魔法少女キリカ

にゃべ♪

第1話 ぬいぐるみのフリは辛いホ

 瀬戸内海に面した日本の地方都市、今北市は地球侵略を目論むジドリーナ帝国の侵略を受けた。最初の侵略の際に被害に遭いそうになった麟翁寺キリカは、そこに現れた丸いぬいぐるみのような生き物、トリに助けられて九死に一生を得る。

 彼はキリカの潜在的な力を見抜き、その場で彼女を魔法少女に変身させた。


 魔法少女キリカは、今日も帝国の魔の手から地元を守るために戦うのだ!


「あ、危ないホ!」


 帝国の侵略生物、バエンナーの超速パンチがキリカに迫る。空を裂くその弾丸のような鋭いパンチを紙一重で避けた彼女は、射程距離外に逃れようとジャンプして離脱。このタイミングでステッキをかざして攻撃魔法を連射した。


「ミラクルスタークラッシュ!」


 魔法はバエンナーに全弾直撃。しかし彼女の攻撃は全く効いていないようだった。爆炎が消え去ると、バエンナーは埃を払うような仕草をしてニイッと笑う。


「嘘でしょ?」


 自分の攻撃に自信のあったキリカはここで動揺。若干の隙が生まれてしまう。戦闘兵器のバエンナーがそのチャンスを逃すはずもなく、彼女目掛けて一気に距離を詰めてきた。

 一瞬判断の遅れたキリカは、顔の前で腕をクロスして防御態勢を取る。


「バエンナー!」

「キャアアア!」


 バエンナーの一撃を受けて彼女は吹っ飛んだ。強く地面に叩きつけられて、全く動けなくなってしまう。バエンナーはトドメの一撃を打ち込もうと高くジャンプした。


「危ないホー!」


 キリカのピンチにトリは飛び出し、魔法の盾に変身。バエンナーのミサイルキックを見事に弾き返す。この展開に今度はバエンナーの方が体制を崩した。

 トリが回復時間を作ったおかげで、キリカはまた立ち上がる。


「有難う。もう大丈夫」

「あいつには弱点以外に攻撃は効かないみたいホ。額の第三の目ホ!」

「分かった!」


 ひっくり返ったバエンナーが起き上がるタイミングを見計らって、キリカはステッキを両手で握って狙いを定める。


「ファイナルエンドアロー!」


 彼女の叫びと同時に、強烈な光の矢がバエンナーの額に向かって射出される。弱点を射抜かれたバエンナーはあっけなく消滅。

 こうして、今回も何とか今北市の平和は守られたのだった。


「ふう……」

「お疲れホ!」


 キリカとトリはハイタッチして勝利を喜び合う。戦いのために展開していた結界は解け、魔法少女は普通の女子中学生に戻った。


「じゃあ、私は学校行ってくるね。トリはまた家で留守番だよ」

「任せるホ!」


 結界内では時間は止まっている。そのため、登校途中でバトっても時間的なロスは全くないのだった。


 キリカが学校に向かう一方、トリは彼女の家に帰る。普段の彼は、そこでぬいぐるみのふりをして過ごしていた。


「ふう、今日も誰にも気付かれずに済んで良かったホ」


 こっそりキリカの部屋まで辿り着いたトリは、魔力の充填のために眠りに入る。そうなれば、この謎の生き物は誰がどう見てもぬいぐるみしか見えなくなるのだ。


 トリが眠りに入って1時間ほどして、キリカの部屋のドアがカチャリと開く。キリカの妹のまゆが入ってきたようだ。

 4歳の彼女の目的は、最近姉の部屋に増えた丸っこいぬいぐるみ。そう、トリだった。


 まゆは彼を見つけると目を輝かせて突進。トリを持ち上げるとニッコニコで部屋から出ていった。リビングまで運ばれた彼は、そこで思いっきり壁にぶつけられる。

 この衝撃で、トリは意識を取り戻した。


「痛っホ!」

「シャベッター!」


 まゆの喜ぶ声に彼は事態を把握。すぐに喋るぬいぐるみを演じる。機械的な感情のない声で、さっきの苦痛のリアクションをごまかした。


「サッキハイタカッタホ。イタクシナイデホ」

「トリさん、遊ぼー!」


 トリがぬいぐるみに徹したおかげで彼の秘密は守られた。その代わり、まゆは色んなリアクションを見ようとトリを乱暴に扱い始める。壁にぶつけられ、無邪気に何度も殴られ、それに飽きたら小さな翼を引きちぎれるほどに引っ張られ――。

 しかも喋るぬいぐるみ設定なので、ずっと黙っている訳にも行かない。適度に感情を殺したリアクションをして彼女を満足させる。


「イタイホー! ヤサシクシテホ……」


 その後、遊び疲れたまゆはリビングにトリを置き去りにして自分の部屋でお昼寝。こうして、ようやく彼に平穏な時間が訪れたのだった。

 リビングに誰もいないのを確認したトリは、大きくため息を吐き出した。


「はぁ。ぬいぐるみのフリと魔法少女サポーターの二刀流は疲れるホ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る