第五話 無人島でサバイバル!

「えーっ?! そうなんしたと思ったら、目的地に着いてたってことか?

 それって、すげえ然……ラッキーってことじゃん!」


 そう言って喜ぶ奏也とは対照的に、晃牙は、考えこむような顔をしている。


「ラッキーねぇ……どうなんだろうな。第一、ゆずりはが宝を独りじめするつもりなら、宝の地図をオレたちのリュックサックに入れておくってのも、おかしいし……」

「ほらっ、だから言ったじゃない。ゆずりはが、宝を独りじめするなんて、そんなことないって! 何かきっと、他にわけがあったんだわ。

 もしかしたら、船が嵐にあって、私たち、海に放り出されたのかも……」


 紫の考えに、晃牙がまゆを上げる。


「部屋の中にいて? それに、オレたちの服は、起きた時ぬれてなかっただろう」

「きっと、かわいたのよ」

「それなら、どうしてここにゆずりはがいないんだ?船の姿も見えないし、船を操縦そうじゅうできるのはゆずりはだけだ。

 ゆずりはが乗って行ったとしか考えられないだろう」

「で、でも……ゆずりはは、私を裏切うらぎったりなんか、絶対にしないわ」


 紫が、真っすぐ晃牙の目を見て言った。

 その目がウソをついているようには見えなかったが、晃牙は、どこか納得のいかない顔をしている。

 その時、二人の会話を聞いているだけだった奏也が口を開いた。


「おかしいことだらけだけど、今は、まず……」


 晃牙と紫は、奏也の次の言葉を待った。

 奏也が、この危機ききからのがれることのできる重要な何かを言おうとしているにちがいない、と信じて見つめる。


「腹が減った!!!」

「…………」「…………」


 奏也は、反応のない晃牙と紫を見て、あれ、と首をひねった。


「腹が減っては冒険ぼうけんはできないって、言うだろう?」

「……それを言うなら、〝腹が減ってはいくさはできぬ〟よ」


 紫が、ため息をつきながら言った。


「まぁ、食料を集めておくことは大事だな。けいたいしょくもあるけど、もしもの時のためにとっておいたほうがいいだろう。

 身体を休める場所も作る必要があるし、助けを呼ぶ方法も考えないと……」

「結構、やることが多いわね。分担したらどうかしら?」

「そうだな。じゃあ、手分けしてやるか」


 そこで三人は相談して、やることを次のように分担ぶんたんすることにした。

 食べ物を集めるのは、奏也が真っ先に手をあげた。

 それなら私が助けを呼ぶ方法を考える、と紫が手を挙げたため、残る晃牙が、ねる場所を作ることになった。


「助けを呼ぶ方法を考えるなら、柏崎よりもオレの方が適任てきにんじゃねぇ?」


 口をとがらせて言う晃牙に、紫が言う。


「ねる場所を作るには、力仕事が必要でしょう。

 か弱い乙女おとめに力仕事をさせる気??」


 さすがの晃牙も、紫のその言葉には、口をつぐむしかなかった。

 こうして、三人の無人島でのサバイバル生活がまくを開けた。



  ☆  ☆  ☆



 奏也は、さっそく、食べ物を探すことにした。真っ先に肉が食べたい、と思ったが、無人島で肉を手に入れることはむずかしそうだ。そこで、魚をとることにした。


「無人島でサバイバルと言えば、やっぱり魚だよな!

 海だって、こんなに広いし。たくさんとれるだろ!」


 奏也は、お肉と同じくらい、おすしも大好きだ。自分でとった魚でおを作れたらきっとおいしいにちがいない。

 奏也は、リュックサックの中に入っていたつり道具を取り出した。

 前に一度だけ、家族でつりぼりへ行ったことがある。その時は、つりざおもエサもセットになっていたものをレンタルしたのだが、リュックサックの中に、魚のエサらしきものは見当たらない。ゆずりはが入れわすれたのだろうか。


「おーい、晃牙ぁ。魚つりのエサって、何か入ってたか?」


 砂はまで、流木りゅうぼくをひろっていた晃牙が、奏也の声に顔を上げた。


「いやぁ……リュックの中には、入ってなかったぜ。

 そのへんにいるミミズとかでいいんじゃないか?」

「へ、へぇ~……ミミズかぁ~……ミミズなんて、無人島にいるかなぁ……」


 奏也が顔を引きつらせる。実は、虫が大の苦手なのだ。カブトムシやちょうちょのような虫なら平気なのだが、くねくねした毛虫やミミズのような虫は、素手すでではさわれない。


「バッタじゃダメかなぁ~……なんで魚って、ミミズなんて気持ち悪いものを食べるんだ? ったく、好ききらいするなよなっ」

「なんか言ったかー?」


 ふたたび顔を上げて、奏也の方を見る晃牙に、奏也は、なんでもない、と言って、大またで林の方へと歩いて行った。


 林に一歩入ると、日差しがさえぎられて、はだが焼かれるようないたみからは、のがれることができた。ただ風がないせいか、むわっとした熱気をふくんだ空気が辺りにじゅうまんし、はだにべたつくようで気持ちが悪い。

 生えている木々は、奏也が見たことのあるようでないような、ちょっとした異世界いせかいに来てきまったかのように感じた。


「ヤシの木は、なさそうだなぁ〜……。

 ちぇっ、ヤシの実って、どんな味がするのか、食べてみたかったなあ」


 ガサガサと、こしまで伸びた下草をかき分けて見るものの、ミミズどころか、地面すら見えない。


「こりゃダメだな。……うん。ミミズは、からびて全メツしたことにしよう。何せ、この暑さだ。生きていられるはずがない」


 奏也が早々にミミズ探しをあきらめようとした時、下草のすき間に、木の枝が落ちているのを見つけた。奏也のうでくらいの長さだ。条件反射じょうけんはんしゃで枝を手に取り、ふってみた。ヒュンヒュン、と気味良い音がする。野球のバットにするには細すぎるな、と奏也が思った時、ふと頭にある映像がうかんだ。


「そうだ! 木の枝をナイフでけずって、モリを作ろう!」


 テレビで、モリを使って海にもぐり、魚をとる映像えいぞうを見たことがあった。それを思い出したのだ。


「う〜ん……でも、これじゃあ、ちょっと細すぎるなぁ。なんかいい感じのはないかなぁ……」


 奏也は、手にした枝をふり回しながら、辺りをさぐってみた。

 しかし、モリになりそうなほど真っ直ぐで長いぼうなど落ちていない。


「あっ、そうだ!」


 奏也は、近くにあった手ごろな木にスルスルと登って行くと、モリにするのに良さそうな太さの枝を選んで、そこに全体重をかけた。

 バキバキッ、と音を立てて、奏也が枝と共に地面に落ちる。

 しかし、下草がクッションの代わりになってくれたので、奏也はケガ一つしなかった。


「よぉ〜し、これをナイフでけずって、モリにしよう!」


 奏也は、自分の考えにじょうきげんで、リュックサックの置いてある場所へかけもどった。

 そして、リュックサックの中からナイフを取り出し、枝の先をけずる。

 その様子を、少しはなれた場所にいた晃牙が見つけて、声をあげた。


「ソーヤー! ミミズあったかぁ〜?」

「なーい! 全メツしてたー!」


 枝の先をナイフでけずってとがらせただけのモリを完成させると、奏也は、それを手に、海へと向かった。


「あっ、そうだ。服はぬいで行くか」


 数歩行ったところで、奏也は、立ち戻った。さっき海に入った時、ぬれた服がはだにくっついて、動きにくかったのを思い出したのだ。

 着ていた服をぬいで、近くにあった木の枝にかける。さっき海水にぬれたはずの服は、もうかわきかけていた。最後に残ったパンツを下ろそうしたところで、紫の顔が頭にうかび、手を止める。

 砂はまを見回すと、そう遠くない場所で、紫が歩いているのが見えた。さすがに見られたら、まずいだろう。


「海パン持ってくればよかったなぁ~」


 もともと、急な家出から始まったのだ。海パンなど用意しているはずがない。


 結局、奏也は、パンツ一丁のまま、海へ飛びこんだ。手には、さっき作ったばかりのモリをつかんでいる。海は、さっき服のまま入った時よりも、冷たく感じた。


 まずは、魚を探す。水は、エメラルドのようにすき通っていて、魚のかげがよく見えた。

 よ~くねらいを定めて………………モリを放つ!

 バチャン、と大きく水がはね、魚は、にげてしまった。


「あっ、くそ。にげられた!」


 その後、何度かくりかえしてやってみるが、なかなか魚はつかまらない。

 モリを海中へ入れると、水の反発を受けて動きがにぶってしまい、うまく魚にささらないのだ。


「くそぉ~……もう一回!」 


 それから奏也は、しばらくの間、お手製のモリを片手に、海中の魚たちと悪戦苦とうした。



  ☆  ☆  ☆



 晃牙は、ねるための場所をどこに作るか、ということから考えた。

 日光の当たらない林の中に作るのが一番良かったのだが、それでは、船が通りかかった時に、気付けない。

 そこで、海を見わたせる、林と砂はまの境目さかいめあたりのかげに作ることにした。

 流木がたくさん落ちていたので、それらをひろって来て、ロープで結ぶ。流木は、表面がボコボコしていたり、ツルツルしているので、なかなか結ぶのに苦労した。

 長い一本のロープをナイフで切るのも、意外と力が必要だと分かった。力を入れすぎたせいで、あやうくナイフの切っ先がひざをかすり、お腹の下あたりがヒュンとした。

 長方形の天井を作ろうとしたのだが、流木は、一つとして同じ長さのものはない。結び目の位置を変えることで均等に作ったつもりだったが、柱となる四つ足をつけてできあがったものを立ててみると、長方形ではなく、台形のようないびつな形をしていた。


「あれ~、なんでだろう。ちゃんと合わせたのに……どっかでずれたのかなぁ。もう一回ほどいてやり直すのは~……めんどうだから、いいや。別に、曲がってたって、だれも気にしないだろ」


 晃牙は、ひとりでうなずくと、今度は、天井の穴をふさぐための屋根をつくりにかかった。



  ☆  ☆  ☆



 奏也と晃牙が、それぞれの仕事にせいを出していたころ、紫は、考え事をしながら砂はまを歩いていた。時々、奏也の方を見て、様子をうかがう。

 一度、林の中へ入って姿が見えなくなった時には、心配になったが、しばらくしてとび出して来たのを確認すると、ほっと胸をなでおろした。大丈夫だとは思うが、奏也は、たまに予想もしないようなことをしでかすから油断できない。


「あっ、きれいな貝がら」


 紫は、砂から顔を出していた貝がらを見つけて、それをひろった。

 桜色をした二枚貝だ。

 紫は、その貝がらを手に持っていたジップロックへ入れて、大事そうにむねにかかえた。

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