第43話 光孝と春海との戦闘訓練
体育館のような訓練場は、一種独特の熱気に包まれていた。ある種の戦う空間なのは確かで、その中には
それは当然ながら、ヒヨッ子も同然の従兄弟たち祖父の孫連中では無い。
探索者の一般常識や、ダンジョンに関する情報もつい最近習い始めたばかりのヒヨッ子である。それに対して、従兄弟たちが雇った探索者やこの館の執事やメイドのオーラは凄いかも。
それは何となく朔也も気付いていて、格の違いを秘かに感じている所。とは言え、自身の所有する《カード化》スキルは、そんなベテランとの差も引っ繰り返す可能性を秘めている。
まぁ、C級やB級ランクを召喚するMPコストは馬鹿にならないけど。そこさえクリアしたら、ベテラン探索者とも遣り合える可能性は充分にある訳だ。
もっとも、朔也はそんなふうに思っている従兄弟たちを、完全に一泡吹かせてやる気でいる。例えば前回の【雑種スライム(大)】の即時召喚は、今回も当然狙って行く予定。
従弟連中も馬鹿ではないから、多少は備えてるとしても不意をつければ行ける筈。他にも作戦はいくつかあるので、対策を立てられていてもどうと言う事はない。
メイドの
対人戦特訓場は訓練用フィールドが全部で4つあって、その内の1つで今回も従兄弟同士での戦闘訓練が行われるっぽい。もっとも、その前にきっちりと、亡き祖父への
それを取り仕切る新当主の
お陰で祖父の初七日の儀も、関係ない連中に占拠されたようなちぐはぐさ。横暴な振る舞いこそしていないが、群れれば態度も大きくなるのが人間の浅はかさである。
そんな探索者は、前回より確実に増えてチラッとみただけで10人以上はいるよう。まぁ、探索着のメイドや執事もそれくらいいるので、何とか均等は取れている感じだろうか。
中には明らかに性格の悪そうな奴らもいるし、朔也としても困ったモノとしか思えない。それでも冥福の祈りの儀は終わり、次に迎えるのは戦いの時間である。
新当主の言葉と共に、再び熱気に包まれて行く訓練場。
「探索者になりたての
執事やメイド達も、この合同練習で腕が落ちぬよう鍛錬に
「「「はっ!!」」」
一斉に返事をする執事やメイドたちの統制は、さすが大きな館とそこに住む一族を支えているだけはある。逆にそれを目にした探索者たちは、どこか馬鹿にしたような表情の連中がチラホラと窺える。
アウトローを気取っているのか、組織に属さない美学でもあるのだろうか。特に酷いのが、派手な赤髪の目付きの悪い若い探索者だった。
明らかに馬鹿にした態度を隠そうともせず、一体誰に雇われたのやら。その隣の金髪も似た感じで、腕は立つのかも知れないが品位は欠片も無さそう。
執事やメイドからも視線が刺さっていると言うのに、意に介さない度胸は褒めるべきか否か。そんな事を思っていると、一戦やろうやと朔也にお声が掛かった。
振り返ると案の定、ポッチャリ次男コンビの片割れの
短髪で巨漢のその男に、また会いましたねと軽口を叩いてみせる朔也。相手は無視して、ただ単にニヤニヤと笑っている。どうでも良いが、これって2対1なのでは?
「お前だって召喚モンスターを扱うだろうが、それと同じだよっ。ゴチャゴチャ言ってないで、さっさとベストを着けてフィールドに上がれや!」
「こちらは別に構いませんが、モンスターと同じならそちらの方にベストの着用は無いわけですよね? 仮に命の危険に
それをこっちのせいにされても、責任は負い切れませんけど」
朔也はそう言って、さり気なく2階の
ただし、訓練の対人戦にまで引っ張り込むのは、何と言うかやり過ぎな気がする。臆病者と
それは朔也にとっては、ひょっとして追い風になるのかも知れない。或いは新たな厄介の種かもだが、取り
自分で戦う能力はありませんと、大声で宣伝しているような連中に負けるのはとっても
そして2度目の対人戦特訓の舞台に上がる朔也の、対戦相手は今回2人みたい。とんだ変則ルールだが、ベストを着込んでの戦闘準備に
仲間も順次呼び寄せて、新人の【箱入り娘】も召喚してあげる。革の大盾を構えた娘さんは、割と防御寄りのユニットなのかも知れない。
それから新生コックさんは、エプロンと鍋フタの盾の新装備でより凛々しくなった気が。弓ゴブはまだ召喚出来ないけど、そこはまぁ仕方がない。
こちらのメイン戦力は、飽くまでエンである。それからカー君とお姫の、飛行部隊にもちょっぴり期待。対戦相手の次男の
バーバリアンは装備からしてC級だろうか、いかにも強そうな装備を着込んでいる。それから巨漢の短髪男も、抜刀してこちらへと向かって来る構え。
つまり戦いはいつの間にか始まっていて、護人も遠慮なくクロスボウを敵へと放ってやる。それに続くコックさんの魔法の矢と、人魂の炎魔法はバーバリアンに着弾する。
巨漢の探索者はその射線を避けて、左側からこちらへと近付く構え。そして装備もみずほらしい
どうやら初日のエンの戦い振りを、全くチェックしていなかったようだ。剣技の応酬は全く均衡も保たず、2振り目でエンは短髪巨漢男を圧倒する事に。
腕とわき腹と首筋に一度に傷をつけられた相手は、尻餅をついて一転して驚きの表情に。朔也たち本隊の形勢は、バーバリアン相手に盾役の箱入り娘が何とか抑え込んでる状況。
待ってくれと差し出した手の指を
命だけは助かった巨漢の探索者は、散らばった自分の指を泣きながら集め始める有り様。これでも上級ポーションを使えば、再びくっ付いてくれる可能性は充分にあるのだ。
そうこうしている内に、一斉に攻撃を受けたバーバリアンは数分も持たずに撃破されてしまった。3メートルの巨漢も、援護なしの孤軍奮闘ではこんなモノか。
フィールドの端から動かない
練習用のボルト弾は50本以上あるので、足りなくなる事は無いので安心だ。実際は、相手の
全く良い所無く、ベストの耐久値がゼロになったよとの告知が響き渡る。
「情けない、まるでサンドバッグだな……これは対人戦特訓だと言ってあるだろう、お前は戦闘を工夫する頭脳も無いのか、
もういい、次の対戦者に場所を開けろ」
「で、でも親父……やつはインチキ……」
太った次男は、こちらのインチキが原因で自分が負けた事にしたかったようだ。ただし今回、朔也は正当な召喚カードのみで勝利をあげてしまっていた。
そんな訳で、言い逃れもいちゃもんも付けれなくて絶句してしまう
それは自業自得なので別に良いけど、憎々し気にこちらを見遣る視線も幾つか。例えば前回倒した長男の
どうでも良いけど、こっちを見ないで従兄弟たちの訓練風景を見れば良いのにと、朔也は素直にそう思う。お次は女性同士、どうやら姉妹の模擬戦らしい。
その次は利光叔父の長男と長女、どちらも探索者経験のある2人の模擬戦が続く。次男の
などと思っていたら、案の定に春海から指名を受けてしまった。MPが回復していないのを理由に断ろうとしたが、何故か後ろに控えていたメイドの
「追加のカードゲットのチャンスです、朔也様……春海様は探索経験があると言っても、現在のレベルは10なので大きなハンデにはなりません。
頑張って3勝目を狙って下さい、影ながら応援しております」
「あ、ありがとうございます……」
結局は再び特殊ベストを着込んで、フィールドに押し出される朔也であった。妖精のお姫はヤル気満々で、相手がレベル的に格上でも関係ないぜって表情。
まぁ、朔也も負ける気はしないが……レベル3差だと、奴のMP的にはどうだろう。D級カードの召喚コストが10なので、4体は召喚可能だろうか。
ところがC級だと、MP20とコストが跳ね上がる……同じくC級のお姫がコスト5で済んでるのは、何らかの特殊効果と言うかチートだと思われる。
そんな相手の作戦だが、割とすぐに判明した。何とオーク兵団×4体だ、重装備が1体に弓持ちが2体、最後の1体は魔法使いのよう。つまりは徹底した遠隔攻撃で、こちらを完封する気の様子。
さっきこちらがやった作戦だが、どっこいこちらにも盾役が2体もいる。そんな訳で戦況は、箱入り娘とコックさんに防波堤になって貰い、こちらもチマチマと遠隔攻撃を繰り出しての
周囲のヤジが
明確な妨害行為に、腹を立てた朔也は切り札を投入する事に。自分は念の為に『魔法のガスマスク』を装着して、コックさんの背後へと隠れての新たなカード召喚に踏み切る。
そしてそれが召喚されたのは、敵陣の真上だったと言うサプライズ。真上を制していたのが、妖精のお姫だけだと思っていたようだが大間違いである。
どうやらカー君、夕方の合成で隠密スキルを取得した模様。
そして上空にこっそり潜んでいての、口に咥えていたカードの放出である。【
そして周囲に振り撒かれる刺激物に、目や呼吸器官をやられる敵兵団。
ついでに撃ち込んだ魔玉(炎)で、爆発が起きたのは完全に誤算ではあった。
お陰で、香辛料のカードは送還されてしまったけど、敵のベストの耐久値はゼロになってくれた。新戦法も確立できて、まぁこちら的に言う事無しである。
――しかも相手からカードを貰えて、戦力も充実する予定。
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