第44話 8日目の朝
昨日の夜も色々あったけど、無事に一晩が過ぎて次の日の朝である。この館に連れて来られて8日目となるが、祖父のミッションは遅々として進んでいない。
祖父の遺産のカード収集と言う点に関しては、手掛かりすら得られていない始末である。ただし、自分の召喚ユニットで言えば、昨日の対人戦特訓で大儲け出来た。
その点は、賭けの報酬なのだから胸を張って貰えて後腐れは無し。まぁ、それも新当主の目が行き届いていたからの話で、持ち主には
つまり、今回も難癖をつけられてチャラにされていた可能性も。
【オモチャの兵隊】総合D級(攻撃E・忠誠C)
【ブラウニー】総合D級(攻撃F・忠誠B)
【装甲クモ】総合D級(攻撃D・忠誠D)
【殺戮カマキリ】総合D級(攻撃C・忠誠F)
それはともかく、賭けで入手したカードは全てD級でなかなかの品揃え。中には使い道に疑問符が浮かぶカードもあるが、そこはまぁご
例えばブラウニー(お掃除妖精)とか、戦闘にはとても使えそうにはないユニットな気が。とは言え、例えば“訓練ダンジョン”のロビーフロアを整頓して貰うには助かるかも知れない。
オモチャの兵隊は、忠誠はともかく攻撃力には欠けるユニットみたい。その逆で、
そう言う意味では、今回ゲットしたカードの中では、装甲クモが一番バランスが良い感じ。名前からして、恐らくは防御力も高そうでコイツは即戦力になりそう。
ただし、Dランクの召喚コストはMP10なので割とやり繰りが大変だ。快盗カラスのカー君もD級なので、2枚でMP20と朔也の総MP量の半分である。
ちなみにF級はコスト2MPで、E級は5MPである。夜の対人戦特訓で、最初の対戦相手の長男の
そのせいで、追加のモンスターを
いや、中には使えるF級だっているし、評価値だけで判断するのは勿体無い事も分かっているつもり。つまりはトライ&エラーで、探索しながら自分に合う召喚モンスターを試して行くのがベストなのではないかと思う朔也である。
エンなどまさにそうだし、中にはお姫のように特殊能力持ちだっている可能性がある。それを見極めるのは、やはり実地で色々と試して経験を得るのが大事。
そんな訳で、今日も朝食を食べたら“夢幻のラビリンス”へと
大変だけど、まぁやり甲斐のある各種イベントには違いない。
「あっ、おはようお姫さん……今日はお寝坊さんだね、朝ご飯もう食べちゃったよ。一応デザートは少し残しておいたけど、食べる?」
今日の妖精のお姫は、朔也が朝食を食べて探索準備を整え終えてから出現して来た。いかにも寝起きな様子のチビ妖精は、朔也の肩に停まって後で食べるとポッケを指差す。
つまり非常食用にとっておけとのお達しで、素直にその通りに包み紙と一緒にビスケットをボッケに放り込む。これにて、お姫の探索準備は完了したっぽい。
朔也としては、相棒のテンションはとっても大事には違いなく。大丈夫と声掛けしてお姫の体調を窺うも、どうやら本当に単なる寝坊だったみたいである。
夜更かしして何かしていたのか、その辺は不明だが取り敢えず朔也の計画に支障は無さそう。そんな訳で、いつもの時刻に本館の3階にある執務室へと到着を果たす。
「おはようございます、朔也様……今日も1番乗りですよ、昨日の対人戦特訓の結果も見事でございました。特に探索経験のある従兄弟様との対戦で、勝利する事が出来たのは大きかったですな。
この調子で、
「いやぁ、それについては手掛かりも全く無いし、まだまだですよ。取り敢えず、今日も普通のカード収集とレベル上げを頑張りますね。
あっ、帰還の巻物だけ補充お願いします」
そんなやり取りを、老執事の
従兄弟たちとは大違いで、アウェー感が全く無い空間はこの館では得難い場所である。後はノーム爺さんの待機フロア位だろうか、この広大な館で心から
そんなやり取りを楽しみつつ、館内の情報も執事さんから入手する。どうやら祖父の初七日法要を終えて、対人戦特訓も2度目をこなして新当主も思う所があったようだ。
その資産も当然ながら膨大で、祖父の孫である従兄弟たちは超お坊ちゃんお嬢様な育てられ方をして来た訳だ。そのせいで、我が
それに
まぁ、朔也もそう推測するだけで、手助けの類いは全く出来はしないのだが。精々はカード集めを頑張って、コツコツと探索で実力をつけて行くのみ。
ところが老執事の毛利は、そんな従弟連中の競争心を
他人事なら愉快な試みだが、自分もそれに加わるとなるとかなり不安ではある。朔也の成績は悪くない筈だが、それで従弟連中から加わるヘイトが増してしまう気もする。
どちらにしろ、朔也の立場で止める手立てもありはしないのだ。そうですかと流すに留めておいて、朔也は行ってきますとゲートを潜って行く事に。
こうして8日目の探索は、いつも通りにスタートするのだった。
「うわっ、久々の洞窟エリアだ……確か初日以来かな、懐かしい」
8度目の入場となる“夢幻のラビリンス”内だが、何と久々の洞窟エリアだった。懐かしさもあるが、そのエリアの暗さに慌てて朔也は探索の準備を始める。
つまりは仲間を順次召喚して行って、それから灯りの確保を魔玉(光)で行う。ちなみに弓ゴブだが、まだカードの表面は暗くなったままで召喚出来ず。
そんな訳で、呼び出す仲間は隻腕の戦士のエンと、それからコックさんと箱入り娘のE級パペットコンビの2体。それから快盗カラスのカー君が、一番MPコストが高くて10の消費である。
数合わせに出した
何とも低コストで有り難いけど、昨日賭けでゲットしたカードは軒並みD級で、戦列に加えるのはコスト的に無理。総MP量36の身には、お試し利用すら
悲しいけど、運命と諦めて今日も頑張る予定の朔也であった。
そんな感じで、灯りも2つ程用意しての洞窟エリアの探索の開始である。背後のゲートから左右どっちに進むか迷うけど、この前メイドさんに訊いたらどちらでも良いらしい。
この“夢幻のラビリンス”は、一定の距離に次の層へのゲートが生まれてくれるそう。ぶっちゃけると、時間を置いて30人くらいで入っても、同じエリアに排出されるとも限らないとの事である。
それがこのダンジョンの名前の由来みたいで、帰りのルートだけは覚えるよう助言を貰ってしまった。もしくは帰還の巻物は、絶対に持って行くようにと。
つまりは、深く降りて行くのは比較的に簡単なダンジョンらしい。地上に戻る
下手に迷ったら、そっちを利用するのも手なのだそう。ただし、中ボスは割と手強いモンスターが設置されてるみたいで、自信の無い内は挑まないようにとの助言だった。
とは言え、宝箱は必ず置かれているし、スキル書のドロップも確率は高いとの話。一攫千金は、自分の命の重さと天秤にかけて決めてくれとの事らしい。
「まぁ、当分は無理かな……こっちは、このダンジョンの4層の敵にも苦労してるもんね。でも、D級ランクの味方が増えればもう少し楽になるとか?
う~ん、他の連中は5層まで行けてるのかなぁ?」
対人戦特訓で戦ってみた限りでは、強力なスキルを持っていたとか、そう言う従兄弟はいなかった気がする。飽くまで後衛寄りで、戦うのは召喚モンスター任せの戦法ばかりが目立っていた。
まぁ、相手の性格にもよるのだろうとは朔也も思う。暴力が好きな従兄弟だと、バリバリに前衛に出て来て自らも戦闘に参加するとか。
例えば、昨日の召喚枠の巨漢の探索者みたいな男だったりとか。彼は気の毒な事に、昨夜は随分と上級ポーション代金をぼったくられていた。
お陰で指はくっ付いたみたいだが、完全に戦意喪失してこの館を出て行くそうである。それでなくても、使えないと判断されて従兄弟に首を切られていたけど。
そんな向こうの事情など知った事ではない、こちらはひたすら探索を頑張って強くなるだけである。取り敢えずの目標は、このダンジョンの中ボス撃破である。
そして将来的には、従弟連中にちょっかいを掛けられても平気な強さだろうか。まぁ、縁を切って良いとのお達しされれば、それが一番平和な解決方法には違いない。
亡くなった祖父には申し訳ないが、彼らとは余りに生活環境や価値観が違い過ぎる。こちらは波風立てずに、静かに暮らして行きたいってのが朔也の本音である。
そんな事を考えている間に、朔也が決めた進行方向から狼が数頭やって来た。チームに攻撃命令を伝えると、コックさんと人魂が先制で遠隔攻撃を敵に放った。
新入りの箱入り娘は、大きな盾持ちの女性型のパペットである。オレンジ色の明るい髪に茶色のオーバーオールを着込んだ田舎の娘風の容姿はさて置いて。
武器らしき物は、小型のトンカチ位しか持っていないし考え物である。防御特化のパペット兵なのだろう、確かに鞄が変形した大柄の革盾は、人がすっぽり入るサイズ感で頼もしくはある。
朔也もその影からクロスボウで攻撃して、敵を弱らせる事に成功した。ただし止めは、両方ともエンに取られて残念ながらカード化はならず。
魔石(微小)と1枚だけ落ちた狼の毛皮を拾って、更に奥へと進んで行く一行。すると間を置かずに、今度はコウモリが数匹襲い掛かって来た。
そいつらの襲撃を、何とか力を合わせて駆逐して行く朔也チーム。そして判明、箱入り娘もコックさんと同様に、トンカチを使っての遠隔攻撃を持っているようだ。
振り回したトンカチから、魔法のトンカチが飛んで行って見事に1匹を撃破。威力も上々みたいだが、その分連射は出来ないみたいである。
カー君も空中戦では、1層のコウモリごときには後れを取らない模様。チームの前へと弱らせた敵を撃ち落として、止めを譲るスタイルは
お陰で朔也は、本日1枚目のカード化に成功した。
【洞窟コウモリ】総合F級(攻撃F・忠誠F)
――この調子で、本日も使える部下をゲットしたい所。
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