第42話 2度目の対人戦特訓



 夕方の合成の時間だが、それなりに充実して成果も上々で嬉しい限り。特に糸素材と木工素材、それから牙の欠片素材でボルト矢弾の合成に初成功してしまった。

 素材も割と多かったので、調子に乗って連続して合成を続けていたら。MPが枯渇してぶっ倒れそうになって、慌ててMP回復ポーションのお世話になると言う。


 それより今回は、珍しくアカシア爺さんが付きっきりで合成装置の作業を見てくれている。ここの所のお酒の差し入れや、お弁当効果が良かったのかも知れない。

 お陰で自信の無いカード合成に、色々とアドバイスが貰えるかも。そう期待しながら、取り敢えずは矢弾の合成を終わらせた朔也さくやである。


 結果、牙の矢尻のクロスボウボルトを50本ほど作成に成功した。今日はほとんど使わなかったけど、消耗品だし予備は幾らあっても平気な筈。

 その出来をノーム爺さんに見て貰って、まずは軽くオッケーを頂いた朔也は上機嫌。相変わらず『錬金術(初心者)』だが、大きな失敗も無くまずは良い調子。


 ただし、この『錬金術』スキルはかなり金食い虫で嫌になってしまう。ちなみに、今日の儲けの魔石(微小)×85個と魔石(小)×5個は、既に爺さんに返却済み。

 その理由としては、明日も楽しくこの“訓練ダンジョン”で探索に勤しみたいからに他ならない。入って敵がスカスカだったら、やはり探索し甲斐も無いと言うモノ。


 ついでにステ果実(体力)も、鑑定したついでに完食している。永久的なステータスアップ果実は、売れば10万円以上するとの事ではあるけど。

 やはり自己強化の手段は、幾らあっても困らないのも確かな事実。そんな訳で、朔也は見付かる端から食べる事に決めている次第である。


 あとの諸々の回収物については、いつか役に立つかもなので部屋の回収ボックスに放り込んである。ノーム爺さんが好きに使えと言った奴なので、放置しても怒られない筈。

 何しろさっきも言ったけど、錬金術は金食い虫でいつお金が尽きても不思議ではないのだ。その時の為に、少しでもお金になる品は貯め込んでおかねば。


 ちなみにさっきのボルト合成で、既に魔結晶(小)が6個ほど露と消えてしまっていた。これからカード合成に移るので、もっと消えるのは既定路線である。

 まずは肩慣らしに、2枚以上ある【鍋フタ盾】【食堂ネズミ】【一角ネズミ】【密林クモ】辺りを合成して行く。それぞれ割れずに成功してくれたけど、まぁ劇的な変化は当然無し。


 それでもカードの絵柄の変化もあったりして、合成作業はなかなかに面白い。ネズミ系はたくさん増えてくれて、これは【雑種角ネズミ】をもう一段合成出来そう。

 結果、合成は成功したけど微妙なモンスターが誕生した。


【鍋フタ盾(中)】総合F級(防御F・耐久E)

【雑種角ネズミ(中)】総合F級(攻撃E・忠誠F)


 どうやらスライムのように、ランクは上がらずサイズが増加してくれるらしい。そっちの方が、召喚コストが増えない分嬉しいまである。

 とは言え、所詮はネズミである……その後に【密林アリ】4枚の合成を試して、いよいよ今日のメイン合成を言い渡される朔也である。


「そんじゃ、こっちの【戦闘コック】の合成に移ろうか。坊主がメインで使っとるモンスターらしいから、気合を入れて良い魔結晶を使うようにな。

 それが成功したら、この【バトルエプロン】と【鍋フタ盾(中)】もついでに合成するとええ。数値には現れんが、防御力は上昇してくれる筈じゃ」

「わ、分かりました、やってみます……」


 緊張のあまりにかすれそうになる声音で返事して、朔也はノーム爺さんに言われた手順と魔結晶(中)での合成に取り掛かる。コックさんが強くなれば、今後の探索もずっと楽になってくれるとの期待を込めて。

 そしてその結果だが、能力もイラストの見た目も劇的な変化をもたらした。どうやら4本腕は変わらずだが、エプロン装備で盾持ちの立派な前衛パペット兵が爆誕したっぽい。


【バトルコック】総合E級(攻撃E・忠誠D)


 名前にも変化があったし、攻撃力もFからEへと上がっている。コックさんの成長をカードデータで確認した朔也は、喜びのあまり飛び上がりそうに。

 これは今夜の対人戦特訓にも活躍してくれそう、エンとともに期待大である。アカシア爺さんも、朔也の喜ぶ姿に満足そうな表情を浮かべている。


「おっと、このカラスもお主のチームのメインカードか……一応は2枚あるの、魔結晶(中)はまだ残っとるか、坊主?」

「はい、一応は後1個だけ」


 そんなら使えと、提案されたのは【快盗カラス】のカー君と【盗賊カラス】のカード合成。ランクE級とD級の掛け合わせだが、果たして上手くいくのかどうか。

 結果として、最後の魔結晶(中)は無駄にならずに済んだ模様である。そして生まれた新生カー君だが、名前にちょっぴり変化があっただけと言う。


【快盗カラス(S)】総合D級(攻撃E・忠誠D)


 それでもノーム爺さんは満足気で、朔也の合成の腕前を褒めさえしてくれた。朔也自身も、高価な魔結晶が無駄にならずにホッと安堵のため息。

 カー君の変化については良く分からないが、その内探索していれば気付くだろう。何なら今夜の対人戦特訓の時にでも判明するかも知れない。

 ちなみに、今召喚して調べるのはMPがきつくて無理!


 コックさんと一緒に呼び出して、是非とも以前との違いを詳細に調べてみたいけど。MP回復ポーションは、今日の錬金作業だけで既に2本飲み干してしまっていた。

 これ以上飲むのはお腹パンパンで辛過ぎる、夕食にも差し支えるので確認は夜の訓練にでも持ち越す事に。それにしても、助言をくれたアカシア爺さんには感謝である。

 後は実戦で、新戦力の具合を試すだけ。





 夜は比較的あっという間に訪れて、今は朔也も夕食を終えてくつろぎ中。そうこうしている内に、時間になったのか部屋に迎えのメイドのノックの音が響いた。

 2度目の夜の対人戦特訓だが、果たして他の従弟連中はどう思っているのだろうか。新当主の苛立いらだちを、真摯しんしに皆が受け止めているのか。


 それより面倒だなと、腹立たしく思っている者が大半な気もする。朔也としては、そんな横暴な従兄弟たちとの関わりはなるべく減らして生活して行きたい。

 つまりはこの夜の訓練も、本当はご遠慮願いたい所である。何しろ訓練に勝ってもヘイトを貰うし、わざと負けるのも忖度そんたくしているようで嫌だ。


 この前に文句を言って来た、ベテラン探索者達の言い分がまさにそうである。社会的弱者はびへつらって生きよと言うが、探索で力をつければそれも関係ない気が。

 成り上がりも許されないと言うなら、こんな場所にいる必要すら失われてしまう。朔也としても、好きで新当主の言いなりで探索業を始めた訳では無いのだ。

 ただ今は、亡き祖父の遺言に粛々しゅくしゅくと従っているだけ。


 面識もない存在に対して、それもどうかと思う気持ちは確かにある。それでも偉大な功績をのこした祖父に対して、畏敬いけいの念が全く無いわけでもない。

 そんな祖父の遺産のカードと言うのも、正直見てみたい気持ちも少しある。


「今夜は対人戦特訓の前に、鷹山ようざん様の初七日を行います。正式な法要は午後に行っておりますので、黙祷もくとうの時間だけ全員で取るとの事です。

 その後は、通常のお孫様による訓練の時間を1時間ほど」

「あっ、そうですか……了解しました」


 モロに探索着でメイドさんの後について来ていた朔也だが、それで構わないそう。そもそも祖父は半生を探索で過ごした人物なので、探索着こそが正装とも言えるみたい。

 そんな話をするメイドだが、午後に朔也の窮地を救ってくれた女性に他ならず。確か芙納繁ふなしげと名乗っただろうか、恐らくは探索者としての腕前も持っているみたい。

 そして恐らく、例の探索者も訓練には同行して来ている筈。





 ――そんな事態を、天国の祖父は果たしてどう思っているのやら?







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