第80話 巨人と親族会議
不意打ちを仕掛けられるなら、あのサイズの敵も何とかなるかも知れない。
例えば1つしかない目を潰すとか、こちらの最大戦力を召喚してぶつけるとか。色々とやり様はあるけれど、考えに時間を掛け過ぎると向こうは離れて行ってしまう。
今が絶好な不意打ちのチャンス、それを逃すとこちらの接近を気付かれる確率は高まって行く。そんな訳で、朔也はカー君と獅子娘さんを送還する。
そして自身の最大戦力の、フェンリルを召喚する事に。
「えっと、よろしく……」
「……」
ところで、C級までランクダウンした筈のフェンリル(幼)だが、サイズ的には白雷狼より断然大きい。ちなみに、白雷狼も同じくC級である。
ようやく召喚して姿を見せたお仲間に、お姫はフランクによろしくとの対応振り。そこだけ和み空間が発生してるけど、時間は待ってくれない。
朔也は素早く作戦を皆へ告げて、奇襲をかけるよと1つ目巨人を指差してゴーサイン。森の茂みに潜んでいた一行は、それを受けて一斉に巨体へと襲い掛かって行く。
その狩りの模様は凄まじく、不意を打った有利を差し引いても一方的だった。完全に出遅れた朔也やエンは、1つ目巨人が地面に倒れて行くのをただ見守るだけ。
その戦闘の主役は、言うまでもなく新人のフェンリル(幼)だった。白雷狼を従えてのハントは、巨人のサイズ感など物ともせずと言った感じ。
1つ目巨人を転ばせたのは、
この感じでは、恐らく正攻法でも負けはしなかったかも。それより討伐後に出て来た小さな宝箱は、何となく特別感に溢れている気がしてドキドキな朔也である。
お姫も寄って来て、これは良いモノ入っているぞと期待に
期待したその中身だが、どうやら薬品が2本に腕輪が1つと意外とシンプルだった。ただし、その腕輪は魔法アイテムのようだとお姫が興奮している。
『巨人の腕輪』(支配ユニットの体力増強)
気になるので鑑定の書で調べた所、何とも変わった能力が付与されていた。こんな魔法アイテムが出て来るダンジョンの不思議、まるで祖父と血の契約でもしているような?
その辺の詳しい事は不明だが、取り敢えず無事に大物を倒せてホッと一息の朔也であった。その討伐に大いに貢献したフェンリルは、
何にしろ、ここまで既に2時間は経過して時刻は既に6時前である。そろそろ探索を切り上げて、夜の親族会議に備えておかなければ。
今日は探索時間はいつもに較べて短かったけど、慣れない講義を受けて疲れているのも確かである。探索で歩き回るより、ある意味精神的に消耗してしまった感じも。
そんな訳で、朔也は帰還の巻物を使ってダンジョンを後にする事に。召喚ユニット達にお疲れ様と言葉をかけるけど、彼らからの返答は当然無し。
それでも今や、朔也の大事なチーム員たちには違いない。感謝を込めて送還した後に、自身は巻物で出現したゲートへと飛び込んで行く。
そうして、久々の丘陵エリアの探索は無事終了に
それから夕食を部屋でとって、後の暇な時間は買い物で揃った服や小物の整理など。そんな感じで時間を潰していると、いつものように
そして本館へと移動、初日に親族が集まって祖父の遺言を言い渡されたあの部屋である。そこの末席に朔也が座ると、後から続々と親族たちも部屋へと入室して来た。
そして5分と待たずに、一番最後に新当主の
そのせいなのか、叔父たちや従兄弟たちの顔は険しい感じを受ける。談笑している者は見当たらず、室内は重々しい雰囲気が立ち込めている。
そんな中、新当主の
つまりは、2名の脱落者が出た件について触れ、それを聞いた
直接は関係のない朔也だが、多少は関わっているせいで内心では冷や汗状態である。話の中心の【鬼
不満そうな
「
少なくとも、親父の
皆も、ダンジョンに嫌われる行為は避けるように忠告しておく」
「俺たち兄弟4人の中では、《カード化》スキルは兄貴2人しか発現しなかった訳だが。親父が死んだ後のこの騒ぎは、一体何が原因なんだろうな?
本当にスキルやダンジョンの意思ってんなら、背中が薄ら寒くなって来そうだけど」
「冗談を言わないで頂戴、
その辺はどうなの、
新当主の
それより続いて、諸々の探索に関する報告が老執事の
それから、従兄弟たちの
大事なのは結果であり、それはつまり祖父の遺産カードの獲得に過ぎない。それから言うまでもないが、称号『能力の系譜』を受け継いでの《カード化》スキルの獲得である。
これが
祖父の
なるほど、確かにそう考えると全ての
或いは称号の策略なのかも、亡くなった祖父は大きな爆弾を孫たちに残して行ったモノである。それに振り回される朔也や従兄弟たちだが、その心中はそれぞれ違うのも当然だ。
それでも、欲深かった
そのせいで、2枚目の祖父の遺産カードをゲットした朔也への注目が、少しでも外れてくれれば
「先ほどの
目玉としては、月曜と水曜日に執務室の隣の売店で、新品の召喚カードを売り出す事となる予定でございます。それから今までは行っておりませんでしたが、召喚ユニットの買い取りも始める事となりました。
不必要なカードは売却して、購入予算の足しにして頂ければ」
その報告には、今まで一言も口を出さなかった従兄弟たちから、おおっと歓迎の歓声があがった。朔也も同じく、その手の強化はとっても有り難い。
もっとも、資金が圧倒的に豊富な従兄弟たちの方が、この情報に関しては有利だとは思われる。朔也としては、探索でコツコツと資金を稼いで行くしか手はない。
それでも、探索学校に通い始めるよう言い渡された手前、自然と探索時間は減って行く。そこに新たなカード取得ルートの提示には、ちょっと興奮する情報だ。
後はお金の工面だが、不必要なカードを売れるそうで何とかなりそう。召喚デッキの整頓にもなるし、これは良い改変かも知れない。
そんな事を考えていたら、次の新当主の発言に思わず引っくり返りそうになる朔也である。何と希望者は、『探索学校』に通えると従兄弟たちに対しての爆発宣言。
朔也は強制だったのに、他の連中は選択が可能らしい。それにも腹が立つが、なるべく従兄弟たちとは行動を共にしたくないのが朔也の本音。
そっと連中の顔色を窺うと、どうやら従兄弟たちも戸惑っているらしい。今後の事を思うと、探索者の基本を正しく学ぶのは確かに有用なのは分かり切っている。
ただし、年長組はそんな新当主の提案に、あまり乗り気では無いみたいで良かった。学校でも従兄弟たちと顔を会わすなんて、ストレス以外の何物でもない。
「タイムリミットは1ヶ月以上先ではあるが、
この称号と特殊スキルは、我が家系に引き継がれるべき最上の財産である。もちろん、これを引き継いだ者が次期当主となるのは、お前たちの想像通りだ。
この争奪戦は、兄弟同士だろうと妾の子だろうと立場は全く関係ない」
新当主の
新当主の発言は、ある意味公平ではある……ただし、従兄弟たちからしたら余計なライバルを増やしたくないってのが本音なのだろう。
特に朔也など、偶然だが2枚も祖父の遺産カードを回収した実績持ちなのだ。次期当主の座に一番近いとも言えるし、邪魔者扱いされて当然かも知れない。
喜んでいいのか余計な事をと憤慨するべきなのか、その発言に複雑な胸中の朔也である。まぁ、自分にも当主になる資格があると分かって良かった。
これでこの先の探索作業が、無駄にならずに済むって事だ。
――とは言え、朔也に積極的に当主を狙う意思は全く無し。
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