第52話 3度目の遺跡エリア



 1層はそんな感じで、特に迷う事もなく遺跡エリアを探索して回った朔也さくやチームである。今となっては魔法の巻き糸を使わず、帰還の巻物頼りの道中である。

 それはそれで、情緒は無いけどサクサク進んで良い感じに探索が出来ている。そしてゲートを発見して、第2層へと到着を果たす一行であった。


 そのゲートの位置も遺跡のルートも、以前の探索とは場所や配置が微妙に変わっている感じ。それはどのエリアも同じで、さすが“夢幻のラビリンス”である。

 地図的な物を作成しても、入る度に地形が変わるのなら意味は無いって事だ。つまりは攻略の難易度は、何度入ってもそれほど変わらないダンジョンみたい。


 それはともかく、2層もさっそくゴブリン部隊がお出迎えしてくれた。ここでもカー君の警告のお陰で、問題無く先手を取れて殲滅せんめつする流れに。

 そして念願のゴブ弓兵をゲット、これで合成でちょっとは強化出来る筈。もう少し欲しいなと何度か止めを刺すのだか、次に入手したのはただのゴブ兵士だった。


 この層からゴブリン集団に、たまに魔術師が混ざり始めて対処が大変になって来た。それも青トンボとの魔法の撃ち合いで、派手に散って行って実はそうでもなかったと言う。

 やはり魔法は偉大である、探索者の中には魔法使い系もいるそうだけど、その数は少ないそうだ。剣や槍などの前衛職が圧倒的に多いようで、その次がカー君のような斥候職らしい。


 後衛の弓使いも割とレア職で、ただし荷物持ちのナンチャッテボウガン使いは多いそうな。祖父のような召喚士ともなると、レア中のレアで相当に珍しいと思われる。

 つまりはそれを継ぐ形の朔也や従兄弟たちも、その部類に入る訳だ。そうやって、時代と共に珍しい職も段々と平凡になって行くのだろうか。

 朔也には分からないが、少なくとも今の段階では珍しい部類なのだろう。


 そのカード召喚を極めるべく、2層も順調に探索を進めて行く一行である。いや、順調だったのは最初の方だけで、2層も後半になると段々と厄介な仕掛けも出没する模様。

 ある突き止まりの部屋では、大ダンゴ虫が数匹ひしめいていて倒すのに苦労させられた。甲殻の硬さはなかなかで、丸まっての体当たりは盾役がいないと大変なレベル。


 幸いにも、コックさんと箱入り娘はその手の戦いに向いていた。ガッチリと転がり攻撃を引き受けて、朔也の棍棒の殴り攻撃のサポートをこなしてくれる。

 呆れた事に、エンは刀で硬い甲殻を真っ二つにしていた。何らかのスキルかなと思う程、その斬撃は冴え渡って剣の素人の朔也は驚きっぱなしである。


 それから青トンボと人魂の魔法攻撃で、数減らしに成功して小部屋の戦いは終了の運びに。何かあるかなと期待したけど、ただの蟲の棲家すみかだったみたいでションボリである。

 別の小部屋では、大きな蜘蛛の巣を発見……嫌な予感がしたけど、やっぱり大グモが襲って来た。これに対抗するのは、こちらも新入りの装甲クモで同族同士の対戦カードだ。


 などと思って期待したけど、さすがD級の装甲クモは格上だったようでアッサリ完勝してしまった。止めを刺したかったけど、残念ながらその機会は巡って来ず。

 仕方なしに次の小部屋を目指すと、そこでゲートを発見してしまった。そんな訳で、少し休憩して3層へと戦場を移動する流れに。


 ここまで50分程度と、まずまずのペースとなっている。探索は2時間ペースと決めている朔也は、今回も4層を少し覗いて無理しないって決めてある。

 何しろ昨日のトラウマは、なかなかに辛い記憶となって今も頭を占めている。味方の召喚カードも随分と犠牲にしてしまったし、そう言う意味では逃げ切れて良しって感じでは決してない。



「さて、3層だ……この位から、充分に注意して進まなきゃね。さてお姫さん、どっちの方向に進もうか?」


 妖精のお姫は、ちょっと迷って右の通路を指差して来た。朔也がそっちに進むよと告げると、パペットを始めとして召喚モンスター達はゆっくりと前進を始める。

 朔也は既に見慣れてしまったけど、はたから見ると割と不気味かも。召喚主の立場からすると、彼らは充分に血の通った存在ではあるのだが。


 知らない人が見たら、かなり怖い映像となってしまう可能性も。遭遇したモンスターからの感想については、その辺は全くの不明ではある。

 向こうも或いは、操られた不気味な仲間集団って認識なのかも。少なくとも、3層のゴブリン達は何も考えず、こちらを敵とみなして突っ込んで来てくれた。


 それらを返り討ちにして、またもやゴブ雑兵のカードを1枚ゲットである。魔石(微小)の数も30を超え、儲けの方もまずまずな計算だ。

 今回はラッキーな事に、練習していたボウガンの射撃で敵のゴブを倒す事が出来た。ノーム爺さんから貰ったボウガンだが、段々と使い方にも慣れて来た。


 もちろん、敵が近付いたらすかさず近接用の武器へと持ち替えはするのだが。それを含めて練習中で、なかなか楽しく訓練出来ている次第である。

 そもそも人型の生物は、弱点が分かりやすくて良いと言う考え方もある。確かに、人型の生物を攻撃する忌避きひ感はあるけど、倒せば魔石に代わってくれるのも良い。


 そんなゴブリン集団だが、3層では合計3度ほど遭遇した。3つ目の群れはなかなか大きな群れで、しかも体格の良い奴も混じっている始末。

 恐らくホブゴブリンだろう、6匹の集団の用心棒的な立ち位置のそいつは槍持ちで手強そうだった。とは言え、相手をしたのがエンと言う運の無さ。

 結局は、派手な刃の撃ち合いにもならず倒されて行く事に。


 そいつは今日最初の魔石(小)を落としてくれて、ついでに銅貨も10枚ほどドロップ。獣人系はお金を落としやすいが、ノーム爺さんに言わせれば使い道もあるそうな。

 ダンジョン内でもお金は大事らしい、何とも世知辛い世の中である。


 そんな3層も道順は割と複雑で、何度か突き当りの小部屋に遭遇した。大抵はモンスターの巣となっていて、素通りも可能な親切設計。

 それもカー君の斥候能力と、朔也が新たに覚えた『魔力感知』スキルによるモノが大きい。これを使えば、小部屋の中もある程度の確認が可能である。


 しかも安全な場所から、相手に見付からずにだ……魔法アイテムも魔力感知に引っ掛かるので、これで宝箱があるか無しが簡単に分かるのだ。

 敵が多くて厄介そうな小部屋はスルーして、殲滅が可能そうなら潰して行く感じだろうか。そうやって時短して、効率よく進めるのも探索の基本であると思う。


 何しろ命は1つなのだ、MPやスタミナも探索を長く続ければ消費して行くのは道理だし。それを最小限に抑えながら、最大効率の稼ぎを弾き出すのが腕の見せ所。

 まぁ、駆け出し探索者の朔也には難しいのは百も承知である。それでも頭を使いながら、こうやって有効な手段を考え出すのはセンスの見せ所である。


 そうやって確認する方法を思い付いて、3つ目の小部屋だった。ここには小さいながらチェストが置かれており、朔也は期待を込めて仲間に室内の敵の討伐を言い渡す。

 中にいるのは全部で6匹らしく、宙に浮いてるのが2匹と地面に近いのが4匹である。仲間にそう告げて、いざ入り口からの不意打ちで優位を確定する作業へ。


「……って、ええっ!? 何で2匹しかいないのっ?」


 室内にいたのは、宙を飛んでるインプが2匹のみだった。必然的に、そいつ等に遠隔攻撃が集中して、青トンボのエアカッターで見事に1匹目が倒されて行く。

 2匹目はなかなかにしぶとくて、魔法の矢とハンマーを受けつつも部屋の奥へと退避して行く。それを追いかけようとした装甲クモが、いきなり不意打ちを受けた。


 やっぱり敵は追加で4匹いた模様、しかも地面に隠れて入り口からは確認出来なかったみたい。その敵は、ヒトデと言うか巨人の手の平のような形状で、装甲クモをいきなり鷲掴みして来た。

 慌てた朔也は、大声で仲間の救出をチームへと命じる。それに反応したお姫が、空中から魔玉(土)を2つほど投下した。派手に炸裂する魔法の玉と、次々に姿を現す巨大な手の平。


 場は既にカオスで、コックさんと箱入り娘は敵を抑え込みに前進していた。敵はその盾にデコピンをかまして、大きくよろける2体のパペット兵。

 更には部屋の奥に逃げた、仕留めそこなったインプも“混乱”の状態異常魔法を掛けて来た。ただしこれは、パペット兵にはそこまで効果は無かった模様で大助かり。


 こちらはようやく前線に到達したエンが、手の平モンスターを1体屠った所。朔也も麻痺のショートソードを手に、前線に駆けつけて敵の1体に『急所突き』スキルを放つ。

 これにて、装甲クモを握りしめていた敵は消滅してまずは一安心。ふと奥を見たら、生き残りインプはカー君に突かれて思い切り地面に墜落していた。


 そこからは何とか数の有利を活かして、敵を全て駆逐する事に成功する。1枚だけカード化に成功したそいつは、名前を大ヒトデと言うらしかった。

 どうでも良いが、コイツも機動力は全く無さそう。


【大ヒトデ】総合E級(攻撃E・忠誠E)


 装甲クモも、少々体力は減ったけど動きが阻害される程でも無いみたい。頑丈なモンスターは、こういう時には有り難い限りである。

 そして肝心の宝箱の前に、ドロップ品を拾い集めるメンバーたち。魔石(小)が3個も混じっていたが、どいつが落としたか良く分からない。


 ただし、革製の手袋は大ヒトデが落としたもので間違いは無いだろう。魔玉(闇)は、恐らくインプのどちらかがドロップしたモノだと思われる。

 小型の宝箱の中身だが、ポーション瓶や鑑定の書、それから劣化番の強化の巻物などが入っていた。それから何故か、爪切りやハンドクリームやマニキュアも一緒に出て来て朔也を混乱させる。


 ダンジョンはたまに、こんな日用品もドロップするとは聞いてはいたのだが。どうやら大ヒトデが守っていたため、こんな洒落の利いた結果になった模様だ。

 それらを鞄に回収して、一息つきながら売店で購入したMP回復ポーションを飲み干す。お姫も欲しがったので、少し残してお互いにMPの回復をする事に。


「遺跡エリアは、探索するのに厄介だね、お姫さん……罠は多いし、突き当たりの小部屋には必ず敵が固まっているし。

 これは4層に進むにしても、少し考えないといけないね」


 朔也の呟きに、相棒の妖精もウンウンと頷いて肯定の仕草を返してくれた。朔也が考えているのは、つまりはチームの召喚ユニットの大幅チェンジである。

 現状は質より量で戦っているけど、ここは新たに入手したC級カードの使い時かも知れない。それから朔也も積極的に前に出て、敵の数減らしに貢献する感じ。


 今はどちらかと言えば待ちの作戦で、安全を優先してる感じだけれど。C級の狼やクモを召喚するとなると、とにかく力でねじ伏せる作戦となるかも。

 それがはまれば、それはそれで戦いの幅が広がって良い気もする。ただし、朔也の安全を護る者がいなくなってしまうって意味でもある。


 それはやり過ぎだろうか、やっぱりコックさん程度は護衛役に残しておくべき? エンも貴重な戦力なので、残しておくのは確定である。

 だとすると、C級の召喚は1体だけで済ませるべきか。





 ――さて、それじゃあ狼とクモのどちらにしよう?






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