第12話 異世界一周は超ハード
アルバイトのお店がある商店街につくと、店から皆さんが出てきて私の方へ集まって来た。
一様に口から出てきた言葉は「おばあさんが夢枕にたって‥‥」
私の所に化け出る前に、こちらに立ち寄ったみたい。
幽霊だから立ってなかったけど。
「それで、試験はどうだった」
「合格しました」
「給料は清算してあるから、持って行って」
「これも持って行ってくれ、お祝いだ」
等々、お土産を沢山もらってその場を後に。
工務店も使い込みの片棒を担いでいたらしく、不動産屋と対応は似たり寄ったりだった。
土地を手に入れ、無料でリフォームと増築を請け負ってもらい、二千万が私の懐に入った。
元をただせば、おばあちゃんと私のお金なんだけどね。
昼を過ぎて家に帰り着くと、クローゼットの部屋は私の部屋らしくなっていて、外の景色も見えるようになっていた。
「ちょっと残念だな」
「朝に御覧いただいた部屋でしたら、隣になります」
自慢げにエポナさんが隣室への扉を開けると「おー、ビューティフル・ワンダフル・ボーノ」
「明日は博物館に行って、あちらの世界一周をします。体を休めておいてくださいね」
「世界一周は何日かかります」
「一日で終わる予定です」
しずちゃんが忠告してくれたように、慣れない事ばかりだろうから、こちら側の世界でできるだけの支度をしてから行きたい。
あまり余計な時間を使いたくなかったけど、世界一周。
早や!
あっちの世界って狭いのかな。
部屋の一角にセッティングされた調理台は、近代的なシステムキッチン。
買ったらものすごく高そうだ。
そこで、エポナさんが食事の支度を始めた。
「何処から持ってきたんですか、そのシステムキッチン。また借金のかたですか」
「これですか? 違いますわよ。先ほどの不動産屋さんが住宅展示場を新しくするので、要らなくなったのをいただいてきたのです」
「いつ行ったんですか。ずっと私と一緒でしたよね」
「何か御疑いになっています。分身が先ほどトラックで行ってきましたの」
やはり怪しい。
「そのトラックとやらは、どこから手に入れたんですか」
「先ほどの工務店ですわ。長期のお約束で借りましたの」
長期のお約束で借りた、微妙な響きだ。
犯罪の臭いがする。
遅い昼食が出されてきた。
商店街の人達からいただいたお祝いの品も並んでいる。
「夢みたいです。私、司書になったんですね」
「はい、そうですわね。この区域では、奈良時代に殉職扱いとなった異世界司書様以来ですわ。1300年ぶりです」
「うっ、殉職。司書に殉職あるんですか。そんなに危険なんですか」
「研修で詳しく説明してくださいますわ。真面目に研修を受けていれば、永久に死ぬ事はありません」
重大な隠し事だったはずだ。
ずいぶんと軽くあしらってくれる。
身の危険を感じたら辞めてやる。
支度金はー、返さないとだめだよね。
それ、とっても惜しい。
癖が強いけど、エポナさんがいる生活も捨てがたい。
それに、このクローゼットとかガレージ。
空間移動も良いよねー。
んー『永久に死ぬ事はない』って行ったよね。
「今、永久に死なないみたいなこと言いましたよね」
「言いましたが、何か」
「不死身ですか」
「研修で適性を調べないと確かな事は申し上げられませんけど、奈都姫様の場合は、ほぼ確定かと思われます」
「なに、その奥歯に物の挟まったような、どっちつかずの言いっぷり」
「申し訳ございません。でも、今はここまでしか言えませんので」
そうか、そんな事ならグレてやる。
「明日の博物館の世界見学って、何時間くらいかかります。余裕があったら町の様子なんかも見てみたいんですけど」
「んー、余裕は作れない事もありませんが、8時間で地球を一周する覚悟で御願いいたします」
「地球一周。そんなに広いんですか」
「はい、今のところ、ほぼ地球サイズですので」
「嘘だー、エポナさんの嘘つき」
「はははは」
笑ってごまかされた。
翌朝。
起き抜けいきなり博物館上空1000mに飛ばされた。
クローゼットに入ったままの移動だ。
足元には床があるものの、スケルトンになっている。
見下ろすと、尋常ならぬ恐怖が押し寄せてくる。
「どうして浮いてるの」
「これが博物館の本館敷地と建物のほぼ全景になります」
質問に答えてよ。
ギリシャの神殿みたいな巨大建造物が有るけど、敷地ってどこからどこまで。地平線がなくて、どこまでも景色がある。
遠くの方は霞んで見えない。
「どこまでですか、窓に線引いてもらっていいですか」
「霞の向こうの河までが博物館です。その向こうが図書室になります。図書室に移動しますね」
一瞬。
「ここが図書室の敷地と建物です」
博物館よりは少し小規模。
迎賓館に似た建物の遥遠くに河が見える。
「あと3000m程上昇します」
瞬時。
博物館と図書室の広大な敷地を囲むように、海らしき水溜まりがある。
更に海を囲んでいる外側の大陸は、何処までも続いていて、青い空と交わっていない。
陸地と空の間は無色空間になっていて、宝石の様に星々が輝いている。
「不思議な光景ですね」
「実際は円錐形の世界なのですけど、質量と速度の関係で光が歪んでおります。それでこのように見えるのですよ」
意味不明が増えた。
「では、瞬間移動の繰り返しで世界一周の旅に出ますわよ」
瞬「ここが魔界の首都【ヘル】で御座います」
いきなり無理やり、魔界の女王と名乗る奴に合わされた。
どうせ噓八百に決まっている。
適当にあしらっていたら、対応が丁重で土産に金貨を箱一杯くれた。
とっても良い人の部類に仕分けした。
瞬「神界の首都【アトム】で御座います」
どこかで聞いた事のある地名だ。
ここでは、どいつもこいつも自分こそ唯一絶対神だと威張り腐ってる。
自分勝手にふらふらほっつき歩いているだけだ。
挨拶してきた謙虚な数柱から、超大きな虹色に輝く硬貨をもらった。
「何ですか」
「黄麒麟印の特大シェルリル貨でございます」
悪魔の金貨と比べて、どっちの方が高価なのかよく分からない。
とりあえず、謙虚な神だけ良い神様に分類してやった。
瞬「精霊界の首都【エレメンタル】で御座います」
地上に降りたけど誰も出てこない。
精霊達は恥ずかしがり屋らしい。
とっても良い臭いのする森の中に入ると、金色の粉が振ってきた。
すると、ふんわり体か浮いて自由に空が飛べる。
おおっ、ピータパン‼
「私達から合格祝いの贈り物でございます」
森のいたる所から一斉に「おめでとうございます」と声がした。
お金では買えない物が稀にある。
精霊の世界は、とっても良い所に分類した。
瞬「人間界の首都【ユートピア】で御座います」
嘘だろ。
ここに有ったのか、伝説の理想郷。
道行く人はにこやかで、綺麗な服を着ている。
市場には新鮮で美味しそうな食べ物がわんさか。
市内を軽く見学してから、人間界の代表連盟とかいう所に案内された。
会場の警戒が厳重で、沢山の兵士が駐屯・警備しているのには驚かされた。
テロリストとかゲリラとかレジスタンスとか、居るのかな?
「司書様。人間界に訪問していただいて感謝いたします」
代表の中でも一際危険なオーラを放つおっさんが、何とかソードみたいな有名らしい刀を手渡してくれた。
武器。
要りませんから。
争う気ありませんから。
こいつら、思考回路が少しばかりバグっているようだ。
要注意団体にしておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます