、あのふたりが深く感謝して社畜一号と二号になってくれたのはよかったが。


 今後も同じように有能な働き手を増やしていき、俺は学園卒業と同時に優雅な隠居生活へと入れるように頑張ろう。


 ――と、いうわけで、翌日からも普通に登校する俺。


 クレイグとの出来事がすでに広まっており、寮から教室への移動中には周囲からヒソヒソと噂話をされている。

 

「見ろよ、レーク・ギャラードだ」

「クレイグ先生の悪事を全部暴いたらしいわよ」

「おまけに襲われかけていた女子生徒を救ったとか」

「魔法が使えないのにどうやったのかしら」

「剣術じゃねぇか? あいつそっちの成績はいいみたいだし」

「魔法使いを剣一本で倒したのかぁ……やるな」

「コネ入学って話だったけど、ちゃんと実力あるじゃない」

「見直したわ。変なメイド連れてるけど」


 くくく、いいぞ。

 周りの生徒たちの俺の見る目は着実に変わりつつある。


 入学当初はルチーナの暴走(?)もあって少々難儀したが――というか、現在進行形であいつ足引っ張ってないか?


 とはいえ、それは今後の教育で修正していくしかない。

 彼女の鍛冶職人+護衛役としての実力を考慮すれば安いものだ。

 しっかり意識を変えてもらわなくちゃな。


 ――変わったといえば、もうひとつ。


「レーク様ぁ!」


 入学以来、見たことがないくらい明るい笑顔で走ってくるコニー。

 コケるんじゃないぞと心配していたら、やっぱり何もないところで躓いてしまう。

 

 慌ててフォローに入った際にうっかり胸を鷲掴みに近い形で触っちゃったけど、事故だから仕方ない。

 本人も気にしていないようだし!


「だ、大丈夫か?」

「は、はい。また助けられちゃいましたね」


「えへへ」と照れ笑いを浮かべるコニー。


 ……いいなぁ。


 こんな青春は前世で経験がなかったから、彼女の笑顔が輝いて見えるよ。


 おっと、そういえば忘れていたことがあった。

 ふとそれを思い出した俺はコニーへ手を差しだす。


「? レーク様?」

「前は断られたけど、今度は大丈夫そうかなと思ってね」

「えっ? ――あっ!」


 どうやら、コニーも察しがついたらしい。


「明日の舞踏会、俺と一緒に踊ってもらえるか?」

「もちろんです!」


 食い気味に「OK」の返事をしたコニーは俺の手を取る。


 よし。

 これで舞踏会ボッチは避けられたな!


 直後、俺とコニーを祝福するように鐘の音が鳴る。

 ――いや、これ予鈴だ!


「レーク様、コニーさん、早くしないと遅刻してしまいますよ」

「ホントだ! 急ごう、レーク様ぁ!」

「ちょっ! お、おい!」


 コニーに手を引っ張られる形で駆けだす。

 

 想像よりも騒がしい学生生活となりそうだが……それも悪くないな。




※本日は12時と18時にもう1話ずつ投稿予定!

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