第40話 エプロンをゲットする



 エンに止めを譲って貰って、大カタツムリの2体を朔也さくやが倒した結果。目論見通りに、見事に1枚のカード化に成功する事が出来た。喜びながらも、さっそくカードの情報を眺める。

 そして安定の総合F級に、ガクッと肩を落とす結果に。


【エスカル蝸牛かたつむり】総合F級(攻撃E・忠誠F)


 この前ゲットした巨大ナメクジと、ほぼ同じ内容の情報である。ひょっとしたら、合成も可能かもと、朔也は気を取り直して探索を再開する。

 それにしても、今回は不意打ちの先制攻撃を受けずに良かった。カー君もそう言う意味では、学習して成長して行っているのかも知れない。


 誰に聞いたか忘れたけど、召喚モンスターも使い込んだのとそうでない奴の違いは明らからしい。いつも一緒にいるユニットは、やはり戦闘でも臨機応変なのだとか。

 そう思うと、エンなどかつて誰かのカードで相当な修羅場を潜って来た可能性もある。その過程で片腕を失ったのなら、残念で仕方が無い。


 それならカード合成で、その辺を何とか出来ないモノだろうか。戻ったらアカシア爺さんに確認しようと思っていたら、カー君が再び注意喚起の鳴き声を発した。

 今度は敵がいるよではなく、何かあるよの鳴き声だろうか。何となく感じ分けれるのは、召喚獣とあるじの絆のせいなのかも。とにかく朔也は、何があるのとカー君にお伺い。


「えっと、この柱に何があるの、カー君? うん、エプロンが掛かってる……」


 それはゴツイ革製のエプロンで、肉の解体時にでも使おうかって防御力を備えていた。いや、触り心地でそう感じただけで、実際はどうか分からない。

 そんな感じで触っていたら、急に光を発して革のエプロンはカード化してしまった。どうやら鍋フタと同じく、装備系のカードをゲットした模様である。


【バトルエプロン】総合E級(防御E・耐久E)


 しかも鍋フタより上等な能力で、これは転んでもただでは起きない大儲けの予感。もっとも、自分でコレを着る予定も意思も朔也には無い。

 ただしコックさんには良いかも知れないので、有り難く貰っておく事に。前衛も後衛も張れるコックさんは、今や朔也チームのメイン戦力である。

 命令が無いと動かないという、唯一の欠点は大きいけど。



 それはともかく、第3層も順調で広い部屋も既に3つ目へと移動を果たした。ここも食堂エリアの様で、大広間の中央にはこれまた巨大なテーブルが置かれている。

 そこに置かれているのも巨大な野菜類で、何とトマトやカボチャが宙に浮いて飛び掛かって来るというホラー。いや、さすがにこれは二流の演出に近い気も。

 巨大トマトにはしっかり顔があって、これはホラーと言うよりコメディではなかろうか。そんな事を考えながら、エンとコックさんの手を借りて半ダースの空飛ぶトマトを破壊して行く。


 トマトの攻撃は、その酸性の汁の目潰しみたいだ。武器や防具は溶けないので、そこまで酷い溶解力では無さそう。そしてカボチャは何故かハロウィン仕様で、コイツにも愉快な顔がくり貫かれて描かれていた。

 その硬さで頭突きして来る、カボチャ頭モンスターの方が攻撃力は厄介そう。朔也は新装備を駆使して、何とか致命傷を避けながらそいつ等と対峙する。


 地面へと叩き落せばしめたモノ、後は光の棍棒で叩き潰してやれば討伐完了である。急な動き出しとその数には驚いたけど、さっきのカタツムリみたいにチームに被害は出ずに済んで何より。

 そして人魂もまたもやキル数を稼いでくれて、意外と魔法の砲台としての役割は凄いかも。スローな動きは仕方無いとして、炎の殺傷能力は使えそう。


「人魂君……キミは割と使えるんだね、ビックリだよ。あっ、うん……わざわざ顔を出さなくても大丈夫だから」


 感心したついでに思わず語り掛けた所、滅陰の人魂もそれに反応してくれてビックリ。炎の中にうらめしそうな人の顔が出現して、それを見た朔也は引いてしまった。

 それはともかく、これ以上台所エリアに集団の敵の気配は無さそう。そしてテーブルの上に残ったカボチャだが、中身がくり貫かれて器になっていた。


 その中から、MP回復ポーションが2本に木の実が1個とナイフを1本回収出来た。まずまずの収穫に、お姫と喜びながらゲートの位置を確認する。

 そこにも4本腕のコック兵が控えていて、場所は丸分かりだけどさてどうしたモノか。コイツを是非とももう1枚カード化して、合成で強化に挑みたいのだが。


 仲間達に控えていて貰って、ソロでタイマンに持ち込めばカード化の確率は上昇する。止めを刺す確率を上げるには、それが一番なのは分かっている。

 ただし、敵は近距離も遠隔も自在な、4本腕のパペット兵である。痛みにも怯まないし、耐久値もそれなりにある。サイズ感も、当然ながら小柄な朔也よりかなり大きい。


 それを確認して、朔也はあっさりとタイマンを断念……エンは容赦がないのでアレだけど、コックさんに頼んで隙を作って貰う事は可能かも。

 そんな訳で、待ちのメンバーにはここを動かないよう言い含めて、コックさんと2人で敵のパペット兵と遣り合う事に。


 敵のパペット兵は、コックさんと性能はほぼ同じと思われる。つまりは、オタマの魔法の矢には充分に注意しないと。そんな訳で、朔也は鍋フタの盾を構えてコックさんと前進する。

 そして練習用クロスボウでの先制攻撃、コックさんにも前進しながらの遠隔攻撃を命じる。幸いにも、こちらの遠隔攻撃は両方命中、そして相手からも反撃がやって来た。


 それを見事に鍋フタの盾でガードして、一気にコックさんと共に距離を詰める。向こうもそれに気付いて、接近戦モードへと移行しようと麺棒を振り上げる。

 それよりも一瞬早く、近付いた朔也の光の棍棒の一撃が相手の膝を打ち抜く。


 足元に打撃を喰らい、大きくバランスを崩すパペットコック(敵)さん。そこにこちらのコックさんの打撃が、首元にヒットして良い調子で敵のHPを削って行く。

 止めを刺したい朔也は、慌て気味にフィニッシュへの道のりを脳内思考。パペット兵の弱点は、スライムと同じく剥き出しの核である。


 そんなに大きくないので、狙いすましてそれを叩くのはなかなかに難しい。ただし、今は片膝をついた状態で、胸元のそれを狙うには最適の状態かも。

 念の為の首筋への攻撃で、相手はほとんどグロッキー状態に。痛覚が無いとは言え、バランスを保つのはまた別の問題なのだろう。


 そこに前方へと回り込んでの、朔也の止めの一撃が見舞われる。大きな叫び声と共に繰り出された棍棒の打撃は、見事にパペット兵の核を砕いてみせた。

 そうして転げ落ちる、魔石(小)と【戦闘コック】のカードが1枚。ガッツポーズの朔也に、後衛から近付いて来た妖精のお姫がやったねと祝ってくれる。


「よっし、これでコックさんが強化出来るかもっ? 嬉しいな、コックさんは割とレベル低い内からの付き合いだからさ。まぁ、一番付き合いが長いのは、お姫さんとエンだけどね。

 とは言え、探索を始めてまだ1週間しか経ってないんだっけ?」


 そんな朔也の呟きに、妖精のお姫はちょっと不服そう。自分とはもっと付き合い長いでしょと言いたげ、まぁ確かに所有歴からすれば10年近い付き合いにはなる筈。

 その間、彼女は何を考えてカードの中で過ごしていたんだろう……それとも、意識だけは周囲の情報を観察する事が出来ていたとか?


 良く分からないが、妖精のお姫は今の状況をとっても楽しんでいるようだ。それは朔也としても嬉しい限り、召喚主としての立場を差し引いても心強いパートナーである。

 とにかく、これで戻ってからの合成に大いなる楽しみが追加された。ついでに4層へのゲートも確保出来たし、良い事尽くしである。



 それにしても、この“台所エリア”にインして既に1時間ちょっと。そろそろ小休憩しようかと、妖精のお姫に相談すると勢い良くうなずかれてしまった。

 そんな訳で、近くのテーブルと椅子を利用させて貰っての、飲み物と軽食を取り出しての休憩を始める朔也。軽食は、今日のお弁当についていたクッキーの包みである。


 遠慮なくそれをついばむお姫はともかく、エンにも勧めてみたけど無視されてしまった。召喚モンスターも、食事をする者としない者がいるらしい。

 いや、ひょっとしたらする方が珍しいのかも。弓ゴブとか何か食べそうだけど、倒されてしまったので検証も出来ない有り様である。


 それはともかく、あと1時間はここでカードと経験値を稼ぎたいモノだ。今夜の対人戦特訓の為ってのもあるけど、強くなって行くのはとっても面白い。

 祖父の葬式に出席させられた時には、まさかそのままの流れで探索者デビューさせられるとは思ってなかった。今となっては、その運命には感謝の想いの朔也である。


 そんな事を考えながら、休憩は10分でサクッと終わらせる。それからいよいよ未知の4層へと進むよと、お姫に告げて探索を再開する朔也である。

 そしてビックリ、何と4層はガラリと部屋の構図が変わっていたのだ。今までの台所から、ここは洋風のお洒落な小部屋って感じだろうか。


 壁紙やカーペットの色合いや家具の配置から、何となく子供部屋を思わせる。飾ってある縫いぐるみや絵画なども、まさにそんな感じだ。

 その時、急に何かが動く音がして驚く一行。音源に視線を向けて見ると、何と部屋の壁際に沿ってミニチュアの蒸気機関車が走っていた。


 よく見たら、部屋の中にはそんな感じで至る所に子供用の玩具や人形が置かれている。肝心のミニチュア鉄道だが、線路は壁を伝って部屋を半周している。

 そして天蓋てんがい付きのベッドの影に隠れて行って、そのまま停車……と思ったら、突然に天蓋がバッと開いて中から敵が襲い掛かって来た。


 驚き対応する朔也チームだが、その敵も程良いサイズの縫いぐるみと言う。可愛いのかは不明だが、犬の縫いぐるみの口元は大きく開いて鋭い牙が窺える。

 熊の縫いぐるみも、腕の先には鋭い爪がしっかり生えて引っかれると痛いでは済まなそう。モコモコの敵だが、決して油断は出来ない敵のお出迎えである。

 そんな訳で、朔也はコックさんに戦闘指示を出して、自身も武器を振るい始める。


 よく見たら、その辺に転がっていた縫いぐるみも動き出して戦闘に参加していた。囲まれそうになるのを必死に避けながら、可愛い室内での討伐戦は続く。

 こんな局地戦では、エンの戦技は一層際立って見える。敵が自ら近付いて来るので、エンの弱点の機動力の弱さが目立たないのだ。


 よく見れば、この縫いぐるみ軍団もパペット兵の一種らしい。何を詰めているのか不明だが、結構重量のありそうな連中にも核が額や胸元にくっ付いていた。

 それを剣の一ぎで簡単に破壊して行くエンは、まるで刃を自在に扱う魔術師マジシャンのよう。例えはヘンだが、浮世離れした存在に見えて仕方がない。


 そんな彼の活躍で、数分余りの激戦にもやがて終止符が。朔也も頑張って2体ほど倒したけど、残念ながらどちらもカード化せずの結果に。

 転がってる魔石をカー君と拾い集めて、数をチェックすると10個以上あった。それから牙や爪の素材らしき、硬く尖った欠片も幾つか回収出来た。

 骨素材だろうか、これは良い矢尻の材料になりそう。





 ――幸先は良いかは不明だが、新エリアの探索は始まったばかり。




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