第49話 薫子さんとの探索



 結局、メイドの芙納繁ふなしげの提案は通って、朔也さくやと2人でこの“高ランクダンジョン”の探索を行う流れに。何より、せっかくユニットを召喚して準備も万端だったのだ。

 それを無碍むげにするのは勿体無いなと、朔也も思った次第である。そんな薫子かおるこの実力だが、Cランク探索者として登録がなされているそう。


 レベルも20以上はあって、武器スキルも5つほど取得しているとの事。そんな薫子は、現在手には立派なしつらえの薙刀なきなたを持っていた。

 ただし、服はメイド服と言うちぐはぐさ。


「そればっかりは仕方ありませんね、まぁ何とかなるでしょう。朔也様も、遠慮せずに前に出て頂いて大丈夫ですので。

 しっかりわきまえて、私は出しゃばらずに脇役に徹します」

「薫子さん、落ち着いてください……確かに止めを刺す役目を、こちらに譲ってくれるのは嬉しいですけど。ウチのチームの戦い方は、基本的には迎撃スタイルですので。

 下手に突っ込まず、戦線を維持してくれたらそれでオッケーです」


 そうですかと答える薫子は、久々の探索にやや興奮している模様。ちなみに自分の事は薫子と呼んでくれと、独特の距離の詰め方のメイドである。

 この遺跡エリアでは、幸いまだモンスターとの遭遇は無い。そんな訳で、肝心のメイドの薫子の実力は、未だ報告通りかは分からぬまま。


 それでも探索の方針を完全に委ねられた朔也は、遺跡エリアを奥へと進み始める。今回の目的は、時間潰しがメインで積極性には欠けるとは言え。

 新入りユニットの性能チェックやら、初めての人間相手のチーム編成やらを味わうのは悪くないかも。どの道、確実に隣を歩くメイドの方が、冒険者ランクもレベルも上なのだ。


 まずはお手並み拝見と、それほど難しく考えずに探索に臨む事に。とは言え、ここは1度は尻尾を巻いて逃げ出した場所でもあるし、慎重に進むのは大前提ではある。

 そんな感じて5分後に遭遇したのは、オーク兵団が5体だった。どいつも良い体格をして、装備も充実して強そうではある。手にしているのも、槍や棍棒など割と多彩だ。


「ようやく遭遇しましたね、さて……朔也様、いかが致しましょう?」

「えっと、最初に味方の遠隔持ちが攻撃するので、敵が突っ込んで来たら迎え撃って下さい」


 その言葉と同時に、愉快な仲間達が各々の得意手段で攻撃を始めてくれた。魔法の矢やトンカチ、炎の玉や風の刃が遭遇したオーク兵達に次々に見舞われる。

 幸い、敵の中に弓矢持ちや魔術師はいなかった模様。傷付きながら突っ込んで来る敵オーク兵に、こちらも盾持ちパペット×2体が立ち塞がる。


 盛大にぶつかり合う両軍だが、その時にはエンと薫子の斬撃が既に2体のオーク兵をほふっていた。パペット2体も上手に攻撃を防いで、その隙に朔也も1体の撃破に成功する。

 この遺跡エリアの通路は、それ程広くなくて盾役は2体もいれば充分だ。逆に体格の良過ぎるオーク兵達は、お互いが邪魔そうで動きにくそう。


 とか思っている内に、残兵も次々と討ち取られて最初の戦闘はこちらの完勝と言う形に。やりましたねと興奮する薫子は、朔也が思っているほど年上では無いのかも。

 ドロップは魔石(微小)が5個と銅貨が10枚程度のみ。とは言え、1層でこれだけ敵が群れて出て来るのは、決して楽なダンジョンではない証拠だ。


 これは前回と同様に、大物もいるかもと気を引き締める朔也に対して。この子はまだ出番がないですねと、装甲クモを指差しての薫子の鋭い指摘。

 その上には人魂が浮かんでいて、取り敢えずペア組は完了しているらしい。コックさんと青トンボも、相変わらず仲良さげで宿り木に使われている。


 復活したゴブ弓兵だが、格上のオーク兵相手では弓の威力も足りなかったようだ。攻撃はしたけど鎧に弾かれて、いまいちの存在感って感じ。

 それは仕方がない、朔也のクロスボウも似たようなモノだったし。その辺は、チームとしての課題ではあるけど、青トンボの風の刃の威力はなかなか素晴らしかった。


 そんな事を考えながら探索を続けていると、遺跡の天井に妙なものを発見したとカー君からの通達が。それは鍾乳洞に生えてる石筍せきじゅんのようだが、遺跡の天井にあるのは明らかにヘン!

 何かの罠かなと思ったら、アレはローパーと言うモンスターですねと薫子の注釈が入った。どうやら触手を伸ばして攻撃して来る擬態生物らしく、目や口も存在するらしい。


 敵なら安心して攻撃出来ると、朔也は再び遠隔攻撃の指示を出す。3体いたそれは、朔也チームの一斉攻撃を浴びて間隔を置いてボトボトと地面に落ちて行く。

 それを見た装甲クモが、止めを刺しに前進して行った。案の定、生きていたローパーから触手の振り回し攻撃を喰らうけど、装甲クモはへっちゃらな様子。


 頑丈な味方ってのは有り難い、朔也も危険と知りつつ前へと出て、何とか1匹止めを刺す事に成功する。ただし、カード化は発動せず残念な限り。

 遺跡エリアの構造は複雑で、5分も進めば元来た位置が分からなくなる有り様。分岐や行き止まりの小部屋も多くて、宝箱の設置も期待出来そうな雰囲気だ。


 ところが突き当りにいるのは、巨大な蛇やゴーレムと言った待ち伏せ型のモンスターばかり。しかも4つ目の突き当りの部屋にいたのは、ワームボールと言う厄介な敵だった。

 コイツは文字通り、多様な蟲が球状になった厄介なモンスターである。説明する薫子も、感情が表に現れて何とかしてくれって苦り切った口調である。


 幸い、人魂にはそんな感情は無くて何より。彼の炎の玉で、大半の蟲は焼かれて行ってくれた。残りはコックさんに頼んで、丸楯で潰して貰う事に。

 彼が文句を言わないパペットで、本当に良かった……。


「うええっ、ブチって言う蟲の潰れる音がまだ耳に残ってます……」

「うう、それはコッチも同じ……えっ、何かドロップ品があったの、カー君?」


 蟲ごときで文句を言うなって表情の快盗カラスのカー君が、咥えて戻って来たのは綺麗な色の宝石だった。ちなみに魔石は小サイズで、倒した甲斐はあったと言うモノ。

 ゴーレムも魔石(小)だったし、ここの稼ぎもまずまず良さそう。とは言え、オーク兵団が10匹以上で群れて来られたら、こちらの全滅もあり得る訳だ。


 朔也は今日の午前中に、まさにそんな目に遭ったと薫子に打ち明ける。コボルトとは言え、15体以上いてその中には魔術師もいたら倒すのは相当骨が折れる。

 それには薫子も同意して、作戦次第ですねぇと思案顔になってしまった。と言うか、“夢幻のラビリンス”の4層以降はレベル10前後の5人パーティが適正なのだとか。


 召喚モンスターだと、D級ランクが4~5体は欲しいそうで、F級ってナニって顔をされてしまった。そうは言っても、こちらにも懐事情と言うモノが存在する。

 無いそでは振れないし、そもそもD級5体と言えばMP総量が50以上である。まぁ、確かにレベル10のステータスなら、その位には成長してくれるだろう。


 つまりは、あまり先を急ぎ過ぎてもろくな事は無いって意味かも。確かにそうなので、朔也も今後は自重して4層以降はより慎重に探索する事に。

 ちなみに、ここの1層はそこと同じ位の難易度らしい。つまりは、オーク兵団が10匹以上徒党を組んで押し寄せて来ても不思議ではないそう。


「言った先から、さっそくオーク兵団が来ましたね……残念、たった6匹でしたよ、朔也様。こちらもさっきと同じく、遠隔釣り戦法でよろしかったですか?

 おっと、一番後ろに弓兵が1匹いますね、ご注意をっ!」

「了解っ……みんな、攻撃開始っ! 弓矢持ちに注意して、倒すのは前衛オークを減らしてからでいいからねっ!」


 その朔也の号令を聞いて、攻撃を始める遠隔攻撃陣である。槍や棍棒を手に突進して来るオーク兵達だが、残念ながらその攻撃で倒れた奴はいなかった。

 とは言え、無傷と言う訳にもいかずに、半ばヘロヘロの状態の奴らが半数ほど。その内の1匹を朔也が倒すと、ようやくカード化が成功してくれた。


 エンと薫子も比較的元気な奴を倒してくれて、これで敵の群れは半減する。ただし、敵の反撃の槍の突きを、コックさんが受け損なって体にダメージが入った模様。

 エンがすぐにフォローに入って、それ以上の被害はこちらに無し。敵の弓矢持ちだが、装甲クモが距離を詰めて攻撃の妨害をしてくれていた。


 ナイスサポートである、続けて薫子が駆けつけてそいつを華麗に倒すのに成功。これで何とか、6匹の群れも退しりぞけられる事が証明出来た。

 と言うより、光り輝くメイド戦士・薫子の存在感である。


【オーク槍兵】総合E級(攻撃D・忠誠F)


 ドロップ品は魔石(微小)に混じって、やはり銅貨が16枚と手槍が1本、それから革の篭手が1つだった。装備品はサイズが大きいし、魔法の品でも何でも無さそう。

 それより、カード化の方が一応は価値がある……オーク兵を味方で使うかは、また別の話ではあるけど。ゴブ弓兵よりは確実に強いし、弓兵だったら考えたかも。


 薫子はカード化を間近で見て興奮しているよう、確かに凄いスキルだと朔也も思う。理論上は、どんな強いダンジョン産のモンスターも味方に出来る可能性があるのだ。

 そんな感じで騒いでいると、ふと地面が揺れた気がした。遺跡の通路の壁のレンガからも、パラパラと砂が落ちる音が聞こえて来る。


「あっ、嫌な予感がする……カー君、どっちから!?」

「おっと、これは大物の予感ですねぇ……朔也様、先陣を貰っても?」


 大物モンスターの接近に、まるで顔色を変えない薫子はそれ程の実力の持ち主なのだろうか。判断し切れない朔也は、エンに行けるかどうか確認する。

 隻腕せきわんの戦士は、当然だとヤル気は充分である。それで朔也の腹は決まって、他のメンバーに援護に徹するよと指示を出しての戦闘準備。


 それと同時に、曲がり角からひょっこりと出現したミノタウロス。4メートル以上の巨漢は、頭の角がうっかり遺跡の天井についてしまいそうな程である。

 それと同時に、朔也の号令で放たれる遠隔攻撃は、残念ながらそれ程の効き目は無かった模様。逆に怒らせただけの様で、狂牛のような叫び声をあげて突進して来る巨大な体躯。


 その手にはバカでかい斧を持っていて、この攻撃は箱入り娘の大盾でも防ぎ切れそうにない。どうしようと朔也が思っていたら、疾風をまとって薫子が接近して行った。

 それから薙刀による多段突きが、ミノタウロスのわき腹にヒット。思わず前屈みになる相手の喉元を狙って、体全体を使った豹のようなすくい上げの斬撃が見舞われた。


 恐らく薫子の持つスキルなのだろう、タフなミノタウロスもこれにはたまらず尻餅をつく。そこに遅ればせながら接近を果たしたエンの片手での剣技が炸裂。

 こちらはスキル技でも何でもない筈だが、見事にミノタウロスの左手首を斬り捨ててしまった。恐るべし剣豪×2名は、呆気にとられる朔也の前で殺戮さつりくを振り撒いて行く。


 結果、前回は手も足も出なかった巨漢の怪物を、剣士2人はモノの2分で撃破に至ってしまった。そしてドロップした魔石(中)を、誇らしげに掲げる薫子である。

 その笑顔は天真爛漫てんしんらんまんで、やっぱり意外と若いのかも。





 ――いやいや、戦うメイドあなどれず……ってか、恐るべし。





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