第36話 3度目の密林エリアへ
召喚した快盗カラスは、密林エリアの上空を旋回して周囲の確認をしてくれているよう。D級ランクのコイツは、調べてみたら召喚MPは10も必要みたい。
レベル7までに成長した
そこが大いに助かっている、召喚主の朔也のMP事情である。ちなみにF級の弓ゴブはMP2で、E級のコックさんはMP5で召喚が可能である。
つまりは総MP使用量は、現在で24と既に半分以上減っている次第。いざと言う時に備えて、1層のスタート時点で召喚を済ませてMP回復ポーションを飲むのはいつもの事。
そうやって各準備を済ませて、お姫の指し示す方向へと進んで行く。密林エリアは生い茂る樹々のせいで、死角が多い割と難易度の高いエリアである。
その代わり、洞窟エリアみたいに灯りを用意しなくて良いのは嬉しい点かも。
「さて、それじゃあまずは2層のゲートを確保するために進むよ、みんな。その途中でカードをゲットしたり、使えそうな素材系を集めるからね。
ノーム爺さんに頼まれた、クロスボウの素材を集めまくるよっ!」
そう勢い込む朔也の言葉を、真面目に聞いてくれているのは妖精のお姫ただ1人。それでもガンバローと拳を振り上げる相棒は、何故か頼りに思える不思議。
密林アリや一角ネズミが行く手を塞ぐが、朔也は『練習用クロスボウ』を手に奮起する。文字通りの練習台の1層のモンスターだが、朔也が倒したのは残念ながら1匹のみ。
コックさんと弓ゴブの、遠隔部隊に遠く及ばない手腕は実力が無いので仕方が無いけれど。カード確保も大事な仕事なので、クロスボウの練習ばかりにかまけてはいられない。
残念ながら、今回は密林モスの集団には出会えなかったみたい。何匹かは見掛けたけど、弓ゴブと快盗カラスが撃ち落としてしまってカード化の機会は得られず。
ただまぁ、快盗カラスの空中戦を見れたのはそれなりの収穫かも知れない。なかなかの攻撃力で、大蛾の上を取って鉤爪や
D級ランクは伊達ではない、MP10コストの価値はあるかなと朔也も満足の表情。これで斥候や鍵開けも出来るとなれば、1軍の椅子は確実にゲットである。
そんな第1層の探索だけど、朔也は途中から武器を麻痺のショートソードに持ち替えて前線へ。その甲斐あって、追加で【一角ネズミ】と【密林アリ】のカード化に成功した。
どちらも既に所持している奴らなので、後でカード合成の練習台になってくれる事だろう。そしてゲートも見付かって、30分の1層エリアの探索は何事もなく終了の運びに。
“夢幻のラビリンス”も、7日目にして随分と慣れて来たかも。
そう言えば、老執事の
とは言え、朔也の実力が急に強大になる訳でもない。こちらとしては、いつも通りに探索を頑張るしかない訳だ。などと考えながら、第2層を進み始める一行である。
ここまでは、遠隔部隊と新入りの快盗カラスが頑張ってキル数を稼いでいる感じ。エース格のエンは、今や雑魚には食指も動かないって態度である。
それは朔也としても大歓迎で、彼に止めを持っていかれるとカード化の機会も減ってしまう。何と言うか、チームとしての役割分担も段々こなれて来た感じを受ける。
そして妖精のお姫の案内は、2層に来てやや複雑になって来た。獣道を外れて進む途中で、2層で多く出現する【尾長サル】や【密林クモ】の襲撃を何度か受ける。
それを蹴散らして進む事10分、朔也はサルとクモを1枚ずつカード化に成功。この層も快盗カラスは撃墜数を増やしていて、上空制圧のアドバンテージは
などと朔也が浮かれていると、不意に目の前に小さな小屋が出現した。木こり小屋か何かだろうか、建物の前にはちょっとした広場と警護用の木製パペットが2体。
そいつ等は、突如密林から出現して来たこちらにすかさず反応して襲い掛かって来た。ついでにジャガーも1体、
「エン、右側を頼んだっ……コックさんと弓ゴブは、ジャガーの足止めを頼むっ!」
ここはチームワークで挑むべしと、仲間に指示を飛ばす朔也である。自身も剣と盾を構えて、棍棒を手に持つパペットへと対峙する構え。
大丈夫かなと見守るお姫だが、新生チームはまずまずの纏まり具合だったようだ。真っ先に近付いて来た密林ジャガーだが、不意に上空から襲われて気を散らされた瞬間に。
近付いた
密林パペットに邪魔されて止めこそ刺せなかったけれど、敵の機動力は削ぐ事が出来た。アイツの止めは自分が刺したいなと思う朔也だが、目の前のパペット兵士はなかなかの腕前。
割とがっしりした体型で、背丈も朔也より随分高い印象だ。それでも攻撃を丁寧に盾で受けて、必殺の『急所突き』を胸元に放ってやる。
2度目の突きが喉元に決まると、敵の密林パペットは魔石(小)へと変わって行った。朔也は小さくガッツポーズ、周囲を眺めると隣の戦闘もほぼ終わっている始末。
さすがチームのエース格のエンは、棍棒持ちのパペットなどでは苦戦しないみたい。弱っていたジャガーも、コックさんと弓ゴブで仕留めた模様。
結果、カード化は残念ながら1枚も無し……魔石(小)が2個に、硬木素材も2本ゲット出来たのは良いとして。ただしお姫は、お楽しみはコッチだよと木こり小屋を指し示して来た。
念の為に怪盗カラスに入り口をチェックして貰い、朔也は小屋へと侵入を果たす。中は薄暗く、生き物の気配はせず無人の模様である。
生活臭はするけど、個人の持ち物は置かれてはいない感じ。ただし、木工素材や木炭などは割とたくさんあって、素材回収作業は
それから手斧が2本に、ノミや
どれも精々が20センチ程の掘り物だけど、なかなかの力作揃いだ。素人の作品とは思えない、そしてお姫は何故か熊の彫り物に反応していた。
何だろうと思って、朔也もヘルムに付属している鑑定眼鏡でチェックしてみると。どうやらこの掘り物は、魔法のパペット召喚用のアイテムらしい。
ただし残念な事に、たった1度の使い切りの模様。
「うわぁ、それでも凄いな……売れば幾らになるんだろうね、お姫さん? それとも、いざと言う時用に持ってた方がいいのかな?」
好きにすればと肩を竦めるお姫はともかく、これでようやく『ワーム皮の鞄』が役に立ってくれる。鼻歌を歌いながら、朔也はお姫と一緒に戦利品を魔法の鞄へと放り込んで行く。
その時、新入りの快盗カラスが部屋の隅から、新たに隠されていた品を発見してくれた。ポーション瓶とMP回復ポーションを1瓶ずつで、ナイス発見である。
朔也は喜びながらも、新入りの怪盗カラスを褒め
この調子なら、名前を付けてチームの一員として迎え入れる日も近いかも。
そんな事を思いながら小屋を出ると、お姫が次はコッチかなと進む方向を指し示してくれた。それに従って先行偵察する快盗カラスは、なかなかに仕事熱心である。
その後の探索では、3層のゲートを探して歩く事10分以上。その間に密林アリの集団に遭遇して、なかなかの熱い戦いを繰り広げる事に。
結果、アリのカードを2枚ゲットして、魔石(微小)もこの戦いだけで10個以上回収出来た。甲殻素材もそれなりに拾えて、金策にもなったし良かったかも。
とは言え所詮は雑魚モンスターなので、何枚手札になろうが大した事は無いのは百も承知。実際、エンのやる気もいまいちで、朔也の出番も何気に多かった。
そんな感じで、2層も
そしてゲートを発見、少し休憩して3層へと探索の足を伸ばす一行である。ここまで掛かった時間は、休憩タイムを含めて1時間と少しである。
1層30分のペースは、まずまずで悪くない気がする。この3層でも、無理せず出て来た敵のカード化を狙いつつ、ついでに素材を集めたい所。
「とは言え、密林エリアの3層目は来た事無かった気がするんだよね……前衛向きのモンスターがいたら、もう1匹くらい仲間にしたいね、お姫さん。
まぁ、大抵の敵はエンがいればやっつけてくれるけど。やっぱり敵が多かったりとか、強敵が出た時とかは前衛もう1枚欲しいんだよね。
そしたら僕が、後衛をするフォーメーションも可能だし」
そんな朔也の言葉に、フムフムと空中で頷く素振りのお姫である。エンは知らん顔、初の3層にやや神経質な顔付きで周囲を見回している。
快盗カラスも素早く飛び立っての、チームに先行して斥候へと出掛けて行く。そして飛び立った先で、カーと鋭い警戒の鳴き声が響き渡る。
それを聞いて、敵がいたぞと一行に警戒を呼び掛ける妖精のお姫は指揮官気取り。そんな喧騒を突くように、茂みから飛び出して来たのは牛ほどもあるイノシシだった。
その突進の威力は、まるでブレーキの壊れた軽トラックのよう。慌てて回避行動に移る一行と、交差し様に斬撃をお見舞いする隻腕の戦士エン。
傷はつけたけど致命傷には程遠いようで、大イノシシはそのままの勢いで遠ざかって行く。射撃を命じる朔也だが、去って行く敵に着弾は難しい模様だ。
次の突進に備えて、朔也は頭の中で目まぐるしく作戦を練って行く。そして思い浮かんだのは、安定のスライムのクッション作戦だった。
そして怪盗カラスからの、2度目の警告の鳴き声が大イノシシの去った咆哮から。そちらに構える朔也チームの前に、傷を負って怒り状態の大イノシシの突進攻撃が。
その牙はまるでゴツイ槍の様で、血走った眼は狂気に
それでも身構えたのは、スライムがその突進力を完璧に受けきるかどうか分からなかったから。何と言っても、スライムは所詮はF級ランクのモンスターである。
合成で容量を
ところがそのクッション作戦は、思いの
その巨大な容積は、召喚した当人も呆れるレベルではある。とは言え、コイツが敵を消化するには、かなり時間が掛かるのも確か。
考えた末、弱り切った相手の状態を確認して、スライムを送還して大イノシシを自由にする朔也。どうっと地面に倒れ込んだ巨体の敵は、それでも立ち上がろうと
それを許さずと、朔也とエンの剣の突きで止めを刺しての終結に。やっぱり3層はモンスターもハードだなと、改めて思う朔也である。
ドロップしたのは、魔石(小)が1個に鋭いイノシシの牙が1本。本当に大槍の素材に良さそうな素材だが、クロスボウの素材にはなりそうもない。
もう少しこのエリアをうろついて、素材系を捜して回るつもりではいるけど。ヤバくなれば、すぐに帰還の巻物で逃げ去る予定の朔也である。
やっぱり、3層の難易度は2層に較べて高めかも。
――それでも、強くなるには慣れて行くしかないハードルには違いなく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます