第32話 丘陵エリアを無事帰還する



 討伐後にはお楽しみタイム、落ちていた魔石やドロップ品を回収して、残るは獣人たちの漁っていた馬車である。これは自分も漁って良いのかなと、思わなくはないけど一応確認だけはすべきだろう。

 そう思ってチェックしたら、どうやら回収は可能らしい。しかも結構な品数が、馬車の荷台に無造作に落ちていた。朔也さくやは手下を待たせて、それらの回収作業に。


 まずは鑑定の書が何枚か、それから魔石(小)が6個に布類や何かの種や乾燥ハーブ類が。荒らされた食料品の中から、それらを取り分けるのはなかなか大変。

 ポーション瓶も何種類か落ちていて、使えるのを何とか4本ほど回収出来た。MP回復ポーションも2本あったようで、探索的にもラッキーである。


 それから銅貨と銀貨も少々、木材や釘や工具類も回収出来た。最後に色合いが違う木の実が2個と、穂先が石製の質素な槍が1本ほど。

 他は荒らされた時に壊れたり持ち去られたりしたのか、使えそうな品は残っていない有り様。それでも、臨時の報酬は素直に嬉しい朔也である。


「よしっ、回収作業は終わっ……うわっ、何だっ!?」


 馬車から出て、妖精のお姫やエンに声を掛けようとしたした瞬間の出来事。突然空から黒い物体が飛来して、朔也の鞄を持ち去ろうと鉤爪を差し出して来た。

 お姫など、身体ごと持ち去られそうになって大ピンチである。エンは真っ先に反応して、この黒い翼を持つ大カラスの群れを斬り落としている。


 朔也もお姫を護ろうと、大慌てで手にしていた武器を振るう。同時にコックさんと弓ゴブに迎撃指令を飛ばして、事態の収拾を図りに掛かる。

 この空からの襲撃者は、鉤爪やくちばしでの攻撃がいやらしいと言うか強烈だ。たちまち頭や頬に幾つも傷が出来て、一見ピンチの朔也だがここは引けない。


 お姫は何とか隙を見つけて、朔也のポケットに逃げ込む事が出来てその点は安心ではある。ただし、残った3匹の大カラスの攻撃は、なおも執拗に朔也に傷をつけて来る。

 そんな時に頼りになるのは、やっぱり隻腕せきわんの戦士エンだった。不用意に自分の剣の攻撃範囲内に入って来た大カラスを、たった一撃で葬り去ってしまうその手腕。

 お陰で、それに慌てた仲間を朔也も不意打ちで倒す事が出来た。


 残った1匹は、有り難い事にコックさんのフォークが当たって、地面にポトリと落ちて来てくれた。それを朔也が始末して、これで2キル達成である。

 そして最後の1匹を始末した途端に、カード化が幸運にも発動してくれた。今日だけで6枚目と、随分と効率よく稼げてしまった気分。


【盗賊カラス】総合E級(攻撃F・忠誠D)


 ちなみに味方のオーク兵は、空中からの襲撃相手ではほとんど役に立ってくれなかった。体力はありそうだが鈍重かなって印象は、どうやらそのものズバリの模様だ。

 これではこの先も、戦力として期待するのも辛いかも。


 それなら、空中戦が可能なこの新入りに期待するのも1つの手ではある。名前からすると、ちょっと手癖が悪そうなのはまぁ置いといて。

 ただしこちらも、戦闘能力は割と低そう……朔也も頭や顔を狙われて焦ったけど、傷に関してはどれも浅くて脅威だとは感じないレベル。


 それでも顔には目や耳など、重要な機能が集中しているのでそこを狙うのは理に適っている。体力は低そうだが、人型との対戦には嫌がらせ要員に良いかも知れない。

 カード化された新戦力を見ながら、そんな事を考えて休憩していた朔也だったけれど。そろそろ時間も2時間が経過して、これ以上の探索は辛くなって来た。


 何より、丘の向こうに移動中の人影を発見……そいつは遠くにいるのに、しっかり人型のシルエットを確認出来た。つまりは巨人族で、推定5メートル以上はありそう。

 そんな奴に目をつけられたらたまらない、何よりこちらも結構消耗している。薬品類の消費も激しいので、今日の探索はここで切り上げる事に。


 そんな訳で、帰還の巻物を使って安全地帯へ……その際、朔也の視線がずっと巨人の動向を窺っていたのは仕方のない事だろう。あんなのを相手していたら、命が幾つあっても足りやしない。

 そうして、6日目の“夢幻のラビリンス”探索は終了の運びに――。





 今日の午前の探索に、カーゴ蜘蛛の運搬能力は役立ってくれた。とは言え、木材や布類や乾燥ハーブに幾らの値がつくのかは不明である。

 出迎えてくれた若い執事の金山や、メイドの白石はそれでも満面の笑顔で不遇感が無いのは有り難い。片親育ちの朔也は、そんな他人からの視線には割と敏感なのだ。


 そして早速、鑑定しましょうかと隣の部屋へと荷物ごと運ばれて行って。早い所、魔法の鞄を買って下さいとき出しの荷物に文句を言われる始末。

 メイドの白石の話では、他の従兄弟たちは軒並み全員が所有しているそうだ。まぁ、他の家庭は金持ちの坊ちゃん嬢ちゃんばかりなので、当然と言えばそうである。


「おっと、レベル6に上がってますね、朔也様。おめでとうございます、しかもステータスアップの木の実も2個ゲットしてますね。

 こちらは……筋力と魔力が上昇するようです、当たりですねっ!」

「魔石の売り上げですが、全部で12万5千円となります。その他の雑貨ですが、獣人の装備品や毛皮や甲殻類が2万円。布や釘や木材が、全部で1万円って所でしょうか。

 合計で、15万7千円で買い取りで宜しいでしょうか?」

「あっ、はい……それでお願いします。後はMP回復ポーションと、それから帰還の巻物の補充をお願いします。

 あっ、後は出来れば贈答用のお酒も一緒に」


 今回も良い顔はされなかったけど、何とかお酒は売って貰えて何よりである。そして追加の装備品の購入を勧められ、朔也はブーツの次に何を買うべきか頭を悩ませる事に。

 それを考えながら、メイドに貰ったメモに目を通す。



名前:百々貫とどぬき朔也さくや  ランク:――

レベル:06   HP 21/35  MP 10/32  SP 23/27


筋力:18   体力:17   器用:23(+1)

敏捷:20   魔力:25   精神:24

幸運:09(+3) 魅力:09(+2)  統率:21(+2)

スキル:《カード化》『錬金術(初心者)』

武器スキル:『急所突き』

称号:『能力の系譜』

サポート:【妖精の加護】




 前回の鑑定時には無かった『錬金術(初心者)』スキルや、『急所突き』が光り輝いて見えるのはともかくとして。この短期間での成長は、他の従兄弟たちより1歩先んじている気も。

 それよりも、もっとMPの欲しい朔也はそれとなくその方法を若い執事やメイドに尋ねるも。レベルアップや木の実ゲットくらいしか、確実な方法は無いとさとされてしまった。


 そして老執事の毛利もうりから、人間で一番重要な器官は頭ですよとこちらからも諭される始末。どうやら初心者丸出しの朔也の探索振りは、あちこちから口を出したくなるレベルらしい。

 そしてお勧めされたのは、なかなか格好良い軽量ヘルムだった。昔の戦闘機乗りが使っていたような感じで、ゴーグルと布のマスクまで付いている。


 ヘルムは革製に見えるけど、中には鋼を仕込んでいるそう。そしてゴーグルには『簡易鑑定』スキルが、そして布マスクには『簡易空調』のスキルが掛けられているとの事。

 それは凄いけどお高いんでしょうとの朔也の言葉に、ポッキリ20万円で良いとの毛利の返答。それなら前回の儲けを含めて、何とか購入出来そうだ。

 何より『簡易鑑定』スキルは、敵の判別に魅力的過ぎる。


「この『簡易鑑定』は確かに便利ですが、モンスターの名前やランク程度しか判明出来ませんので悪しからず。

 魔法アイテムの性能や、そこまで踏み込んでは鑑定は不可能ですので」

「分かりました、でもこれで少しは探索者らしくなって来たかな? 《カード化》の都合上、どうしても自ら前衛に立たなきゃいけないですからね。

 よっと……うんっ、サイズもピッタリです」


 魔法アイテムの装備になると、サイズ自動補正や脱着を触れるだけで可能など、便利な機能が普通についているらしい。そんな品を、ベテラン探索者は当然のように所持しているそう。

 朔也も欲しいけど、そんな品は目玉が飛び出る程に高いのだとか。探索者なら、自力で宝箱などから入手した方が確率は高そうである。


 探索のクールダウンついでに、そんな話を執事やメイド達としながら適当に時間を過ごして。そして従兄弟たちが来ない内に、朔也はその場を離れて行く事に。

 時刻はもうすぐお昼なので、ついでに食堂に寄ってランチバケットを貰うのが良さそう。問題は、いつものように従兄弟たちに絡まれてしまう事態である。


 しかし幸いにも、今日は誰にも会わずに食堂でのミッションを完遂する事が出来た。今日のランチはサンドイッチとお握り、和洋折衷らしく相変わらず量も豊富で美味しそう。

 ついでに入っているリンゴか何かのパイも、大きくカットされていて食べ応えがありそうだ。高カロリーの分は、探索で歩き回るので消化出来ると思われているみたい。


 朔也もその点に関しては、大丈夫だと太鼓判を押せる自信はある。何しろ午前は“夢幻のラビリンス”を探索して、午後は“訓練ダンジョン”でひと汗掻いているのだ。

 これ程に勤勉な探索者は、従兄弟たちの中にはいないと思う……ついでに夜には、探索教法を読んで勉強も行ってるし。まぁそれは、知識不足で探索中に痛い目に遭いたくないからだけど。


 不意に激変した生活環境だが、朔也は諸々を含めて割と楽しんでいた。従兄弟の嫌がらせや下に見られる態度はアレだけど、執事やメイドに味方もいるみたいだし。

 ちなみに、今夜は訓練場での対人特訓は無いと毛利は言っていた。どうやら、初の対戦形式でショックを受けた従弟連中が多かったのがその理由らしい。

 朔也からすれば、あれだけ威張り散らして何言ってんだって感想しかない。


 とは言え、その勝利で貰えたカードも使い勝手が悪くて、朔也からしても訓練に参加するメリットは少ない気も。せめて賞品がもう少し豪華なら、頑張る気力も出て来るのだが。

 その辺を、明日にでも老執事の毛利から新当主へと言付けて貰うのも悪くないかも。あっさりと倒してやった当主の長男の光洋みつひろも、失うモノが多ければ再戦も躊躇ちゅうちょするかも知れない。


 そんな事を考えながら、朔也は妖精のお姫を従えて例のガレージへと辿り着いた。お姫に確認したところ、幸いにも追跡者の気配はないとの事である。

 お姫は妖精だけあって、短時間なら消える事も出来るし元から小さいのでそんな斥候仕事は得意みたい。朔也からすれば、この場所に通い詰めているのを他の従兄弟に知られたくない。


 その気持ちをみ取って、力を貸してくれるお姫は本当に良い相棒である。その原動力が、例えランチの中身のアップルパイのご相伴しょうばんにあったとしてもだ。

 この館の数少ない、朔也の味方には違いは無いのだ。





 ――そんな訳で、今日のお昼はノームの管理人のアカシアと食べる予定。






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