第57話 スカベンジャーたち
意外だったのだが、このエリアの死体達はどうやら急に起き上がって襲い掛かっては来なかった。その代わり、腐肉を喰らうスカベンジャーたちが数多くいた。
そいつ等はあちこちで食事中で、それを邪魔する存在が許せない模様である。近付いて来た
こうなると、メイドさんはただのか弱い存在に成り果ててしまう。後衛に下がって貰って、パペット達を盾役に襲い掛かるハイエナの群れを撃退に動き始める。
揃って
特にようやく普通に斬れる相手と対峙したエンは、喜び勇んで戦場で武器を振るい始めた。それに負けない活躍をする、D級ランクの殺戮カマキリである。
期待の新人とまでは行かないが、装甲クモよりは攻撃力は強いだろうなと思ってのお試し召喚に。人間サイズのカマキリは、味方にすると頼もしい事がすぐに判明した。
と言う事は、敵に回すと怖い存在なのかも……ただまぁ、細い体躯は衝撃には弱そう。ダメージを受けたら、すぐに戦闘不能になりそうな諸刃の剣
今の所は、パペットや赤髪ゴブとの連携が良く取れて、半ダースほどのハイエナは数分で魔石へと変わって行った。初陣を華麗に勝利で飾って、ゆっくりと戻って来るカマキリである。
普通に強くて、蟲型モンスターの印象はそんな感じで悪くはない。ただし、他の従兄弟連中からすれば、その見た目の嫌悪感で使わないって者が多いのだろうか。
勿体無い話である、まぁカードの運用は人それぞれで趣味に走るのは仕方が無いのだろう。朔也も人目が無ければ、箱入り娘やメイドさんなど女性型ユニットでチームを組んでいたかも。
それはさすがにアレだが、蟲型モンスターだけでチームを組むのも願い下げではある。どれだけ強くても、蟲型はHPに不安があるし運用は難しそう。
取り敢えずは、こんな感じでアタッカー役に配置するのが正解なのだろう。などと思っていたら、やっぱり喰われかけの死骸が動き出して周囲はゾンビ映画の様相に。
「うわっ、趣味が悪いなぁ……あんな状態のゾンビを敵役に用意しなくてもいいのに、本当にダンジョンは悪趣味だよね。
そう思わない、お姫さん?」
相棒のお姫は、宙に漂いながらウンウンと頷きを返してくれた。それはともかく、その相手は役割の巡って来たメイドさんがしてくれて周囲は瞬く間にお掃除完了。
引っ込めないで良かった、殺戮カマキリを召喚したお陰で、実は総MP量をギリギリまで酷使しているのだ。それはあまり良い状態では無い、何しろ咄嗟の追加召喚が出来なくなってしまう。
それとも可能なのだろうか……例えば50MP分のユニットを召喚して、その後MP回復ポーションでMPを回復する。そこから再び、ギリギリまで召喚は可能?
何かその行為は、駄目と言うか危ない気がしてならない。
万が一、召喚ユニットや自分自身に不具合があったら
安全には配慮し過ぎて悪い事は無い、そんな訳でこの不気味な4層エリアも慎重に探索する事に。地面に倒れている死体に近付く際にも、最大限の配慮を行う。
お陰で何とか、4層のゾンビ1体のカード化に成功した。その後も不意打ちを受ける事は無かったけど、ハゲワシ型のスカベンジャーの襲撃にはちょっと慌ててしまった。
飛行タイプは厄介で、カー君やお姫も後を追いかけられて大騒ぎである。それを助けようと苦心するその他のメンバー達は、取り敢えず仲間意識はあるみたいで何より。
【腐肉ゾンビ】総合F級(攻撃E・忠誠F)
そしてカード化したゾンビは、1層から出て来た奴よりは少しだけ強いみたい。とは言え、腐敗臭がきつくてチームに召喚しようとは思わない朔也である。
例えば対人戦特訓で、嫌がらせで死霊軍団をけしかけるとかはアリかも知れない。従兄弟連中の戦い方だが、どうもF級やE級のユニットには見向きもしない傾向が。
そのせいで、精々4体程度を相手すればいいので気が楽ではあった。今まで戦った感想はそんな感じで、物量作戦はそう言う意味でもアリかなとも思う。
戦いとは、相手のウイークポイントを突いてナンボである。下手に同情や余裕をブッ
今まで戦って来た従兄弟たちの中には、武芸を用いて自分から進んで戦う者はいなかった。それがカード収集率の伸び悩みに関わっているみたいだが、戦いの術を持ってる者も
老執事の
この妙な従兄弟同士での戦いにしても、祖父の遺言だと言われているから参加しているだけである。気に入らない連中を全員蹴散らして、家名を乗っ取るなんて全く考えてなどいない。
朔也は母親の姓である
言い方は悪いが、しょせん朔也は皆が口にするように
そんな事を考えながら、ようやく戦場跡地を抜ける事に成功した。とは言え次に目に入ったのは西洋の墓地のような場所で、少し離れた場所に教会みたいな建物もある。
かなり老化が進んでいて、ひょっとしたら打ち捨てられた廃墟なのかも知れない。このエリアに進出して既に30分以上、倒した敵は20体と少しだろうか。
半数がハイエナやハゲワシ系のスカベンジャーで、もう半分が喰われかけのゾンビや新鮮なスケルトンだった。経験値はそれなりに得られたけど、宝箱の回収はショボいのが1度きり。
もう少し収入が欲しいなと感じた朔也は、目の前の建物に期待して進み始める。先行したカー君は、建物内を確認して妙なリアクションをして来た。
どうやら敵はいないようだが、何かが潜んでいるらしい。カラス語が完全に分かる訳でもない朔也は、用心しながら半壊した扉越しに中を覗き込んだ。
そして確かに、建物の暗がりの中に何者かの存在を確認する。
「おやっ、そこにいるのは……探索者さんかな、このダンジョンじゃ久々に遭遇したわいな。さぁさ、遠慮せずズィッと中へどうぞ?
ま、ワシの家でも何でもありゃせんがの」
「は、はあっ……」
思わぬ陽気な声掛けに、驚いた朔也は思わず返事をしてしまっていた。それからチーム揃って半壊した教会へと足を踏み入れて、モンスターがいない事を確認する。
ただし、声を掛けて来た小男をモンスターと定義しなければの話である。そいつは獣人なのか、コウモリ顔で粗末な旅行者が
武装の類いは無いみたいだが、大きな鞄とリヤカーを所持しているみたいだ。この人も違うタイプのスカベンジャーかなと思ったけど、どうやら違うみたい。
本人は行商人だと名乗って、ダンジョンの至る所で探索者などを相手に商売を行っていると言って来た。そんな存在もいるんだと、朔也は改めて驚く素振り。
そう言えば、ダンジョンで銀貨や銅貨を回収した際に、そんな存在を耳にした覚えも。しかしまさか、このタイミングで出会えるとは思っていなかった。
お姫も心なしか、ウキウキした表情で行商人のリヤカーを覗き込んでいる。そう言えば、お姫のクエストボードのお陰で、結構な大金が手元にあるんだった。
行商人はペイジと名乗って、朔也の身なりを上から下までチェックする素振り一応お金はありますと口にするが、行商人が見ていたのは金の有り無しでは無かったようだ。
どうやら肝心の胴体を護る装備が、探索着だけでは貧弱との指摘らしい。確かにその通りで、とは言え売店にはその手の装備品は売っていなかったのだ。
従兄弟たちにしても、完全に後衛の動きを探索中もしているようで、朔也のように装備品を買い足す事すらしていない始末。ところがペイジは、軽量で素晴らしい装備品が丁度手元にあると楽しそうに口にして来た。
それによると、魔銀製の軽量なチェーンメイルだとの事。
「こちらは装備品の下に着込んで、防御を上げるタイプですわいな。コイツの凄い所は、軽量な他にも魔法攻撃にも耐性があるっちゅうな?
これが何と、金貨3枚のお値段ですぞ?」
「えっ、高っ……その値段じゃ無理ムリっ! いや、無理じゃないけどそれ買ったら、もう他に何も買えなくなっちゃうよっ。
少しまけてくれたら、他にも色々と買い物するけどっ?」
そんな感じで交渉の始まり……どうやら向こうは、余った装備品や魔法アイテムの買い取りもしてくれるらしい。それは話が早いと、朔也は探索で回収した不用品を全て売り払う。
大抵は二束三文で、篭手やグローブや石槍や手斧は大したお金にならず。その代わり、魔法の付与されたロザリオと魔鋼の両手剣はそれなりのお金になってくれた。
朔也の最初の所持金だが、正確に数えてみたら金貨4枚程度だったらしい。銀貨は100枚で、金貨1枚の換算となるようだ。
それで買える商品だが、朔也は欲しい武器や装備品を質問されて素直に答えて行く。まずはさっきの胴装備と、それから練習用で無くてちゃんとしたボウガンが欲しい。
他にもゴーレム用に、カード召喚のハンマーでない鈍器武器が欲しい気がする。後はこのエリア専用の、死霊に特効がついてる武器ももっとあれば尚良い。
MP+の装飾品も欲しいし、言い出したら本当にキリがない。向こうもそれを感じたのか、分かったからちょっと考えさせてくれと自分の商品を引っ搔き回し始めた。
結果、売って貰えるのは『魔銀チェーンメイル』『連射式ボウガン』『黒曜のハンマー』の3点に決定。それに専用ボルト矢弾と、エーテル1本とステアップ果実(魔力)もオマケしてくれるそう。
これで金貨4枚ポッキリなのは、果たして安いのかぼったくりなのかは朔也には分からない。ただまぁ、お互いに望みの物を手に入れられたと信じたい。
それから最後に、行商人のペイジは『チケット(行商人)』をくれた。これはダンジョンのゲート前で使用すれば、再び行商人と巡り合えるアイテムなのだそう。
お財布の中身がスッカラカンの朔也が、このアイテムを使うのは恐らくずっと先の事だろう。何にしろ、新しい武器と装備をダンジョンでゲット出来て良かった。
ついでに、良い感じのゴーレム用の素材が無いか
そんなモノも素材に出来てしまうとは、ゴーレムって素晴らしく多様性のモンスターみたいである。さすがにそんな素材は使わないけど、勉強にはなった。
それから少しだけ雑談して、午後の探索はこれにて終了する事に。既にインして2時間が経過しており、集中力はもう持ちそうにない。
ゲットした新武器の威力を確かめたい気はするけど、それは明日でも良いだろう。今日の夜には対人戦特訓も控えているし、それまでは休息時間だ。
ロビーフロアでは、ノーム爺さんと
まぁ、ノーム爺さんの方は飲んだくれている可能性が高いとは思うけど。
――とにかく、実り多き“訓練ダンジョン”の墓地エリア探索だった。
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