第31話 丘陵エリア2層目



 そんな訳で、今度は昨日覚えた闘技スキルの実践演習を行う事に。覚えたスキルの名前は『急所突き』で、どうやら突き技らしい事は分かるのだけど。

 果たして片手剣でも作動するのか、その辺はトンと分からず戸惑う朔也さくやである。取り敢えず2層には辿り着けたけど、さてこのエリアの敵に付け焼刃のスキルは通じるかどうか。


 その辺の事も考えつつ、朔也は麻痺のショートソードを片手に周囲を見回してみる。景色は相も変わらず、長閑のどかな丘陵エリアで敵の気配も何となく感じる。

 特に圧が強いと言うか、森林の方から嫌な気配が漂って来ている気が。朔也に気配察知みたいなスキルはないけど、ここ数日の探索でそっち系の感覚が敏感になっているのかも。


 お姫にもあっちには近付くなとバツを貰って、大人しくそれに従う事に決めた朔也である。結果、街道らしき歩きやすい通路に沿って移動する流れに。

 とにかく、目指すべきゲートの場所に当たりがついたのが大きい。遠くからでも目立つストーンヘンジが、恐らくどこかの丘の上に建っているのだろう。

 ただ、今の朔也の実力で3層に行って良いモノかそこは悩み処。


「ちょっと悩むよね、午後に通っている“訓練ダンジョン”とは敵の強さが違うもんね。でも強い敵と戦わないと、強くはなれないからねぇ。

 2層の探索時間を長くして、3層は覗くだけにしておこうか?」


 そんな朔也の呟きに、妖精のお姫はそれが良いねとグーサインで同意してくれた。つまりは、この層でカード化作業を1時間程度は頑張る感じで。

 そう決定して、すぐにオーク兵の一団とバッタリ遭遇。今度は敵の数が4匹と多く、苦戦が予想される。遠隔部隊に攻撃の指示を出すも、あっという間に敵は接近して来た。


 こんな時は、壁役のいないこのチームは大変である。いや、エンが強いので大ピンチにはならないのは助かるけど。朔也はそのフォーローをしながら、ひたすら止めを狙うのみ。

 向こうのオーク兵は、戦いに興奮しているのか勢いはあるが武器の扱いはかなり乱雑だ。体格が良いのでパワーはあるが、こちらも付け入る隙が多いのは確か。


 エンの活躍で、オーク兵の数も順調に減って行ってくれている。その隙を突いて、試すのはここだと朔也は敵の大振りの攻撃を避けて『急所突き』を初披露。

 それは片手剣でも、普通に発動してくれて威力も充分だった。その一撃は、オークのわき腹から明らかに心臓まで達する威力で、喰らった敵オークは一瞬で魔石に。


 何と言うか、剣の軌道を自然に補正してくれる感は余り違和感が無くて良いかも知れない。そして威力に関しては、見た限りハナマルをあげられるレベル。

 こんな切り札を持っていれば、この先の探索も有利に進められる事請け合いである。とは言え、このスキル技は確かMPだかSPだかを消費して発動する筈。

 ホイホイと無制限に使えないし、強い技になるとクールタイムも存在するとか。


 取り敢えず自分の探索者としての成長には、大満足の朔也ではある。そんな事を考えていると、敵のオーク軍はいつの間にか全て消滅していた。

 相変わらずエンの無双振りは、F級の範疇はんちゅうに収まらない凄さである。片腕を失っておらず、古傷も無かった昔は間違いなくC級以上のランクだったのだろう。


 その辺の評価の基準は分からないけど、こちらとしてはMP消費たった2で召喚出来る最強カードを手に入れられたのだ。腹違いの姉の低評価に感謝である、でないと譲って貰えなかっただろう。

 そしてようやく今日2枚目のカードをゲット、つまりはオークが回収出来てしまった。ゴブリンよりは強いかもだが、正直仲間として使いたいかは微妙な所。


【丘オーク兵】総合F級(攻撃F・忠誠F)




 そこから更に30分以上丘陵エリアを彷徨さまよって、狼とゴブリンとオークの群れに何度か遭遇した。数も3匹から最大6匹の群れで、難易度は高かったモノの。

 苦肉の策と言うか、昨日の対人戦をヒントに朔也が編み出した技があって。それを使って、6匹いたゴブリンの群れを見事無傷で撃退に至ったのだった。


 それはある意味、新しく覚えたスキル技『急所突き』よりも危機回避に関しては上だった。群れで押し寄せるゴブリン達に対して、雑種スライム(大)を召喚しての封じ技である。

 その体積に、移動をはばまれる可哀想な被害者たち。スライムの移動速度の無さを、作戦で上手くカバーした形である。後は遠隔技とか、スライムに道を作って貰って武器で倒せば物凄く楽。


 いわゆる、MP2を消費しての足止め技みたいなモノを開発してしまった朔也は、結構な有頂天に。小柄な敵が出て来た時は、この戦法で一網打尽が可能かも。

 もっとも、狼の群れに使った時は気配を察知され逃れられてしまった。4匹出現した群れの1匹しか捕まえられず、なるほど敵によっては上手く作動しない事もありそう。


 雑種スライム(大)を出現させる場所を、微妙に調整させる技が必要になって来る訳だ。出現させたスライムは、忠誠度も思いっ切り低いし意思疎通も不自由である。

 それでも朔也が近付くと、自身の溶解液で傷付けないように道を開けてくれる知恵はあるよう。それで捕らえた敵モンスターの、止めを刺しての時間短縮を行う訳だ。


 何しろスライムの溶解攻撃は、なかなかに派手だが敵を倒すのには随分と時間が掛かるのだ。昨日の対人戦みたいに、窒息死を狙えばもっと早くケリはつくだろうけど。

 スライムにそこまでの知恵は無いようで、朔也もこの先も扱い方には悩まされそう。今はダブルベッドサイズ(見た目はまるでウォーターベッド)まで育ったこの子だが、やっぱり移動は苦手みたい。

 連れて歩くのは、パペット以上に大変である。


 そんな訳で、スライムの運用は今後も局地的な召喚押し潰し戦法がメインになりそう。まぁ、せっかく魔結晶を使って合成したのに、まるで使えないなんて事にならずに済んで良かった。

 【雑種角ネズミ】など、さすがにオークや狼相手に使う気にもならない。F級なのでコストは掛からないけど、恐らく戦力にもならないだろう。


 それでも例えネズミでも、召喚カードはたくさん欲しい。どうやら合成スキルは、使い込むほど成長してくれるみたい。そのためには、今は同種のカードを集めるのが一番の近道だ。

 そう言う意味では、今日の出現先は初見の丘陵エリアなのでついてない朔也である。それでも新たに【丘オーク兵】と【丘ゴブリン】を2枚ゲット出来て戦果はまずまず。


 魔石(極小)も20個以上は回収出来たし、ここまで1時間以上の探索としては順調かも。そしてこの2層で新たに遭遇した、蟲型モンスターはある意味衝撃だった。

 何か派手な色合いの奴が、道に沿って飛んでは止まってを繰り返してるなと思ったら。懐かしい道しるべ(ハンミョウ)と言う蟲タイプのモンスターだった様で、かなり強烈な戦闘に。


 どうやって攻撃して来るのかと思ったら、地面に着地した途端に近くの地面から石礫いしつぶてが飛んで来るのだ。それから短く飛んで、また着地した途端に土魔法を放って来る。

 慌てて遠隔攻撃部隊に撃墜を命じるも、倒すまでにかなりのり傷や打ち身を作ってしまった。やっぱり魔法を使う敵は厄介だ、いや純粋な肉弾戦を挑んで来る奴も怖いけど。


 2層にもそんな敵はちゃんといて、それはダチョウ型のモンスターだった。コイツはとにかく突進からの蹴りやくちばし攻撃が酷くて、とにかく狂暴の一言。

 幸い1匹だけの出現だったので、朔也が鍋フタの盾でガード役を徹する事に。その間にエンとコックさんで左右から挟撃して、何とか始末する事に成功した。

 ちなみに、道しるべとダチョウはカード化ならず、そして魔石(小)をドロップ。



 それなりに強くて面白い敵なので、カード化目的でもう少し戦いたかった朔也なのだけど。いつの間にか、道路の右手の丘の上に例の岩の柱の建造物が。

 土の剥き出しの道路は、まだこの先も続いているので進む事は可能である。それから相変わらず左手には、嫌な気配を発している森林が広がっている。


「悩みどころだよね、もう少し探索時間は取れるけど……このまま2層でカード化を狙うか、それとも3層にお邪魔してみるのも手だよね。

 どっちがいいと思う、お姫さん?」


 チビ妖精は、どうやらイケイケの性格のようで、3層行っちゃえの派手なゼスチャー。或いはスパルタなのかもだけど、相談した手前従うしかない朔也である。

 そんな訳で、従者を従えての2度目の“夢幻のラビリンス”の3層へ到達。昨日も3層は苦労したし、戦力的にはほぼ増えてはいない。


 無理はしないからねと最初に断って、お姫と共に周囲を見回すと。相変わらず天気の良い丘陵エリアが広がっていて、敵の気配もチラホラ漂って来ている。

 強さもそうだけど、数が増えたら単純に嫌なので対策を立てないと。取り敢えずは、先ほどカード化に成功した丘オーク兵を召喚して肉盾に使う事に。


 仲間と言うか手下になったオーク兵だが、あまり可愛げが無くて愛着は湧きそうにはない。それでも命には代えられないので、前衛を命じて道なりに歩き始める事に。

 出来れば昨日みたいな目立つ仕掛けを捜し当てたいけど、強敵がセットだとちょっと嫌かも。そう言えば、昨日苦労してゲットしたハンマーは1度も呼び出していない始末である。


 アレはD級なので、召喚するのにE級カードの倍くらいMPコストが掛かりそうで断念している次第。そう言う意味では、いざと言う時の切り札にもネックで残念過ぎる。

 朔也自身がもっと成長して、MPを増やせば問題は無いのだが。レベルを上げるのもなかなか大変で、殺伐さつばつと戦闘ばかりこなすのも精神的な負担が多くて嫌だ。


 C級の筈の妖精のお姫に関しては、その点何故かMPコストが掛からず助かっている。勝手に出現する手前、恐らく自身のMPも使っているのかも。

 その代わり戦闘能力は無いに等しいけど、常時バフ効果を掛けてくれる頼もしい相棒である。探索中に寂しい思いもしなくて済むし、祖父の形見と言う考え方も出来る。

 まぁ、たまに行う魔玉での戦闘補助だけでも相当に有り難い。


 そんな相棒が、アッチに何かあるよと道の片方を指し示した。それに従って朔也が進むと、ゴブリンとオークの混成軍が遠くで何かしているのを発見した。

 このまま近付くと乱戦になる恐れもあるし、そうなると10匹以上の敵と同時に戦わなくてはならなくなりそう。と言うか、奴らは壊れた馬車を漁っての略奪行為に忙しそうだ。


 奴らが荷馬車を襲撃したのか、それともそんな仕掛けなのかは判然としないけど。取り敢えずは数減らしが先だと、朔也はゴブ弓兵とコックさんに遠隔攻撃を命じる。

 エンと新入りのオーク兵には待機を命じて、まずは遠隔での数減らしだ。大量に釣れた場合は、仕方ないのでスライムプールでの足止め作戦に。


 幸い、最初にこちらに気付いて駆け寄って来た敵はゴブ2匹にオーク兵2匹のみだった。仲間に声掛けなどせず、弓矢での安い挑発に乗って殴り掛かってこようと駆け寄って来る。

 その中に、弓兵や魔術師タイプはいないようでまずは一安心。駆け寄る連中にも弓と魔法のフォークを射かけて、体力削りは続行中である。


 そして弱って近付いた所に、朔也とエンとでの止め刺し。敵が考え無しで本当に助かる、ただし、こちらの騒動に荷馬車を漁っていた他の奴らも気付き始めた。

 その結果、残った半ダース近くの敵が一気に殺到する事態に。ただまぁ、その頃には最初に近付いた獣人軍は全て始末していて、お次の団体も余裕のお出迎え。

 例のスライムプールにハメてやって、ほぼ一網打尽にする事に成功。





 ――召喚術って、作戦次第でこんな楽しいんだなと笑みの止まらぬ朔也だった。






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