第十一話 宝島
「おめでとうございます。無事に宝物を見つけましたね」
「
紫は、まどから顔を出してさけんだ。
「この権利書は、一体どういうこと?」
「それは、紫おじょうさまのお
「プレゼント? この島を私にくれるってこと?
でも……おじい様の島なら、私より先に、お父さまが受け継ぐのではなくて?」
「おじょう様のお父上様は、この島をリゾート
「知らなかったわ……でも、どうして杠がそのことを?」
「私、
「おじいさまのっ?! ……でも、おじいさまは、まだ生きていらっしゃるけれど……」
遺言とは、死んだあとのことを書いたものだ。本人が生きているうちは、意味をなさない。
杠が首をよこにふる。
「おじょう様には、だまっておくように言われておりましたが……実はもう、長くはないのです。だから今のうちに、おじょう様が、この島をどうするか見届けたいと」
「そんな……っ!」
「リゾート
晃牙は、杠の言葉に引っかかるものを感じて、口をはさむ。
「さっきのって……見てたのか」
「はい。かげながらずっと見守っておりました。それが私の仕事ですから」
「じゃあ、なんでさっき、わき水のところで、こいつが呼んでたのに、出て来なかったんだ?」
「正幸様から余計な手出をしないよう言いつけられておりましたので。……ただ、さすがに命の危険がおよぶ場面では、多少のサポートをさせて頂きましたが」
杠が奏也を見る。
奏也は、杠が海でおぼれた自分を助けてくれたことを言っているのだ、とわかった。
「私は、ただ……奏也と楽しい夏の思い出がつくれたらなって思っただけで……」
夏休みに入る前、紫は、正幸に言ったのだ。だれにもじゃまされず、友だちと楽しい夏の思い出をつくるのに最適な無人島はないか、と。
それを聞いた正幸は、何を思ったのか。優しくほほえみながら、自分の家の蔵から、この島の地図の入った木箱を紫にわたしてくれた。
「宝箱の中には、権利書のほかに何が入っておりましたか?」
杠が紫にたずねた。
言われて紫は、木箱の中身を見る。
「何って……」
「この〝Y〟の字になってるの……パチンコかな? ほら、ビー玉もある」
こうやって飛ばすのかな、と奏也がためしにパチンコでビー玉を飛ばしてみる。
「このビン、中に砂が入ってるぜ。ろ過装置? ……じゃあないよな。もしかして、この島の砂はまにあった砂かなぁ。中に何か入ってるのか?」
晃牙がビンを持ってゆすってみるが、砂以外なにも見えない。
「……私には、ただのガラクタに見えるけど……もしかして、これって……」
「それらは、正幸様が幼少時代にご学友らと集めていらした宝物だそうです。
ちょうど、今のおじょう様と同じくらいのご
おそらく、それも先代とやらから聞いたのだろう。正幸の幼少時代に杠は、まだ生まれていない。
「おじい様は、この島で何をしていたのかしら」
「さすがに私にも、そこまで分かりませんが、おそらく、おじょう様がこの島でされたことと、そう変わりはないのではないでしょうか」
杠の言葉に、三人は、自分たちが無人島でやってきたことを一つ一つ頭に思いうかべた。
そう難してケンカしたこと、海ではしゃいで水をかけあったこと、魚をとったこと、家をつくったこと、砂はまで貝がらをひろって歩いたこと、たき火をかこんで食べたおいしいご飯、見上げた星空に願いをかけたこと、台風からにげてどうくつでかたを寄せ合ったこと、サルにカロリーバーをとられたこと……全てが今まで経験したことのないことばかりで、三人の心の中に光っている。
もしかすると正幸は、かつての自分と同じものを紫の中に見出し、この島を孫娘にたくそうとしたのかもしれない。
「私、おじい様がこの島を〝宝の島〟だっておっしゃっていた意味が、わかった気がするわ」
「では、いかがいたしますか?」
杠がたずねた。
「この島は、私の……」
紫は、奏也と晃牙を見て、言い直す。
「……私たちの〝宝物〟にします! ほかの人には、わたさないわ」
杠は、紫の答えを聞くと、それが正解だとでも言うように、にっこりと満足そうにほほえんだ。
☆ ☆ ☆
帰る前に、行きたいところがある、と紫が言うので、杠を含む四人で、そこへ向かった。
サルたちに会った場所から、そう遠くない場所に、くだんの四人組がテントを張って、火をたいていた。肉を焼きながらビールを飲んでいる。
「あ? なんだ?」
顔を赤くしてはしゃいでいた四人に向かって、紫は、島の権利書を広げて見せた。
「これがこの島の権利書よ。さぁ、
大人である杠がいたこともあり、権利書が本物だと分かった四人組は、真っ赤な顔を今度は真っ青にしながら、逃げるように船で島を出て行った。
これには晃牙も喜んで、奏也と三人でハイタッチをして笑い合った。
三人は、杠の案内で林の中を歩き、島のはしっこにある
三人が無人島に着いた初日、島の周りをぐるりと歩こうとして、行く手をはばまれた岩かべだった。船は、この岩かべの中にかくしてあったのだ。
「こんなところにかくしてたのか……これじゃ、砂はまから見ても、わかんねぇな。
ちぇっ、すっかりだまされたぜ」
「ケチつけ晃牙がもどってきたわね」
「うるせぇ。だましてくれてたお前に言われたくねぇーよ。ってか、呼びすてかよっ」
「ふんっ。あんたなんて、呼びすてでじゅうぶんよっ」
「それじゃあ、オレも〝
「ダメに決まってるでしょっ。私を下の名前で呼んでいいのは、家族と奏也だけよ!」
「ふたりとも、仲いいなぁ」
奏也が笑って言った。
「「仲良くないっ!!」」
紫と晃牙は、声をそろえて言い返した。
船に乗って、三人は、かん板から遠くなっていく無人島を見つめる。
奏也が、しんみりとした口調で、ぽつりとつぶやいた。
「あ~あ、これで無人島ともおわかれか。ちょっとさみしいな」
「また、来ればいいわよ。いつでも家出できる場所があるって思えば、素敵じゃない?」
「そういや、奏也。お前、家出してたんだっけ」
「おお、わすれてたよ……」
「……うっわ、オレも親に何も言ってないぜ。あれから何日経ったんだ?」
「えっと……船を出た日から……たぶん五日は経ってるわね」
「まじか! そんなに?!」
「帰ったら、夏休みの宿題もやらなきゃね」
「って、そっちかよ。いや、それもそうだけどさ……オレたち五日もいなかったってことは、大さわぎになってるんじゃないか?」
「そうね。杠は、おじい様からだれにも言うなって言われてたみたいだから、私のお父様も知らないはずよ。きっと心配しているね……」
「まーでも、楽しかったよな!」
奏也の言葉に、晃牙も紫も、否定しなかった。
「オレ、この夏のこと、一生わすれないよ」
海は、太陽の光を反射して、キラキラとかがやいていた。
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