Ⅲ年 「選任」 (1) 駿河が良いと思う

【ここまでの粗筋】

 主人公「駿河轟」は「応援団」に所属する中学三年生。

 厳しい日常を同期と支え合いつつ、「中間管理職」の厳しさを「ベーデ」と共に乗り越え、気になる存在「ヨーサン」とも近しくなることが叶った日々。

 新学期を迎え、愈々最終学年となる彼等の一年が始まる。

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 春休みも終わりに近づいた三月下旬、僕ら応援団の新三年が団室に顔を揃えた。補習最終日の試験成績も出て、応援団に残れるか否かがはっきりした日だ。幸い、全員が成績基準を達成して顔を揃えた。

 司会役は、これまで二年責任者だったセージュン。


「ま、一先ず全員団に残れたということで、お疲れ様。」


 皆、一様にほっとした表情をのぞかせていた。


「それじゃ、先日、卒業式の時に、末長前団長からお預かりした、新規幹部案の封を開けます。」


 一中うちの応援団では、前年度の幹部が二年生の働きぶりを見て、翌年度の後継者の案を書き置きしていく。それを其の儘受け容れるか否かは、当年度の三年生次第だが、これまでは毎年、概ね其の通りに幹部が就任してきたと聞いていた。

 全員が緊張する中、机の上、真ん中に置いてあった末長さんのサインで封緘された白い分厚い封筒にハサミが入った。

 中からは、これまた真っ白い厚手の便箋が二枚。


「では、読み上げます。」

《次年度 幹部 案

 ・団長 山中泰介タイサン

 ・副団長 男子 駿河轟ゴーチン

 ・副団長 女子 三条ベルナデート亜惟ベーデ

 ・リーダー部責任者 長崎勇弥ヤーサン

 ・女子部責任者 岡山翔子ショコ

 ・女子技術責任者 古屋美鈴デン

 ・渉外責任者 鈴木正純セージュン

 ・会計責任者 真田かほり《カーチャン》

 ・旗手長 相馬真之介ノスケ

 ・新人監督 内村亮一イチ

 ・広報責任者 内村亮子コーコ

 ・企画責任者 城島圭典ケーテン

 ・吹奏楽部責任者 川田肇カーサマ

 ・吹奏楽部副責任者兼主任指揮者 三島耀子ヨーサン

 二年以下、下級生の各責任者については、当年度三年団員が選任すべきこと。

 なお、本案は当年度三年団員において異論あるときは、此の限りではない。 以上。》

 です。」


 セージュンが読み上げ終わり、皆に便箋の表面を見せてから、バインダーに挟んで回覧し始めた。


「さて、最後の《なお書き》の通り、本案に異論があれば、これに従う必要がないのは、例年通りということ。其処で、どうするか。また二年以下の責任者をどうするか。其の二点が今日の議題だ。」


 セージュンは、案が少し意外だったような雰囲気で議事を進めた。


「私は異論あり。」


 珍しくベーデが口火を切った。


「末長さんは、団長として確かに目の届く人だったけれど、私たちの同期同士の関係まで分かっていた訳でもないわ。」

「俺も同じだな。」


 タイサンが続いた。


「自分たちのことは自分たちで決めることだ。同期のことは同期が一番よく知っている。」

「そうねぇ、言われた通り、なんでもかんでも其のまんま受け容れるっていうのは、しっくりこないかな。」


 デンが後押しした。


「みんなもそうなのかな、私自身の役職とかそういうのは別として、此のまんま受け容れることには私も反対だけど。」


 コーコが回覧し終わった原案を手にしながら一同を見回した。


「じゃあ、案を其の儘受け容れることに反対の人は挙手して。」


 セージュンの決に、全員の手が上がった。


「分かった。では、白紙から始めるということで。…具体的な決定方法について提案のある人は?」

「立候補と推挙。」


 ベーデが口を開いた。


「立候補で異論が無ければ仮決定。勿論、なぜ末長さんがその人選をしたのかまで考えて。同時に推挙があれば他薦もどうか知ら。最後にまた全体を見渡して意見を言える余地を残しておけば?」

三条さんベーデからそういう案が出たけれど、他には?」

「意義ナシ。」

「では、先ず立候補から受け付けるよ。」

「はい、私。副団長 女子うだいじん。」


 コーコが真っ先に手を上げた。


「内村さんの女子副団長うだいじんに異論のある人は?」

「意義ナシ。」

「吹奏楽部の二役は、其の儘で良いよ。」


二人で何やら相談していたカーサマとヨーサンのうち、代表してカーサマが発言した。


「意義ナシ。」


「俺、企画責任者プラデリ受けるわ。」

ケーテンが声を出した。


「俺も旗手長フラデリ、受ける。」

ノスケが続き、


「私も会計責任者アカデリを受けるわ。」

さらにカーチャンが続いた。


「では、俺は、副団長 男子さだいじん。良いかな?」

ヤーサンが声を上げ、


「ならば、俺は、リーダー部責任者リーチョー。」

セージュンが続いた。


其処まで立候補には異論が出なかった。


「残るは団長おだいりさま女子部責任者ガーリー女子技術責任者テクデリ渉外責任者ネゴシエータ新人監督フレカン広報責任者アデリだ。」


セージュンが、六つの役職を黒板に列挙した。


「あたし、渉外責任者ネゴシエータに立候補するわ。」

デンが口を開いた。


「私は三条さんベーデ女子部責任者ガーリーをお願いしい。同時に私は女子技術責任者テクデリをするから。」


ショコがベーデに了解を得ようとする。


「理由は?」


ベーデは目をつぶって腕組みをした儘、椅子の背もたれに身を任せてショコに問い糺した。


「私は、新人の時から技術テク一筋でやって来たから、それをやり遂げ度い。三条さんベーデは前回の定期戦で女子副監督フクカンを経験して全体を見渡しているし、末長さんが三条さん《ベーデ》を副団長だいじんに推挙した考えの裏にあると思う《広い目の届き方と的確な指摘》は、私では敵わない。」

「…。良いわ。じゃ、私は女子部責任者ガーリー。」


ベーデが目を開いて納得した。


「さ、残ったのは団長おだいりさま新人監督フレカン広報責任者アデリだ。山中タイサン駿河ゴーチン内村イチ。立候補や意見はないのか?」


 セージュンが促した。


「俺は、団長おだいりさまには駿河ゴーチンが良いと思う。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る