Ⅲ年 「祈願」 (3)閻魔様の涙

【ここまでの粗筋】

 主人公「駿河轟」は、だいぶ天然な中学三年生。

 周囲の人々の援けあっての「応援団」活動も、日々の何気ない日常も、漸く楽しめるようになったこの頃。

 中学生最後の新年も明け、いつもの三人で出掛けた初詣で、進路が分かれることを知った駿河は動揺した。

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 二月。入試の時期がやってきた。


 僕は、合格祈願をして呉れた二人に合格鉛筆を買っておいた。

 いつ渡そうかと考えているうちに、彼女たちが僕の学級クラスにやって来た。


駿河君ゴーチン、ちょっ…ちょっ…此方こっち。」

「ん?」


 階段を上がり、屋上の踊り場まで行き、人影の無いところで立ち止まった。


「これ、選抜試験の時に。」

 二人揃って小さくて綺麗な折手紙を出している。


「試験の直前に、読んで。駿河君ゴーチンはアガリ性だから。落ち着く内容を書いた。」

「私は、手紙とこれ。貴男、涙脆いから、試験問題が分からなくても泣かないように。」

 彼女の掌には小さな透明の珠が二粒あった。


「閻魔様の涙。」

「え?」

「泣かないお守りよ。」

 僕の手に握らせ、早く仕舞えという仕種しぐさをした。


「有り難う。俺は、これ、鉛筆。二人に。」

「わぁ、有り難う。」

「ちゃんと考えて呉れたのね。有り難う。」

「じゃ、頑張って。あ、手紙は私の方から読んでね。」

とコーコが釘を刺した。


「分かった。じゃ。お互いに。」


*    *    *


 そして、突入した入試期間。選抜試験の日、二人から貰った手紙を、約束通り先ずコーコの方から開く。


「ゴーチンへ

 もう準備は出来たかな。鉛筆も消しゴムも揃った? これまでやってきたことを考えれば選抜試験なんてチョロいって。

 ゴーチンの成績なら楽々通過って信じてるけど、ケアレスするんじゃないよ。

 名前も番号もきちんと書くんだよ。

 間違っても私たちのことなんか心配しないこと。大丈夫だから。じゃ、落ち着いて。

FIGHT! 亮子」


 涙腺が緩んできた僕は、続いてベーデの手紙に指を掛けた。


「駿河へ

 コーコからの手紙でもう泣いたりしてない?

 まったく、団長というには貴男は余りにも涙脆い。

 其のほかは誇らしいこと許りだったけれど、それだけは、私は一緒に居て唯一恥ずかしかったよ。

 試験の時にも余裕で解いたからといって、残りの時間、馬鹿なことを思い出して泣いたりするのじゃないわよ。

 私が持っていた大事な泣かないお守りを貴男にあげたのだから、最後までしっかり頑張ること、

以上。 Bernadette Ai」


 僕は、この場に本当に彼女達が居ないことを再認識して、余計泣きそうになったが、ベーデの呉れたお守りを握りしめて、試験に臨んだ。


*    *    *


 入試の期間が終わり、デン、イチ、ノスケ、タイサン、ケーテン、ヨーサン、カーサマは系列校に、コーコ、ベーデ、ショコ、セージュン、カーチャン、ヤーサンは私立大学の附属校に、夫々第一志望で無事に合格した。

 学年全体でも可成りの合格実績となったと耳にした。


 ブッサンに結果報告に訪れた時、

「越年祈願の成果が出たな。」

と言われたことで、漸く、大役から解放されたような、不思議な感覚がやってきた。

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