第56話 死霊ユニット集め
薄暗くて気味の悪い“墓地エリア”だが、1層の探索はとっても順調だった。何しろ“夢幻のラビリンス”より、ここは確実に1ランクは難易度が低いのだ。
それもこれも、良い方に当てが外れたブラウニーの特殊能力による貢献が大きい。彼女のはたきはどうやら聖属性らしく、骸骨やゾンビが一撃で魔石に変わって行くのだ。
そして遠隔部隊の攻撃も、普通に死霊にダメージを与えられている。特に青トンボの風の刃は、なかなかの威力で新たな切り札を手に入れた気分。
その青トンボは、相変わらずコックさんの頭の上に留まって、砲塔のような役割を果たしている。コックさんの防御力と共に、良い組み合わせだと思えなくもない。
オレンジ髪の箱入り娘に関しては、防御力はピカ一なのでもう少し攻撃力が欲しい所。魔法のハンマー飛ばしも、15センチサイズのハンマーを10秒に1度程度飛ばすのみ。
近接攻撃も、手にした小型のハンマーでの攻撃なので、それほど威力は無い感じ。その内に錬金合成などで、ひょっとして強化の道が見付かるかも。
それを期待しながらの、現状は防御ユニットとしての運用である。それから遠隔攻撃で、敵を釣る役目も
そして新人の赤髪ゴブだが、やっぱり魔法も使える事が判明して思わずガッツポーズ。炎の矢を飛ばすようで、その威力はそこまで強くないけど多才ではある。
ショートソードでの攻撃も、短弓での攻撃もそつなくこなしている感じで将来有望かも。とは言えやっぱりゴブなので、強烈に強い感じは受けないし体力も低そうだ。
まぁ、コスト5MPで召喚出来るには、バランスは良い感じだろうか。
「それにしても、1層の探索がこんなに楽になるとはね……新人メイドさんのお陰かな、お姫さんも魔玉を使う暇もないよねぇ?」
妖精のお姫も空中でフランクに肩を
本当に、思わぬ有能キャラの出現である……コイツをくれた従兄弟は誰だったか、恐らくは役立たずだと処分のつもりだったのだろう。
ひょっとして、錆びた剣も強化次第で宝剣に化けるのかも知れない。《カード化》スキルって奥が深いと、朔也は改めてそう思う。
亡くなった祖父も、恐らくは色んなダンジョンでスキルを
とは言え、従兄弟連中の大半の者達は怠惰で、真面目に探索者業に向き合おうとはしてない気がする。精々が楽して新当主の次の座を狙って、生涯を安泰にとか考えている気配がプンプン漂って来る。
そんな奴らに、こちらの生活を乱されるのは業腹な朔也である。それに
それはそれで、将来必ず役に立つ行為だと信じて頑張るのみ。実際に、探索がこんなに儲かる職業だとは、朔也は今まで全く知らなかった。
ただし、武器や装備や用意する補充品は総じて高額なので、純利益に関してはまだ分からない。それでも《カード化》と言う、超レアスキルを所有していればソロ活動が可能なのだ。
魔石や宝箱の回収品を総取りしても、召喚ユニットたちは何の文句も言わない。それを考えると、朔也は凄く有能なスキルを持っている事になる。
それはともかく、1層での魔石(微小)の獲得数は15個だった。そしてカード化に成功したのは、ゾンビ1体にスケルトン兵1体と言う感じ。
ゲート近くにゾンビ犬がうろついていたけど、赤髪ゴブが魔法で呆気無く倒してしまった。どうやら彼は、このエリアが死霊ユニットしか出ないのに気付いたらしい。
それで戦法を変えると言うのは、学習能力があって本当に助かる。最初に使っていた短弓の命中率も、まずまず良いようで本当にオールマイティに活躍出来るユニットかも。
「よしっ、それじゃあ2層へと向かおうか……人魂のカードが欲しいから、みんなそのモンスターが出たら僕に譲ってね?
まぁ、言うこと聞かないメンバーが多いのは知ってるけど」
これも忠誠度の低いユニットばかりのせいなのか、その辺は判断に迷う所。メイドのブラウニーは、にこにこしながら頷いてるので多分了承してくれたのだろう。
相変わらず墓石の並ぶ通路に、彼女の明るさは場違いに見えなくもない。とは言え、周囲の雰囲気に合わせて、チームまで沈んだ空気で探索しなきゃって訳でも無いのだ。
その点は、メイドさんを責めるつもりもない朔也である。
探索は2層に場所を移しても、相変わらず順調な道のりだった。敵の密度もそんなに変わらず、エンやお姫はやや暇そうに探索について来ている。
何しろ今回は、朔也も水鉄砲パワーで割と無双が出来ているのだ。それに加えて新戦力のメイドさんが加わって、雑魚のゾンビや骸骨で苦戦の仕様もないと言う。
ただし、この層からスケルトン兵に弓兵が混じって来て注意は必要だ。そこはフットワークの軽い、箱入り娘に護衛について来るよう頼んで対処する。
特にメイドさんなど、戦闘服ですらないのだ……まぁ、その辺は箱入り娘も似たようなモノだけど。モンスターは、性格上あまり防御にこだわらないのかも知れない。
嬉しい事に、この層でその弓兵を1枚カード化に成功した。喜んでいる所に人魂に奇襲され、思わず振るった光の棍棒がそいつの急所にヒットしたよう。
そいつも呆気なく倒れて、そしてカード化も続いて成功してしまう流れに。良い波が来てるねと、お姫と共に薄暗い墓場で喜ぶ朔也である。
この流れで、宝箱とか発見出来たら尚良いのだけれど。そんなウキウキ気分で進んで行くと、2層エリアもいつの間にか攻略終了していた。
ここまでだいたい40分ちょっとで、時間の配分もまずまずである。このまま4層か5層まで行くのも、ひょっとして可能な気配も漂って来ている。
朔也としては、あまり無理をしない範囲でサッと稼いで帰ってしまいたい。この“訓練ダンジョン”の魔石の回収分は、経験値を重視して全てノームのアカシア爺さんに返却しているのだ。
この場合の儲けとは、宝箱の中身とかカード化でゲットした新ユニット達に他ならない。それらをバッチリ稼いで、ついでに経験値も美味しく頂く感じだろうか。
まぁ、こちらも命を懸けて探索しているので、その辺の
そしてあまりにエンが暇そうなので、根負けした形で光の棍棒を渡す事に。さっきも2層の終盤で出て来た、泥から突き出した手型のモンスターに八つ当たりをしていたのだ。
まさにオーバーキルの斬撃を見舞って、何でこんな奴らの相手をしなきゃって感情が
確かに死霊モンスターの雑魚は、別に普通の殴りで倒す事も可能ではある。ただし、光と言うか聖属性にめっぽう弱いので、その弱点を突けば一発だ。
まさにメイドさんがそうで、力のないユニットでも
そこからは、エンとメイドさんによる一方的な
「ああっ、だからカード化のために止めは譲ってって言ったのに……」
そんなご主人の呟きなど、一切聞く耳を持たない前衛陣達である。忠誠度Fの隻腕の戦士のエンはともかく、忠誠度がBもあるブラウニーはや暴走気味な気も。
恐らく、こんな
朔也にとっては良い迷惑だが、その先行討伐は結局は3層の敵を残らず片付けてしまった。槍持ちの骸骨兵も弓兵も、意に介さずのエンの動きは確かに素晴らしい。
メイドさんに関しても、防御力は低いけど避ける能力はそれなりにあるようだ。その点はホッとしたけど、残念ながら3層でカード化出来たユニットはゼロと言う結果に。
自分の
発見は出来たが、メイドさんの容赦のないはたき攻撃で、ソイツは一瞬で消え去ってしまって観察は一瞬のみ。残念だが、まぁ強そうでもなかったので食指は湧かなかった。
ついでにゴースト型のモンスターも出現して、おおっと感動して水鉄砲で倒そうとしたのも束の間。
やっつけてあげたよと誇らしそうな彼女に、文句も言えずの朔也はリーダーには不向きな性格なのかも。ともかく、それを含めて3層も順調に探索は終了の運びに。
もう1つついでに言うと、優秀なカー君がこの層で宝箱を発見してくれていた。厳密に言うとそれは骨壺だったのだが、宝物はしっかりと詰まっていた。
とは言え、入っていたのは鑑定の書が2枚にポーション瓶が1本と、銅貨が15枚にロウソクが数本のみ。少々物足りないが、文句を言っても仕方がない。
朔也はそれらを魔法の鞄に収納して、いよいよ4層へと足を踏み入れる事に。時間は既に1時間は過ぎており、新入りの赤髪ゴブとブラウニーの性能は良く分かった。
他の新入りも試したいが、あらかじめ今日はこのエリアに入ると決めていたので、敵が死霊モンスターしかいない。そんな訳で、他の新入りはまた別の機会でお試しする事に。
カーゴ蜘蛛とオモチャの兵隊の組み合わせは、夜の対人戦特訓の時にでもする予定。そこまで余裕があればの話だけど、もうそろそろ変に絡んで来る連中もいないだろう。
いや、まだ一波乱ある気がするのは気のせいであって欲しい。祖父の遺産カードを手放した事で、
「それじゃあ4層に向かおうか、初のエリア進出になるのかな? “台所エリア”では4層目でガラリと雰囲気が変わったし、ここでもそうなる可能性はあるかもね。
そんな訳で、みんな注意して進もうか」
そんな朔也の言葉に、反応してくれるのは妖精のお姫とブラウニーのメイドさんのみ。まぁ、反応があるだけいいかと、諦め模様の朔也は発見したゲートを潜って行く。
そして出た先の風景に、思わず息をのんで足を止めてしまった。そこはいわゆる戦場跡地で、夕方の丘の周辺には討ち死にした兵士たちの片付けられてない死体だらけ。
まさに
そいつ等が起き上がって襲い掛かって来るとなると、なかなかの修羅場になりそうではある。仕方なく、朔也はMP回復ポーションを飲んで追加で【殺戮カマキリ】を召喚する事に。
コイツは忠誠度はFながらも、攻撃力はCランクと言う期待の新人である。チームと歩調が合うかは
精々、このエリアの敵に
――さて、それでは厄介そうな4層の探索を始めるべし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます