第51話 9日目の探索日程
さて、そんな忘れ去りたい昨日の顛末だが、実は次の日の朝も引き
その日はいつものように、妖精のお姫と一緒に自室で朝食を食べ終わって。それから探索着に着替えて、いつものように“夢幻のラビリンス”に一番乗りしようと準備を行っていた。
そこにメイドの
昨日は褒められたが、今朝はどうやら違うよう……案の定、何故あのカードを譲ったとの詰問口調に。朔也は呆れ返ったように、全てを打ち明ける事に。
新当主の
つまりは他人を当てにした、明確な自殺となってしまう。
「これも自衛の一環です、僕はこの若さでまだ死にたくはありません。少なくとも、この無秩序の館内では、気を抜くのは自殺行為だとハッキリ思ってます。
僕には後ろ盾がありません、従弟連中が僕を呼ぶ呼称をご存じですか?」
「いや、まぁ……少なくとも私は、君を父の立派な孫の1人だと思っている」
それならそれを、他の従弟連中にも周知して欲しいモノだ。一体この館の中で、何度
相手を
朔也がちっとも反省していない事に、新当主の
懐からカードを1枚と、それから指輪を取り出して朔也の前へと置く仕草。どうやらカードはC級ランクらしく、しかも指輪にはMPアップの効果が付いている模様。
【白雷狼】総合C級(攻撃C・忠誠C)
『知恵の指輪』 (魔力+2、MP+10)
とんだ豪華なプレゼントに、思わず朔也の頬も緩みそうになる。それを悟られまいと、厳しい表情を取りながらなおも新当主の愚痴を耳にする。
どうやら彼も自分の子供たちや、ついでに甥や姪の暴挙には頭を悩ませているらしい。ついでに彼の弟妹が館に招き入れた半グレ連中に対しては、ブチ切れそうな感情を抱いているようだ。
それは朔也も同じ事、何とか一掃出来ないんですかと訊ねてみるも。新当主は考えて見ると口にするに留め、それまでの対応にと薫子を護衛につけてくれると約束してくれた。
その言葉に、壁際に立っていた彼女の眉がビクッと反応する。その澄ました表情は、一皮めくれば楽しくなって来たぜぃと物語っているよう。
それから最後に、以降はそんな提案には軽々しく乗らないようにと釘を刺されてしまった。提案を跳ね除ける際には、新当主の名前を使って良いとのお達しである。
それは薫子の護衛と同様に、何とも心強い
いや、なってくれると良いのだが……その辺は定かでないし、館内の移動の際には以前と同じく気を付ける事に。それで会合は終わりらしく、朔也は貰った品を懐に仕舞い込む。
それから不意に、立派な家具の棚の中に高そうなお酒が仕舞われているのを発見した。洋酒みたいだが、さすがにそんなのを
ただし、恐らくはお高い品なのは確かである。
「あの、ついでにこれも貰っていいですか……?」
新当主とその一部始終を見ていた薫子には呆れられたが、無事にノーム爺さんへのお土産をゲット出来た。昨日は結局顔を出せなかったので、ヘソを曲げているかも知れない。
そんな時には、やっぱり高いお酒が一番の特効薬である。経験からそれを知っている朔也だが、実は午前中の“夢幻のラビリンス”探索はあまり乗り気ではなかった。
まかり間違って、また祖父の遺産カードを入手してしまったらどんな騒ぎになるやらだ。そんな事になる位なら、“訓練ダンジョン”の方が万倍楽しい。
それでも1日最低1回の探索は、祖父の孫たちには義務付けられている。そんな訳で、半ば義務と化した朝からの執務室
そこにはいつもの執事とメイド達が詰めており、心なしか神妙な顔付きに。どうやら昨日の顛末は、全て館内の人達に知れ渡っているようだ。
それはそれで、ある意味では朔也の狙い通りではある。これで朔也を
いや、これでもC級カードや魔法装備も増えて来ているので、まだ狙われる可能性は含んでいる。ところで、昨日と今日で増えたスキルやカード、それから装備品のチェックもしないと。
そんな訳で、メイドさんの売店で帰還の巻物とMP回復ポーションを2本買って準備は終了。無駄に熱く執事とメイド達に励まされながら、ゲートを潜って行く事に。
そして今回出たのは、何度目かの“遺跡エリア”だった。懐かしいって程では無いけど、ここのスライムやゴブ弓兵カードは是非とも補充しておきたい。
それから合成強化して、少しでも活躍の場を広げてあげたい所。特に【雑種スライム(大)】は、苦境を乗り切る切り札と化していたりもする。
残念ながら、その切り札は昨日の探索で倒されてしまって、今は召喚出来ない状態である。そこでスライムを大量にゲットして、もう1枚大サイズを持っておくのも悪くない。
そしてゴブ弓兵だが、格上相手ではあまり役に立たない事が判明した。戦力になるのは、恐らくこのダンジョンだと3層辺りまでだろうか。
それ以上先は、明らかに火力が不足して役立たずと化してしまう。
まぁ、それはどのF級ユニットも同じ問題を抱えている訳だ。エンは別格だが、片腕とか膝の不具合とか、やはりF級ランクの壁はあるのかも知れない。
とは言え、強いカードに乗り換えたとして、MP総量問題もあるので大変だ。いつもの仲間を召喚しながら、朔也は自身の変化を確認する。
さっき新当主に貰った指輪を装着したところ、彼の総MP量は何と67にまで増えてくれた。これなら、召喚にコスト20MPが必要なC級を、1体くらい加えるのも可能かも?
ただまぁ、他のユニットとの兼ね合いもあるし、浮いてしまう可能性もある。現在朔也が持ってるC級カードは、【死神クモ】【ソードブレーカー】【白雷狼】の3枚。
武器のソードブレーカーは除外するとして、クモと狼だと現チームとの相性的にはどうだろう。狼系は速度があって、使い勝手は良いかも知れない。
クモは昨日も使ってみたが、凄くフィットしたと言う実感はなかった。コックさんと箱入り娘が防御寄りで、装甲クモもまさにそんな感じだったのだ。
攻撃力に関しては、他のユニットに較べたらやや強かったかも。印象に無いのは、恐らくコボルトの集団との対応で慌てていたからだろう。
取り敢えず、時間があればチェックはすべきだろう。強い仲間が増えたのなら、腐らせておかずに活用すべきなのは当然である。
それよりまずは、朔也が昨日覚えたスキルの確認もこなさねば。腹違いの姉の
残りの2枚は、覚えられもせずに消滅してしまって残念な限り。元々、このダンジョンから回収出来るスキル書と言うのは、習得率は30~60%くらいらしい。
闘技スキルはもっと低くて、20~50%くらいと言う話だ。そして幸いにも覚えられたスキルだが、どうやら『魔力感知』系らしい。
これも使用にMPを使うので、召喚士の朔也にとっては使い勝手は決して良くない。ただし、ダンジョン内の仕掛けや敵の居場所を、魔法的に確認するのには便利かも。
ちなみにこのスキル書だが、1枚の値段は20万以上するとの事。覚えられなくてももちろん返って来ないので、割とお高い設定ではある。
それでも習得すれば一生モノなので、それを考えれば納得のお値段だろうか。ついでにスキル書(闘技)は、もう少しお高くて30万以上するそうな。
メイドさんの売店でも売っていたけど、高過ぎて購入の候補にも入れなかった。中ボスや強敵のモンスターが良く落とすらしいが、朔也が回収出来たのは1度きりである。
他の金持ち従弟連中は、恐らく幾つか取得済みなのだろう。最初から向こうにアドバンテージがあるのは百も承知、こちらはコツコツ探索で経験を積むのみだ。
そんな訳で、“遺跡エリア”第1層の探索を開始する朔也チームであった。朔也自身は練習用クロスボウと光の棍棒をメイン武器に、周囲の敵の気配を探っている所。
最初に遭遇したゴブリン3匹の群れは、いつものように遠隔で弱らせて
こちらは止めを譲って貰って、見事に1層で2枚のカード化に成功した。幸先が良いなと思っていると、ゴブ弓兵が混じっている群れと続いて遭遇する。
こちらもカード化に成功したが、残念ながら弓持ちはならず。まぁ、合成素材にはなるだろうし、有り難く頂戴しておく事に。
ついでに大ネズミとも何度か遭遇したけど、こちらも比較的に揃いやすいカードではある。ただし、カード合成しても強くなってくれたイメージはあまり無かった。
サイズ感は確かに増して、小型犬から中型犬のサイズにはなってくれたのだが。どう見ても雑魚のやられ役で、戦闘でお試しする気にもなれなかった次第である。
そんな訳で、こちらは止めを装甲クモに譲って、コイツの攻撃力のチェックに使う事に。そして改めて思い知る、攻撃力Dランクの凄まじさ。
いや、実際の所はそこまででは無いのだが……例えばエンと較べたら、刀を振り回す隻腕の戦士の方が強力だろう。それでも鋭利な前脚で、敵を
「凄いね、クモって……これで1つ上のC級だと、戦闘力は一体どうなるんだろう? 試したい気はあるけど、さすがにMPに余裕はないんだよね」
クモ同士の連携攻撃とか、あればそれで面白そうではある。クモのカード同士合成は、ちょっと難しそうな気もするけどどうなんだろうか。
その辺もノームのアカシア爺さんに相談したいのだが、今日は邪魔されずに“訓練ダンジョン”に潜り込めるか不明と来ている。
本当にストレス案件である、新当主の実力行使で邪魔な連中をさっさと館から退去させて欲しい。とにかく一刻も早く、身の安全を確保しないと精神が休まらない。
その点で言えば、新当主が護衛につけてくれると言った薫子さんはどうなんだろう? 実力的には昨日一緒に戦って、凄いのは確認は出来たのだが。
果たして、“訓練ダンジョン”の場所までバラしてしまって良いモノか、その辺は悩み処である。まぁ、彼女もこの館の先住者なので、知ってる可能性は大いにある。
と言うか、全く知らないと言う理由が思いつかない。昨日も普通に“高ランクダンジョン”の中まで入って来て、のほほんとしていたではないか。
それなら話は早い、取り敢えず午後の予定は決定である。
――そう考えて、一気に気が楽になった朔也であった。
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