Ⅲ年 「伝心」 (7)第二ボタン
【ここまでの粗筋】
主人公「駿河轟」は、かなり天然な中学三年生。
辛かった「応援団」もドタバタの日常も、すべてが思い出となる卒業。
式を目前に控え、彼等は何を思う。
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「鈴木ぃ、あなたの知性が顔に出てるわよ…。」
ベーデが横から火に油を注いで、逆効果での鎮火を狙った。
「学注(学生注目)で一般生徒を惹きつけるのなんか簡単よ。」
「なんだよ?」
「なあにぃ? 三年間もリーダーやっていて、まだ分からないの? だから、此処だけって言われるのよ。」
今度はベーデが、力瘤を指さしてセージュンを挑発した。
「
「おぉ…。」
セージュンだけじゃなく、リーダー幹部の殆どが感心した。
「何よ? 貴男達、揃いも揃って、もしかして
ベーデは、目を丸くして力瘤を指さした後、右手を額に当てて左手を上げ、ヤレヤレという顔で俯いた。
「あ、あぁ、そう言えば、追いコンもやられたな。まるで俺等前座だもんな。」
セージュンはバツが悪くなり、矛先を変えて突然、話を戻してきた。
「普通、
「よく練習している暇があったわね。」
「まあ、
「最初、エビさんに習ったんだよ。」
話がすらりと流れ去って呉れるように願いつつ、何事もないように言った。
「横で演奏を務めている側としては、見ていて嫉妬するほどお似合いのご両人だったわよ。」
ヨーサンが折り畳み椅子に逆座りしながら、頬杖をついて笑っていた。
「あ、珍し!
コーコが指摘している。
「良いの、今日は
ヨーサンが珍しく、少し
「虫入って、どっか痒いの? 掻いてあげよーか?」
コーコが調子にのって、ヨーサンの背中を掻いている。
「あー、
ヨーサンのノリツッコミなど、初めて見るもので、これも卒業という特殊なイベントを前にした気分の高揚かと、皆笑っていた。
「二人で可成り合わせてたんでしょ? でなきゃ
デンが食い下がる。
「そうそう、よく見つからないように出来たわね。」
ショコが興味津々でのってきた。これはアブナイ。
「パヤさんに頼んで、休日に小講堂開けて貰ってたんだ。」
「そうか、それで模試の後、お前付き合い悪かったんだな?」
「ふ~~~ん?」
ベーデ以外の女子全員が、(まあ、これ以上は突っ込まないであげるわよ)という含み笑いで勘弁して呉れた。
毎日、学校帰りにベーデの家に行っていたなど、誰が想像するだろう。
* * *
卒業式は、事もなく終了した。
僕ら応援団(前)幹部には、まだ最後の仕事が残っていた。卒業式の後、卒業生は教官、保護者、生徒会、部活動の後輩など一部の在校生に送られ、校舎を出る。
そして、少し歩いた処にある公園に一度集まり、最後の校歌斉唱とエールで締め括りをすることが恒例になっていた。
ゆっくりと、三年間の想い出を足で踏みしめながら公園に向かって一人で歩いていると、ベーデが隣にやって来た。
「まぁまぁ、相も変わらず、いつ見ても一人ね…。」
「そうか? あぁ、そう言えばそうかもな。俺、元々群れるの苦手なんだ。」
「総勢百名を越える応援団の団長が?」
「でもな、今から思えば、孤独だから務まったのかも知れない。」
「団長四訓かぁ…。一つ、特に全生徒の模範たる可きこと、一つ、三部全員に対して中立である可きこと、一つ、最終決定に際して団員には相談す可からざること、一つ、結果の全責任を一人で負う可きこと…。」
「以上を満たさざる者、これ団長の資格を認めざるものなり。一番目が一番辛かったかなぁ。」
「あら
「否、八幡さん、末長さんから言われた。一度でも良いから十番以内に入れ、って。」
「一番、二番は、時々入れ替わってもカーサマとヨーサンの指定席よね。他は、コーコが必ず五番までに居て、デンも必ず十番以内だったものね。」
「そういう、お前だって、大抵俺の邪魔をしてた。」
「あら、貴男の前に出たのは一、二回程度よ。」
「其の一、二回の時に限って、俺がはじき出されてたんだって!」
「それはそれは、ご愁傷様でした。」
「でも、最終最後で九番になった。伝統は受け継げた。成績より、其の方がほっとしたわ。」
其の後、僕らは、黙った儘、春特有の少し強い風に吹かれながら歩いていた。
皆、卒業証書の入った筒を持ち、女子はセーラー服のスカーフと襟を風に靡かせている。旅立ちの春らしい光景だった。
「…有り難う。最後まで紳士で居られたわね、駿河。」
「え? 何がよ?」
「私が誘ったこと…、黙っていて呉れた。」
「あぁ…。」
「言っても良かったのに。」
「言えなかった、…というより言い
「冷やかされるから?」
「うーん、…というより…」
「より?」
「仕舞って置き
「…何故?」
「…俺にとって大事なもの、
「大事なもの? 私との経験が?」
「そう…、だな。」
彼女は何も言わぬ
最後の儀式の場所となる公園が見えてきた。
其処で僕のリードで最後の校歌とエールを叫び、解散となり、皆、去って行く。
「駿河…。」
「何?」
「第二ボタン頂戴…?」
「え、えぇ?」
「…
「あ、あぁ…、ごめん。」
「…それとも、もう予約でもあるの?」
「そういうのは…ない。」
「じゃあ、もう手には書かないけれど、確かに言ったわよ。」
彼女は、ゆっくりと僕から離れ、女子の輪の中に戻って行った。
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