第13話 異世界司書は総勢一万人

「ご覧いただいたように、この世界は魔界・神界・精霊界・人間界の四界と、異世界博物館の有る麒麟界という一つの核から成り立っております。全宇宙にあって、この様な形態の空間は、異世界博物館だけで御座います」

 だからどうした。

 とっても疲れた。

 忙しすぎる。

 もう帰りたい。

「博物館を除いた四つの世界は、どの宇宙にも存在しています。例外はありますが、様子は多少違っていても、四界の関係は異世界の縮図と言えます」

 何か聞いたような、何も聞いていないような。

 意味不明が増えただけだ。

「それでは、肝心な異世界博物館にまいりましょう」

 まだあるのかよ。

 ほとほと疲れた状態で辿り着いたのが、異世界博物館を取り巻く

建物群の中心部。

 この世界に始めて入った時に見た光景だ。

 タイル張りの建物の前は広い歩道になっている。

 石畳の車道を挟んで、対のように反対側にも建物が並んでいる。


 車道を走る車や馬車はなく、人力車も走っていない。

 車道には屋台が並び、まるで市場のようになっている。

 自転車すらない。

 この地域の人達は、瞬間移動を日常的に使っているのが容易に想像できる。

「この地域には、博物館に関わる商店とか研究機関が集まっています。では次」

 またもや容赦のない瞬間移動の繰り返し。

 博物館周辺を一回りしてから、ようやく博物館内へ入った。

 

「全宇宙の宝と言うべき貴重品が、無限とも言える数保管されていまして、展示されているのは保管品の0.01%にも満たないのですが、御覧のとおりです」

 建物の外見とはかけ離れた規模。

 入口からは行きつく先の壁が見えない。

「これ、見て回るのに何日くらいかかります」

「一般的な見学コースで十日ほどでしょうか。それだけ掛けるだけの価値あるものばかりです。中に宿泊施設や娯楽施設もありますし」

「まるでテーマパークじゃないですか」

「そうですわねー。博物館は全宇宙最大のテーマパークとも言えますわね」

「では、いよいよ奈都姫様の勤務先、図書室へまいりましょうか」

 やっとだ。


 図書室に着いた時、既に四時を過ぎていた。

 クローゼットで食事を済ませていたので、レストランとか屋台なんかは横目に見るだけだった。

 次来た時は、絶対にお店へ入ってやる。


 図書室の中へ入ると、これまた規格外の広さ。

 雲まで突き破りそうな超高層ビルなみの吹き抜け。

 真ん中には、この世の数字では表現できない桁の樹齢と思える巨木が生えている。

「あの樹は何の樹ですか?」

「気になる樹です」

 教えてほしい。

「さっきの博物館もこうだったけど、外見と中がまったく違っていますね。どうなってるんですか」

「クローゼットとかガレージの大型版と考えていただくと分かりやすいかと」

「なーる程」聞かなきゃよかった。

 不思議が増えただけだ。


 ここからは私が勤務する施設。

 しっかり見学して色々と覚えなくては。

 すると、辺りの人達がやけに私達を見てくれる。

 目立つ恰好だけど、メイドさんがそんなに珍しいか。

「さっきから、来館者の人達にエポナさん観察されているようですけど」

「いいえ、奈都姫様を見ているのです」

 私かい。

「異世界司書が館内に居る事は滅多にないので、皆さん驚いているのです」

 ちょっと待て、異世界司書って何。

「異世界司書?」

「ええ」

「ここが異世界ですよね」

「いいえ、ここから見れば地球を含めた外界総てが異世界となります」

「どうして私が異世界司書だって判るの」

 それよりも【異世界司書って何?】が先だったか。

「お洋服の左に付いている徽章ですわ」

 合格のどさくさでもらった徽章があった。

 私の意思を無視して、自由奔放光輝きーの、目立ちまくりーのしている。

「これ、外せませんか」

「無理」

 あっさり言い放ってくれた。


「質問その二、異世界司書って何ですか」

「書いて字のごとし、異世界へ行く司書の事です」

 司書って、内勤じゃないの。

「スタッフの中に何人くらい居るんですか。あまり見かけないと言う事は数人とかですか」

「いえ、1万人ほどいらっしゃいます」

 脳みそ煮え始めてきた。

「1万人?」

「この世界の人口が100億で、全員が博物館の職員としての扱いになっています。ですから1万人は希少です」

 全人口の一割程度は図書室に所属しているようだが‥‥。

「レストランとか屋台の人とか、子供から赤ちゃんまで全員が職員なんですか」

「そうです。お給金も支払われています」

 なんて世界だ。

 どこからそんな資金が出て来る。

「ここには全宇宙から管理委託された書籍が1200秭冊ほど保管されています」

「ちょっ、ちっと質問いいですか」

「何でしょう」

「【し】ってどの位か見当付かないのですけど」

「十の二十四乗ですわ」

 ますます分からん。

「保管品や蔵書は、殆どがその世界にあっては危険ですが保存しておかなければならない重要なものや、危険な人や物を封印してあったりしますの」

 まだ続くのかい。

「博物館や図書室では、各世界の国家から管理費をいただいております」

 そこが知りたかったのよ。

「地球年で一年間が会費の徴収基準で、施設への保管・管理費として、地球の価値にしてメイプルリーフ20分の1オンス金貨10枚程度となっております」

 随分とリアルな。

「一枚いくら位します」

「現在の取引価格は1枚13000円以上です」

 年間13万か、一国家としてははした金だわね。

 んっ、銀河には2000億の恒星×全宇宙の銀河の数3000億×13万円=言い表せない。

 とにかくいっぱい。

「どうやって数えるんですか、そんな大金」

「くわしくは経理課で聞いてみなければ分かりませんが、おそらく数えていません」

 なんとイージーな。

「続けてよろしいですか?」

「はい」

「現在は地球程度の面積の博物館ですが、毎日少しずつ拡大しています。ですから、博物館や図書室の広さは、地球的に見れば無限のようですが、宇宙的に見ればさほど広くはないと言えます」

 言っている事が分かりませーん。

「あとは経理課に行って、今日の予定終了です」

 何で経理課なのかな、まだ何か貰えるのかな。

 ちょっと期待。

 

 図書室の隅にある扉を明けると、カウンターの奥に経理課のお姉さんがいた。

「経理って、何処からでも入れるんですか」

「はい、公共性の高い部署ですから、入ろうと思えば何処からでも」

「エポナさん、出来てます。今回は日本円での支給でよろしかったでしょうか」

「はい、あちらでたくさんお買い物しようと思っていますので」

 何だ、エポナさんの用事だったのか。

 付き合わされてる。

 これこそ分身にやらせればいいのに、自分の分身が信じられないか。

 慎重すぎるぞ。


「今日は私達の給料日ですの。立場や部署によって支給日が異なっていますので、確認しておいた方がよろしいかと思いまして」

 明らかに、給料か私の確認事項のどちらかがついでだ。

 なかなかナイスなついでだ。

 仕事のできる女は、何気ない事でもちょっとばかり他とは違うようだ。

「そうだね、聞いておくべき事だわ。お仕事する上でとっても大事な事よね」

「経理に関わる事でしたら、私、シェリーがお教えいたします」

 シェリーさんて言うんだ、この人。

 穏やかに話すけど、しっかりしてそうだな。

 私と違って、算数得意なんだろうな。

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