第十二話 帰ってきたヒーローたち

 奏也と晃牙と紫が無人島へ行っていたころ、それぞれの家では大さわぎになっていた。

 三人の親たちは、子供たちが夜おそくになっても家に帰ってこないので、行方不明ゆくえふめいになったと思い、警察けいさつにれんらくをしたのだ。


 紫の父親である柏崎 玲一れいいちは、まさか娘が自家用船を使って、無人島へ行ったとは思ってもいなかった。

 祖父である正幸まさゆきと、ボディガードであるゆずりはは、紫が無人島へ行ったことをだれにも話していなかったからだ。


 玲一は、警察から色々と事情を聞かれて話すうちに、夏休みに入る前、娘が無人島のことを聞いてきたことを思い出した。そして、玲一の父親である正幸が無人島を持っていると、自分の口で娘に伝えたことを、警察に告げた。

 警察から、その無人島の場所を教えるように言われた玲一は、すぐ正幸に確認をとろうとした。無人島の場所は、正幸しか知らないのだ。

 ところが、その矢先、正幸が病にたおれて入院し、意識不明の状態になってしまった。


 さらに、台風が南東から日本列島へ近付いて来ていることがわかり、三家の親は、がくぜんとした。

 もし、三人がまだ船の上にいるとしたら、台風にあって海に落ちてしまっているかもしれない。仮に、無人島へ無事ついていたとしても、子供たちだけで何もない無人島にいて、台風をしのぐことができるのだろうか……と。


 大人であるゆずりはがついているとはいえ、見ず知らずの人間を信用して安心することはできない。


 有名なKASHIWAZAKI社の社長である玲一は、財力を投げうって、娘たちのそうさくに力をつくした。ヘリコプター、船、せん水かんまでもを使って、三人の行方を探し続けた。

 しかし、三日、四日たっても、無人島どころか三人の行方はわからない。


 晃牙の父親は、名の知れた政治家であったため、そのニュースは、またたく間に日本全国のお茶の間へ流れた。

 三人の同級生たちは、テレビによく見知った三人の顔写真が流れるのを見て、おどろいた。

 みんな、三人はもう帰って来ないのではと、あきらめかけていた。


 そんな状況になっているとは知らず、三人が明るい顔をして帰って来た時には、みんな、まるでゆうれいでも見たかのような顔をしておどろいていた。 

 三人は、結局のところ、家出した日を入れて五日も家を留守にしていたのだ。


 奏也の母親は、奏也をだしきめると、もうじゅくになんて行かさない、ゲームでも何でも好きなだけしていい、だからもうどこへも行かないで、と泣いて奏也にお願いした。

 そんなわけで奏也は、残りの夏休みを楽しくすごすことができた。

 ただ、無人島の生活から勉強をしたいという気持ちが高まっていた奏也は、近所に住んでいる知り合いのお姉さんに家庭教師をたのむことにした。

 恵子お姉さんは、柔道だけではなく、勉強もできた。ただ優しい顔をして、スパルタだった。


 学校へ行くと、奏也たちは、有名人になっていた。

 クラスメイトたちは、奏也に、行方不明になっていた時の話を聞きたがった。

 奏也は、無人島でそう難したことや、海で魚をとったこと、嵐にあったことなどを話したくて話したくて仕方がなかったが、だまっていた。

 帰りの船の上で、三人は約束をしたからだ。

 無人島のことは、三人と杠だけの秘密ひみつにしよう、と。

 もし、このことがほかに人に知られたら、無人島に行こうとする人たちが増えるかもしれないからだ。


 最初は、好奇心から話を聞きだそうとするクラスメイトたちも、なかなか奏也たちが口を割らないので、そのうち好き勝手なことを言うようになった。

 行方不明になったなんてウソで、本当は注目されたいだけなんだろう、とか、神かくしか宇宙人にでも連れ去られて、洗脳せんのうされたんじゃないか、などだ。


 それでも奏也たちは、だれに何を言われようとも、決して無人島での出来事を人に話すことはなかった。


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