第2話 アイドルってすごいホ!

 普段のキリカは普通の中学2年生。当然学校にも行くし、友達もいる。その友達の1人、メガネっ娘のたまきはオタクだった。ジャンルはアイドルオタク。しかも、誰も知らないようなのばかり追っかけるマニアックなオタクだった。


「ねえねぇキリカ、聖真学園のリリトって知ってる?」

「またアイドルなんでしょ? また変なの見つけたね」


 たまきが質問系で話しかけて来た場合、その話題はほぼ自分の推しのプレゼンになる。付き合いの長いキリカは、その話題を華麗にスルーした。今の彼女にアイドルに沼る暇はないからだ。

 そんな態度を取られても、たまきのプレゼンは熱心に続く。


「だからさ、リリトはすごくかっこいんだって。キリカも一度見たらハマるよ~」

「はいはい、また今度ね」

「今度? 言ったね! 絶対だかんね!」


 彼女の猛プッシュにキリカは苦笑い。ただ、そこまでしつこい訳でもなく、話がまとまればちゃんと別の話題に変わってくれる。

 だからこそ、キリカも彼女にずっと付き合っていたのだった。


 さて、そんな彼女の推しのリリト。彼は今時珍しいソロアイドルで、容姿、立ち振舞い、歌の巧さ、ダンスパフォーマンスなどのクオリティーの高さからどんどん人気になっていく。

 マイナーな存在だったのはデビュー後の数ヶ月までで、それからはテレビにも引っ張りだこの人気になっていた。


 気がつけば、キリカを除くクラスの女子全員が彼の虜になり、男子にも人気は広がっていく。推しの話を出来る仲間が増えて、たまきもキリカにあまり構わなくなってしまった。

 友達から話しかけられなくなったキリカは、ぼうっと窓の外の景色を眺める。


「アイドルの人気ってすごいなぁ……」


 人気者になったリリトは、矢継早に自身のグッズを発売。そのどれもが飛ぶように売れていった。次に発売されたグッズは中央に赤い宝石のようなものが埋め込まれた、中々におしゃれな感じのペンダント。当然ながらこれも大ヒット。

 このペンダントを身に着けて登校してきたたまきは、キリカに嬉しそうに見せつける。


「どうよ?」

「うわ、高そう。よく買えたね」

「それが推し活だからね~。推しが推したものは全て買うのよ~」


 たまきの信者ぶりに、キリカは呆れてため息を吐くばかり。ただ、それを押し付けてはこなかったので、彼女も特に忠告めいた事は言わなかった。


 数日後、クラスに欠席者が目立ってくる。登校しているクラスメイトも目が虚ろで気力のない子が増えてきた。たまきにもその症状は出ていて、キリカは不安そうな表情を浮かべる。


「大丈夫? しんどそうだけど」

「大丈夫だよ~」


 力なく笑う友達が心配になり、キリカは調査を開始した。しかし、手がかりが何もなかったのですぐに行き詰まってしまう。翌日にはたまきも欠席。やがてクラスの半分以上の生徒が休むと言う異常事態になり、急遽学級閉鎖が行われた。

 自宅待機になったキリカは、この謎について顎に手を乗せる。


「一体何が起こってるんだろ?」

「これはジドリーナ帝国が絡んでいる気がするホ」

「かもね。でも何が原因で?」

「学校を休んだ子の共通点を考えるんだホ!」


 トリのアドバイスを受けたキリカは、もう一度最初から推理をし直した。学校を休む子が出てきた時期に何が起こったか、その子達とたまきに共通点はあるのか――。


「そう言えば、休んだ子は女子ばかりだったよ」

「それホ!」


 そこから導き出された休んだ子達の共通点、それはみんなリリトのファンだったと言うもの。この結論が出たところでトリが休んだ子に会いたいと言いだしたので、キリカは彼女を抱いてたまきの家に向かった。


「たまき、お見舞いに来たよ」

「ありがと。あれ、そのぬいぐるみは?」

「うん、これが私の推しなの。紹介したくて」


 たまきは何かを察して、キリカの趣味を受け入れる。部屋に通されたキリカは、その推しグッズの数にクラクラした。


「部屋中アイドルだらけじゃん……」

「推しに包まれていると安心するんだ」


 2人が雑談をしている間、トリは怪しいものがないか部屋を見回す。そこでついにその正体を発見した。


(あったホ! あのペンダントだホ。アレをたまきから引き離すホ)


 トリからのテレパシーを受けて、キリカは動く。


「ねぇ、そのペンダントちょっと貸して」

「ん? いいよ」


 たまきからペンダントを手渡されたキリカは、そのまま部屋を出る。たまきの家を出たキリカは物陰で魔法少女に変身。その力で一気に飛び立った。

 たまきの部屋を見て色々と察した彼女は、この騒ぎの元凶であるアイドルのリリトの元へと向かう。


 この時、彼はライブのリハーサルをしていた。ライブ会場に降り立ったキリカは、魔法でライブスタッフの衣装に変身。怪しまれないように潜入する。


「それはボクが預かるホ」

「分かった」


 ペンダントをトリに渡して、キリカはリリトを探す。楽屋にはいなかったのでステージに行くと、そこで得意げにダンスをしている本人がいた。


「おや? 見慣れないスタッフだね」

「あなたが黒幕って事?」

「僕の魅了が効かない? お前……」


 リリトは爽やかな笑顔から一転、急に険しい表情になる。そこでトリが飛び出してきた。


「キリカから離れるホー!」


 トリが口から吐き出したビームがリリトに直撃し、その容姿が変質していく。やがて、彼はトリがよく知る姿になった。


「まさか、四天王のギャールオ……? お前が来ていたのかホ!」

「そう言うお前達は……そう言う事か。丁度いい、ここで始末してやる!」


 リリト、もとい、ジドリーナ帝国四天王のギャールオは指をパチンと鳴らしてバエンナーを呼び出した。今度のバエンナーは巨大芋虫タイプだ。

 速攻で攻撃してきたので、キリカは結界を張りつつ魔法少女に変身。何とか敵の初手をかわした。


「報告通り素早いな。だが避けるだけでは勝てんぞ? 行け、バエンナー!」


 ギャールオの指示でバエンナーは動く。今までと違って指揮者がいると言う事で、キリカは警戒しながら攻撃を開始した。


「ミラクルスタークラーッシュ!」


 キリカの通常魔法攻撃は全弾バエンナーに命中。しかし、この芋虫タイプも防御力が高く、全然ダメージを与えられてはいない。爆煙が晴れたところで、今度は敵からの攻撃だ。バエンナーはその大きな体をくねらせ、物理の力でキリカを潰そうとする。

 ただ、その動きは鈍重で簡単に避ける事が出来た。


「くそ! そんなに早いだなんて卑怯じゃないか! まぁいい、どうせお前の攻撃は届かん」

「そうかしら?」


 ギャールオの挑発を受けたキリカはステッキに力を込める。強い攻撃ほど隙は大きくなるものの、動きの遅いこのバエンナーなら何の問題もない。


「スーパーメガトンボンバー!」


 両手で構えたステッキの先から、超重量級のエネルギー弾が射出される。図体のでかいバエンナーは、この攻撃を受けて呆気なく体半分が吹っ飛んだ。


「ギャオオオー!」

「嘘だろおい」

「後一撃で終わりかな。次はあなたの番だよ!」

「くっ!」


 形勢逆転したギャールオは、戦いを見守っていたトリに接近。速攻で彼を人質にする。


「魔法少女よ、こいつを死なせたくなかったら武器を手放せ!」

「な、卑怯!」

「勝てばいいんだよ!」


 ギャールオに羽交い締めされたトリは身動きがとれない。キリカは仕方なくステッキを放り投げた。


「これでいいんでしょ、さあトリを離して」

「行け、バエンナー!」


 ギャールオはバエンナーをけしかけ、不意を突かれたキリカはその攻撃をモロに受けて吹っ飛んでいく。それを見たトリは大声を出した。


「キリカーッ!」

「カハハハ! 約束なんて守る訳がないのに馬鹿だなあ」

「許せないホー!」


 怒りに震えるトリは、キリカから預かっていたペンダントをギャールオに押し付ける。その途端、内蔵された宝石がどんどんエナジーを吸い始めた。


「馬鹿な! 僕にそれは効かないはず……」

「効果を反転させたんだホ。油断したホね」


 トリが細工をしたペンダントによって、ギャールオはどんどん老化していく。体はしなびれ、髪も白髪になり、やがてハラハラと抜け落ちていった。筋力もなくなったので、トリは余裕で抜け出す事に成功。


「キリカ、今だホ!」

「分かった!」

「お、おいやめ……」

「ファイナルエンドアロー!」


 キリカの必殺魔法でギャールオはバエンナーと一緒になって吹っ飛んでいく。こうして、魔法少女キリカはこのバトルに勝利したのだった。


 その後、トリが会場内にあったアクセサリー制御装置を発見してそれを破壊。奪われたエナジーはみんな本人の体に戻り、リリトの事も人々の記憶から消えていった。全ては元に戻ったのだ。

 この結果に、キリカもトリも満面の笑みを浮かべる。


 こうして人々も元気になり、クラスに活気が戻ってきた。キリカが教室に入ると、先に来ていたたまきが満面の笑みで息を弾ませながら近付いてくる。


「あ、たまき。ごめん、ペンダント失くしちゃった」

「そんなのどうでもいいよ、ねえ、今時間ある? すごいお気に入りの推しを見つけちゃって……」


 たまきは既に別のアイドルにハマっていた。その切り替えの速さにキリカは軽くため息を吐き出しながら、その話に笑顔で付き合うのだった。

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