第64話 リドル部屋の新たな仕掛け



 朔也さくやが弓スケを送還して、落とし穴を上ってみるといつの間にか扉は開いてくれていた。良かった、変にアンコールを強制されて、余計なダメージを負いたくなどない。

 朔也は、自身の負傷はポーションで処置を行って、一緒に落とし穴に落ちた箱入り娘をチェックする。彼女もダメージは負ったけど、送還する以外に召喚ユニットの負傷を回復出来ないのが地味に痛い。大事な盾役なので、出来ればこの後も一緒にいて欲しいのだが。


 妖精のお姫も困った表情、さすがの彼女もその方法は知らないみたい。まぁ、そこは仕方がないし、箱入り娘には何とか最後まで頑張って欲しい。

 それとも、D級の装甲クモあたりと配置交換すべきだろうか。コイツも忠誠度はDあるので、言う事を聞かなくて暴走するって事もないだろう。


 お姫と話し合った結果、戦いで倒されて再召喚まで時間が掛かるよりはと、お試し交換してみる事に。つまりは箱入り娘をお休みさせて、代わりに装甲クモが前衛盾役に。

 とは言え、コイツは攻撃力の評価もDあるのでそれなりに強い筈。ついでにサイズ感もパペットの箱入り娘より大きいので、今までとは勝手が違って来る。


 今まで箱入り娘の頭に止まっていた青トンボも、どこに止まればいいのって混乱している模様。結局は、クモの胴体に着地するのは諦めて、空中でホバリングしてついて来るみたい。

 代わりに、装甲クモの上に陣取ったのは人魂だった。この辺の位置取りのみょうは分からないが、とにかく朔也チームの進行はその後至って快調に。


 どうやら、装甲クモも防御的な戦いは十八番おはこみたいで何よりだ。それから、相変わらず迷彩の敵を発見して倒してくれる、殺戮カマキリの頼り甲斐は凄いかも。

 お陰で追加で5匹、敵を倒し終えての3度目の扉前である。今回も前回2度と同じ仕様みたいで、スタートボタンに解答パネルの位置も全く同じ。

 それから、問題用のモニターの位置も同じく中央に。


「さて、お姫さん……今回はバッチリ正解を引き当てて、罠無しで突破と洒落込もうじゃないか! そんな訳で、お姫さんは前半3つを覚えてくれない?

 後半の4つ以降は、僕が何とか覚えるから」


 その提案に、お姫はオッケーと小さな指でサインを返してくれた。それからモニターの前に居座って、どんと来いってな感じのリアクション。

 そこにいられると見辛いのだが、まぁ何とでもなると思い直して気合いを入れ直す朔也。それからお姫の斜め方向に陣取って、いざポチっとスタートボタンを押してやる。


 相変わらずモニター表示の流れの速い事、1枚につき1秒も表示してない気がする。そして表示された色の数は、今回は7色だった模様である。

 解答パネルは6色なので、1色は2度表示された可能性が高い。それより朔也の方だが、後半の4つの解答に関して実は記憶があやふやだったり。


 まぁ、この前半後半の解答方法だと、どちらが間違ったか分からないのが良い。そんな訳で、お姫が3つ答えた後に、朔也も続けて4色を連続で押して行く。

 そして咄嗟とっさに、上下左右の罠の発動に備えて背後に飛んで逃げる朔也であった。その目の前で、何事もなくスーッと開いて行く遺跡の扉。

 頬を真っ赤に染めた朔也は、コホンと誤魔化ごまかしのせきを1つ。


「いやぁ、僕の最後の4つ目の記憶が、凄くあやふやだったからさ……もちろん、お姫さんの方の解答を疑ってたわけじゃないよっ?

 それは当然でしょ、そこは信じて欲しいなっ」


 ジト目でにらんで来るお姫に対して、必死の言い訳を述べる朔也である。それより開いた扉の先は、小部屋になっていて宝箱が1つ置かれていた。

 それに気付いて、途端にご機嫌になる朔也とお姫。他の面々もぞろぞろとついて来て、中身の回収を近くで見守ってくれる。


 その宝箱だけど、中にはスキル書が1枚と魔玉(風)が8個、銀貨が30枚くらいに魔結晶(中)が3個入っていた。それからマント装備と、トランプやウノや花札と言ったカードゲームが数種類。

 良く分からないが、ダンジョン的にはこだわりがあるのかも知れない。ちなみにマントは魔法装備らしく、ステータスアップ効果が付いていた。


『旅人のマント』(防御&体力+2)


 まずまずの良品だし、このエリアは苦労の分だけ回収品も多いみたい。スキル書を見たのも久々だし、何か覚えられたら更に戦力アップとなってくれそう。

 そんな事を考えながら、朔也は次のフロアの入り口を見遣る。その開かれた扉の上には、数字のゼロが描かれてあって何かの手掛かりなのかも。

 また今度のフロアは、別の仕掛けがあるのかも知れない。



 つまりは3つ目の仕掛けだが、一体このエリアは幾つのフロアがあるのやら。まぁ、その分だけ宝箱が発見出来れば、朔也としては言う事は無い。

 とは言え、召喚ユニットにもダメージがあるし、あまり無茶はしたくないのが本音ではある。階層での把握が出来ないエリアは、斬新だけどそう言う勘定が出来なくて大変だ。


 普通のダンジョンだと、もう4層に来たから敵も強くなって来るかなぁとか把握が可能なのだけど。今回のリドル部屋は、止め時が分からなくてちょっと怖い気も。

 謎解きゲームに失敗した際には、罠も発動するようでそれも大いに怖い所。さっきもスライムにたかられて、おぼれ死にそうになってそれなりの恐怖を味わった朔也である。


 ところで今回の仕掛けだが、どうやら通路は迷路になっているようだ。幾つも分岐が存在して、そのせいでモンスターの奇襲も2度ほど近距離で受けてしまった。

 どうやら、今回は迷彩のカメレオンが壁に張り付いていたらしい。それからイミテーター系の敵が、壁の飾りに化けて待ち構えていた。


 引き続き『魔力感知』を自身に掛けていた朔也は、何とかカメレオンの討伐に成功した。イミテーターは殺戮カマキリが倒してくれて、魔石(微小)をドロップ。

 待ち構え以外の敵もいて、大トカゲが単体で迷路の通路に居座っていた。そちらは主に、遠隔攻撃からエンが始末して朔也の出番は全く無し。


【迷彩カメレオン】総合E級(攻撃E・忠誠F)


 そしてこの迷宮の仕掛けだが、さっきの入り口みたいな石造りのゲートが通路のそこかしこに。そこには何かの紋様が描かれていたり、数字が描かれていたりと様々。

 彷徨さまよい歩いた末に、そんな石造りのゲートを幾つか発見した朔也チームの面々。お姫は迷わず、“1”と描かれたゲートを指差している。


 なるほど、入り口ゲートに“0”の数字があったので、確かにそれを引き継ぐならそちら一択だ。朔也は相棒を信じて、迷わずそちらに進む事に。

 それから追加で、篝火かがりび台にふんしていたイミテーターを人魂が討伐してくれた。変身を見破る能力が宿ったのかと思ったが、どうやら当てずっぽうだったみたい。


 それでも人魂は、何となく人の感情みたいなモノを感じる時があって面白い。お姫のように、積極的にコミュニケーションを取ろうとは思わないが、良い相棒になる可能性も。

 それはともかく、その後も迷路を歩き回って順調に“2”と“3”を発見。順番に石造りのゲートを潜り抜けて、その先で“4”のゲートも発見した。


「何か順調に来てる気がするけど、それって間違いじゃ無いよね、お姫さん? 何番目がゴールになってるのかな、半分は来てるといいけど」


 小首を傾げるお姫だが、両手をパーで示すに“10”辺りがゴールじゃないかと見当をつけているよう。そうすると、まだ半分も来ていない勘定になる。

 朔也が先ほどから使っている『魔力感知』だが、持続時間が10分しか持たないので燃費は良くない。そろそろMP回復ポーションで、MP補充すべきかも。


 その後の道のりも敵の遭遇は頻繁に起きて、途中からリザードマンも出現するようになって来た。その時の戦闘では、装甲クモが大活躍で盾役を見事に果たしてくれた。

 と言うか、お姫の召喚ユニットへの指示出しは完璧で、これは引き続き彼女に頼んだ方が良いかも。ちなみに、リザードマンへの止め差しはエンに取られてしまった。


 その代わり途中の不意打ちで、朔也は【迷彩ナナフシ】と【迷彩カメレオン】を1匹ずつ仕留める事に成功。見事に《カード化》にも成功して、特殊エリアでも回収率は上々。

 浮かれてうっかり数字を見落としそうになりながらも、何とか“7”から“8”までは迷わず来れた。ただ、この先で混乱する出来事が。

 何とお姫が、“8.5”の表示を見付けて来たのだ。


「えっ、何でここに来て小刻みになってるの? 次は“9”じゃないのかな……あっ、“9”の表示も一応見付かってはいるんだ?

 って事は、寄り道ルートが存在するってコト?」


 お姫の返答は、わかんないから行ってみようとの事。そんな訳で、“8.5”の石造りのゲートを潜って迷路の先を窺いに掛かる朔也チームである。

 そして次の分岐だが、何と“8.7”と“☆”マークを発見して更に混乱する流れに。普通は数字に従うけど、いかにも怪しい“☆”を放っておくべき?


「いや、多分アレは罠だなぁ……素直にこっちに行こう、お姫さん」


 君子危うきに近寄らずと、素直に数字の示す方へと進んだ結果。突き当りの通路に、見事に宝箱を発見して浮かれる朔也とお姫である。

 ただし、それを護るようにガーゴイルが2体ほど配置されていてスンナリ獲得とは行かない模様。そんな訳で、朔也はこの前購入した『黒曜のハンマー』を魔法の鞄から取り出してエンに手渡す。


 自分は光の棍棒+1に持ち替えて、いざ宝箱を賭けた戦いの始まりである。案の定動き始めたガーゴイル2体だが、その動きは石像にしては意外と素早い感じ。

 人魂と青トンボの魔法攻撃が着弾するが、石像の肌はやや焦げ付き欠けただけ。ただし、エンの容赦のないハンマー攻撃には派手に吹き飛ばされるガーゴイルである。


 朔也の方は、装甲クモと一緒にもう1体の封じ込め。あわよくば自分で倒したいが、そうなると【白木のハンマー】辺りを召喚するのが正道ではある。

 光の棍棒+1の威力に関しては、正直言うと石をも砕くって程ではない。朔也もレベルが上がって、パワーも増して来てるけど前衛の動きはまだまだである。


 などと思っていると、エンが渡した『黒曜のハンマー』で1体目のガーゴイルを呆気なく撃破した。その扱いは相変わらず華麗で、得物が剣だろうがハンマーだろうが関係無いって感じを受ける。

 余程の歴戦の戦士だったのだろうか、その辺は全く定かではないけれど。続いて装甲クモと朔也が押さえていた奴も、エンは横取りするように始末してしまった。


 まぁ、その点に関しては仕方がない。下手に戦いを長引かせても、傷付く恐れもあるし得るモノは何も無い。とは言え、時間をかければ朔也の棍棒でも倒せそうだっただけに残念ではある。

 それでも、お待ちかねの宝箱の中身チェックにご機嫌な表情の朔也とお姫である。中からは強化の巻物(永続・攻撃)や帰還の巻物、それから指輪や魔結晶(中)が3個出て来た。


 それから銀貨が40枚近くと麻雀パイのセット、それから将棋の駒のセットが出て来た。良く分からないけど、それらは割と素材が良さそうな高級品である。

 何にしろ、このエリアでも儲けが確定出来てホッと一息。





 ――後はこの迷路を無事に脱出して、次の仕掛けを確認せねば。







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