人生相談所~ストレリチア~

新天地で

2035年

科学は順調に発展し人々の暮らしは豊かになった。

携帯電話も普及し始めの昭和の終わりからスマートフォンが大流行した平成中期から後期。


そして今は新しい腕輪状の電子機器、エレシアが開発されてメッセージや電話はもちろん。本人確認も容易に出来る時代となった。


ここまで見るといい事ばかりに思えるかもしれないが当然悪い面もある。

それは電子機器が普及しすぎて人と過度に、そして容易に話せる時代となってしまった。


スマートフォンの時代から度々起こってはいたが、SNSを使った事件、ネット中毒や誹謗中傷による精神疾患者の増加はエレシアが普及した今問題視されている。

前者に関しては気をつければいいが後者に関しては触らない以外の方法がほぼ見つからない。程々に触ると言っても結局使ってしまい境界線が曖昧になってしまうことだってある。


だか利便性の高さゆえ問題点さえ気をつければ最高の電子機器であることはほぼ間違いなかった。


なんなら俺もエレシアを使って連絡を取りあっているし動画もゲームも内部にあるアプリを使って行っている。


「便利な時代だな」


空港で北海道行きの飛行機を待つ俺は呟いた。

今年の春から大学進学のために北海道へ行く。

日本でいちばん大きな都道府県に行くことに対する不安は全くなかった。それよりもはやく行きたいという気持ちの方が強かった。


「もうただの大学生になるんだな...。」


少し前まで俺はとある王国の王女の元で身辺警護と座学、そして執事の真似事の日々を送っていた。

訳あって同じ年齢の王女様の身辺警護を13歳の頃任された。外面はよく国民には模範的な王女だったがボディガードの俺は彼女の裏を見る機会が多かった。わがまま放題で茶を出せ菓子を出せ怖いからクラスメイトの事を一日で全部調べろだの。本当に疲れたね。



このままここにいるとこの女に人生をめちゃくちゃにされるかもしれない。

そう思った俺は18歳の時に雇い主の王女の父、国王に辞表をたたき出し、静止の声を振り切って日本に来た。


ここまで聞くと悪い思い出しかないように思えるがそういう訳でもない。

戦闘の仕方や身辺警護に関する知識、座学では他国の言語まで。ありとあらゆる技術を叩き込んでくれたのは感謝しているし今後も忘れることは無いだろう。


「北海道行き、12時30分発、007便をご利用のお客様は一番搭乗口よりご搭乗ください。」


そんなことを考えているうちに俺の乗る飛行機が来たらしい。

俺はベンチからゆっくりと立ち上がり、キャリーケースを持ち一番搭乗口へと向かった。


搭乗口に入り今から乗る飛行機の写真を撮り、友達に写真を送った後、急いで搭乗橋を通り機内の自分の座席へと座り、機内の雑誌を読みふけっていた。


「あの...すみません」


突然声をかけられた。


「はい...なんですか?」


「あっ...いえ!大学受験の時に見た気がして。北海道行きの便に乗ってるってことはあなたも北海道国立大学に合格されたんですね?」


「えぇ、まぁ」


「あっ、ごめんなさい!私は榎本文香。よろしくね!」


「俺は明智怜斗よろしく文香」


「よろしくね!怜斗君!」


入学式前なのにいきなり女の子の友達ができてしまった。しかも可愛い女性だ。赤みがかった茶髪、それを強く印象付けるようなボブ。身長は150cm前半ってところか。とてもスタイルがよく笑顔が素敵な印象を受けた。こんな女性と話していたらあいつに怒られるんじゃ...あっ...

そうか。俺はもうあいつのボディガードじゃないんだ。


「ふっ...はぁ...」


未だあいつに囚われている自分に溜息をつきながら隣の美女と一緒に飛行機の出発を待った。

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