第82話 初の剣術指南



 あっという間に1限目は終了して、朔也さくやの感想は歴史の授業は面白かったなぁって思い。確かに普通の学校では、習わない内容だったかも知れない。

 授業の後の講堂も、そんな感じである種の熱気に包まれていた。多かれ少なかれ、“オーバーフロー騒動”で肉親を失った者達は、改めて探索者になる誓いを立てているのかも。


 そう言う意味では、探索者と言う職業も世間の評判がもう少し高くても良いのかも。世間からは、命を懸けて危険なダンジョンに潜る酔狂者とか思われているようだが。

 実際は、何度も話題に上がる“オーバーフロー騒動”に対する防御策としての、間引きを行うプロ集団なのだ。その見返りとして、魔石や宝箱からの回収品を得るみたいな。


 それにしても、昔の探索者は相当にダンジョン攻略には苦労したらしい。被害者も多く出て、それを命じる政治家はドロップ品を独り占めしようとしていたそうだ。

 それが自衛官の反乱へと繋がって、協会の発足に辿り着いたとは皮肉な話である。そこからこの『探索学校』に至って、今は卒業生も20期以上いるのだとか。


「そう思うと感慨深いわね、死傷率の低減は協会でも長年課題になっていたそうだけど。念願の学校が出来てからは、随分とマシになって来ているようね。

 まぁ、この学校を卒業せずに探索者になる者も相変わらず多いみたいだけど」

「そりゃあ、それなりにお金掛かるからなぁ、この学校に入学するのにも。ただまぁ、午後から自由に使えるダンジョンを抱えている点とか、特典は多いからなぁ。

 そう言う意味では、至れり尽くせりな場所ではあるよね、みのりちゃん?」


 西田の下の名前はみのりと言うらしい……そうねと返す西田は、顔を近付ける越水こしみずを邪険に遠ざける仕草。仲が良いのか悪いのか、傍目はためからは良く分からない。

 良かったら、お試しで午後から一緒に探索しないかと、昨日に続いてのお誘いが西田から。モテモテなのは嬉しいが、相変わらず午後の予定で断らざるを得ない朔也である。


 後ろの席の室岡むろおかからは、スキルの所有数を明け透けに尋ねられてしまった。とは言え、これは相手の実力をある程度推測する、手っ取り早い手法らしい。

 さすがに、詳しい所持スキル内容を聞き出すのは、同級生の間柄でも作法違反みたいである。それを聞いて、朔也は思わずホッと胸を撫で下ろす。

 さすがに《カード化》の事は、学校内で公言出来ない。


「えっと、普通のスキルが4つに武器スキルが1つですね……多いか少ないかは、初心者なんで判断が出来ませんけど。

 平均って、そもそも幾つくらいなんですかね?」

「いや、4つはさすがに多いだろう……レベル10未満なら、2つ持ってれば多い方だぞ? かなりのエリートだな、君は……それなら、チーム組にあぶれる事は無いだろう。

 女子チームが嫌なら、ウチのチームも歓迎するぞ?」


 だから午後は予定があると言うのに、話を聞いていない男である。西田の言う通り、残念な性格と言うのは当たっているのかも知れない。

 そんな内心を顔に出さず、午後からは特別訓練をする予定とその誘いを断る朔也。それは残念と、あまり残念そうではない室岡の返事はまぁ当然だろう。


 どこの馬の骨とも分からない人材を、ホイホイ自分のチームに迎え入れるのはそれなりにリスクがある。お試しなら良いが、変な奴を抱え込むと大変だ。

 それにしても、どの生徒も放課後のチーム編成は熱心なようだ。それだけ探索演習は、みんな苦労しているって事なのかも知れない。




 そんな事を考えていたら、2限目の開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。それと同時に講堂に入って来た先生を見て、あの教授は名物先生だよと隣の西田の呟き。

 どうやら話が面白いらしく、生徒にもファンが多いそうだ。それは面白そうだと、朔也もちょっと前のめりに講義を聞く構え。


 内容としては、探索チームのそれぞれの職業の役割みたいな話のようだ。前衛とか後衛とか、斥候役とか回復職とかそんな感じでチームを組もう的な講義みたい。

 ところが、スキル書で獲得出来るスキルは圧倒的に前衛職が多いそう。魔法や回復職系のスキルは超レアで、滅多に出ないとの話である。


 次に多いのが探査とか斥候系で、いわゆるシーフ技能のスキルとの事。後衛で言えば、次に多いのが弓職系や投擲とうてきスキル系であるらしい。

 朔也や畝傍ヶ原うねびがはら家の持つ《カード化》スキルは、超々レアも良い所なのは確定である。『能力の系譜』の称号で、現在は従兄弟たち10名以上が使用可能だが、それもこの40日で消失する運命らしい。

 祖父の遺言カードを獲得した者のみが、称号とスキルを継承出来る可能性が。


 そのハードな争奪戦に思いを馳せていたら、講義の内容は脱線して教授の探索者時代の話になっていた。そのハプニング的な思い出話は、確かに聞いていて面白い。

 話し方もテンポや掴みが凄く良くて、講義中にも関わらず時折笑いが巻き起こっている。それから講義は、現役探索者の動画も流れ始めて更なる盛り上がりへ。


 スキルに関しては、取得失敗も多くて、使ったスキル書は消失するので大損である。それを恐れず、可能性にかけてどんどん使って行こうと教授は強くなるためのアドバイス。

 それでも1つあるとすれば、スキルの取得はその人の願いや得意な事が引っ掛かる場合が間々あるのだそう。例えば、喧嘩に慣れてる人が『格闘』スキルを取れたり、心優しい人が『治療』系のスキルを取得したり。


 そう言う事案が報告されているので、常に色んな方面に興味を持つのはとっても大事だと教授の助言が。実技にしても、取り敢えずは使わない武器も触ってみるのも一案なのだそう。

 そうすれば、何かで引っ掛かる可能性も数%だけど出て来るかもと。ちなみに、さっき室岡が言っていたように、レベル10未満のスキル所有数は2つあれば上等みたい。


 それから、スキル書で覚える一般スキルと、オーブ珠などから覚える特殊スキルの違いなども話に上がった。オーブ珠の特殊スキルは、一般スキルに較べると強力な物が多いそうな。

 もちろん一般スキルも、使い方次第では物凄く探索の役に立つそうだ。後は使い手との相性や、それから熟練度でそれこそ特殊スキル並みに強力になる事例も報告されているのだとか。


 面白いなと思いつつ、この場にいる生徒達は教授の講義に聞き入っている。とにかく探索者が、手っ取り早く強くなる方法はこのスキル書の存在に他ならない。

 それこそ、レベルの恩恵よりもずっと効果の高いスキルの取得は、ある意味探索者たちの憧れでもある。そんな訳で、他人のスキルを聞き出す行為はあまり推奨されてないとの事。


 感覚的に言えば、他人の貯金額を聞き出すみたいな行為に相当するのだろうか。親しい間柄なら、まぁ許されるかなって感じみたい。

 とは言え、チームを組むのならその辺の確認は当然しておくべきではある。命を預ける間柄になるのだし、信頼を得るのは探索者で言えばやはりスキルの有無に他ならない。


 そんな探索に直接関係する話は、やっぱり生徒達も身を入れて聞き入るみたい。ようやく講義の終わるチャイムが鳴った後も、そこかしこで生徒同士で話し合う姿が見られる始末。

 ところが朔也は、やや慌てた感じで席を立ちあがって移動する破目に。次が実技だと隣の西田に告げると、1階まで降りて実技場の隣がロッカールームだと教えてくれた。


「ああ、剣術のC級の実技を取ってるんだ、それは急がないと……この学校、教室移動が割とある癖に休憩時間は10分しかないんだよね。えっ、百々貫とどぬき君は初の実技なの?

 それは頑張って、C級は基礎からだから大変だよ」

「剣術のC級は生徒数もかなり多いから、色んな人と話が出来るんじゃない? まぁ、実技初日を楽しんでねっ、百々貫とどぬき君っ!

 おっと、みのりちゃん……私達も教室移動だっ」

「ありがとうございます、頑張って来ますね」


 そう言って、朔也たちは慌しく教室の移動を果たすべく廊下へと退出する。唯一残った室岡に会釈すると、向こうは眼鏡をクイッとあげて良く分からない仕草。

 彼なりのエールだと解釈して、朔也は言われた実技場横のロッカー室へと急ぐ。ギャルの越水こしみずの言う通り、そこには多数の生徒が今も着替えに入って行く姿が。


 そのロッカー室もなかなかの設備で、個人用ロッカーにはしっかり鍵も掛けられる仕様となっていた。真新しいジャージに着替えると、周りの男子生徒も似たような姿で思わずホッとする。

 取り敢えずは悪目立ちはしていないようで、その点は何より。


 それから実技場へと素早く移動、そろそろチャイムもなる頃なので周囲の生徒達も急ぎ足である。体育館に似たその設備の中には、男女合わせて40人程度の生徒の姿が。

 平均年齢は、やはり十代後半と言った所だろうか……男子生徒の割合が多いけど、それでも6割から7割って感じの差だ。生徒の中には、用具を準備する者も何名か。


 体育委員とか、そんな存在だろうかと朔也は首をひねりつつ不思議顔。それとも講師の助手なのかも、良く分からないけど手伝うべきだろうと判断して声を掛けてみる。

 すると、がっしりした体型の若者があっちのキャスター付きの用具箱を運んでくれと言って来た。その中身だが、どうやら木刀が仕舞い込まれているようだ。


「助かるよ、前の実技は弓術だったせいで切り替えがドタバタしててね。おやっ、君は見掛けない顔だな……ああっ、そう言えば時季外れの新入生が昨日入学して来たって話だったかな。

 初めまして、僕は篠原しのはらと言って体育講師の助手をしている者だ」

「よろしくお願いします、百々貫とどぬき朔也と言います」


 そんな自己紹介をしている間に、3限目の開始のチャイムが鳴り響いてしまった。慌てて準備に奔走する篠原しのはらと、実技場の中央に集合をし始める生徒たち。

 それからすぐに、実技場の奥の扉が開いて強面こわもての教師が姿を現せた。朔也の中学校も、体育の先生は何故かいかつくて怖い印象があった。


 それを思い出して、やっぱりそれが伝統なのかなと妙な事を考える朔也である。それ以上にマッチョな教師が最初にしたのは、タブレットを使っての出席確認だった。

 実技はさすがに、講堂のシステムみたいに勝手に出欠の確認は出来ないようだ。朔也の名前も無事に呼ばれて、マッチョ教師がおやっと言う表情に。

 そこに隣の篠原が、新入生ですとの耳打ちが。


「ああっ、そうか……私はこの学校で、剣術と格闘を教えている近藤だ、よろしくな。実技場は2つしかないが、実技の選択は剣術や槍術や格闘、それから弓術や棒術と多くてな。

 それに加えて、それぞれAクラスからCクラスまであるから、教師の数もこの実技場の稼働率もフル回転の状態って訳だ。生徒側の要望の中にも、もっと実技を増やして欲しいって声も多数あるんだが。

 今の所は、カリキュラムの変更は無いみたいだな」

「そんな連中は、午後からこの実技場で自主練をしたりと工夫しているね。百々貫とどぬき君も、早く上のクラスに上がりたいなら自主練も組み込むと良いよ。

 もっとも、午後は施設内のダンジョン探索で実践を積む生徒も多いけどね」


 体育教師の近藤と、その助手の篠原の助言を聞きながらなるほどと頷く朔也。40名近い生徒達も、思う所があるのかその瞳はギラギラとしたものが多い。

 さすが、一人前の探索者を目指す者達は講義を受ける気迫からして違う。ましてや実技ともなると、実践を想定して気合も入りまくりなのだろう。

 これは朔也も、気合を入れて挑まないと出遅れてしまいそう。





 ――既に1か月遅れている身としては、それは是非ぜひとも避けたい所。






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