第30話 初の丘陵エリア



 幸いな事はもう1つあって、どうやら先行した充希みつきチームは周囲には見当たらない様子。恐らくは、どこか別のエリアの1層を探索中なのだろう。

 老執事の毛利もうりが言っていた、ベテラン探索者の同行についてだけれど。そんな事をしても、経験値が分散されて自分の成長が遅れるだけな気が。


 カードも使ってやらないと、忠誠度やその他の数値が伸びないと老ノームが言ってた気がする。朔也さくやとすれば、安全は確保出来るけど回り道をしてるだけって分析である。

 まぁ、ベテラン探索者が出て来たモンスターを弱らせて、自分が止めを刺せばカード化は可能かもしれない。そんな接待探索などして、本当の実力がつくかははなはだ疑問ではある。


 こちらは自分の力と、それから味方の召喚カードで地道に探索に励むのみ。それからカード合成を駆使して、今は弱い仲間を徐々に強くしていくのだ。

 そして出来れば、自分も戦闘能力を身につけたい。なかなか困難な道のりだけど、ネックなのは新当主の提示した49日のリミットである。

 その間に極限に成長って、まず無理な気が。


 皮肉な事に、現在一番その期待値が高いのは三男の妾の子の朱羅しゅらであるらしい。それから次男の探索経験者が続き、カード回収率の高い朔也も期待値はとても高いそうな。

 長男で館を引き継いだ新当主の子供達が、総じて期待外れなのは何とも皮肉な話ではある。そのお陰で悪目立ちしているが、気楽にマイペース探索を続けるつもり。


朔也が遺言に従うのは、畝傍ヶ原うねびがはら家のためではなく亡くなった祖父のためである。その眠りが安息で満たされるよう、意思を継げたら幸いとの思い。

命懸けの探索業には少々抵抗があるが、今の所は何とか上手くやれている。スキルも順調に増えて来ているし、無理さえしなければ探索者でもやって行けそう。


 そんな判断をするのは早計かも知れないけど、万一実家からの支援を打ち切られてもダンジョン探索で食っていけそう。そう気付けたのは、この館に招かれて得た唯一の利点と言うか知識ではあった。

 手に職がつけば、こんな世の中でも何とか生きていける筈だ。出来ればここ数日で取得した、召喚カードくらいは自分の財産として認めて欲しい。


 初日の光洋みつひろに襲撃されたみたいな事案は、金輪際り懲りの朔也である。それにあらがうには、こちらも強さが必要なのだと思い知らされた。

 その為にも、この“夢幻のラビリンス”で頑張ってレベルアップしないと。取り敢えずは朔也も戦闘準備をして、お姫に進む方向を訊ねる所から。

 小さな相棒は、アッチかなぁと街道の片方を指差してくれた。


「それじゃあそっちに進もうか、今日は新入りの戦闘能力も確かめるからね。上手い事、適正なレベルのモンスターに遭遇出来れば良いけど。

 全部1人で倒しちゃ駄目だよ、エン」


 隻腕せきわんの戦士は知らん顔、それでも朔也が進み始めるとコックさんと一緒について来てくれる。そして歩き出して5分も経たない内に、最初の敵と街道でばったり遭遇する事に。

 そいつらは、遺跡エリアでも散々見掛けたゴブリンの群れだった。遺跡エリアにいる奴らよりは、幾分か日焼けしていて健康そうなのは気のせいだろうか。


 そんな事より、朔也は剣を片手に懐から新入りカードを取り出しての召喚作業。まずは期待の新鋭【侍ガエル】を、お試しとして呼び出してみる。

 そいつはゴブリン並みに小柄で、見た目は二足歩行する蛙だった。侍と名が付いているが、恰好と言うか装備は貧相で、辛うじて日本刀は手に持っている感じ。


 殿様カエルだったら面白かったのだけど、召喚されたのはどうやらアマガエルみたい。渋柿色のストライプの着物を身につけ、剣の腕はそれなりだろうか。

 ただし腕力がないのか、隻腕の戦士ほどの一撃の威力は無い感じ。単体で戦ってゴブリンには負けないだろうが、E級ってこんなモノなのかと期待外れ。


 3体いたゴブリンは、そんな感じでエンと新入り蛙で全て倒し切ってしまった。結局はエンが大半を1人で倒して、さっきの朔也の言葉は丸無視されてしまった。

 落ちてる魔石(微小)をお姫と拾いながら、さてこの新入りメンバーはどうしようと考えるも。これならゴブ弓兵の方が、使い勝手が良いなとの結論が脳内に。


 丘陵エリアを少し移動して、その思いは増々大きくなってしまった。ペタペタあるく侍カエルの移動速度は、お世辞にも速くないと言う。

 どうやらこのユニット、長距離の移動はそれほど得意では無さげ。


 などと考えていたら、次のモンスターの群れと遭遇してしまった。今度は狼の群れの様で、4匹もいて迎撃は大変そう。慌ててゴブ弓兵を呼んで、戦力を立て直す朔也である。

 そして案の定と言うか、迎撃をお願いした侍カエルは狼のスピードについて行けず。ゴブ弓兵とコックさんの遠隔攻撃も、命中率は半々程度だろうか。


 朔也も鍋フタの盾を召喚して、前衛でエンと一緒に奮闘する。荒ぶる狼の群れだが、盾があれば一応は朔也でも牙の攻撃を遠ざけられている。

 それを横からのエンの支援で、1匹ずつ数を減らして行って。侍カエルの方は、相手に傷を負わせているけど自身もかなり傷付いている感じ。


 フォローに向かいたいけど、ラインに穴を開けるとたちまち狼の軌道力に挟み込まれて致命傷を負いそうで怖い。追加で戦力を補充しようにも、今はモロに両手が塞がっていて無理な相談。

 朔也とエンで何とか2匹目を倒せたけど、こちらもとうとう侍カエルが倒されて、ラインに穴が開いてしまった。咄嗟にコックさんに迎撃を命じて、ラインを立て直すもちょっとピンチ。


 バタバタしながらも、エン頼みでの戦闘は続く。こうなると、F級とかE級とかって何なんだって、内心でわめきたくなってしまう朔也である。

 それでもようやく数の半減した狼の、3匹目をまたもやエンが真っ二つに斬り去って撃退に成功。その後コックさんに襲い掛かっていた、残りの1匹を朔也が倒してようやく戦闘終了。

 そしてめでたく、1枚目のカードをゲット。


【まだら狼】総合F級(攻撃F・忠誠F)


 集団戦では強く感じた狼だが、カード化の数値はどれも最低と言う。そしてカードへと送還されてしまった侍カエルだが、こんな結果では封印候補である。

 E級なので、もう少し強いと思っていたこちらの期待を大きく外す結果に。色々考えるけど、ひょっとしたらこんな乾燥した丘陵で使ったのがそもそも間違いなのかも?


 例えば湿地帯とか、水のエリアで使えばもう少し生き生きと活躍してくれたのかも知れない。まぁ、E級の召喚にはMPが5も消費するので、今の朔也のレベルでは運用は難しいってのもある。

 コックさんとカーゴ蜘蛛を召喚して、1度MP回復ポーションを飲んでいるから良いモノの。今回は5本ほど、前もって薬品を買い込んでの運用試験の開催である。


 そして最初の試験結果は不合格で、先が思いやられる今日の探索である。と言うか、装備品の【強靭の鉄面皮】も今後恐らく使わないだろう。

 MPを5も消費して、顔面は守れるけど視界の悪くなりそうな鉄マスクなど論外だ。そんな訳で、残りは【悪臭カメムシ】の召喚なのだけど。

 こいつも特殊技が想像出来て、チーム戦では使いたくなどない。


 試すのも躊躇ためらわれるし、このカードも封印だろうか。結果、光洋みつひろからせしめたカードは、3枚とも使えないと言うトホホな結末に。

 せめてもう1枚は使える仲間が欲しいのだが、この悪臭カメムシに期待は出来そうもない。取り敢えず次のゴブリンの群れに試してみたけど、案の定の結果だった。


 このカメムシ、大きさはこたつサイズで平らな姿は敵の攻撃を避けやすいのだけれど。攻撃方法はどうやら悪臭の放屁しか無いみたいで、やっぱり味方も巻き込むその威力。

 朔也も巻き込まれそうになって、思わず条件反射で召喚を解除してしまった。それでも敵のゴブリン達は、悪臭を浴びて戦闘どころではない様子。


 こちらも素早く後退あとずさって、仲間達にも退避命令を下す。苦しむ敵のゴブは、お情けで遠隔攻撃で止めを刺してあげて。エンも心なしか、仲間の暴走に迷惑そうな顔付き。

 そんな訳で、恐らくは2度と日の目を見ない事になりそうなE級カードがまた1枚。ちなみに【滅陰の人魂】も、こんな日差しの強いフィールドでは召喚は不可能である。

 せめて洞窟内とか、日の光の当たらないエリアで無いとダメみたい。


 結局、悪臭が収まるまで5分くらい時間を無駄にしてしまった。妖精のお姫も、アレはダメだよ的な批難するような視線をこちらに向けて来ている。

 朔也が悪いわけでは無いのだが、まぁ召喚主は自分なので一応反省はする事にして。今後はアレは、戦力に計算せずにプランを練ろうと決意する流れに。



 そんな感じでしばらく丘陵エリアを彷徨さまよっていたら、新たな敵に遭遇した。どうやらブタ顔のそいつ等は、オークと言う獣人族ではなかろうか。

 その位の知識はあるけれど、どの程度の強さなのかは判然としない。ただし1層目に出現したのだから、そんなに強くはないと思いたい。


 そいつ等は全部で3匹いて、装備は粗末だがゴブリンより体格は良かった。具体的には朔也と変らぬ身長で、太っているせいか体重はかなりありそうだ。

 あなどれない敵かなぁと、まずは恒例の遠隔攻撃から先制でちょっかいを掛けて見るに。ドタバタと興奮して走ってくる姿には、敏捷性と言うワードは皆無に見える。


 それでもパワーはありそうだし、接近戦では気をつけないと。そう思う朔也だけど、エンがさっさと近付いた相手を一撃で切り捨ててしまった。

 カード化目的で朔也も攻撃を頑張って、何とか1匹止めは刺せたけど残念ながらカード化は発動せず。ゴブリン兵士よりは肉弾戦が得意なモンスターに見えたけど、ちょっと残念だ。


 まぁ、このエリアをうろつけば、きっと今後も遭遇するだろうし問題は無いだろう。それより1層を探索して既に30分、そろそろ次の層のゲートが見えて来ても良い筈。

 などと思っていたら、お姫が遠くの丘の方を指差して来た。朔也が目を凝らして眺めると、そこにはストーンヘンジのような石の柱で作られた遺跡のような物が。


 あの構造物が何かは不明だが、ひょっとしてあの中にゲートがある可能性が。そう尋ねると、小さな物知りさんはニッコリ笑って頷いてくれた。

 目的地が判明して、そこからは真っ直ぐその丘を目指す事に。その途中で再び狼の群れと、それから巨大なテントウムシに襲われたけど、2匹ずつだったので問題なく倒す事が出来た。


 敵を倒してドロップ品は順調に溜まって行くけど、残念ながらカード化は最初の狼の1枚のみ。それにしても、オーク兵を倒して肉の包みがドロップした時は驚いた。

 これはいわゆる、豚肉の系統なのだろうか……オーク肉など、食べた事はないけど美味しいとの噂は聞いた覚えがある。高級料理店でしか食べられないとか、アレは都市伝説だとか。


 後で戦闘コックさんに料理して貰うのも手かなと、そんな事を考えながら丘を登って行く朔也である。そして推測通りに、この石の柱の中央に次の層のゲートが鎮座していた。

 やったねと喜ぶ主に、お姫も嬉しそうに宙を一回転してのパフォーマンスを披露。1層の目的の新入りメンバーのチェックは、残念な結果だったけど一通り終える事が出来た。


「あっ、後は新スキルの威力を確かめるんだった……『急所突き』って、片手剣で発動してくれるのかな、お姫さん?

 しまったな、予備に槍とか持って来れば良かったかも」





 ――そんな朔也に、ドンマイと明るい表情のお姫であった。






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