はじまりの町へと
飛行機に揺られる事約二時間、ついに千歳市の空港に着いた。機内から搭乗口へと移動し、次の目的地の地図を調べる。
「北広島市か...」
俺がこれから暮らすのは北海道の県庁所在地である札幌市の隣にある北広島市。なんでも10年以上前にプロ野球の球場が出来て大盛り上がりの場所だとか。
「え?怜斗君も北広に住むの?」
エレシアを横から覗き見していた文香が尋ねてきた。
「え?あっ...あぁ。って言うか"も"って言うことは文香も?」
「うん!おばあちゃんの家が北広にあって昔からよく来てたし。今年の春から北海道の大学に通うって言ったら、部屋を貸してくれたの。」
「そうだったのか、じゃあ北広島市から札幌まで電車で行ってそこから地下鉄使って大学まで行くんだな?」
「そうなるね、怜斗君もそうでしょ?」
「そうだな」
俺たちの大学は札幌市にあるため隣の市である北広島市から行くには電車を使わなければならない。往復で1000円は超えるのが痛い点だ。
「ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」
「なんだ?」
「どうして札幌市内に部屋を借りなかったの?」
「...。」
「北広島市なんて球場の近くだから土地の値段は昔に比べて下がったとはいえ高いじゃん。それなら札幌市内に部屋借りた方が安く済むのになんで?」
「なんて言うか...自然に惹かれちゃってな。」
俺は作り笑いを浮かべながら嘘の答えを話した。
「ふぅん。まぁたしかに自然たっぷりで狐も熊も出るし。札幌に比べたら建物とかあんまりないしね。」
少し皮肉っぽく言う彼女の顔はムスッとしながらもどこか嬉しそうな表情だった。
「まぁいいじゃん。それより札幌行きの快速そろそろ来るらしいから急ごう。」
「うん」
エレシアの地図をオフにし、2人でキャリケースを引きながら空港内にある駅へと向かった。
改札を通りエスカレーターを降り、ホームの前で電車が来るのを待った。
「うぅ...さっっっぶいなぁぁぁ」
肩を擦りながら電車を待っている美女が一人
「ほんとに寒いな」
その隣にフツメンの男が一人
「こんな事なら厚着してくればよかったなぁ。長袖一枚じゃやっぱり寒いよね。」
「長袖一枚はそりゃ寒いだろ。」
「寒いとはいえそんな厚着しなくてもいけると思うじゃん!」
「気持ちはわからなくもないけど北海道と本州じゃあ勝手が違うし...。」
白の長袖に冬用のジーパンの文香の姿に同情し、俺は自分の長袖を脱ぎ、ふみかへと渡した。
「ほら。これ着ろよ」
「え?いいの?」
「本当に寒そうだしな。」
「ありがとう!えへへ」
にっこりしながら俺の長袖を着た。その笑顔は自信がかわいい女だと再認識させるような素敵な笑顔だった。
「まもなく一番線に快速列車が到着します。ご注意ください。」
「あっ、来たね、乗ろっか!」
「うん」
この電車が俺を新天地へと運んでくれる。
もう後戻りはできない。このルートを信じるだけ...。
俺達は快速列車に乗り北広島市へと向かった。
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