第84話 久々の“墓場エリア”



 午後1番の修行だが、“訓練ダンジョン”の墓地エリアを巡る事に決定。その目的だが、人魂のソウルの強化と出来れば遠隔部隊の充実だろうか。

 奥に進めば、もっとトリッキーなモンスターとも出会えるかも知れない。死霊系の召喚ユニットは、どうしても局所的な使い方に限られてしまうのは否めない。


 それでも洞窟エリアや暗い場所では、かなりの戦力になってくれるのも事実である。ゾンビは臭いし、骸骨は不気味で耐久が低いけど文句は言い出したらキリがない。

 取り敢えず、前回に買い込んだ浄化ポーションや魔玉(光)の余りが鞄の中に結構ある。それを妖精のお姫と確認して、それじゃあ行こうかと短く話し合い。


 目標は4層で、どうやらこの“訓練ダンジョン”は3層ごとにエリアのテイストが変わって行くみたい。墓場エリアの4層以降は、まだ未到達なのでその確認も含めつつ。

 いざ仲間達を召喚して、張り切ってのスタートである。


「それじゃあ行ってきますね、薫子かおるこさん……ノーム爺さんも、戻ったら合成錬金をちゃんと見てくれる約束ですよっ!

 お酒は程々にして、僕の帰りを待っててくださいね」

「行ってらっしゃい、朔也さくや様……今は9レベルですか、2桁レベル到達となると、探索未経験組の従兄弟たちの中では初となりますね。

 頑張って、経験値とカードを稼いで来てくださいませ」

「張り切り過ぎて怪我せんようにな、坊主さん。ふむっ、装備もちっとは良くなっとるな……お前さんが修練を怠ってないのが、伝わって来るわい。

 今から“墓地エリア”か、それなら棍棒の強化をしてやろう」


 そう言って酔っぱらって気分の良くなったアカシア爺さんは、専用の棚から巻物を取り出して来た。そして死霊系に有効な『光の棍棒+1』を、強化合成で『光の棍棒+2』にしてくれた。

 そのプレゼントに、飛び上がって喜ぶ朔也である。気分的にはノーム爺さんが本当の祖父に思えて来て、それを見ている薫子も微笑ましいシーンを見ている眼差し。


 探索前にそんなイベントを挟みつつ、勇んでゲートを潜って行く朔也とその一行。朔也の装備も、ノーム爺さんの指摘通りに随分と最近は変化があった。

 まずは『吸収の丸盾』だが、衝撃吸収の付いている優れモノ。とは言え、敵の攻撃の全てを吸収してくれる訳でもなく、精々が緩和と言った感じだろうか。


 それでも優れている装備には違いなく、魔法装備って凄いって感じ。それを言うなら、『忍耐の指輪』や『巨人の腕輪』の性能はもっと分かりにくい。

 指輪の方は体力や精神ステータス+3に、耐性アップの付いている良品である。それに対して、『巨人の腕輪』は支配ユニットの体力増強と言う変わった能力だったりする。


 まだ実戦で使った事が無いので、その効用は不明ではあるけど。その割合も不明だし、恐らく体感する程の増量では無い気もする。

 まぁ、それほど嵩張かさばる装備品ではないので、使用に不満は無い。それにしても、《カード化》前提の装備品がダンジョン内で出る不思議と来たら。

 これも、敷地内にダンジョンを持つ有用性だろうか。



 そんな事を考えながら、朔也は召喚ユニットで周りを固めて行く。まずは安定のエンにコックさん、それから偵察用にカー君と遠隔用の青トンボと人魂ソウル。

 この辺は定番だが、さて肝心の近接アタッカーはどうするか。死霊系エリアならブラウニーも活躍出来るし、最近は赤髪ゴブや獅子娘さんもお気に入りである。


 フェンリルは……何と言うか、あの圧迫感はちょっと苦手かも。たくさん触れ合って距離を縮めた方が良いのだろうが、突然に話しかけられても戸惑いしかない。

 取り敢えず獅子娘さんと弓スケを召喚して、メイドのブラウニーも今日は活躍して貰う事に。この3体で攻撃力は良さそうなので、後は追加で箱入り娘を呼び寄せる事に。


 パペット兵2体は指示出しが大変だが、コスト5MPは魅力的である。最近はD級やC級のカードも増えて来たので、コストも10や20が平気になってしまっている。

 相変わらず箱入り娘のシュールな召喚シーンを眺め終わって、これにて探索準備は全て終了。後はお姫さんの魔玉(光)攻撃と、水鉄砲を誰に渡すか問題である。


 弓ゴブには間違っても渡せない、何しろ中身は浄化ポーションなのだ。迷った挙句、箱入り娘に装備して貰う事に。指示出しの手間はあるが、一番無難な選択である。

 ところが、お姫がその箱入り娘の頭の上に停まって、この問題を解決してあげると挙手して来た。つまり、パペット兵の片方の指示出しを、このチビ妖精が担ってくれるそうな。


 それは素敵な提案だが、果たして上手く行くのかは疑問である。ところがお試しで、このペアと朔也の指示でのコックさんで出て来たゾンビと対峙した所。

 呆気なく2匹を退治出来て、これは上手く行きそうな予感。


「凄いね、お姫さんっ……これはかなり画期的な運用かもっ? この後もその調子で頼むよ、ただし僕も《カード化》をしたいからキル数は稼ぎ過ぎないでねっ。

 幸い箱入り娘は盾役だから、敵を押さえ付ける感じの運用が望ましいかな?」


 そう話す朔也に、妖精のお姫は任せておいてとピースサインを返してくれた。いやしかし、この運用方法は本当に画期的で朔也の負担は文字通りに半減してくれそう。

 それを喜びながら、暗くてジメッとした雰囲気の墓地エリアを進んで行く朔也チーム。1層で出て来る敵は、ゾンビとスケルトンとゾンビ犬位のモノ。


 つまりはFランクばかりで、油断しなければ何とでもなる相手ばかり。こちらの召喚ユニットも、ちょっと出し過ぎちゃったかなって感じである。

 それでも陰鬱なエリアを少人数で進むのも気が滅入るし、朔也は気にせず探索を進める事に。結果、10分少々の探索で【落胆ゾンビ】と【スケルトン雑兵】を1枚ずつゲット。


 魔石(微小)も10個以上拾えたけど、こちらは後でノーム爺さんに返すのであまり関係は無い。それでも倒した敵の数は、稼いだ経験値の指標にもなる。

 まずまずのペースで1層を抜けた一行は、20分後には2層へと到達していた。お姫の操る箱入り娘も、無難な動きでしっかり盾役として機能してくれている。


「これはいいね、夜の対人戦特訓でも使えそうな戦法だよ。今後ずっと、箱入り娘の指示出しはお姫さんがやってくれないかなっ?

 えっ、いいの……助かるよ、ありがとうっ!」


 そんな感じで契約も成立、朔也としては1つ大きな肩の荷が下りた気分である。お姫は多少ハチャメチャな所はあるが、あれで戦闘センスはあるし問題は無い筈。

 安心しながら2層を進むも、味方の数も多いのでそれこそ泥の手の奇襲も難なくこなせてしまう。弓スケの攻撃しかりで、パペットが防いで獅子娘さんがダッシュで敵の殲滅をしてくれる。


 お陰で朔也の出番もなかなか回って来ず、ちょっとしくじったかなと後悔などしてみたり。ただし、チームの一体感的な何かは芽生えて来た感もしてみたり。

 結局、この2層で獲得出来たカードは【滅陰の人魂】1枚のみ。突入前の目標モンスターだったので、そこはまぁ良かったと思いたい。


 こいつを倒せたのも、前のめり気味のチームを背後から奇襲してくれたお陰ってのもある。気付いたら朔也のすぐ近くにいてくれて、ノーム爺さん自ら強化の光の棍棒+2が活躍してくれた感じ。

 《カード化》の能力も、本当に段々とモノに出来ている感触が出て来た。この調子で、今後は既存のユニットの強化と強敵の《カード化》の両方を頑張って行く予定。

 とか考えていたら、いつの間にか3層の階段を発見。




 ここまでまだ1時間も経過しておらず、本当に順調な探索となっている。特にブラウニーのメイドさんの浄化能力は、とんでもないレベルで戦力過剰な気も。

 お陰で青トンボとか、弓スケの出番はほとんどない有り様である。戦士のエンも同様で、パペット達の後ろをただついて行くだけの状況である。


 まぁ、朔也としてはみんなに張り切られても、収拾がつかないので勘弁願いたい。数を多く出したのは、陰鬱なこのエリア内の雰囲気を打破したいが為である。

 戦力的には、“訓練ダンジョン”の1~3層は本当に探索の訓練みたいな場所に他ならない。そこまで気張る必要も無いし、やはり10体は多過ぎたかも?


 そんな訳で、取り敢えず青トンボと弓スケは、お疲れ様と声掛けして送還する事に。これで幾分か整理は出来たが、チームの勢いは全く変わらず。

 相変わらず強いのは、やはりメイドさんのはたき攻撃と箱入り娘に持たせた水鉄砲の威力である。ソウルもそこそこ活躍していて、カー君ですら時折は爆撃でキル数を稼いでいる。


 魔玉(光)による空からの奇襲は、そう言う意味ではとても強いみたいだ。数が多い場合にしか使わないが、カー君もなかなかの戦略家みたい。

 そんな訳で、朔也が前衛で腕を振るう機会は、味方のユニット数を減らしてもほぼ無しと言う。3層も至って平和で、同じパターンで奇襲して来たゴーストを退治出来た程度。


【憂鬱ゴースト】総合E級(攻撃E・忠誠E)


 コイツは人魂と違って、最初から人の形をした半透明な存在のモンスターだった。その分存在感が希薄と言うか、気付きづらくて危うく奇襲を喰らう所だった。

 それを空からしらせてくれた、カー君には本当に感謝である。そしてカード化の成功にも浮かれる朔也は、これは人魂との合成は可能なのかなと思案顔に。


 どちらも普通の武器では倒せない、闇属性のモンスターではある。聖属性が大の苦手で、類似系なのは間違いは無さそうではあるのだが。

 こればっかりは、ノーム爺さんに訊いて慎重にコトを進めないと。合成失敗でソウルを失ってしまったら、使えるユニットだけに目も当てられない。


 そんな事を考えながら、朔也のチームは3層も順調に進んで行く。目の前では、腐食系だがゾンビ系のスライムにはたきを掛けて浄化しているメイドさんの姿が。

 ちょっと楽しそうで、探索を楽しんでくれているのなら何よりである。逆にお姫の操る箱入り娘は、水鉄砲の残りを気にして微動だにせず。


 獅子娘さんも同じく、そのぷよぷよした群れに興味深そうな視線は送るけど攻撃には至らない。そんな古井戸の近くは、相変わらずジメッとした雰囲気で近寄りたくない。

 平気そうなのは召喚ユニット達ばかり、かくしてこの場の殲滅も順調に進んで行くのだった。お陰で3層までに稼いだ魔石は、40個以上とまずまずの回収率だ。


 ドロップ品に関しては、相変わらず骨の欠片やそんなモノばかりで持って帰る気も起きない有り様。宝箱は1個だけ見付かったけど、中身は属性石や鑑定の書、毒薬などしか入ってなかった。

 やはり、浅い層の宝箱は期待するだけ無駄である。そう切り替えた朔也は、目的である4層の階段を捜して不気味な“墓場エリア”を彷徨さまよい歩く。


 そしてようやく発見、それは墓場の列の背後に隠されるように設置されていた。その意地悪仕様に、ため息をつきながら周囲の安全確認をこなして潜り込む朔也である。

 そしてようやく、初の“墓地エリア”の4階層をその目にする事に。





 ――そこは荒廃した、夕暮れの戦場跡地だった。







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