Ⅲ年 「選任」 (2)もう考えてる時じゃあない!
【ここまでの粗筋】
主人公「駿河轟」は「応援団」に所属する中学三年生。
厳しい二年生時代を乗り越え、女子との関わり方も徐々に自然になりつつある日々。
新学期を迎え、団活動の幹部としての役職決めが始まるなか、駿河を「団長」に推す声が上がった。
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タイサンが口を開いた。
いきなりの発言に正直驚いた。僕は、経験や体格から考えてもタイサンが
「理由は?」
僕が口を開くよりも早く、ベーデが問い質した。
「俺は、
「経験から見れば、まあそうね。」
ベーデは条件付きで肯定した。
「たださぁ、
セージュンが、性急な結論にブレーキをかける。ある意味、セージュンの言い分は
「
コーコはこういう時になると、しっかりとした論理を展開する。とは言え、それに僕が相応しい能力なのかについては、ピンとこなかった。
「
「あ、俺? 俺は
あっさりとイチが立候補したことで、
「当の
カーチャンが急かすように振ってきた。当人が何も言わないという消極的な態度に業を煮やしている風だった。
「俺か? 団長か…。そう言われてみると『団』というものに対する一つの考えが無いことはないなぁ。」
「何? はっきり言いなさいよ。それは立候補する、ということ? それとも単なる団長へのお願い?」
ベーデが確認する。
「えっと、自分で責任を負わずに誰かにこうして呉れ、なんてことは言えないから、これを言えば立候補になっちゃうのかな。こういう団にし度い、と考えてきたことはある。」
「じゃあ立候補ね。其の考えって、今、言えるの?」
コーコが訊ねる。
「簡単にだけど、一つは鉄拳制裁・竹刀の積極的廃止。言葉より先に行動が出ると相手は理屈を理解しづらいことも多い。一つは過剰な挨拶の廃止。活動時以外、そう団務の時以外まで大声張り上げて挨拶する必要はない。一つはマン・ツー・マン指導。俺の背中を見て覚えろ、と放ったらかしにして、出来なければ叱られるなんていう世の中じゃあない。過保護じゃない程度に基本は教えるべきだ。一つは幹部練習の徹底。三年が身体を殆ど動かさず竹刀だけで指導するなんてのは示しがつかない。大体それくらい。」
「ん~、それくらい、って言っても、まあ大部変わるな…。」
セージュンは妙な唸り声を上げている。
「女子部では、もう其様なの当たり前なんだけど、男子は
ベーデは眉間に皺を寄せて呟く。
「俺らがここまできて一応納得してきたものを、一旦ブチ壊すか…」
ケーテンも唸っている。
「…二つ質問して良いか知ら。一つ、其の考えは、あなた自身が考え出したものなの? もう一つ、あなたは、今止めると言ったものが其の儘続くと、団活動が良くならないと思っているの?」
ベーデは此方を向いて問うている。
「一つめは、末長さんや、八幡さん、其の上の幹部の人たちを通じて、去年の定期戦の後から六大学の各応援団の練習とかを見学させて貰って、色々なやり方を見てきた。それで考えてきた。二つめは…、質問なんだっけ?」
「竹刀、過剰な挨拶、幹部特権の廃止とか、そういうものを止めないと
「んー、俺らは其の中でやってきたから、そういうものがあっても、まあ此様なものかって思うけど、一度逆説で考えてみたら、極端なことは無くても出来るんじゃないか、って。」
「極端って何? それに『あっては困る』じゃなくて『無くても出来る』程度の考えで無くすと、混乱が起きたときに意識や気力が途中で中折れしないか知ら?」
「指導にしても挨拶にしても練習にしても、はい今日からみんな仲良く、全員平等、なんでもみんなで考えながら進めますよお、なんてする
「じゃあ、其の極端の線引きは誰がどうやって決めるの。」
「俺らには、これまでのやり方がしみついてるぞ。」
「そう言われれば、出来るのはまず竹刀で《叩かない》ってことから、くらいかな。自分達が感じた「竹刀や平手の向こうにある本質」をそのまま強く言葉に出すことに変えるとか。」
「あとは?」
「此処に居る皆で相談しながら進めていく。だって、決める過程は団長一人の独裁じゃないだろ?」
「そうね、でも最後の決断と、其の責任は団長が負うのよ。」
「そう、だな…。そうだ。」
何度も確認するように喰らい従いてくるベーデに、何とか返答するのが
「私は
ここで三島さんが口を開いた。
「バクセンを勤めた
「…
隣に座っていたコーコがそっと囁いてきた。
「…馬鹿!…」
賄賂ではないが、最初にヨーサンの
「今のところ、慎重論はあれ、特に駿河の団長就任を否定する意見は無かったように思うんだけれど、他に意見のある人は?」
セージュンがまとめに入った。
「俺は
タイサンが駄目押しを言った。
「では確認だけど、
「ああ、そうだ。俺は
「じゃあ、一方の
セージュンがタイサンに向けた意志確認の返し刀で、訊ねてきた。
応援団に対する自分の考え方が良い加減であるとは思っていなかったが、それが他者をおいてまで積極的に立候補するほど自信のあるものか否かということについては、自分自身判断出来ずにいた。
「意見は大方出尽くしたわ。やるの? やらないの? あなたどっちなの? 曲がりなりにも一緒に二年間やってきて三年になるんでしょ? もう考えてる時じゃあない!」
鋭い声が横から飛んできた。
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