第41話 新しい探索仲間



 それから周囲を窺うも、特に際立った回収品は存在せず。例えば絵本やガラガラ、オモチャのピアノやおしゃぶりやフィギアを持ち帰っても仕方がない。

 クレヨンとかも使い古しで、一体誰が使っていたのか気になって仕方がない。そんな思考をいったん無視して、朔也さくやは進むべきルートを確定する。


 とは言っても、半開きの扉は部屋の片方にしか通じていないみたいで選択の余地はナシ。仕方なくエンと一緒に前衛の位置を確定して、そちらへと進む朔也である。

 カー君が扉が開くと同時に、偵察のつもりなのか先行して隣の部屋へと飛び込んでくれた。それからすぐにUターンして戻って来るいさぎよさ。


「おっと、またまた敵のお出ましだ……今度は普通のパペットも混じってるね」


 とは言え2体だけで、のっぺらぼうの木製パペットはエプロン着で乳母か何かだろうか。赤ん坊のパペットがいなくて幸いだ、さすがにそんなのを倒すのも気が引ける。

 他は子供サイズのブリキのオモチャとか、それより小型の縫いぐるみが数体。部屋に入って来た朔也チームに反応して、一斉に襲い掛かる素振り。


 こちらも戦うよと号令を掛け、まずは人魂の炎が燃えやすそうな縫いぐるみへと飛んで行く。それは見事にヒットして、派手に燃え上がる犬の縫いぐるみ。

 コックさんの魔法の矢も、人型パペットに着弾してHPを削っている。エンは半歩だけ前へと出て、しっかりと待ちの姿勢。朔也の遠隔ボルトも、何とかブリキ人形にヒットする。


 ただし、ぺこっと軽くへしゃげただけで貫通はせず。意外と硬いし、核を狙って殴った方が手っ取り早いまである。つまりはエンに任せた方が良いのだが、キル数も伸ばしたい朔也。

 そうしないとカード化が発動しないので、遠隔攻撃より確実に止めが刺せる前衛に重きを置くしかない。なかなかに難儀だが、これも戦力充実の為なので仕方なし。


 そんな訳で、この部屋でも何とかエンから1体だけキルをもぎ取る事に成功した。ただし、カード化は発動せず何とも切ない結果である。

 まぁ、部下に縫いぐるみパペット兵が欲しいのかと問われれば微妙ではある。戦ってみた感触では、大ネズミと強さはどっこいって感じだろうか。

 つまりは最弱の部類で、強化してもたかが知れている。


 そう言えば、ネズミのカードが割と集まったので、試しに数匹を強化してみたのだった。そんな事を思い出して、朔也は手持ちのカードを調べてみる。

 そして出て来たのは【雑種角ネズミ】 と言う、攻撃Eで忠誠Fの総合F級のカードだった。攻撃力は1段上がったけど、やっぱり雑魚には違いなさそう。


 それでもお試しにと、次の部屋で放ってみた所。勝手に突っ込んで行って、犬の縫いぐるみと壮絶な咬み付き合いを行って威勢だけは良さそうだ。

 実際、合成によって体格は一回り大きくなって狂暴性も増している気がする。角も立派なのが生えていて、それで突き上げの攻撃もなかなかに痛そう。


 ただし相手は痛覚の無い縫いぐるみ、熊の縫いぐるみの乱入で途端に劣勢に立たされる新入り。仕方なく助けにおもむく朔也の前で、呆気無く倒されて行くネズ公であった。

 やはりF級、例え“訓練ダンジョン”内でも、扱いが悪いと瞬殺される運命は悲し過ぎる。ただし、この戦いでキル数2を稼いだ朔也は念願の新戦力のカード化に成功。

 ただまぁ、やっぱり雑魚モンスターなので期待は全くしていない。


【クマのぬいぐるみ】総合F級(攻撃F・忠誠E)


 コイツもパペット兵なので、使用の際には恐らく口頭での指示が必要になって来る筈。エンみたいに容赦なく止めを奪われるのもアレだが、指示待ち立ん坊もそれはそれで困る。

 仲間がみんな、妖精のお姫みたいに慈愛にあふれていたらどんなに楽か。そう呟いたら、やあねぇって感じでお姫にほっぺたをペチっと叩かれてしまった。



「あっ、5部屋目でようやく次の層へのゲートがあったね。さて、次は5層だけど進むべきかな? 噂では、普通のダンジョンは5層ごとに中ボスの間があるって話なんだけど。

 中ボスって、雑魚よりは確実に強いらしいね?」


 そう呟く朔也に、お姫は小首を傾げて思案顔に。それからゲートを指差して、小さな手でマルの表示を出して来る。どうやらこの先は、そんな危険じゃないと言いたいみたい。

 それなら時間もあるし、もう少し潜ろうかと覚悟を決める朔也である。新入りのカードはやられまくっているけど、幸いにも正規軍にはそこまで被害はない。


 コックさんの溶けた箇所は、相変わらず痛々しいけど動きに支障は今の所はない感じ。その点は助かった、何しろ彼はチームのメイン戦力なのだから。

 そうして辿り着いた5層だが、雰囲気は4層と全く変わらず。散らかる玩具と可愛い感じの部屋の装飾、そして閉じた天蓋付きのベッドから漂う怪しい気配。


 あの木馬の玩具もいかにも怪しい、動き出して攻撃を仕掛けて来そうな雰囲気がある。それから当然、カーテンで遮蔽しゃへいされたベッドの奥にも伏兵はいるに違いない。

 などと思っていたら、その通りの展開になって驚きも半減に。とは言え、そんなに広くない室内での戦闘はそれなりに大変である。


 こちらも同士討ちを恐れながら、丁寧に敵をブロックしての3方向での戦闘を行う。その中でも、エンは比較的に楽勝で敵の数を減らして行っている。

 朔也はへっぴり腰ながらも、時折カー君のくちばし攻撃やお姫の魔玉アタックに助けられ。ようやくの事、さっきと同じく2体の撃破に成功した。


 その時には周囲の喧騒けんそうもすっかり止んでいて、カーペットの上に転がるのは魔石(微小)とドロップ品のみ。今回は残念ながらカード化せずで、まぁ仕方がない。

 ドロップ品をカー君と拾いながら、時間を確認すると突入してそろそろ1時間半が経過していた。切りの良い所で引き返して、後の時間は合成に費やすべきか。


 2時間縛りは絶対ではないが、長居し過ぎて緊張感が切れるのはよろしくない。そのせいで大怪我をしたり、メインのカードを送還される事態は避けたいのも事実。

 そんな訳で、回るとしてもあと1~2部屋かなぁとお姫と相談しつつ。足を踏み入れた次の層に待ち構えていたのは、怪獣のソフビ人形と大人の人間サイズのマリオネットだった。


 なかなかの迫力と言うか、見た目の奇妙さはエグイかも。何しろ操り人形の操り糸の操作盤が、人形の真上で浮いているのだ。ついでに、怪獣のソフビ人形もゴブリンサイズで割と強そう。

 そいつ等は4体ほどいて、生意気にも怪獣の鳴き声を放って接近して来た。ソフビの身体は動き難いだろうに、頑張って接近してくる姿は微笑ましいかも。


 ただまぁ、連中に咬まれたら恐らく痛いだろうし、半数が炎を放って来てあなどれない。ブレスは大した威力ではないが、コックさんがまたもやダメージを受けてしまった。

 朔也は鍋フタの盾で何とかブロックして、被害を受けずに接近する事に成功。そのまま光の棍棒で殴りかかって、剥き出しの核を破壊に掛かる。


 エンの戦いに関しては、もはや心配するだけ損なので放置の朔也である。それより奥に控えたマリオネットが、糸を伸ばしてコックさんを捉えようとして来ている。

 コイツはピエロの衣装だが顔はのっぺらぼうで見た目はちょっと不気味。両手にナイフをそれぞれ持っていて、小ボスっぽい雰囲気ではある。


 特殊能力も持っているようで、この魔法の糸に絡まれたらいかにも厄介そう。妖精のお姫もそう思ったのか、魔玉(風)を使用してその攻撃を断ち切ってくれた。

 それに腹を立てたのか、宙を駆けるように接近して来たピエロの操り人形。両手のナイフを振り回して、何となく狂気を感じてしまう朔也だったり。


 その頃には、目の前の怪獣ソフビ人形を綺麗に倒し終えていた隻腕の戦士が、返り討ちの姿勢で待ち構えていた。上手くコックさんの巨体を餌にして、たった一閃で相手の首をねてしまった。

 とは言え、相手はパペット系……核があれば動き続けるんじゃと、見守る朔也の前でマリオネットは魔石へと変わって行く。どうやら核は頭部にあったようで、接続を切られて敵は行動不可におちいった模様。


 そして魔石(小)と一緒に落ちていた細いワイヤーロープも、素材には良さそうな品質である。喜びながら回収を終えた朔也は、部屋の隅の小さな扉の存在に気付いた。

 そこはカー君も気にしているようで、大人だとしゃがまないと通れない収納部屋サイズ。隣の部屋へ続く扉は、別にちゃんとあるので本当に収納部屋かも。


 カー君が開けて平気と鳴くので、朔也は試しに中の確認を行う事に。宝物が入っていたら嬉しいが、無くても探索の切り上げのタイミング的には良いかも。

 そんな感じで期待もせずに、中腰で覗き込んだ収納部屋だったけど。中は意外と広くて、これなら入り込んで室内を物色出来そう。


 懐中電灯を取り出して、朔也はお姫と一緒に価値のありそうな品を見て回る。残りのメンツは、小さな入り口で待機して主の動向を窺っている。

 そして上の方の棚から、まずは朔也がポーション瓶と帰還の巻物を発見した。それから古いグローブや写真立て、ロウソクやお香の類いも少々出て来た。

 使えるかどうかは不明だが、一応それらは回収しておく事に。


 妖精のお姫のお勧めは、また違ってどうやら下の段の古ぼけた旅行カバンらしい。革製のトランクケース型で、確かに雰囲気はありそうだ。

 中に何か入っているのかなと、朔也が手を伸ばした瞬間にそれは起こった。つまりはカード化で、どうやら新しい装備系アイテムを手に入れたようだ。


【箱入り娘】総合E級(攻撃E・忠誠D)


「えっ、箱入り娘って……ひょっとして、収納アイテムじゃなくって召喚モンスターって事!?」


 ゲットしたカード化の情報を眺めた朔也は、思わず驚きで素っ頓狂とんきょうな声を出してしまった。旅行カバンと思っていたら、まさかのモンスターである。

 しかも貴重(?)な女の子型らしく、何と言うか奇妙な巡り合わせではある。まぁ、このエリアは玩具系の敵ばかりなので、この箱入り娘もそっち系のドール型なのかも。


 それにしても、カード情報だけでは使えるユニットなのかは判断がつきにくい。取り敢えずは安全なフロアに戻って、その辺の確認作業から始める事に。

 ノーム爺さんにも意見を貰いつつ、夕方までの時間を有効利用する予定。夜中の対人戦特訓は既に決まっているので、それに備えてカード強化をしなくては。

 忙しいのは良い事だ、何しろ他に特にする事も無い生活なのだから。




 そして回収した帰還の巻物を使って、ロビーフロアへと戻って来た朔也チームである。そこでお姫以外を送還して、さて手にしたカードはこの7日間で40枚近い。

 奪われた初期デッキ以上の枚数にはなってくれたけど、C級カードは妖精のお姫だけと言う寂しさ。それでも思わぬ形で『錬金術(初心者)』なんてスキルを得て、未来は楽しみしかない。


 その勢いのまま、朔也は謎のままだった【箱入り娘】の召喚を試してみる事に。良い感じに酔っぱらったアカシア爺さんが、見学にとやって来てくれた。

 そして朔也の呼びかけに応じて現れたのは、例の革製の旅行カバンだった。案の定の結果にほうけていたら、突然それが内側からバンッと開いた。


 そして出現する娘さん、可愛いワンピース姿で工具入れのエプロンが唯一の装備品っぽい。かと思ったら、残された鞄の内張りがマントに、そして鞄が盾へと変化して行った。

 その変化には、ノーム爺さんも思わず感心した模様。




 ――とは言え、この娘が戦力になるかははなはだ疑問の朔也であった。





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