第33話 コックさんの料理スキル



「おうっ、いつもの小僧さんか……今日は早いな、それで約束のモノは持って来てくれたんかな?」

「約束のモノってお酒ですよね、持ってきましたよ……ノーム爺さん、今日はここでお昼を食べても良いですか?

 いつもお弁当の量は多いんで、適当に摘んで貰ってもいいし」


 構わんよとの管理人の言葉も貰って、朔也さくやは買ったお酒を渡して自分はランチの準備を始める。妖精のお姫も、自分も腹ペコだよとのリアクション。

 用意をしながら、そう言えばと思い出したのは戦闘コックさんが『調理』スキルを持っているのかどうかって事だった。老ノームに尋ねても、試してみればとの言葉のみ。


 そんな訳で、カード召喚したコックさんに探索で集めたアイテムを渡しての反応伺い。ここの台所エリアからは、鍋やフライパンや調理道具を回収出来ていて道具に不足はない。

 ついでに野菜や調味料もあるし、今日は馬車からも乾燥ハーブ類をゲットしている。ついでにオークからはお肉のドロップがあったし、執事たちに訊いた所コイツは美味しく食せるとの事だった。


 それらを見たコックさんの反応は、割と上々で早くも下ごしらえを始める仕草。これは期待出来るなと、朔也はしばらく放っておいてお姫と一緒に昼食を食べる事に。

 老ノームのアカシアは、早くも手酌で呑み始めて良い調子。別に構わないのだが、質問に答えてくれる程度の正気は保って欲しいとは思う。


 朔也もサンドイッチやお握り、それからおかずのソーセージや唐揚げなどを摘んでいると。いつの間にか、コックさんによるオーク肉の野菜炒めが出来上がっていた。

 それを見て、旨そうじゃなと反応を示す酔いどれ老ノームである。確かに湯気の上がっている出来立ての料理は、普通に美味しそうで朔也も味見してみた所。

 コックさんの腕前は、どうやらかなりのレベルだと判明した。


「あっ、普通に美味しいな……ノーム爺さん、良いお摘まみが出来ましたよっ。ありがとうコックさん、これは何かしらのスキル持ちなのかな?

 今後も頼む事あるかもだけど、よろしくねっ」

「うむっ、たくさん作ってそこの魔法の収納箱に入れておいてくれても構わんぞ? そこの収納箱は、時間経過も止める奴じゃからずっと料理は冷めないままじゃからな。

 小僧さんの回収した野菜類も、その中に放り込んどいて貰ってえぞ」


 管理人のノーム老に許可まで貰って、これでこの部屋で出来る事も増えてくれそう。そんな話をしながら、朔也とお姫はお昼ご飯を食べ終える。

 もっともお姫は、パイの方だけを1人で半分近く平らげていた。驚くべき食欲だが、呆れて良いのか感心すべきなのか判断に迷う所。




 それより今日の“訓練ダンジョン”の目標だけど、ノーム爺さんに『魔法の鞄』を作って貰うための素材集めだろうか。後はレア皮素材があればと、昨日の時点で確認したのだ。

 “夢幻のラビリンス”でゲットした赤いリュックは、確かに空間収納は可能ではある。ただし、その容量は精々が元の3倍程度と、大きいサイズの収納には向いていないのだ。


 魔法の鞄の一般的な収納容量は、それこそ6畳分とか部屋のサイズになって来る。取り引きされる値段も100万円を軽く超えるし、まさにダンジョンドリームの一品である。

 従兄弟たちはそんな品を、既に手にして探索をしているそうだ。その不公平さの解消に、こちらは老ノームに作って貰おうとの策略である。


 そのためには是非とも頑張らなければと、どの扉が良いかアカシアに問い質した所。消去法で“渓谷エリア”かなって事なので、今日はそちらを探索する流れに。

 そんな訳で、いつもの隻腕せきわんの戦士とカーゴ蜘蛛をカード召喚して態勢を整える。ついでに“魔力”と“筋力”の木の実を、昼食後のデザート代わりに食べてパワーアップ。


 これらは永続的に能力が伸びるそうで、取引金額も1個が20万以上するそうだ。とは言え、やはり自分の成長の方が大事には違いなく、大抵の探索者は売り払わず自分に投資するみたい。

 そして、つい先ほど買った鑑定ゴーグル付きヘルムを装着。なかなかに合ってるよと、妖精のお姫からもグーサインを貰えた次第である。ついでに老ノームからも、お酒のお返しと『魔法の水鉄砲』を貰ってしまった。


 これは嬉しい贈り物である、何しろ“墓地エリア”では物凄い能力を発揮してくれた武器なのだ。何度も借りるのも大変だなと思っていた矢先のプレゼントに、朔也は心からお礼を言う。

 この武器は、射程などから考えて明らかに魔法の品である。どう考えてもお酒の瓶1本とは釣り合いは取れないだろうに、酔っ払いの心のおおらかさは素晴らしい。


「ありがとう、ノーム爺さん……それじゃあ、頑張ってレア皮ゲットするために、今から探索に行って来ますね。

 そしたら約束通り、魔法の鞄を作って下さいね!」

「任せておけ、まぁ……その鞄の容量は、半分以上が素材の性能に依存するがな。もう半分は手掛けた術者の才能じゃから、その点は安心してええぞ。

 その辺じゃお目に掛かれない、高性能の鞄を作ってやるワイ」



 そんな頼もしい言葉を貰って、朔也は意気揚々と手下たちと共に“渓谷エリア”へと探索に向かう。そこは前回と同じく、明るい陽光のエリアだった。

 左右は岩がき出しの渓谷で、所々に草木が無造作に生えている。地面は砂利だったり岩肌だったり、または雑草の生えた柔らかい地面だったり。


 幸い地面には、モンスターの隠れる場所は見当たらない。ただし左右の切り立った崖には、死角も多くて前回も色んな敵が待ち伏せていた気が。

 ここは不意打ちを喰らっても良いように、前衛を増やして対応すべきだろうか。それとも、カード化の確率を優先して、いつものゴブ弓兵を召喚すべきだろうか。


 色々と考えた末、やっぱりいつもの陣形で探索を進めて行く事に決定。そんな訳でゴブ弓兵を召喚して、先頭は朔也とエンとで担う事に。

 そう言えば、午前の探索で『盗賊カラス』と言うE級のモンスターをカード化出来た。コイツを斥候役に使えないかなと、朔也はお姫に相談してみた所。


 小さな相棒は、試してみればとのスタンスみたい……ただし、大抵の事は自分が出来るけどなと、カラスに妙なライバル心を燃やしているみたい。

 そんな訳で、お試し召喚してみたカラスは普通のより大柄で、ちょっと意地が悪そうな顔付きだった。それでも忠誠Dだけあって、いきなり逆らうような事は無さそう。


 ただし、攻撃Fなので戦闘では期待は出来そうにないかも。まぁ、カーゴ蜘蛛も運送役オンリーの使い方なので、今更な感じもしないでもない。

 朔也としては、戦闘要員はエンだけで充分に間に合ってる感じだろうか。後はコックさんと弓ゴブのサポートを頼りに、自分も止めを刺してカード化を狙う的な。


 そんな感じで進む“渓谷エリア”の第1層だけど、敵の数は前回からそんなに増えていないみたい。ハーピーとか土色のトカゲとか、たまにヤギが上から突進してくる感じだ。

 それらを隊列を組んで退しりぞけて行って、距離を稼いで行く事15分少々。何とかこちらに被害もなく、次の層へのゲートへと辿り着く事が出来た。

 そしてカード化したのは、残念ながらたった1枚のみ。


【渓谷ハーピー】総合F級(攻撃F・忠誠F)


 この念願の女性型モンスターだけど(お姫を除く)、カードのイラストを見る限り華麗な感じては無さそう。そこまでモンスター感を女性型に出さなくていいのに、とっても残念。

 一目見た感じでは、狂暴でヒステリックな女性のモンスターである。これもF級なので、進んでは使わない予感がヒシヒシと漂って来る。


 それはともかく、第2層へと降りて来て再び進行を始める朔也ご一行。今日もエンの剣技は冴えに冴えており、うっかりすると全ての敵を取られてしまいそう。

 朔也も何とか3匹の止めを刺して、その内の1匹が何とかカード化してくれた。配下カードは順調に増えて行くけど、使える手下は相変わらず増えないと言うジレンマ。


 まぁ、今日はレア皮素材をゲットする目的なので、カード化の有無は取り立てて問題では無い。もっと言えば、魔石も拾う必要は実は無かったりする。

 結局は、最後に老ノームに返却する事に取り決めたと言うのに。いつもの癖で、転がった綺麗な石を見たらつい拾ってしまうさがが身についている朔也である。


 まぁその辺は、そんなに気にしなくても良いのかも。1層で回収した魔石(微小)は12個、そして2層目で敵を倒して得たのは魔石(微小)14個と素材のドロップが少々。

 2層も15分程度で踏破して、それほどの盛り上がりも無く次の層のワープゲートを発見。分岐もない渓谷の底の通路だったので、難易度は全く高くは無かった。

 そしてそのままの勢いで、一行は3層エリアへ。



 第3層はそれなりの密度で、敵の群れが待ち構えていた。新しく出て来た、岩に張り付いた軟体生物は簡易鑑定ゴーグルによると【巨大ナメクジ】と言うまんまの名前らしい。

 強さ自体は大した事なく、朔也が止めを刺すと見事にカード化してくれた。これで2枚目だけど、素直に喜べない不気味な容姿の仲間の追加である。


【巨大ナメクジ】総合F級(攻撃E・忠誠F)


 それでも“渓谷エリア”でも無事に4層へと到達して、朔也の探索の実力も上がって来ているみたい。この調子で、“夢幻のラビリンス”も3層以降を楽にこなせるようになりたい所。

 《カード化》スキルのある朔也だと、召喚戦力を整えて行けばそれも近日で可能な筈である。有能な前衛をもう1体、出来ればエンくらい強いのが欲しい所だ。


 もちろん同時にレベルアップも頑張って、MP容量を増やして行かないと宝の持ち腐れとなってしまう。ダンジョン探索は、新当主から言い渡された半強制的な義務には違いないのだが。

 今では将来性を含めて、毎日の探索に楽しみも見い出している朔也である。妖精のお姫や戦士のエンなど、頼りになる味方が増えてくれるのがとってもグッド。


 苦しいだけなら探索はただの苦行である、そうそう長く続く訳もない。今後も良き巡り合わせを糧に、頑張って行きたいと朔也は思う。

 この4層の探索も、良き巡り合わせを求めて突き進んでいるご一行はまずまず順調。“訓練ダンジョン”だけあって、午前中ほどは敵の強さも強烈ではない。


 この層から、やたらと上空を大きな蜂が飛び回って騒がしい感じ。強さ的には、コックさんと弓ゴブの攻撃で墜落してくれる感じで問題は無いのだが。

 たまにサイズの大きな奴とか、狂暴なのが混じっていて侮れない。味方が傷付けば回復する蜂もいるようで、ソイツは蜂蜜系をドロップするようだ。

 ちなみに狂暴な蜂は、毒付きの針を落としてくれた。


それに加えて、地面からはワーム系の襲撃が思い出したように訪れる始末。上と下からの敵の襲来は、なかなかあなどれないエリアなのかも知れない。

 それでも魔石の稼ぎはまずまず、まぁこのダンジョンの稼ぎは後で返す運命だけど。素材だけは、後で何かに使えるかもなので取っておく事に決めてある。


 そしてそろそろゲートが見える場所にやって来た、朔也ご一行にちょっとした異変が。今まで周囲を飛ぶ以外、何もしていなかった味方のカラスが何かを知らせて来たのだ。

 最初、朔也はそれを上方にある、大きな蜂の巣に反応しているのだと思っていた。ところがどうも違ったようで、近くのめくれ上がった岩場の下に隙間があった模様。


 そこは細い通路になっていて、朔也なら何とか入って行けそう。と言うか、ここは潜り込んで良い場所なのか、かなり躊躇ためらってしまう朔也である。

 それをちゃんと入れるよと、妖精のお姫がヤンチャにエスコート。何か良い物あるかもと、それに応じて朔也の好奇心にも火がついてしまう。

 そんな訳で、真っ暗な亀裂に滑り込む朔也である。





 ――わずかな明かりを頼りに、妖精のエスコートに従って。







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