第55話 ノーム爺さんに錬金術指南



 朔也さくやが見せた各種の素材やカードに、ほろ酔い加減のノーム爺さんは随分と興味を示した。特に『赤照水晶』『橙蜀水晶』『修繕の紋様』の3つは、割とレアで獲得が難しいらしい。

 水晶素材の2つは、説明にあった通りに召喚ユニットのランクアップ素材との事。確かに貴重だが、数が3つと1つなのでどれに使うかは悩みどころ。


それから修繕の紋章は、破損された召喚ユニットを修理する能力を秘めているそうな。割と貴重な素材らしいけど、朔也はウチの手持ちカードにそんなのあったかなと疑問顔。

 そんな訳で、薫子とお姫が見守る中で、朔也が集めて来たカード選定会が始まった。そしてノーム爺さんが、これとコレを強化合成しろと口を挟んで来た。


 そんな訳で、【コボルト雑兵】【遺跡ゴブリン】【遺跡スライム】【丘オーク兵】などのF級ユニットを次々と合成して行く。使うのは魔結晶(小)で、なかなかの散在である。

 何しろ、これを売りに出せば2万円以上になるらしい。ちなみに、もっとよく使う魔結晶(中)は10万円で買い取るとメイドさんが言っていた。


 自分の『錬金術』スキルへの投資だが、強くなる道と信じて突き進むしかない。アカシア爺さんは全く気にせず、その成功を見てただ満足そうに頷くのみ。

 そして成功したコボルトやゴブリン、オークは全て“雑種”になって行った。そして攻撃力が微量に上がってくれたけど、総合ランクは増加せず。


 それはそれで、召喚コストが増加せずに良い強化ではある。その調子で、ゴブ弓兵とゴブ魔術師も2枚強化して何とか成功させる事が出来た。

 ちなみに、【巨大ナメクジ】と【エスカル蝸牛】も試しに合成してみたが、折り合いが合わなかったのか大失敗。両方ともカード消失してしまって、どうやらナメクジとカタツムリは別の生き物認定だったみたいだ。


「ふむっ、まずまずじゃな……それじゃあ、いよいよランクをあげて本番と行こうか。魔結晶(中)を使って、まずはコボルトとオークじゃな。

 それからこの【錆びた剣】に、『修繕の紋様』を使ってみるがええ」

「了解しました、うわぁ……レアな素材を使うのって緊張するなぁ」


 そん感じで、師匠のノーム爺さんに言われるままに錬金合成を続けて行く朔也である。その後ろでは、お試しに召喚してみた【ブラウニー】がそこら中をはたき掛けして回っている。

 割とカオスだが、ここがまかりなりにもダンジョン内だから召喚出来た訳だ。この古風なメイドだが、間違っても戦闘力があるようには見えない。


 このD級ユニット、忠誠度はBだが攻撃力は最低ラインのFである。つまりはそう言う事らしく、気立ては良いけど戦闘職では無いようだ。

 そんな彼女は、こちらでやってる作業はあまり関心は無い模様。“訓練ダンジョン”のロビーフロアを、とにかく綺麗にしたい欲求を押さえられない感じなのかも。


 そんな中、朔也の合成は次々と成功を収めて行ってくれた。どうやら虎の子の魔結晶(中)が、思いの外に効果をもたらしてくれたみたいで嬉しい限り。

 そして取り敢えずの完成形が、こちらの3点。


【雑種コボルト(槍)】総合E級(攻撃D・忠誠F)

【雑種オーク兵(槍)】総合E級(攻撃D・忠誠F)

【古びた宝剣】総合E級(攻撃E・耐久E)


 獣人の槍兵が、無事に2体ほど出来てしまった……戦場において、槍兵は大事と聞くけど探索ではどうなんだろう? 取り敢えず攻撃力Dは、それなりに破壊力はありそう。

 ランクがEなので、召喚コスト5MPで呼び出せるのは大きい気がする。その代わり、忠誠が最低のFなので、言う事を聞かなかったりあるじがピンチでも助けには来ないかも?


 それから錆びた剣は、修繕する事によって【古びた宝剣】にランクアップしてくれた。どの程度まで上がってくれるか不明だが、そもそもこれは腹違いの兄から押し付けられた、元はゴミのカードである。

 それが使える宝剣に蘇るのは、なかなか楽しい意趣いしゅ返しと言えるかも。とは言え、まだまだ戦闘で使おうとは思える性能では決してない。


 最後に残ったのはゴブリンだけど、職種が違って一般兵士と弓使いと魔術師カードが計3枚。これを混ぜるのは不味いかなと思うのだが、ノーム爺さんはゴーサインを出して来た。

 そんな訳で、恐る恐るの錬金合成に踏み切っての結果は見事に成功! 妙なカードが出来てしまったが、感触からして使えそうなユニットの気がする。


ついでにクモの召喚ユニットも強化をうながされて、【密林クモ(中)】と【カーゴ蜘蛛】を合成してみた。結果、こちらも成功してサイズの大きくなったカーゴ蜘蛛が誕生した。

 それはそれで、やっぱり使い勝手は良い気がして大満足の朔也である。


【赤魔ゴブリン(E)】総合E級(攻撃D・忠誠F)

【カーゴ蜘蛛(中)】総合E級(攻撃E・忠誠E)


 赤魔ゴブリンのカードを確認すると、赤毛の勇ましいゴブ戦士が掲載されていた。ソイツは今まで使っていたゴブ弓兵よりは、恐らくは確実に強そう。

 ただし、召喚コスト5MPを使ってチームに組み込む戦力なのかは、まだちょっと謎である。その辺は、この後の探索でしっかり確認して行かなければ。


 ちなみにこの後は、人魂のカード強化のために“墓地エリア”にでも行こうと思っている。ただしその場所で、新入りゴブリンの真価が発揮出来るかは不明。

 行き先を変えるべきか悩むけど、まぁその辺は何とでもなる。そしてカーゴ蜘蛛(中)だけど、せっかくDだった忠誠度がEに減ってしまった。


 残念だけど、攻撃力はF⇒Eに上がったので良しとしよう。ところがノーム爺さんは、そんな運用は勿体もったい無いぞと何か腹案ふくあんがある模様。

 そして指差したのは、何と【オモチャの兵隊】カードであった。コイツ等はお試しで1度、ダンジョン内で召喚してすぐに運用を諦めた連中である。

 何しろ、全員揃って30センチサイズで、チームと足並みが揃わないのだ。


 お姫はもっと小さいけど、空を飛べるのでその辺を気にする事は無い。ところがこの兵隊さんたち、自力で歩くにも歩幅の関係でこちらの歩調を乱しまくり。

 ちなみにコイツ等、味方の強化や敵の弱体を担当してくれるっポイ。


「戦闘に置いて、そう言う効果は意外と重要なんじゃがな……そこでホレ、コイツの籠が役に立つんじゃよ」

「えっ、あっ……なるほどっ! カーゴ蜘蛛の籠に乗せて運用するんですかっ!」

「おおっ、それは確かに楽しそうですねぇ」


 ノーム爺さんのユニット活用指南に、朔也は目から鱗が落ちる思い。薫子かおるこも感心しており、使い道が無いと思っていたカーゴ蜘蛛がこんな使い方が出来るとは。

 それよりスッキリしたカードは良いとして、まだ使ってない『赤照水晶』や『橙蜀水晶』はどうしよう。朔也は悩むも、MPコストを上げてまで使いたいユニットが無い。


 アカシア爺さんが言うには、これは厳密には錬金合成ではないそうだ。ただし、合成装置を使った方が能力が上がりやすいし、成功率も上昇するとの事。

 F級からE級に上げる候補だが、正直エンしか思い浮かばない。ただしエンは、今のままで相当に強いので上げるメリットも少ないと言う。


 それなら低コストで使い勝手の良いままでいて欲しいし、正直このまま様子見したい感じ。そんな訳で、一旦ここは保留で先に探索に出掛ける事に。

 ちなみに【ゴーレム魔核】の使い方だが、素材を自分で探さなければならないみたい。なるほどと納得するも、例えば土や泥で造ったゴーレムはやはり弱いそうな。


 硬い石や鉱石の方が、硬くて強いゴーレムを作れるが素材集めは大変って訳だ。ノーム爺さんは肩をすくめて、最初はその辺の石を集めて作ってみりゃええとお気楽口調。

 どうやら、素材は何度も分離が可能らしく、それは運用が楽しそう。良い素材が集まれば、そっちに乗り換えが効くそうなのは良い知らせである。


 素材はもちろんダンジョン産に限るそうで、午後からの探索目的も新たに増えてしまった。まぁ、今日で見付からなくても明日以降で全然構わないのだが。

 午前の探索で、倒すのに苦労したモンスターが仲間になるのは悪い話ではない。そう考えながら、“墓地エリア”探索の準備を始める朔也であった。




「それじゃあ行ってきます、だいたい2時間の探索予定ですかね。新召喚ユニットのお試しも含むから、ひょっとしたらもう少し長くなるかも?」

「了解しました……お気をつけて、朔也様。午前中も探索して疲れている筈ですから、決して無理はしないで下さいねっ!

 ちなみに、今夜は対人戦特訓も控えてますからね」

「ほうっ、小僧はそんな事もしとるんか……楽しそうじゃの、同族同士の技の競い合いか。見てみたいもんじゃが、それは無理な相談かの」


 そう呟くノーム爺さんに、薫子は録画したデータがありますよとスマホを取り出す仕草。そこからは、2人仲良くこの前の訓練動画を視聴して過ごすみたいである。

 朔也としては、自分の探索中に2人でやる事があって何より。存分に文明の機器で楽しんで、朔也が不在の時間を有効利用して欲しい所。


 ちなみにダンジョン内では、当然ながらスマホの電波は届かない。ただし、動画の録画は普通に出来るようで、探索者が撮影した動画はサイトで簡単に観る事が出来る。

 ただまぁ、悲しい事に学生寮生活の朔也はスマホを持ち歩く習慣が無い。そんな訳で動画も観た事が無くて、探索初心者の手助けにはならなかった。


 そんな話をしながらも、朔也は2人と別れて3つのゲートの内の1つへと潜って行った。ロビーのお掃除をしていたブラウニーが、それに気付いて追従の素振り。

 どうやら、しっかり朔也をご主人さまと認定しており、その点は何よりであった。そのまま第1層に降り立った朔也は、恒例の仲間を召喚して行く。


 エンとコックさん、カー君と青トンボは取り敢えず参加は決定として。今回はメイド姿のブラウニーが強制参加を決め込んだので、精々があと1体か2体である。

 と言うか、今回は死霊モンスターが相手なので、正確な攻撃力は分かり様がない。そんな訳で、素直に箱入り娘と赤髪ゴブのE級コンビを配下とする事に。


 今回のメイン武器は、朔也が手にする浄化ポーション入りの水鉄砲と、お姫が持つ魔玉(光)である。両方とも午前中に、売店で買い足しておいたので量に問題は無い。

 それから光の棍棒だが、これはエンか誰かに預けるのも良いかも。ただしそうすると、朔也がキル数を稼げなくなってしまう可能性がある。


 薄暗いエリアなので、さっそく灯りを準備しながら色々と作戦を考える。いつものようにコックさんに予備のランタンを持って貰って、懐中電灯は肩口にセットする。

 それから新人の赤髪ゴブを観察するに、なかなかの面構えでこれは期待が出来そう。武器は短弓を装備しており、腰にはショートソードをいている。


 革鎧を着込んで、まるでいっぱしの探索者に見えなくもないその風貌ふうぼう。魔術師ゴブも混ぜたので、ひょっとしたら魔法も使えるのかも知れないと期待しつつ。

 朔也は早速寄って来た、ゾンビとスケルトンに向けて水鉄砲を射出する。パペット軍団も魔法の攻撃を開始して、青トンボの風の刃も良い感じ。


 全体的に強くなって来た朔也チーム、後は新入り召喚ユニットのまり具合を調べるだけ。意外だったのは、メイド姿のブラウニーの一撃でゾンビが昇天して行った事。

 何と、彼女のはたき攻撃には聖属性が付与されているみたい。偶然のこの巡り合わせには、呆れて開いた口が塞がらない朔也であった。

 いやでも、この“墓地エリア”の新戦力的にはラッキーかも。





 ――さすが綺麗好きメイド、死霊軍もこの調子で蹴散らして欲しい所。







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