第54話 ゴーレム魔核ゲット
強化の巻物(攻撃)で底上げしたからと言って、剣などの武器で石製のモンスターと戦うのは厳しい。そんな訳で、エンは今回苦労しそうな雰囲気だ。
その分は死神クモにでも頑張って貰おう、コイツの突攻撃はかなりの威力があるみたいだから。それから、コックさんの麺棒攻撃も一応は硬い敵には有効かも。
とは言え、やっぱりゴーレムを抑え込みに掛かったコックさんは大変そう。ガーゴイルの相手をしているエンも、同じく硬い外皮に苦労している。
死神クモの突技も、動き回るガーゴイルにはなかなか命中せずで長引きそう。エンとタッグを組む形になった
ガーゴイルはゴーレムより小柄な分、素早い動きでこちらをかく乱して来る。鉤爪の攻撃は射程が短くてそこまで怖くはないけど、喰らうとかなり痛そうだ。
エンも心なしか苛立っている様子、ちなみに青トンボの風攻撃はそれなりに効いているようだ。ゴーレムの頭が欠けているけど、倒すまでには至らず。
朔也も段々と苛立って来た、だからと言って打開策がパッと浮かぶわけではない。とか思っていたが、不意に昨日の
あの破壊力があれば、石像型のモンスターも粉砕出来るかも知れない。そう思って、朔也は咄嗟に白木のハンマーのカード召喚に踏み切った。
思えばこの武器も、確かこの遺跡エリアの回収品だったような。
「エンっ……これでお願いっ!」
自分で使っても良いけど、
それを確認して、朔也は目の前の敵にフェイント混じりに攻撃を仕掛ける。その動きが
片腕のブン回しながら、その威力はとっても凄まじいモノとなってくれた。何しろあれだけ苦労したガーゴイルが、バカッという音と共に粉砕されたのだ。
やったと思わずガッツポーズの朔也、それから次は少し離れた場所のゴーレムへと狙いを定める。2メートル同士の、パペットとゴーレムの戦いはそれなりの迫力。
それに堂々と介入する朔也は、もちろんカード化が狙いである。ゴーレムなら良い重量級の壁役になってくれそうだし、自分のデッキに1体は欲しい所。
ところが、やっぱり堂々とその戦いに介入して来たエンが、容赦のない横殴りのハンマーアタックを敢行した。恐らくさっきまでの戦いで、余程ストレスが溜まっていたのだろう。
その攻撃速度は、まるで
朔也が心配するまでもなく、隻腕の戦士は鈍器の扱いも上手かったようだ。しかも片腕で振るっていると言うのに、このパワーとは恐るべし。
そもそも、エンは何のモンスターが元なのだろうと、朔也はたまに考えてみたりもするのだが。人間ベースの獣人や精霊、鬼や妖怪系なども思い付くが結局は判然としないまま。
とにかくそんな訳で、朔也の不意を突いて止めを刺しちゃおう計画はモノの見事にオジャンとなった。それと同時に、死神クモもガーゴイルの破壊に成功した模様。
3体とも魔石(小)だったのを見て、確かに強敵だったよねと納得しつつ。1枚くらいはカード化したかったなぁと、今更ながらも
それはともかく、大きな音に徘徊する敵が集まって来ない内にさっさとここを脱出しないと。例の壁の飾り場に近付いて行くと、そこには立派な珠が輝いていた。
それを取ろうと手を差し出すと、何とそいつはカード化してしまった。白木のハンマーの時と同じ仕掛けである、そしてカードの名前が判明の流れに。
【ゴーレム魔核】総合D級(攻撃D・耐久D)
良く分からないが、これはゴーレムの核の部品らしい。ひょっとしたら、自分のゴーレムを造り出せるのかも知れない。そう想像すると、朔也はちょっと楽しくなって来た。
ちなみに、その飾りの下にも棚のような
それから石素材が少しと、白と黒の囲碁石の入ったケースが1つずつ。こんなのも回収品に混ざっているとは、ダンジョン恐るべしである。
とにかく全部を魔法の鞄に突っ込んで、さっさと帰還の巻物を使ってダンジョンを脱出する。今回の探索は、昨日ほどには波乱万丈でなくて何よりだ。
そんな事を思いながら、朔也は転移陣へと入って行くのだった。
そして無事に戻って来れた事を内心で喜びつつ、朔也は執務室で毎度の換金作業を行っている所。ところが、老執事の
朔也がA級カードを義理の姉に奪われた事を、悲惨な感じで受け取っているらしい。まぁ、それは確かに威張れる出来事では無いけど、朔也としては厄払い程度にしか思っていない。
「なので、そんなに悲壮な感じに
ただまぁ、その度に命を狙われるのは歓迎しませんが」
「今後は
「そうですね、薫子の護衛は案外良い選択かも知れないですね。メイドの仕事の方はからっきしですが、探索や
朔也様とも、探索の話で仲良くなれるんじゃないですか?」
そう言って盛り上がる、執務室に詰めている若い執事やメイド達である。ようやく明るい空気になってくれて、朔也としてもホッと胸を撫で下ろす。
ちなみに換金は、昨日の“高ランクダンジョン”の分もさり気なく混ぜて、合計で33万円になった。思わぬ大金ゲットに、何か買おうかなと浮かれる朔也である。
結局は、浄化ポーションや予備の帰還の巻物、魔玉(光)などを2万円分買い込むだけに留めて終了。そして、ダンジョン内で回収したハンドクリームやマニキュアや碁石は、執事やメイドさんたちに無償で配る事に。
みんな喜んでくれて、ようやく普段の雰囲気が戻って来てくれた。何よりである、こちらの失策と言うか立場のあれこれで、皆さんに心配を掛けたくない。
所持金も50万円に到達して、これで良いカードとか装備品の購入も視界に入って来た。しかし残念な事に、売店のカードや魔法アイテムは全て売り切れとの事。
さすが金満の従兄弟たちがライバルだとそう言う事も普通にあるみたいで残念な限り。余ったお金で何をするか、また考えておかなければ。
そんな感じで、午前中の探索を終了する朔也であった。
そして恒例の食堂に向かう流れだが、今回はバッチリ薫子さんが待機してくれていた。これで食堂に居座るポッチャリ組も、下手に因縁をつけて来ない筈。
と言うより、前回の対人戦特訓で2人とも蹴散らしているので、今度はこちらが見下す番だ。とか思って乗り込んだら、誰もいなかったと言うオチ。
「あら、今日は食堂が静かですねぇ……それで朔也様、昼食はどこで食べますか?」
「えっ、ええと……出来れば、内緒のエリアで食べたいんですけど……」
そう朔也が口にすると、薫子は納得しましたとの表情になった。それから食堂に詰めてる料理人に、2人分のお昼のバスケットを注文して受け取る。
どうやら自分の分もあるらしく、それじゃあ行きましょうと朔也をリードする素振り。堂々と先頭を歩いて、さて辿り着くべき場所をしっかり分かっているのやら?
そんな考えで後をついて行く朔也だが、薫子は中庭を横切って森の方へと向かって行く。方向が違うんですけどと、朔也の言葉にはもちろんわざとですとの返答が。
つまりは追跡者を確認したいらしく、それは至れり尽くせりの配慮ではある。朔也も思わず後方に意識を向けるけど、幸いにも今日は追跡者の気配は無さそう。
そこから薫子は、森の端を通って敷地の端のガレージ方向へ。彼女もどうやら、ガレージの2階にある“訓練ダンジョン”の存在は知っているらしい。
まぁ、ここで長年働いている執事やメイドならそれも当然だろう。薫子の話では、使用人がダンジョンに潜るには許可が必要なのだそう。
なので昨日の事は黙っておいて下さいと、振り返ってお茶目に舌をだす薫子である。つまりメイド達は、勝手にダンジョンで稼ぐ事は出来ないみたい。
まぁ、それも当然と言えば当然である……自分の場合はどうなんだろうと、朔也は心配になるもその点は問題無いみたい。そもそも祖父の意思を継ぐ者は、自然とこの敷地内のダンジョンに招かれるそうな。
何だか嘘みたいな話だが、それ故にこの場所の事は敢えて従弟連中にも内緒にしているそうだ。新当主の意地悪って訳でもなく、存在を知る従兄弟もいるみたい。
例えば、探索者経験のある次男の
「勿体無い話ですよね、カードの種類を揃える場は多い方がお得なのに。でもまぁ、
つまり朔也様は、急がば回れ派って事ですね?」
「ええまぁ、そう言う事になりますかね。錬金装置もあるし、ノーム爺さんにアドバイスも貰えるし。だから遠回りとも思ってませんよ、ここに来るのはとっても楽しいですしね。
えっと、薫子さんは探索には同行出来ない決まりですか? それじゃあノーム爺さんと一緒にお昼を食べて、待合室で待ってればいいですよ。
僕だけで、多分だけど2時間くらい探索して来ますね」
同行出来ない訳ではないが、それだとせっかくの経験値が薫子にも流れてしまう。従兄弟たちと言うライバルも多い中、成長は早い方が良いと薫子の返事。
そんな話をしながら、2人はこっそりガレージ内へ。それから隠し階段を上って、2階のゲートを潜って“訓練ダンジョン”へと潜入を果たす。
待合室では、いつものようにアカシア爺さんが出迎えてくれた。別に1日間が空いた事に怒っている風もなく、薫子の同伴も
ご機嫌取りに良いお酒を新当主から貰って来たけど、そんな気遣いは必要無かったようだ。それでもお酒はバッチリ喜んでもらえて、後でしっかり合成の手ほどきをしてくれると約束を取り付ける事に成功した。
本当に何よりである、今回は『赤照水晶』や『修繕の紋様』など良く分からないアイテムも増えてるし。それからカードも増えて来たので、同族合成で減らしておきたい考えもある。
たくさん持っていても、活用出来ないし何を持っているか覚えるのが大変なのだ。いざと言う時に使うカードなど、10枚あれば事足りてしまう。
と言うか、朔也の現状の総MP量では、そこまで多くのユニット召喚は無理である。1日空いた事で、錬金の日程が大幅に狂ってしまった。
そんな事など関係ない薫子は、お弁当を開けて早くも食事の準備に余念がない。ノーム爺さんも同じく、1人で飲む気満々でさっそくグラスに酒を注いで宴会の準備。
朔也もお昼の準備を始めて、アカシア爺さんにお摘まみにどうぞとお昼を共有する形。お姫に関しては、勝手に甘味を持って行くので伝える必要もなし。
メイドの薫子は、食事しながらそれを珍しそうに眺めている。
――そんな訳で、いつもより人数が多い分賑やかな昼食風景の出来上がり。
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