第十話 宝探し
三人は、とりあえず飲み水を手に入れるため、わき水のある場所へ向かった。三人とも、のどがカラカラで、もう限界だったのだ。
とくに紫は、ずっと無理をしていたようで、向かっているとちゅうに歩けなくなってしまった。
そこで、奏也が紫を背負って、わき水のある場所まで連れて行くことにした。
代わりに、奏也のリュックは、晃牙がお腹側にかかえて行った。
わき水というのは、地中から自然にわき出てくる水のことだ。
むきだしになった岩かべを水が流れ落ちていくものと、地面からこんこんとわき出てくるものがある。
三人のたどり着いた場所には、岩かべをキレイなわき水が流れていた。
「水だっ!」
「ほらっ、紫。水が飲めるぞ!」
わき水を手ですくって飲もうとした晃牙を、紫が止めた。
「そのまま飲んじゃ……だめっ! お腹をこわすわよ!」
「なんだよ、ちょっとくらいいいじゃんか。腹をこわすくらい、平気だよ」
「……薬もない無人島で、お腹をこわすことは、命にもかかわることなの。
いいから、私の言うことを聞いて」
晃牙は、不満そうな顔をしていたが、手ですくった水を自分の顔にかけるだけにした。
三人は、ろ過装置とたき火を用意して、さっそく飲み水を作ることにした。
ろ過装置は、空になったペットボトルを使って簡単に作れる。
まず、ペットボトルの底をナイフで切り取る。キャップに、小さな穴を開ける。
次に、キャップをしたままのペットボトルを逆さまにし、中に、小石、
完成したろ過装置にわき水を入れ、キャップに開けた穴から出てくる水を、飯ごうに入れる。これで、目に見えるゴミやよごれは、取り除くことが出来る。
奏也が、紫の指示で、ろ過装置を作っている横では、晃牙が、たき火の用意をしていた。ろ過して作った水を火にかけることで、目に見えない
晃牙も、最初のころは火をつけるのに苦労していたが、今では、慣れた手つきで火をつけられるようになっていた。
三人は、水を入れた飯ごうを火にかけると、飲み水ができるまで、座って少し休むことにした。
辺りに、
紫が何度か声をあげて呼んでみたものの、返ってくる声はなかった。
杠は、一体、どこへ行ったのだろうか。
昨日のひどい台風の光景を思い出して、紫が不安そうな表情をする。杠の身に、何かあったのでは、と心配なのだ。
奏也は「杠なら、大丈夫だよ」と声をかけて、紫をはげました。
飲み水を手に入れた三人は、地図の真ん中に書かれたバツ印を目指して出発した。
とちゅうで、動画さつえいをしていたあの四人組に合ったらどうしようかとヒヤヒヤしたが、運よく顔を合わせることはなかった。
「あいつらきっと、ミーチューバ―だぜ。いろんな無人島でサバイバルしてる様子をさつえいして、動画サイトにとうこうしてるんだ。オレ、にたような動画を見たことがある。
でも……無人島に上陸するのに許可がいるなんて知らなかったなぁ。人が住んでないから〝無人島〟って言うんだろう? それなのに許可がいるってのは、なんかみょうな感じがするな」
道中、晃牙が思い出したように言った。
それに紫が答える。
「この島は、私のおじい様が所有している島だけど、だれも所有していない島は、国が所有していることになるのよ。だから、どちらにせよ、上陸するには許可がいるの」
「へぇー……ってか、なんでお前、そんなこと知ってんの? そんなこと、授業でやってたか?」
「うちの家庭教師から教わるのよ。柏崎家の人間として学ぶべきことは、学校の授業だけじゃ足りないの」
「うへー、学校だけでも大変なのに、家でも勉強してんのか、お前。おじょう様ってのも大変なんだなー」
ひとごとのように言う晃牙を、紫がじろりとにらんだ。
島の中心へ向かうにつれて、どんどん道は
昨日の台風のせいだろう。下草はなぎたおされ、歩きやすくなっているかと思いきや、ぬかるんだ地面に足をとられたり、倒れた木をよけて遠回りをしたりしながら目的地へ向かう。なかなか思ったように進まない。
周りは、どこも同じ景色に見えるので、方角を見失わないよう、
紫が地図を、晃牙が
ようやく三人が山の頂上にたどり着いた時には、すでに日が落ちかけていた。
せっかく作った飲み水も底をつき、ここで杠に出会えなければ、
「おい、何だ?」
先頭を歩いていた奏也が声をあげた。
ちょうど地図のバツ印が書いてある場所に、一本の大きな木が立っている。その木を見上げて、三人は、声をそろえた。
「何あれ?」「うわっ、すげぇ!」「まじか……」
木の上に、ツリーハウスが作られていた。子供が作ったような、ツギハギだらけの小屋だ。小さなまどからは、ボロボロに
「すげぇ!
「柏崎、ここが目的地なのか?」
「そうだと思う……」
小屋の底から、ロープでできたハシゴがぶら下がっていて、小屋の中まで登って行けそうだ。ただ、見るからにボロボロで、足をかけたら落ちてしまいそうだ。
「まさか……これを登るんじゃ……」
紫が引きつった顔で、一歩後ろに下がる。
しかし、男の子二人の反応は、ちがった。
「すっげぇ! オレいっちば~ん♪」
「あっ、ずりぃ! オレも!」
ぼうぜんとする紫の横を、奏也と晃牙が風のようにかけぬけていった。
二人とも、ハシゴがちぎれて落ちるかも、ということは、全く考えていない。それよりも、早く秘密基地に入って中を見たい、という気持ちでいっぱいだった。
奏也と晃牙が、するするとハシゴを登って行くのを見て、紫は、あわてて二人を追いかけた。
「ちょっと待ちなさいよ~!」
ハシゴは、見た目よりは丈夫なようだった。
最後に紫がハシゴを登って、秘密基地の中に入る。そこは、三人がこしをおろすのにちょうど良い広さだった。
天井からは、何のためにあるのかよく分からないヒモや、魚の骨をつなげて作ったかざりなどがぶら下がっている。
奏也は、まどのそばに、黒くて古そうな
「ねぇ、これ見て!」
紫の声に、奏也と晃牙がそちらを向く。
部屋のすみに、古びた木箱が置いてあった。木箱のフタには、大きく炭でバツ印が書かれている。
三人とも、一目でこれが目的の宝物だと分かった。ごくり、とツバをのみこむ。
「よし、開けよう」
奏也のかけ声で、三人は、木箱のふたに手をかけた。ふたを開けると、中には、いくつかのガラクタと、一枚の紙切れが入っていた。
「何かしら、これ……」
紫が紙切れを手に取って見る。それは、この島の権利書だった。
パチパチパチ……
その時、小屋の外からだれかが手をたたく音が聞こえてきた。三人は、おどろいて、まどから下を見る。
そこに、数日前に会ったままの姿をした杠が立っていた。
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