第23話 遺跡エリア3層目



 3層目のゴブリン集団だけど、この層から魔術師ゴブが群れに混じり始めていた。数も5匹に増えていて、確実に難易度は上がっていて大変そう。

 とは言え、今回は朔也さくやのパーティにも弓矢ゴブが混じっている。前衛のパペットも増えてるし、上手く働いてくれれば危険は少ないだろう。


 そんな思いで、小部屋の入り口から顔だけ出しての、こそっと部下たちへの指示出しを敢行。コックさんには、弓持ちゴブと同じ敵へのフォー投げを命じての作戦開始。

 忠誠度が最低の弓持ちゴブだったけど、何とか命令不履行ふりこうはせずまずは一安心。その効果だけど、コックさんの遠隔攻撃と合わせて敵を半死に追い込んでくれた。


 つまりは第一射は見事に命中、さすが専門職だけはある。そしてたけるゴブたちの接近と、魔術師ゴブの火炎玉の魔法の飛来が朔也へと。

 何故かこれだけ味方を数増ししても、狙われるのは朔也らしい。或いは一番弱っちく見えて、敵から倒しやすく思われやすいのかも。

 ただし、その速度は精々が平均的な小学生の投げるドッヂボール程度。


 頑張れば避けられそうだし、事実朔也は体をらせてそれをやり過ごす事に成功した。そしてパペット2体へ、接近戦の開始を命じて前衛ゴブの排除から開始。

 後衛の魔術師ゴブの放置は怖いけど、単身で斬り込むのはもっと怖い。出来れば手札はもっと欲しいのが実情だが、自分で倒したい欲もあるし難しい所だ。


 そんな事を考えている内に、3体いた前衛ゴブは全てお亡くなりに。中には粗末な革鎧を着てた奴もいて、その点も2層よりグレードアップしてる点かも。

 それより、2度目の火球が飛んで来ない内にと、朔也はパペットたちを引き連れて魔術師ゴブの排除へと。急いで駆け寄った結果、何とか魔法が完成する前に倒す事に成功した。


 ホッと息をついて、改めて小部屋を見回すも取り立てて何も無い。いつも通りの簡素さで、特徴としてはモンスターの生活感が演出されている事が多い。

 例えばスライムや大ネズミの部屋は、彼等の巣みたいなのが部屋の隅にあったりとか。ゴブの住処だと、たまに革袋とか小銭が落ちている事も。


 もっとも、食べ物のカスとか木切れとか、不潔な印象は拭えないけど。そんな場所を漁るのも嫌なので、今までほぼスルーして来ている次第である。

 ここもざっと見た所、奴等の住処には大したモノは無さそう。ただし、ドロップ品には杖や弓矢やら、武器の類いが結構拾えてラッキーかも。


 残念ながら魔石は極小ばかりだが、ここまでの道のりで30個は拾えただろうか。つまりは3万円は確定で、“訓練ダンジョン”のを嵩増しすればもっと稼げそう。

 出来れば自分用の装備品は、もう少し立派なのに変更して行きたい朔也である。特に魔法の抵抗値を上げる魔法アイテムとか、あればぜひ欲しい所だ。

 インプの魔法を受けた身としては、二度とあんな目は御免である。


「おっと、また通路で敵とご対面かな? 出来ればインプを倒してカード化を狙いたいけど、無理はしたくないからいいや。

 みんな、まず最初にあの飛翔してる敵を狙って!」


 そんなご主人の号令に、弓持ちゴブも素直に従ってくれてこれは嬉しい誤算である。てっきり忠誠度が低いと、隻腕の戦士みたいに無視して来る個体もいると思っていたのだ。

 攻撃に関しては、自衛と言う事もあって素直に従ってくれるようだ。まぁ、確かに自分のMPを消費して召喚した味方モンスターに、裏切られたらたまったモノではない。


 その辺は、探索者歴もスキル使用歴も浅い朔也である。分からない事が多いのも当然だし、1つずつ実地で確かめながら覚えて行くしかない現状だったり。

 そんなこんなで3層フロアは、一応安全を確保しながらも進めている。カード化は達成してないとは言え、既に2つ目の小部屋も制圧は完了済み。


 ここには大ネズミの巣があって、その数6匹と一度に相手をするには大変だった。それでも味方を水増しした甲斐もあって、何とかかじられる前に撃破出来た次第である。

 新米パペットは少々齧られていたけど、戦闘後に確認したところ行動に支障は無さげ。まずは良かった、朔也としてはもう少しだけこの層を探索してみたかったので。


 そして出来れば、魔術師ゴブかインプのどちらかをカード化したい所である。どちらも魔法使いだけあって、体力は低そうなので近付けば朔也でも倒せそう。

 とは言え、倒すまでに魔法を撃ち込まれると厄介で、チャンスは意外と少なそう。そんな訳で、もう少し遺跡内を彷徨さまよって敵との遭遇率を上げるべし。

 などと思っていたら、3つ目の小部屋へと到着した。


「あれっ、この小部屋は……ゴブリンもネズミもいないのかな? 代わりに、壁際に何か物置みたいなのが設置されてるね。

 アレは何だろう、お姫さん?」


 尋ねられた妖精のお姫も、さあって感じで首を傾げて思案顔。それは割と立派な台座と言うか、設置型の物置みたいな目立つ形状の飾り棚だった。

 その壁に掛けられているように、大きな木製のハンマーが置かれてある。その左右には、まるで守護するように翼の生えた小鬼のような石像が。


 まぁ、雰囲気から察するにあの像は間違いなく動くだろう。ガーゴイルとか、確かそんな名前のモンスターだった気がする。お姫も険しい顔で、アレは動くよと忠告して来ている。

 そんな訳で、朔也は改めてその壁の仕掛けを眺めながらどうすべきか考えにふける。あの木製のハンマーは、紋様も入っていて確かに上等な感じに見える。


 それに浮かれて取ろうとした大バカ者を、左右のガーゴイルが襲う感じの仕掛けなのだろう。あまりにありふれていて、今どきの小学生でも引っ掛からないだろうけど。

 こういうのって、仕掛けが分かっていてもちょっと戸惑ってしまう。先制でガーゴイルに攻撃を仕掛けるのも、ルール違反でしっぺ返しがありそうだし。


 考えた末、新入りのパペット君にあの仕掛けを作動させて貰う事に。他の仲間は、武器を構えて動き出したガーゴイルをボコ殴りにするって寸法だ。

 朔也自身も、光の棍棒を手に敵が動き出すのを待つ事に。ガーゴイルは台座に乗っているので、高い位置の頭が狙えないのが残念である。

 それでもまぁ、個別に撃破すれば何とでもなりそう。



 恐れ知らずのパペット兵は、朔也の指示に盲目的に従ってくれる。念の為の作戦として、像が動き出したら反撃するようにと言い含めて送り出してみたけれど。

 そこまで複雑な指示を、果たして新入りの彼が覚えられるかは不明である。そんな不安の中で、いかにもヤバい位置に立ち止まる新入りパペット兵士。


 そしてパペット兵がハンマーに手を掛けた瞬間、案の定左右のガーゴイル像が同時に動き出した。右の位置にスタン張っていた朔也とエンは、そのタイミングを見逃さず攻撃を仕掛ける。

 ところがさすがの石像、エンの攻撃でも完全には壊せずに宙へと翼で飛び上がって行く。懸念されたおとりのパペット兵は、左のガーゴイルの鉤爪を受けて一撃で大破。


 どうやらコイツは、攻撃力も防御力も並み以上に持ち合わせているらしい。朔也の合図で遠隔部隊も攻撃を仕掛けるが、致命傷には及んでいない模様だ。

 翼は飾りと思っていたけど、どうやらコイツ等は重い石像の癖に飛行能力持ちみたい。反則的なスペックだが、文句を言っても仕方が無いしどうしたモノか。


 オマケに、味方のエンの片手剣との相性が抜群に悪い。石像を刃で斬り付けるなんて、確かに刃こぼれ案件でしかない。せめてパペットが回収し損ねた、あの木製のハンマーがあれば。

 そう思っていた朔也の脳内に、ある考えがパッと閃いた。相変わらずついて来るだけのカーゴ蜘蛛の背中の籠の中に、さっき拾った棍棒があった筈。

 もっと言えば、腕力の無い朔也が棍棒を振り回してもあまり意味は無いような?


「エンっ、これ使って……そんでもって、敵を粉砕しちゃって!」


 戦う前に思い付いていれば一番良かったけど、これも経験不足の為せる業ではある。それから忠誠度Fの隻腕の戦士の動向だが、これまた何とかクリアに至った。

 もしかしたら、自前の愛剣が欠けるのが嫌だっただけかもだけど、素直に武器チェンジに応じて貰えて。そして片腕で振るわれる見事な軌道の棍棒の一撃と来たら。


 少し遅れて、ガーゴイルの顔付近での爆破が起きたのは、妖精のお姫によるお茶目なフォローだったようだ。与えた魔玉を使用して、宙にいる敵に追い込みをかけてくれた模様。

 そのお陰で、与太った有翼の石像の背中に続けざまのエンの殴り攻撃が。これにより地面に激突したガーゴイルは、ようやくの事動きを止めてくれた。


 そして背後からの2体目の襲撃に、思い切り吹き飛ばされる朔也。鋭い痛みは、恐らくわき腹辺りを鉤爪かぎつめで殴り付けられたせいだと思われる。

 派手に転がったお陰で、何とか連続での攻撃を受けずに済んだ。視界が突然低くなった理由と、体の痛みに朔也は攻撃を受けた事実を知るも。

 身動きが出来ず、ただ弱々しい呻き声を上げるのみ。


 2体目のガーゴイルは、完全に新入りパペット兵を破壊し終えていた。それから遠隔攻撃を意に介さず、味方の石像と戦っている朔也へと狙いを定めたらしい。

 そして現在は、怒れるお姫によって魔玉攻撃を受けて空中で見事なフラフラ状態に。そこに同じ要領で、エンが伸び上がっての棍棒の一撃を見舞っての撃ち落とし。


 地面に転がった石像を見て、ザマ見ろと思わず心の中で叫ぶ朔也である。自分と同じ境遇におちいった相手を見て、何となくスカッとした気持ちになってはみたけど。

 わき腹の鈍痛は治まる気配を見せず、ひょっとしたら血も流れ出ているのかも。確認するのが怖いけど、ようやくこの小部屋内から脅威は去ってくれた。


 そして物凄い速度でお姫にも詰め寄られ、何とか半身を起こして自身の確認作業。せっかく買った革のチョッキはボロボロで、ただし出血は思った程ではないようだ。

 安堵しつつも、お姫に急かされてポーションホルダーから瓶を取り出す。やられたのは左のわき腹で、困った事に左腕は上手く動いてくれない状態。


 今や召喚された部下たちも、一同に集まって主人の状態を見守っている。そんな状況の中でポーションを半分飲み込み、もう半分は患部へと直接ふり掛けてやる。

 その姿でしばらく我慢していたら、ようやく呼吸が落ち着いて来た。患部もポカポカ温かくなって来て、これは治療が進んでいる証拠なのかも。


 心配そうに視界内を飛び回るお姫に、もう大丈夫かもと告げてあげると。チビ妖精は、ようやく安堵したように朔也の肩に停まって頬を撫でてくれた。

 その代わり、エンは相変わらずの無表情……と思ったら、静かな動作で朔也が貸した棍棒を返してくれた。それから自分の剣を再び手にして、不動の姿勢に戻ってしまった。


 朔也もこんな場所で、あまりゆっくりもしていられない。ルートに沿って徘徊する敵は、遺跡内でも割と遭遇するのだ。この層では、パペット兵とインプが代表だろうか。

 恰好は悪いが、痛みが治まって来た体でうようにして戦利品の確保を行う。お姫も協力してくれるが、あのバカでかい木製のハンマーだけはどうし様も無いみたい。


 朔也が万全の状態でも、振り回すのに苦労するサイズ感である。これを持ち帰るのは大変かもと、その武器に手を置いた瞬間ビックリする事態が。

 何と、武器に対しての《カード化》が発動してしまったのだ。


【白木のハンマー】総合D級(攻撃D・耐久D)


 一体どんな切っ掛けで、それが作動するのかは不明だけど。とにかく重い武器を運ぶ手間が省けたと、朔也は素直に喜ぶ事に。しかも自身でゲットした、初のD級カードである。

 少なくとも、3層で粘って苦労した甲斐があったと言うモノ。





 ――ただしこれ以上の滞在は、キッパリと諦める事に。





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