第24話 無事な生還を祝われる
帰還の巻物で、1層のゲート前へと無事に戻って来れた
どうやらこの帰還の巻物は、いきなりゲート外へと出る事も可能らしい。召喚ユニットが多過ぎたので、向こうに勝手に弾かれた感じを受ける。
そして入り口の執務室で待機していた、老執事の
「だ、大丈夫ですか、朔也様……怪我をされてますね、既に治療済みでしょうか?」
「あっ、はい……ポーションは飲んだし、痛みはもう無い感じです。凄いですね、さすが医者いらずの妙薬って言われるのが分かりますよ。
ただ、装備は破損したので買い替えはしなくちゃ」
そこからは隣室に通されて、待機していた医療班によるメディカルチェックが数分。有無を言わさぬその流れに、多少は戸惑った朔也であるけど。
サポートは万全なようで、さすが名家の子供の扱いは一味違う。そしてメイドの1人に、念の為にと回復魔法までかけて貰って治療は終了の運びに。
ただし、優遇はここまでで下素材の探索着はともかく、革チョッキの無償交換は行わないとの事。その辺は当然とも言えるし、ゴネるつもりは全く無い。
そんな訳で、今日の回収品の鑑定と販売依頼をいつものメイドに行って貰いながら。一緒について来た、老執事の毛利と若いメイドさんに経緯の説明を行う。
朔也が3層に到達したこと自体は、この場の誰も特に驚きは無かったようだ。従弟連中も、恐らくその位は既にクリア済みなのだろう。
何しろ向こうには、C~D級のカード従者が何枚も手元にあるのだ。しかも人によっては、外部からベテランの探索者を雇っているとの話である。
この決断は、新当主の
館の管理を任されている以上、
新当主も、甥や姪たちに必要以上に厳しくは出来ない模様である。そう言う身内びいきは、
そんな事を考えている内に、メイドの荒川さんは鑑定と換金を済ませてくれていた。今回は合計で6万3千円だそうで、魔石(微小)36個と魔石(小)2個が効いたようだ。
他のインプの被膜とか石像の欠片、ゴブリンの粗末な武器は大したお金にはならなかったよう。それは仕方ないけど、さて買い物はどうしようか?
毛利に装備品の充実を進められたけど、先立つ
4万少々の『鋼のブーツ』くらいは買っておくべきだろうか、老執事に心配を掛けない為にも。確かに今回は痛い目に遭ったし、朔也は思い切ってブーツも一緒に購入する事に。
本当はもう少しお金を貯めて、大物のカードか装備品を買う予定だったのだけど。特に狙っている品も今の所はないし、良しとする事に。
それに満面の笑みで応えるメイドの売店さん、靴のサイズを尋ねられて試着からの新装備のゲットである。『鋼のブーツ』は革と鋼で出来ており、弱点のつま先の硬さはこれで万全だ。
重さに関しても、思ったほどの重量では無くて一安心である。お財布にはやや響いたけど、これで午後からの探索も安全ポイントが少しだけ増えた気が。
ついでに『帰還の巻物』や『魔法の巻き糸』を補充して、最後に今回のカード化の数と種類を老執事に報告する。その成果に、向こうも驚きながら称賛してくれた。
特にD級のカード化成功は、従兄弟たちの中でも初だったみたい。その話題が出たついでに、朔也は従兄弟たちの
「そうですな、伝えるのをすっかり忘れておりました……今夜8時に、
そこでの手合わせで、皆様の成長を促進させる意味合いもございますが。カードを賭けての、要するに
現在の進捗状況では、とても49日での回収は不可能ですから」
「甥や姪に甘い
このままじゃ、A級どころかC級のカード化すら7週間では無理ですよね」
なるほど、そうらしい……これで強い者はよりカードを充実させて、弱い者は
ただし、ランクの高いカードを得られる絶好の機会でもあるし、そもそも参加しませんとか無理だろう。ここは腹を決めて、事前の備えを頑張るしか。
それより朔也の売った魔石だが、メイドが大事そうに仕舞うのを目撃して少々疑問が。この後、誰かが外に売りに行くのかなと、何気なくメイドに質問してみたら。
思わぬ返答に、ビックリ仰天してしまった。何とダンジョンの魔素が枯れないように、後で探索者登録してある執事やメイドが、ダンジョンの深くに戻しに行くそうな。
それが1日の業務として、ちゃんと組み込まれているのだそう。さすがにそうでもしないと、16名の探索業に対してモンスターの湧く速度が追い付かないみたい。
確かにダンジョンの供給も無限ではないし、そう言う意味では管理は重要なのだろう。個人所有のダンジョンだけに、
それを毎日ただで使わせて貰っているのは、本当に有り難い事でもある。お陰で朔也のレベルも、5まで上昇して駆け出しの探索者としては申し分なし。
今日の探索ではレベルは上がらなかったけど、カードに関しては割と大量ゲットだった。初のD級カードゲットの報告では、皆にも喜んでも貰えたし。
この調子で、午後の“訓練ダンジョン”探索も頑張りたい所。
その前に朔也は、丁度お昼の時間なので食堂にお弁当を貰いに寄る事に。いつもの流れで、サッと受け取って庭先でお姫と食べるかなとか考えて食堂を覗き込むと。
やはりお昼時だけあって、先客が2組いたようで嫌な予感がムンムン。1組目は、次男コンビの
いつもいる印象だけど、食べ物の近くにいないと死んでしまうとかって特性でもあるのだろうか。とは言え、春海の方はレベルも高いとの噂だし油断は出来ない。
もう1組に関しては、確か新当主の
ただし次男より背が低いので、お世辞にも探索者活動には向いてい無さそう。その為なのか、隣にいる男はそのサポート役に雇われたベテラン探索者とか?
噂には聞いていたけど、実際に見るのは初めてである。30代位の
そして途端に見下した表情を取って来て、嫌な奴確定である。ただ幸いな事に、この2組はお互いをけん制し合っていて、朔也にちょっかいは掛けて来なかった。
精々が、夜を楽しみにしてなとか、お前を
まぁ、今度そんな事があったら朔也も全力で抵抗するけど。
「アレが例の
なんなら、その方法を聞き出してやりましょうか、坊ちゃん?」
「いいよ、放っておけ、あんな雑魚……探索者のステータスは、どっちみちレベルと所有スキルだろ? こっちは用意して貰ったスキル書とオーブ珠で、新しく2つもスキルを覚えてるんだから。
今夜の試合でも、絶対に負けっこないさ」
そう言えば、老執事の毛利から貰った教本にも、そんな事が書いてあったような? その2つはダンジョンでドロップするお宝で、探索者が特に重宝する目玉商品(?)らしいのだが。
朔也は1度も見た事は無いし、もちろん金に物を言わせて購入など出来やしない。今度例の売店で、どの程度のお値段か尋ねてみるのも良いかも知れない。
もしくは、どの程度までダンジョンを潜ればゲット出来る可能性があるのかとか。ただまぁ、3層がベストの新米探索者には、まだまだ夢の話には違いないだろう。
それでも今後の成長方針として、情報を得れたのは良かったかも。少なくとも
ちなみに朔也も、何故か2つ目の『錬金術(初心者)』なんてスキルを覚えてしまっている。これの特性も、午後から頑張って確認しなければ。
何にせよ忙しくなりそうだと、朔也はゲットした弁当箱を抱えてその場を後にする。ヤジの類いは、主に次男コンビからなおも続いたが、無視すれば良いだけの話。
そうして廊下をしばらく中庭方面へと進むと、ようやく喧騒が聞こえなくなってくれた。安心していつもの中庭の東屋に
今日のお弁当は中華のようで、妖精のお姫も遠慮なく食べれそうなおかずをチョイス中。そして酢豚に混じっていたパイナップルを見付けて、この上なく嬉しそう。
朔也としては、シウマイも美味しそうだし中華おこわもとっても美味しそう。この館の専属コックは、本当に料理の腕はピカ一のようだ。
そう思って、ふと手下の召喚モンスターの戦闘コックは料理が可能なのか疑問に。今度暇な時に、食材と調味料と調理道具を揃えて実験してみるのも面白いかも。
それよりも、今日の予定を例の台所エリアにするのも良さそうだ。そしてエリアに散らばっている、調理道具や調味料をかき集めて持ち帰れば良い。
老ノームのアカシアには、箱を用具入れに使って良いとお達しを受けているし。腐る可能性の食材は無理だけど、他の用具は揃えて損はない気がする。
そう言えば、今日はお酒は買わなかったけど、アカシア爺さんは差し入れしたボトルをまだ飲み切って無いだろうか。贈り物は定期的にして、色々と便宜を図って貰わないと。
何しろ朔也は探索初心者で、ダンジョンの流儀も詳しくないのだ。
この洋館の秘密にしてもそうで、前回は妙に敵の強いダンジョンに突っ込んで危うく命を落とす所だった。あの老ノームがどの程度この館の仕組みに詳しいかは分からないが、少なくとも朔也よりは詳しいに決まっている。
そんな事を考えている内に、いつしか2人とも昼食を終えていた。と言うより、いつもここのお弁当は量が多過ぎて、全部食べ切れた試しがない。
残りは老ノームのお土産にして、酒の摘まみにして貰っても良い。幸い周囲に人の気配はないし、朔也は今のうちに例のガレージへ移動をする事に。
それに嬉々としてついて来るお姫は、一応周囲に気を配ってくれている様子。変な奴につけ回されて、場所バレしないようにとの朔也の言いつけを守ってくれているようだ。
そんな健気な気配りもあって、何とか誰にもバレずに例の車庫の2階へと辿り着けた。そしてゲートを潜って、今やすっかり馴染みの“訓練ダンジョン”へ。
この館内の、従兄弟の誰も知らない2つ目のダンジョンだ。
――さて、午後からも飽きずにレベル上げに
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