第79話 丘陵エリアの4層へ



 さて、丘陵エリアの第3層である……さっきの層も30分近く掛かったので、既に探索時間は1時間を超えてしまっている。それに関しては、敵との遭遇も多かったので仕方がない。

 広いエリアなのに、他より敵との遭遇が多いのはちょっと不思議かも。丘の厚みで視界は良好とは言えないこのエリア、不意の遭遇戦も割と多い。


 幸いにも、こちらの斥候役は優秀なので酷い不意打ちは今のところ受けていない。その為に、被害は戦闘で無茶をした赤髪ゴブのみで良い調子である。

 朔也さくやは怪我した赤髪ゴブの代わりに、白雷狼を召喚して獅子娘さんと組ませてみる事に。この機動性のある2体のユニットは、この広いエリアでは活躍してくれるかも知れない。


 そんな思いでの探索だけど、3層も敵は結構な頻度で出現して来た。特に群れを成して駆けて来たダチョウ型モンスターにはド肝を抜かれてしまった。

 これには盾役パペット達が大活躍、そして獅子娘さんと白雷狼のペアも敵の殲滅に一役買ってくれた。その機動力は、ダチョウの脚力にも引けを取らない勢い。


 朔也も何とか、敵の1体を始末する事に成功して《カード化》も無事に発動に至ってくれた。運の良い事に、新種のモンスターの捕獲に成功した事になる。

 このダチョウ型のモンスター、狂暴そうだけど騎乗とか出来ないだろうか? そうすれば、機動力の高い探索も将来的に可能になるかも知れない。


【狂暴ダチョウ】総合F級(攻撃E・忠誠F)


 それは楽しそうと考えながら、朔也はカードを眺めて1人ニンマリ。そこまで召喚カードに汎用性が出て来ると、戦っていても楽しいだろう。

 そんな将来はともかくとして、カー君が次なる敵の接近を鳴き声で知らせて来た。朔也はすぐに気持ちを切り替えて、戦闘準備をチームに呼び掛ける。


「それにしても、ここは忙しいエリアだなぁ……今までで1番、戦闘密度の高いエリアかもだね、お姫さん。おっと、今度はオーク兵の一団みたいだね。

 これまたぞろぞろ、集団でお出ましだよ」


 そう呟く朔也に、お姫もやっちゃいなさいと鼻息も荒くチームへの指示出し。向こうも丘を越えて出くわした一団を発見して、興奮したように戦闘を吹っ掛けて来る。

 オーク兵の一団には、弓兵や槍兵も2体ずつ混じっていて編成は良さそうだ。こちらはいつもの通り、そんな連中にまずは遠隔攻撃を浴びせかける。


 向こうからも弓矢が飛んで来るが、それはコックさんと箱入り娘が全て防いでくれている。遊撃に丘へと駆け上った獅子娘さんと白雷狼が、サイドから奇襲を仕掛けようと回り込む。

 その作戦が上手くまって、オーク兵の統率はあっという間に総崩れに。接近戦を挑もうと駆け寄って来る雑魚兵たちは、何も考えずにパペット達と最初の衝突。

 派手な音が周囲に響いて、さすが重量級同士の戦い。


 それでも遊撃隊の活躍で、すっかり敵兵の弓矢攻撃は止まっていてくれて大助かり。そして今回も、盾役パペットが敵の足止めに奮闘してくれて、朔也としても安心して攻撃に参加出来る次第である。

 特に青トンボが傷付けていたオーク兵は狙い目で、朔也もその手の嗅覚は備わって来ていた。今回の大量のカード化成功も、そのせいってのも大いにあったりして。


 今も1枚【丘オーク兵】を獲得して、3層の探索も絶好調である。獅子娘さんと白雷狼のコンビも、後衛にいた4体のオーク兵の討伐が完了したみたい。

 こちらも突っ込んで来た連中を、事故もなく全て倒して戦闘終了の運びに。5分程度は掛かったけど、3層の戦闘にしてはまずまずの成果だと思いたい。


 ドロップ品には魔石(小)や石槍、石の斧や銀貨や銅貨などが混じっていて結構な報酬と言えそう。それを拾って回っていると、不意にカー君が警戒の鳴き声を発した。

 驚いて上空に目をやると、別のカラスがドロップ品を狙って急降下中と言う非常事態。なるほど、確かにここにはカー君の仲間をゲットしたエリアではあった。

 朔也は大慌てで、そいつの撃破指示を仲間へ飛ばす。


 青トンボのエアカッターは、しかし残念ながら片方の翼にかすっただけの結果に。獅子娘さんの炎のブレスも、射程の短さが災いして命中には至らず。

 ところが、さすがC級ランクの白雷狼は優秀だった。盗賊カラスが魔石を拾おうと、地面に近付いた瞬間に雷光を放っての捕獲作業。


 そこに駆けつけた朔也が、麻痺のショートソード+2で何とか止め刺しに成功した。カード化にも成功した感触に、思わずガッツポーズで喜びの表現。

 それを冷めた目で眺めるエンと、一緒に喜んでくれるお姫と言う構図に。やっぱりお姫は優しいなと、今日の9枚目のカード収穫に自身でも驚きの朔也である。


「凄いな、こんなにカード化に成功した事は今まで無かったんだけど。この丘陵エリアは、何か特別なのかなぁ……それとも、別の要因があるとか?

 分かんないけど、早めにノーム爺さんの合成装置に行きたいよねぇ」


 お姫もウンウンと頷いてくれるけど、夜は館の新当主が招集をかけているそうなので時間がない。夕方に少しだけあるが、下手に慌てて館内を動くのも怖い気が。

 そんなあたふたした状態で、下手を打って他の従兄弟たちに“訓練ダンジョン”の場所を感付かれたら嫌過ぎる。別に独り占めするつもりは無いのだが、連中がノーム爺さんに酷い事をしない保証が無いのが怖い。


 そんな事を思いながら、今日の戦果を確認する朔也は思わず口元をほころばせてしたり顔に。それから小休憩の後に、今日の目標層のゲート探しへと再出発。

 ゲートの発見はカー君に丸投げだが、一番頼りになる斥候ユニットなのでその辺は仕方ない。そんな感じで土の剥き出しの街道を進む事10分以上、ようやく怪しい場所を見付けた。




 それは崩れかけた砦みたいな施設で、或いは関所の名残なのかも。街道を塞ぐように造られているのだが、今はその名残もほぼ無い有り様。

 そこに巣食っていたゴブリンとオーク兵達を始末して、いざ4層へと渡って行く朔也チームである。最近はすっかり、4層到達が平均アベレージになって来た。


 それだけ力がついて来たって事だが、まだ5層にあると言う中ボスの間は1度も拝んだ事がない。無理すれば可能かもだけど、やっぱり命は1つなのだ。

 そこまでして危険に足を踏み込んで、得られるのは宝箱や経験値でしか無い。それなら他の層でも得られるし、祖父の遺言の猶予ゆうよはまだ1か月以上もある。


 他の従兄弟たちとの兼ね合いもあるけど、朔也としてはこの“夢幻のラビリンス”攻略はゆっくり進めて行くつもり。召喚ユニットを強化して、それから自身もある程度レベルを上げないと。

 その手間をおこたれば、安全度はいつまで経っても上がらないだろう。


 それより丘陵エリアの第4層だが、先ほどまでと少々相違点が出て来ていた。朔也チームが出現したのは半壊した砦跡地で、その近くにこんもりとした森林が窺える。

 そこに敵の気配が見え隠れしており、カー君もそちらをまず警戒しているようだ。朔也も目を凝らして確認した所、どうやら狼の群れが下生えの茂みの中をうろついている模様。


 結構な数がいるみたいで、囲まれたくはないのでいったん放置が良いのだろうか。それも他の敵に遭遇した際に、戦闘中に不意討ちされないとも限らない。

 そう考えると、先に始末が望ましい気もする……向こうも虎視眈々こしたんたんと、こちらが隙を見せるのを待っている気がしてならない。


「うわっ、邪魔だなぁ……明らかにこっちをタゲってるのに、向かって来ないって。こっちが弱るのを、奴らはじっと待ってるのかな?

 仕方無い、こっちから向かおうか?」


 そう言って森へと向かう一行だが、敵の数が木々に阻まれて良く分からないのが怖い。そこで朔也は、箱入り娘を引っ込めて攻撃ユニットを増やしておく作戦に。

 そんな訳で、森でも有利そうな殺戮カマキリを召喚して遊撃部隊を増やしてみる。敵との距離は半分ほど詰まったけど、未だ敵の襲撃は無し。


 結局は、敵が襲い掛かって来たのは、こちらが完全に森の中に足を踏み入れてからの事。罠仕掛けっぽいこの戦闘だが、どっこいこちらもユニット数は負けていない。

 とは言え、敵の総数も定かで無くてあちこちで敵とやり合う声で想像するしかない。朔也もコックさんと共に、木々に囲まれたフィールドで狼2匹と対戦中。


 多少体格は良くなってるが、この狼は1層から出現していて既に見慣れた敵でもある。さほど苦労せずに討伐に至って、そこはコックさんのナイスフォローもあって助かった。

 もっとも、そのフォローも朔也の指示出しが無いと動いてくれないけど。とにかく次の獲物を求めて、朔也はコックさんと共に戦いの音を頼りに移動する。

 そしてバッタリ、敵のボス狼と遭遇してしまった。


 ソイツは双頭狼で、体も他の奴より大きくて迫力があった。部下の狼を2匹ほど引き連れて、茂みから飛び出して来た朔也を見初みそめてニタリと笑った気が。

 恐らく見間違いだろうが、目論見通りに敵を分断出来たのを喜んでいるのは確かだ。そして早速、部下の狼達がこちらへと襲い掛かって来た。


 それをコックさんに命令してブロックする朔也、手にした麻痺のショートソード+2で素早く盾に衝突した奴を始末する。衝撃で目を回していたそいつは、朔也の『急所突き』に呆気なく魔石にと変わって行った。

 もう1匹は、コックさんの腕に噛み付いて奮闘中の模様である。同時にボスの双頭狼も突っ込んで来て、これには朔也も肝の冷える思いで応戦する。


 一緒に飛んでいた妖精のお姫が、魔玉を使ってサポートしてくれている。それにもひるまず咬み付きを敢行して来た双頭狼は、2つある頭のお陰でその威力も倍である。

 朔也も購入した盾で防御するが、ボス狼の2つの頭はかなり厄介で、それを容易にすり抜けて来る。体格もそうで、巨体を利用されて危うくマウントを取られそうに。


 それに横槍を入れて来たのは、仲間の召喚ユニットの白雷狼だった。双頭狼と体格的には同じ位だろうか、体当たりと共に雷撃を喰らわせて早くも優位に立っている。

 朔也もそれに気付いて、素早く反撃へと転じる。半分スッ転がされていた体勢から、腰を捻ってショートソードを狼の柔らかい腹へと突き刺してやる。


 幸いにも、その攻撃にも『急所突き』が乗って、ボス狼の2つの口からギャンッと言う悲鳴に似た哀れな声が。それが止めとなったのか、双頭狼は光と共に消えて行ってくれた。

 それからドロップ品に、魔石(小)と狼の毛皮が。ついでに《カード化》にも成功して、ナイスサポートの白雷狼には感謝しかない朔也である。


【双頭狼】総合E級(攻撃D・忠誠F)


 相変わらず忠誠度の低いユニットだけど、そこそこ使える戦力にはなってくれそう。機動力のあるユニットが増えてくれると、作戦に幅も出て来ると言うモノ。

 そんな事を考えていると、森の入り口の戦いもいつの間にか収束していた。チームの面々を呼び戻すと、幸いにも欠けたユニットは無かったようで良かった。


 ついでにカー君が、ドロップ品集めに貢献してくれて魔石の回収も何とか済ます事が出来た。ホッと一息ついていると、何だか地面の揺れを感知して朔也は驚いて身構える。

 何だろうと思っていると、カー君が森の切れ間へと主を案内する素振り。そっとそれに従うと、意外と近くを巨大な影が通り過ぎようとしていた。

 見上げる程の身長のそいつは、何と1つ目巨人である。





 ――7メートル級のそいつは森にいるこちらに気付かず、さてどうする?








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る