第50話 カード交換
改めて感じるのは、武器スキルって凄いなぁって事実。あんな巨漢のモンスターを手玉に取れるほど、その威力は凄まじくて
朔也も1つ持っているのだが、実は全然使う機会が無い。クロスボウや棍棒に浮気してしまって、剣を使う時間があまり無いのがその原因である。
薫子に相談したところ、自分で前衛に出て止めを刺すスタイルだと勿体無いですねとの返答が。器用貧乏は大成しませんよと、親身になって相談に乗ってくれる。
それでも、カード召喚士の戦いは独特で、祖父の
「本当はそれが良いんでしょうけど、《カード化》スキルは自分が止めを刺さないと発動しないんですよねぇ。
だから祖父も、若い頃は実はバリバリ前衛だったんじゃないですか?」
「そうだった可能性はありますね、じゃあやっぱり……モンスターの弱点に合わせて、武器を変えて行くスタイルもありなんですかねぇ?
とは言え、1つの武器を極めるのも大変ですよ?」
それは確かにそうだろう、そしてカード召喚士の正式な戦い方を朔也は全く知らなかった。ちょっとした気付きに後押しされ、現在の前衛モドキを選択している次第である。
今の所は、カード収集率も結構良いので、間違ってないと信じて突き進むしかない。それに加えて、皆に秘密にしている『錬金術(初心者)』を駆使してカード強化に励むのみだ。
ひょっとしたら、今は亡き祖父も『錬金術』系のスキルは持っていたのかも。偉大な先人の進んだ道が、今はしっかり確認出来ないのは残念で仕方無い。
それが分かっていれば、変に寄り道しないで済むだろうに。今は遺産のカードを残してくれただけでも、有り難いと思うしか無いのだろう。
まぁ、今はそのせいで従弟連中の激しい争奪戦が始まっているのだけれど。巻き込まれた朔也としては、いい加減にしてくれと文句も言いたくなってしまう。
それはともかく、巨漢の難敵であったミノタウロスは、倒した途端に土の
薫子も軽いノリで、薙刀の石突の部分で壊そうとしているが頑丈な土塚はビクともしない。朔也もチームを見回すが、力自慢のメンバーは微妙にいない感じ。
この中に何か宝箱がありそうなのにと、薫子はとっても悔しそう。朔也も手持ちのカードを見回して、これはどうかなと【白木のハンマー】を召喚する。
それを見た薫子は、おおっという顔に……そしてそれをパッと手に取って、思い切り振り上げての暴挙に及ぶ。驚いた朔也は、何かあった時の為に咄嗟の回避行動に。
ところが土で出来た塚は、その一撃で簡単にひびが入ってくれた。続けての撃ち降ろしの打撃に、割とあっさりとひびは広がり中の宝箱が確認出来るように。
最後の一撃で、ようやく取り出す事の出来た宝箱は手籠サイズ。白木のハンマーを朔也に返した薫子は、さっそくその中身を確認し始める。
中からはポーション瓶やエーテル薬が2つずつ、何かの木の実っぽいのはどうやら『炸裂の果実』と言うらしい。これは衝撃を与えると、魔玉以上に凶悪な爆発をするとの事。
それから魔結晶(小)が5個に魔玉(炎)が8個、鑑定の書が7枚に変わった形のガラス球が1個出て来た。割と大きな透明なそれは、中央に紋様のようなモノが封じ込まれている。
それは薫子も正体が分からないようで、ゴーグルで調べてみたら『修繕の紋様』と言うらしい。どう作用するかは不明で、まぁ魔法の品なのは間違いは無さそう。
「意外と色々入ってましたね、1層で宝箱をゲット出来たのは凄いなっ。さて、2層に進むのは大変そうだし、戻りながらどうやって回収品を分けるか決めましょうか?」
「いえ、私はこの館の専属メイドですので……宝物の分け前は必要ありません、全て朔也様が貰って下さい。
メイド長の
お小言で済むなら問題無いかなと、朔也はワームボールのドロップした宝石をそっと手渡す。ウッと言う顔を一瞬浮かべた薫子だが、それは何とか受け取って貰えてまずは良かった。
そうこうしている内に、1時間ちょっとの探索は終わりの流れに。入り口ゲートが見えて来て、帰り道に出遭ったのはオーク兵3匹のみだった。
こちらもカード化はせずで、定番の手順で倒し切る事に成功した。存分にダンジョン探索を楽しんだ感じの薫子は、手にした
そして入り口の前で少し話し合って、まずは薫子が外の安全を確認しに行くで話は
5分後に戻って来た薫子は、大丈夫でしたと無事に朔也を館までエスコート。ダンジョン探索の2連続で疲れ切っていた朔也は、そのまま離れに戻って休む事に。
薫子は、この襲撃については新当主の耳に入れておきますとしっかり約束してくれた。これで今後、
そんな感じで、午後のイベントは終了したのだった。
惜しむらくは、色々と良く分からない魔法の品を回収したのに、それをノーム爺さんに相談出来ないこの現状。恐らく錬金素材だと思うのだが、下手に動くと襲撃犯に気付かれるかも。
そんな感じで自室で
セキュリティの件に関しても、老執事の
恐らくは、祖父の
しかもそれを雇っているのは、新当主の
そしてそれ以上の事、例えば邪魔者の排除なども手掛けているのだと思われる。被害に遭っているのは主に、立場の圧倒的に弱い朔也である。
同じ立場の
執事やメイドから聞いた話では、楽々15は超えていたとの事。とは言え、カード召喚の出来ないダンジョン外では、高ランクの探索者の方が強いかも知れない。
そんな事を考えていると、不意に扉がノックされた。驚いて外を確認すると、廊下にメイドが静かに
なるほど、力押しが駄目なら交渉でこちらの手持ちカードを掻っ
新当主の
あの日と同じく、兄の太陽も同席して離れたソファに座っている。違いがあるとすれば、ガタイの良い探索者2名が美津子の後ろに控えている事だろうか。
ホッとした事に、午後の襲撃犯とはどうやら背格好からして違うようだ。雰囲気的にはもっと上品で、中年に近いベテラン感が漂って来ている。
実際に、年齢も40代の前半なのだろう……まぁ、初心者探索者のサポート要員としては、悪くない人選に見える。朔也としては、腹違いの姉と兄が誰に頼ろうと関係ないけど。
こっちまでには頼らないでくれとの、そんな願いは
その言い草は、まるであなたの物は当然自分のモノでしょって感じ。
「もちろんただでとは言わないわ、C級カード2枚をつけてあげる。破格な申し出でしょ、どうせあなたにA級カードなんて使いこなせないんだから。
聞いた所じゃ、他の従兄弟の刺客に襲われたそうじゃない。安心なさい、そのカードさえ手放せば、そんな事はもう起きなくなるわよ」
「は、はぁ……」
随分と勝手な言い草だが、的は射ている気がする。確かに祖父の遺産カードさえ手放してしまえば、襲撃者に襲われる心配はなくなるのだ。
とは言え、苦労して獲得したA級カードを、そんなジャイアン理論で手放すのもアレである。祖父の遺言にはそぐわないのではと、朔也は試しに反論してみた所。
弟の太陽がしゃしゃり出て来て、妾の子が出しゃばるなと
美津子の方はまだ余裕があるようで、今あるスキル書3枚も付けてあげると尊大な態度。心の底から朔也の事を下に見ているようで、気分は良くない。
それでも煮え切らない態度を取っていたら、案の定の恫喝が来た。しかもそれは、それじゃあ最初に恵んであげたカードを返してと言う痛い所を突いた命令。
それを聞いて、勝ち誇ったような美津子の表情はまるで女王様である。壁際に控えていたメイドが、お盆に綺麗にカード2枚とスキル書を3枚並べて朔也へと差し出して来た。
それを受け取った朔也は、大人しく【鬼蜻蛉の兜】をお盆に差し出す。完全に負けた気分になったのは、この際仕方のない事だろうか。
【死神クモ】総合C級(攻撃C・忠誠C)
【ソードブレーカー】総合C級(攻撃D・耐久B)
また蜘蛛のカードである、どうやら蜘蛛は蟲型のモンスターの中でも嫌われ者らしい。あの“土佐の英雄”坂本龍馬も、大の蜘蛛嫌いだったらしいと聞いた事がある。
ソードブレーカーの方は、描かれたイラストからして派手な両刃の剣らしい。片方はギザギザ型の
その交換が終わると、既に朔也は用無しとばかりに部屋を追い出されてしまった。これでチャラですよとか、もうこれ以上付きまとわないでとか、言いたい事は山ほどあったと言うのに。
それが全て負け惜しみだと言う事も、朔也には分かっていた。まぁ、向こうも妾の子の言う事など
それはそれで悲しいが、まぁ後ろ盾のない朔也としては全て仕方のない事である。美津子も言っていたが、暴力で奪われるか交渉で巻き上げられるかの違いでしかない。
ぶっちゃけて言えば、こんな祖父の用意した遺言ゲームなど途中放棄しても構わないのだ。命あっての物種と言うけど、朔也の胸中はまさにそんな感じ。
とは言え、一応は父親の立場の
それこそ、探索者の道を選ぶとかしないと、生計を立てるのは難しいだろう。執事に聞いた話では、この
そこには有能な若者たちが、優秀な教授たちに教えを
老執事の毛利に訊いた話だが、そこに通うのも良いなと一瞬だけ朔也も思ってしまった。こんな敷地に閉じ込められて、従弟連中と血生臭い争奪戦をするより遥かにマシである。
ただまぁ、一番の朔也の願いは元の寄宿舎に返して貰える事。
――それから、せめて卒業を迎えるまでは平穏に日々を過ごす事。
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